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異世界編〜テイクアウトのお店はじめます〜
8.
しおりを挟む窓口での手続きは、なかなかに大変でギルドカードの発行から店の登録、安全管理登録と様々な書類を書きまくった。
ノインくんのいる神殿の窓口なんてとても簡単だったのに……。
簡単な手続き後に騙されるようにヴィータに押し倒されて、ウィンクルムを産んだんだけど。
あまりの書類の量にちょっと遠い目をしていると、ウィンクルムに袖を引かれた。
「ママ、きゅうけいする?」
「ありがとう。もう少しだから頑張るよ。ごめんな、長いこと待たせて」
「だいじょうぶ」
にっこり笑うウィンクルムに癒されながら、何とか書類を書き上げた。本当、あの時ヴィータを拒まず、産んで良かったな。
全ての書類へ記入し、ギルドカードを受け取ると、もう昼時だった。
「レストラン見てみようか。ウィンが食べられそうなものがあったら食べて帰る? それとも、ちょっと時間はかかるけど、おうちで作って食べる?」
「んとねー、見てきめる!」
「それもそうだね。何があるかな~」
「ごはん、ごはん~」
レストランスペースへ行くと入り口のところにメニュー表が出ていた。
「ええっと、アピウムのスープ、ソーヤのスープ、ガッスルの串焼き……」
字を読むことは出来たけど、イラストもないし、名前だけだと全然何なのか分からない。
ウィンクルムが食べられそうなもの、あるのかな。
「お困りですか?」
「ギルバートさん!」
神出鬼没でちょっと怖いけど、良いタイミングの登場だ。ギルド職員って言ってたし、ここのメニューにも詳しいよね?
「お昼をここでとろうかと思ったんですが、メニューを見てもよく分からなくて。小さい子が食べられそうなものってありますか? 辛いものとか固いものが食べられないんですが」
「でしたら、ゼアのスープがお勧めですよ。付け合わせはパンの代わりにテネルかオリュザはいかがでしょうか」
ゼア? テネル? オリュザ??
分からない単語が増えたけど、せっかく教えてくれたし、変なものを勧めたりもしないだろうから大丈夫だろう。
ウィンが無理そうなら俺が食べればいいだけだし。
「ありがとうございます。教えて頂いたのを頼んでみます。入ろうか、ウィン」
「うん!」
「では、ごゆっくりお楽しみ下さい」
ばいばーいと入り口のところでギルバートさんと分かれ、空いている席に座った。
ウェイトレスさんが注文を取りに来てくれたので、ギルバートさんに教わった3品を注文する。
しばらくして運ばれてきたゼアのスープは甘くないコーンポタージュだった。塩味が効いていたが、このくらいならウィンクルムも食べられそうだ。
テネルはナンみたいな柔らかい平パンで、オリュザはなんとお米だった。でも、炊いてあるわけじゃないみたいで、薄味のスープで煮ました、みたいな味と食感だ。
お米、市場に売ってるかな。
「ウィン、とうもろこしのスープはまだ熱いからもう少し冷めてから食べような」
「うん。パンは食べてもいい?」
ウィンはテネルを指さした。湯気は出てないけど、念のため、温度を確認し、小さく千切って渡す。
「これくらいなら大丈夫か。ふーふーしてゆっくり食べるんだぞ」
「ふーふー」
一生懸命に息を吐くウィンがめちゃくちゃ可愛い。
あー、今この姿をヴィータに見せてウィンの可愛さを共有したい。
にこにことテネルを頬張るのを見守っていると、ウィンクルムは飲み込んだ後、隣に座らせたぬいぐるみのウサギを指さした。
「ママ」
「どうした?」
「パパ、きた」
え、まさか、俺がヴィータに見せたいとか思ったから?
「おひるのきゅうけいだって」
昼休みなんてあるのか、あの仕事。
いや、今はそんなことはいいか。人目がなければヴィータにウィンの可愛さを語りたいんだけど、こんなところでぬいぐるみに話しかけたらヤバい人だしな。
「そうなんだ。パパとお話ししたいけど、でも、ここでおしゃべりは出来ないんだ」
「えー」
「そうだ、代わりにウサちゃんの目を通してパパが俺たちを見ること出来る?」
ウィンではなく、ウサちゃんが小さく頷いた。
「ヴィータ、動くのは無しで」
ぬいぐるみの自覚を持って!!
「分かったって」
ヴィータの言葉を伝えてくれた。いま、ウサギは何もしゃべってなかったけど、ウィンクルムには分かったのか?
「ウィンにはパパの声聞こえるの?」
「うん! ママもききたい?」
「うーん、今はいいや。声聞いたら会いたくなっちゃうし。それより、ウサちゃん貸してくれる?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ウサちゃんを受け取ると、膝に抱っこした。高さを確認し、ウィンクルムが見えるようにする。
可愛いウィンの姿、これでヴィータに見えてるかな。もぐもぐしてるの、凄くかわいよー。
ウサちゃんを抱えながら見守っていると、ウィンが困ったような顔で手を止めた。
「…………ママ、あのね、パパがママもみたいって」
「は? いや、こんなおっさんの食事風景より可愛い息子を見ろよ」
思わず、ウサギにツッコミを入れた。
「ぼくを見れてうれしいけど、ユウヤはとくべつだからっていってる」
もう、コイツはしょうがないな。ぎゅっとウサギを抱きしめ、小声で囁く。
「……夜まで待って」
「すごくうれしいみたいだよー。よかったね、パパ」
「ウィン、そろそろポタージュ冷めたみたいだから食べようか」
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