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異世界編〜テイクアウトのお店はじめます〜
1.
しおりを挟む扉の向こうは不思議の町でした。ということはなく、薄暗い室内だった。外から喧騒が聞こえてくるから、なかなかに賑やかな場所にあるらしい。
「ここは?」
「牧野様とウィンクルム様のご自宅になります。ここは2階ですが、3階建で1階に店舗とキッチンスペース、3階には個室があり、その上に屋上もありますので、後でご案内しますね」
「外が賑やかだね」
「はい。平民街の中心地にあります。冒険者ギルドが近いので集客も見込めますよ!」
ノインくんめ、なかなか商売人だな。
「へぇ。治安は大丈夫なんだよね?」
「もちろんです!ここはダンジョン都市でもあるので、優良な冒険者が多いんです。前科のある冒険者はダンジョンに潜れないので自然と腕も人柄もいい方々が多く集まるそうです」
「そうなんだ。なら、安心かな」
「ママ~、たんけんしたい!」
「賛成!ノインくん、いいかな?」
「では、1階から見て回りましょうか」
1階は仕切りがなく、広めのキッチンとダイニング、それから表に面したスペースは店舗になっているようで、観音開きの木戸がついた大きな出窓がある。出窓の下半分にはガラスが嵌っていて、木戸を開ければ窓の手前に置かれた棚の中身が見えるようになっている。
実家の近所にあったタバコ屋みたいだな。
さすがにレジスターはないから値段の工夫が必要か。もう少しウィンクルムが成長したら、計算も教えて、お金のやり取りも覚えさせたい。
でもま。まずは挨拶くらいからだな。
いらっしゃいませ~なんてあの笑顔で言われたら、絶対何か買いたくなるはずだ。
「ママ?」
「何でもない。早くウィンと店番したいなって思ってたんだ。ウィンもお店手伝ってくれるだろ?」
「うん! でも、ママのごはんはぼくがいちばんに食べたいな。ダメ?」
ヴィータとそっくりな顔でこてんと小首を傾げる姿はまじ天使!
「もちろん、ウィンが美味しいって言ってくれたものしか売らないよ」
ウィンを抱き上げて頬擦りすると、キャッキャと声をあげて喜んでくれた。もうずっとこうしていたい。
と、親バカを全開にしていると、ノインくんに咳払いされた。
「キッチンの方をご案内してもいいですか?」
「ごめん、ごめん。お願いします」
キッチンは1Kの俺のアパートと比べるのが烏滸がましいほどの広いアイランドキッチン。
コンロは4口あるし、その下にはオーブンまである。コンロには五徳がなく、IHのように丸だけ書いてある。
「IHなの?! すごい。でも、使ったことないから火加減難しそう」
「いえ、こちらは火の魔石をしようした魔導コンロです。とはいえ、IHとほぼ変わりません。この魔石に触れて、中火と唱えると中火になります」
魔導コンロ?!めちゃくちゃ凄いじゃん。
しかも、唱えたらお好みの火加減になるなんて便利過ぎない?
「こちらの一見棚に見える開きは、魔導冷蔵庫です。時間経過のないアイテムボックスをお持ちの牧野様には不要かとも思いましたが、一応準備しました」
「ありがとう!冷たいデザート作るのに必須だよ、冷蔵庫は。お、ちゃんと冷凍庫もある」
ノインくんの気遣いに感謝しながら、今度はダイニングスペースを見渡す。とても広い。
出窓の反対の角には、大きな扉がある。あれが玄関ドアか。
無駄に広いスペースに4人がけのテーブルセットと少し離れたところに、ふかふかのラグとローテーブルが置かれている。
ウィンの遊び場かな?
でも、これはあれか。
「かなり広いダイニングだけど、もしかして、ここ、元は食堂だった?」
「そうです。牧野様の前任の方がこちらでイタリア料理のお店を経営されてました」
「前任者がいるんだ」
「とはいえ、もう100年ほど前のことですが」
「え。そんなに前なの。やっぱりイタリア人?」
「申し訳ありません。守秘義務がありますので」
困ったように笑っているが、窓口で俺の好みをハキハキと読み上げたの忘れないからな!
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