リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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つながりを求めた(1)

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 昼ごろ、千秋はいつものように、拓也と大学の食堂で昼食をとっていた。

「ああ、もういいって。千秋気にしすぎ」

「でも、せっかく……」

 うんざりした様子の拓也が、呆れたように肩をすくめる。千秋は、こういうことについては、とことんばつ悪く思ってしまう質なのだから仕方ない。

 というのも、高梨千秋は先日、目的であったはずの新住居契約の提案を断ってしまうなどという愚行に走ってしまった。

 脳内の自分はぐったりしている。

 英司が大量の食べ物をぶら下げて家にやってきた日、あの脅迫まがいなことを突きつけられ、すぐ翌日に拓也とその大家に電話で連絡を入れた。正直すぐ新しい入居者は見つかるからか大家は気にしていないようだったが、千秋は特に、拓也に対して申し訳なく感じていた。

 それは1週間も居座った挙句、目的を達成するどころか、こちらの勝手な事情で厚意を無駄にしてしまったからだ。

 だから休日を挟み今日、千秋は直接こうして改めて謝っているというわけなのである。

「俺は久しぶりにあったかくてうまい手料理食えたし。なんなら何もなくても居てくれていいってくらいなのに」

「……ありがとな、拓也」

 そう言ってくれている拓也にこれ以上はしつこいと思ったので、謝るのをやめて、礼を言うことにした。

「そんで、肝心の隣人トラブルはどうなったんだよ?」

「え。……いや、それは、その」

「ん?」

「お、お互い譲歩しましょう……みたいな感じで」

 しどろもどろ言う千秋を拓也はじーっと見てきたかと思えば、「ふーん」と納得したように頷いた。嘘がばれたかと思って少し焦った。

 そういえば、千秋が言いたくなさそうにしていたからなのか、隣人トラブル(実際そうとは言ってないが)の原因について拓也は詮索してこなかった。

 わかってはいたが、彼は空気の読めないやつではないのだ。

「ま、千秋がそれでいいならいいけど。もしなんかされたら言えよ?俺が直接殴り込みに行ってやるから」

「いや、それじゃ本当の事件になっちゃうだろ。あ、だからな、もう大丈夫だ。ありがとう、拓也」

 拓也は普段は女好きのチャラ男だが、こう見えて案外面倒見のいい男で、小心者かと思えば思い切ったこともする。殴り込みも頼まれたら本当にやってしまいそうだ。

「そういや、合コン行く約束しただろ。今週土曜……行くぞ」
 
 このいい話を誰にも聞かれまいと声を顰め、ニヤニヤしながら言う拓也。心躍るのを隠せないのか「く~!やっとこの日が来た!」と大袈裟なくらいに喜んでいる。

 まあ、正直言って合コンは苦手だが、これも拓也との約束を果たすためと思えば全然、安いくらいだろう。








  土曜日、千秋は最寄り駅の広場で、拓也と待ち合わせしていた。

「他のやつらはもう向かってるらしいから、俺らも行こうぜ」

「拓也、すごい気合入ってるな」

 上から下まで完璧に決めてきた拓也は、「ふ、当然だ」と涼しい顔をする。

 というのも、今回、女子のメンバーがうちの大学の看護学科だったのだ。同じ大学とはいえ、なかなかコンタクトをとることができないので、ここまで集めたのは驚いた。

 拓也は「この俺がお前を参加させることに成功したおかげだぜ」と意味のわからないことを言っていた。

「ここから野崎駅まで行けば看護女子に会える」

「ちょっと落ち着いたほうがいいんじゃないか……」

 電車に乗ると、拓也は鼻息荒くさせながら早口で言う。

 実は今日の合コンはその近くで行うらしく、わかりやすいということで、その野崎キャンパスに集合することになった。

 野崎キャンパスは、千秋のアパートを中心に本キャンパスからは反対側にあって、看護学科も含む医学部の学生は、日々そちらに通っている。

 アナウンスがそろそろ野崎駅に到着することを告げている。

 本キャンパスからも野崎キャンパスからも割と近い千秋のアパートは、少なくともここの学生にとってはやはり優良物件すぎると、改めて実感した。





「一番乗りみたいだな」

 野崎キャンパスの門の付近にたどり着くと、まだ誰も集まっていないようだった。

 門からキャンパスの敷地を眺める。普通に広いな。もう18時だからか、ここから見る限り学生はほとんどいないようだった。

 しばらくそうしていると、拓也が「あっ」と声を上げた。

「あいつら、やっと来たか」

 言うほど時間の差はないはずだが、自分たちも歩いてきた方向から三人、男がやってくるのが見える。学部は違うが、拓也の友人で、全員見たことある顔だ。

 その三人と合流すると、拓也とその友人たちが今日の合コンを前に、盛り上がり始めている。

 するといきなり、友人の一人が「高梨くん、今日は参加してくれて本当ありがとな!」と手をパチンと合わせてきた。

「いや、礼を言われることじゃないだろ」

 確かに参加したくてしたわけではないが、千秋のような一般男子大学生がこういうものに出向くのは、別に珍しいことではないはずだ。

 しかし、さらに別の友人が「いやいやいや」と被せてくる。

「今日の合コンは、高梨くんなくして成り立たないから。高梨くんありきだから!」

 ……ますます意味がわからない。

「もう俺、イケメンだと女の子とられる~とか、そういう境地からは脱してしまったわけよ」

「俺も俺も」

 悟りでも開いたような顔で、友人トリオがお互い頷き合う。

 こいつら大丈夫なのか……?心配になって拓也を見ると、「な?」と意味不明なドヤ顔を向けられたので、それ以上深堀りするのはやめておいた。

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