54 / 75
タイミングってやつ(9)
しおりを挟む結局、拓也の家に泊まること約三日、月曜日になるまで状況は変わらなかった。今週金曜日は英司の誕生日だ。
拓也は今日、夕方までバイトらしい。千秋はと言うと、家でソファに腰掛けながら、携帯の画面をただ見ていた。
英司にも連絡し続けているが、返信はない。
電話がつながらないので、メッセージで何度も謝った。隣人トラブルのことも、全て説明した。どういう経緯でそうなったのか、全て。
でも、もう、千秋と別れるということだろうか。
まだ明るい夕方、絶望的な気分のまま、一人宙を眺める。
しかし、千秋の知る限り、英司は連絡は必ず返す人間だったはずだ。以前、色々と押し付けてくるという同級生に怒っているのにも関わらず、丁寧に返事をしていた。
ここまで連絡が取れないとなると、何かあったのではないかとすら思えてくる。しかし、何かあれば恵理子から連絡が来るはずだ。ないということは、変わりなく生活しているということだろう。
つまり、千秋はその同級生より大変なことをしでかしたということか。
そのとき、真っ暗な画面がぱっとついて、振動し始めた。
「えっ、えっ」
画面には『柳瀬英司』と出ていた。
ずっと待っていただけに、驚いてすぐ取らず慌ててしまう。
うそ、本当に柳瀬さん?
ぐずぐずしていたら切られてしまうかもしれない。千秋は一度深呼吸して、震える手でおそるおそるボタンを押した。
「もしもし」
『……千秋?』
離れていたのはたった三日ほどだというのに、ずいぶん久しぶりに声を聞いた気がした。
「あ、柳瀬さ……」
泣きそうになる。
でも、もしかしたら別れ話かもしれないとも思った。そう思うと、言いたいことはたくさんあるのに、話を切り出せない。
『千秋、ごめん。しばらく連絡できなくて』
「え……?」
『携帯を無くして、さっき見つけた。メッセージも見た』
「俺……怒ってると思って」
『……まあ、怒ってたっちゃ怒ってた。だから、ちゃんと携帯探さなかったのもある。それは正直に、ごめん。ただの嫉妬でふてくされて、こんなにお前を追い詰めてたなんて、本当に後悔した……』
「え、嫉妬……って?」
『拓也くんを黙って家に入れたこと』と英司は答えた。
『何もないってわかってるけどな』
英司が本当に怒っていたのは、拓也を家に入れていたことだったのか。それに、ふてくされていたと言っているように、ただ単に拗ねていただけのようだ。
ものすごく悲観的になっていただけに、少し拍子抜けしてしまう。いや、元々悪いのは自分なのだが。英司は英司で、拗ねて千秋に連絡しなかったことを悔やんでいるようだった。
「あの、怒ってたの、それだけなんですか?」
『それ以外に何かあったのか?拓也くんと?』
「いやっ、本当に拓也とはご飯食べて話してただけで。でも、柳瀬さんが嫌がるのわかってたのに、黙って入れてごめんなさい」
『うん、もう怒ってない。……というか、俺の方が、俺の勝手でめちゃくちゃ不安にさせた。本当にごめん』
しばらく謝罪合戦が続いたが、同じタイミングで吹き出してそれは終わった。
次何かあったら話し合いをすると決めて、その話は終わった。
「でも他に……隣人トラブルって言ってたのとか」
『それは俺と再会したばっかりの時のことだろ?』
「……はい、それもごめんなさい」
『いや、あの時期のことは、中学の時に勘違いさせた俺が悪いから』
逆に一番気にしていたそのことについては、英司はあまり気にしていないようだった。英司からすれば、あの頃の千秋はそれがむしろ普通だと思っている節がある。
しかし、家に入れることを嫌がるのなら、どうして拓也の家に何日も泊まることは簡単に許したのだろうか。矛盾が生じる。
千秋はてっきり、見放されて、近くにいることを拒否されたのかと思っていた。話の内容的にそうではないらしい。それで千秋はショックを受けていたのだから気になった。
それを聞くか聞かないか考えていたところで、英司がまた話し始める気配が電話越しで伝わる。
『……で、拓也くんに言ったのか?俺たちのこと』
「……え?」
最近考えていたことを読まれていたような質問に、千秋は固まった。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
聖女よ、我に血を捧げよ 〜異世界に召喚されて望まれたのは、生贄のキスでした〜
長月京子
恋愛
マスティア王国に来て、もうどのくらい経ったのだろう。
ミアを召喚したのは、銀髪紫眼の美貌を持った男――シルファ。
彼に振り回されながら、元の世界に帰してくれるという約束を信じている。
ある日、具合が悪そうな様子で帰宅したシルファに襲いかかられたミア。偶然の天罰に救われたけれど、その時に見た真紅に染まったシルファの瞳が気にかかる。
王直轄の外部機関、呪術対策局の局長でもあるシルファは、魔女への嫌悪と崇拝を解体することが役割。
いったい彼は何のために、自分を召喚したのだろう。
観念しようね、レモンくん
天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです
🍋あらすじ🍋
バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。
美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。
共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突!
自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう
「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。
麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」
賭けに負けたら大変なことに!!!
奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。
「れーちゃん、観念しようね?」
『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。
「恋の熱」-義理の弟×兄-
悠里
BL
親の再婚で兄弟になるかもしれない、初顔合わせの日。
兄:楓 弟:響也
お互い目が離せなくなる。
再婚して同居、微妙な距離感で過ごしている中。
両親不在のある夏の日。
響也が楓に、ある提案をする。
弟&年下攻めです(^^。
楓サイドは「#蝉の音書き出し企画」に参加させ頂きました。
セミの鳴き声って、ジリジリした焦燥感がある気がするので。
ジリジリした熱い感じで✨
楽しんでいただけますように。
(表紙のイラストは、ミカスケさまのフリー素材よりお借りしています)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる