リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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隣人を回避せよ(7)

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 さっきまで賑やかだった空間は、シーンと沈黙に包まれる。

 どうしよう。気まずいし、緊張する……。学校で二人きりになることなんてないし、やっと普通に振る舞えるようになったのに変なこと言ってしまったらどうしよう。千秋の緊張はマックスに迫っていた。

「高梨」

「は、はいっ」

 沈黙を破って、ソファに座っている英司はその横をぽんぽんと叩いた。

「お前んちなんだし、ここ座れよ。ずっと床じゃ痛いだろ」

「あ、はい……」

 心配してくれているだけなのに、英司の隣に座るだけで千秋はドキドキしてしまう。だって、英司くんが近すぎる……!

「お前、よく俺のこと見てるよな」

「えっ!」

 うそだ、バレてたのか。
 見るだけならと隙あらば英司のことを見ていたのは間違いないが、完全に気づかれていないと思い込んでいた。

「なんか言いたいことでもあんの?」

「ないですっ、あの、本当に……」

 文句あんのか?みたいなニュアンスかと思って、慌てて否定する。が、聞いた本人は納得いってないって顔だ。

「じゃあ、俺の勘違いかな」

「勘違い?」

 そのきれいな横顔は、独り言のように呟いた。引き続きなにやら思案中のようだが、「勘違い」というのが引っかかる。

 英司は、顔だけ千秋の方に向けた。

「すげえ見つめてくるから、好かれてるのかと思った」

 その鋭くも優しい眼差しが千秋を捉える。

 好かれてるって、

 千秋は、視線に捕まったように動けなくなってしまった。

「あ……」

 どうしよう、言葉が出てこない。英司くんの目、好きだな…とか考えている場合ではない。

 好かれてるって、先輩としてってことだよな。まず初めに英司相手に、好きイコール恋愛となる千秋の思考が、すでに期待に侵されていておかしいに違いない。

 大丈夫、バレてるわけない。
 第一、英司は女が好きなんだし、男なんて気づく余地もないだろう。

 なら、普通に、普通に……

「そりゃ、好きですよ。サッカー上手いし、みんなに人気だし、それに……」

「こら、そういう意味じゃないだろ」

「わっ」

 こつんと軽く当てられた拳に、千秋はビクッと少し大袈裟な反応をしてしまう。

「高梨ー?」

 追い詰めるように、顔を覗き込んでくる英司。

 どうしよう、これってまさか、本当にバレてるのか……?


「あの、俺……!」

 そんなに知られたくなかったなら最後まではぐらかせばよかったのに、もう白状しないといけない、逃げられないと思ってしまったのは若さゆえか。

「お、俺……っ」

「うん」

 告白なんてしたことないけど、何を言えばいいかくらいわかっているのに、肝心の言葉が出てこない。

「俺……っ、ぅ」

 それどころか、なぜか泣きそうになる。というか、すでに涙目だったのか、ふっと笑った英司が高梨の頭に手を置いた。

「英司くん、」

「言えない?」

「い、言える……」

 謎の意地を張りつつも、そんな千秋の頭を英司は優しく撫でる。

「でも、時間切れ」

「えっ」

 そんな、元々言うつもりはなかったけど、もうここまでバレてるのに。最悪、明日から話せなくなるかもしれない。そんなのいやだ……!

 それに、英司はあと半年で卒業なのだ。ここで言わなくていいのか、俺!

「英司くん、おれっ」

「俺は好きだよ、高梨のこと」

「……えっ?」

 完全に不意を狙って出てきたその言葉。まさに、千秋が言おうとしていた言葉だ。

 え?……今、好きだ、って言った?
 聞き間違いか?英司くんが、俺を……。

「高梨は?今度は言えるよな?」

「っ……」

 いたずらっぽく笑いながら言った英司は、頭に乗せられていた手を肩へ滑らせた。そして、そのまま千秋の体ごと引き寄せる。

 え、だ、抱きしめられっ……

 英司どころか、家族以外とこんなに密着したことがなかったから、沸騰するんじゃないかというほど体が熱くなった。

 どうしよう。今までで一番、ドキドキする……。

 も、これ、なんかだめだ、おれ……

 千秋は無意識に英司の背中の服をぎゅっと掴むと、

「英司くん、好き……」

 と、口にしていた。

「高梨……」

 千秋の言葉に、英司は抱きしめる力を強める。

 その後すぐコンビニに出かけた連中が戻ってきて、千秋は大変慌てふためくことになるのだが、英司はさすが、何もなかったかのように振る舞っていた。
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