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異世界編〜テイクアウトのお店はじめます〜

3.

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ノインくんを見送ると、俺たちは市場調査がてら、着替えて出掛けることにした。

ノインくんにもらった資料によると、歩いて10分ほどのところに市場があるらしい。

「ウィン~。市場でお買い物しような」

「おかいものー!」

はしゃぐウィンクルムと手を繋ぎ、玄関のドアを開けると、町の賑わいが押し寄せた。
店に面した通りには大勢の人が行き交っている。防具に身を包み武器を持った冒険者、楽しそうに駆けていく子どもたち、大きな荷物を抱えた商人に耳と尻尾のついた獣人までいた。

異世界だ。本当に異世界に来たんだ。
これから、ここでウィンと暮らして行くのか。

ウィンクルムと繋いだ手をぎゅっと握る。

「ママ?」

俺を見上げるその姿は幼い。神の子で3歳ほどの見た目に育ち、知性は見た目以上に育っているが、まだ生まれたばかりの我が子。
意識すると途端に不安が押し寄せた。
もうここにはヴィータもノインくんもいない。
この子を守れるのは、俺だけだ。

「ウィン」

名前を呼んでしゃがみ込み、目線を合わせた。ヴィータそっくりの顔が小首を傾げる。

「なに?」

親の欲目を差し引いても、すごく可愛い子だ。治安がいいとはいえ、気をつけるに越したことはない。

「ママと約束しようか」

「やくそく?」

「そう。まず、迷子にならないように絶対手を離しちゃダメだぞ。もし、俺とはぐれたらその場から動かないで、待っててくれるか?」

「ママをさがしちゃだめ?」

「うん。2人で探して動きまわると、すれ違いになってずっと会えないんだ。分かるか?」

「うん、わかる」

「それから誰に声を掛けられてもついて行っちゃダメだぞ」

「うん。だれにもついていかない。じっとしてママがくるのまってる」

「もし、待っても待ってもママが来なかったら、パパに連絡するんだ。パパに連絡する方法は知ってるな?」

「うん! こころのなかでいっぱいパパってよぶとパパにきこえる」

「そうだ。絶対に迎えに行くけど、もしもの時は頼むな」

「うん。ぼく、やくそくする」

「ありがとう」

一度ぎゅっと抱き締めて、手を繋ぎ直した。

「よし! じゃあ、行こうか」

「うん!」



最初にやって来たのは、大きな市場。道の両脇をたくさんの屋台が軒を連ねて、食料品に限らず、衣類や日用品など様々なものが売っている。
扱っている品物のジャンルによってエリア分けされているらしく、雑然としているようで規則的に並んでいた。
まずは市場調査を兼ねて腹ごしらえをしようと、食べ歩き出来る料理のエリアにやって来た。

主食は主にパン。それも硬いパンが主流のようで日本人お馴染みのふんわり食感のものはどこにも売ってなかった。食べ方もそのまま齧るか、スープにつけるくらいで、サンドイッチのような物は見当たらない。

俺は硬いパンでも我慢できるけど、ウィンには厳しいかもしれないな。

米や麺料理はないかと探したが、米料理は見当たらず、麺はショートパスタをスープで煮たものが売られているだけでスパゲティはない。

ショートパスタのスープならウィンでも食べられるか。

「ウィン、何か食べたいものあった?」

「うーん? よくわかんなかった」

「そっかー。じゃあ、俺が食べたいものでいい?」

「いいよ~」

ウィンからOKをもらったので、ショートパスタ入りのスープを2人分買った。トマトベースのスープに細かく切った根菜とベーコンみたいな燻製肉、1センチ大の捻ったパスタが入っている。

「熱いから気をつけてな。ふーって息を吐いて冷まして食べるんだ」

お椀とスプーンをウィンクルムに渡すと、一生懸命にふーふーと息をはき、冷ましている。
かわいい姿を見ながら、一口食べる。正直、見た目より美味しくない。トマトの味とベーコンの塩気がうっすら感じられるがそれだけだ。根菜とパスタはよく煮込まれていて、口に入れた瞬間、無くなる。煮込まれている割に味は薄い。
なんだろう、この食べ応えの無さ。
とてもこのスープにパンを浸す気にならない。

「ママぁ……」

「ウィン、残ったら俺が食べるから無理しなくていいぞ」

「ごめんなさい」

気にするなと言いながら汁椀を受け取り、さっと掻き込んだ。
何か他にウィンが食べられそうな物あるかな。

ぐるりと見て回ったが、つまみになりそうなものや串焼きなどのガッツリしたものは見つかったが、小さい子が好みそうなものは見つけられなかった。

仕方ない、食材を買って家で作るか。

いつまでもお腹を空かせているのは可哀想で、野菜と硬いパンに牛乳っぽいものを買い込んで家へ戻った。


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