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神殿編
10.
しおりを挟む夜、ノインくんの言いつけを守り、ウィンクルムを真ん中に川の字で横になった。
さっきまで、きゃあきゃあと声を上げながら転げ回っていた愛息子はもう夢の中。
「よく寝てる。寝ててもヴィータにそっくりだ」
「でも、笑顔は友也に似てる」
「そうか?」
「ああ。俺と友也の子だ」
ヴィータは愛おしそうにウィンクルムの柔らかな銀糸を撫でた。その仕草と表情が堪らなくて、名前を呼んだ。
「ヴィータ」
「そんな顔をするな。我慢出来なくなる」
ヴィータの手を取ってそっと口付けると、その手は俺の頬を滑って首筋を撫でる。
「我慢しなくていいって言えたらいいんだけど」
「分かってる。今抱いたら確実にウィンの兄弟が出来るだろうからな」
悪戯な手がウィンクルムを産んだばかりの平な下腹部を撫で回すと、身体の奥に熱が灯り、心臓が騒ぎ出す。
後に引けなくなりそうだ。
「それは凄く魅力的なんだけど、ノインくんに凄く怒られそう」
「ノインに何か聞いた?」
「色々、ね。ノインくんがヴィータは俺のこと愛してるって言ってた。本当?」
「直接伝えたはずだけど? 信じてなかった?」
ヴィータの手は腹から腰を通り、背中へ回った。
「好きとは言ってもらったけど、愛してるとは聞いてないかな?」
「愛してるよ。ーー言葉に、出来ないくらいに。だからってわけじゃないが、渡したい物がある」
そう言ってヴィータは身を起こし、右手を閉じて開いた。俺も起き上がってその手を覗き込む。
「これって、指輪、だよな」
手のひらには、ヴィータの髪と同じ色のリングが2つ。
「約束してたろ、伴侶の証。友也の行く異世界でも同じ文化があるから、これで既婚者だってすぐに分かる。もらってくれる?」
「嬉しい。ヴィータ、着けて」
左手を差し出すと、薬指にそっと口付けが落ち、リングをつけてくれた。指の付け根まで来ると、リングは一瞬だけ光、ちょうど良いサイズに形を変えた。
驚いていると、少し緊張したヴィータが左手を出して来た。
「ーー友也、愛してる。俺にも着けてれるか」
否やは、ない。ヴィータがしてくれたのと同じように薬指にキスを送り、指輪をはめた。
揃いのリングを嵌めた手を絡ませる。
鼓動がさっきよりもずっと速くなった。
「ね、ヴィータ。キスして」
俺のおねだりに甘く応えてくれた。徐々に深くなる口付け。吐息を堪えられなくなって来た。
「んん……はぁ……ヴィータ、もう、俺やばい、かも」
この3日で熱を覚えた身体は、そう簡単には冷めない。
「俺もだ。友也、今すぐ抱きたい……」
「ゴムとか、ない?」
避妊すれば問題あるないはずだけど。
「あっても意味はないな」
「じゃあ、入れないっていうのは、どう?」
それで我慢出来そう?と訊くと。
「……頑張ろう」
「あと、ウィンが起きちゃうかもしれないから、ここじゃなくて」
「執務室のソファまで運んでも?」
キスで答えた。
清々しい朝の光とと共に、ノインくんがやって来た。30分ほど前にヴィータに起こされて支度と昨夜の後始末は出来ている。ウィンクルムも起こして着替えを済ませた。
「おはようございます」
「おはよう、ノインくん……ええっと?」
ノインくんにじっと見つめられたのは、俺の腹。何を言いたいのか痛いほど分かる。でも、今日は大丈夫。
「良かった。お2人目は出来てらっしゃいませんね」
「も、もちろん。そういう約束だったじゃないか」
「牧野様は快楽に流されやすいところがありますから心配だったのです。ヴィータ様は言わずもがな」
ノインくん、俺のことそんな風に思ってたのか。ちょっとショック。
打ちひしがれていると、後ろからヴィータに優しく抱きしめられた。
「ノイン、友也を虐めてくれるな。昨夜は子が出来るようなことをしていない」
「ヴィータ様にも申し上げたつもりです。それに挿入を伴わなかっただけで、」
「ストップ、ストップ。ウィンもいるんだからそこまで」
ちょっと何言い出すの。子どももいるんだよ?!
「失礼しました。ーーそれでは、予定よりスケジュールが押しましたが、異世界へご案内いたします」
スッと、ノインくんが手を上げると、何もなかったところにドアが出来た。ど、どこでもどあじゃん、と突っ込みたいところだが、それより何より。
「ノインくんが付いて来てくれるの? ヴィータは?」
てっきり、送り手は神様だと思ってた。ここでお別れなんだろうか。
「本来であればヴィータ様が送り届けられるところですが、正直、きちんと牧野様の手を離されるのか信用がありませんので。それにこの3日のうちにかなり仕事が滞っておりますのでそちらを優先して頂きます。よろしいですね」
「…………わかった。俺も手を離す自信が、ない」
「では、牧野様、ウィンクルム様。参りましょう」
ノインくんがウィンクルムの手を取り、俺を促す。
行かなきゃ。一歩踏み出そうとした時、ヴィータに手を引かれ、正面から抱きしめられた。
ヴィータの心臓がせつなく音を立てている。
しばらくこの音を聞けないかと思うと、視界が歪んで来る。
たった3日と少し一緒に居ただけなのに、随分とこの腕に抱かれ、安心することを覚えてしまった。
「ヴィータ……」
離れたくない、手を離せないのは、俺の方だ。寂しくて、仕方ない。
ヴィータの背中に腕をまわし、ぎゅっと抱きつく。俺を慰めるように背中を撫でてくれた。
「ノイン、ちょっとだけ、待ってくれ」
「ヴィータ……」
「友也、大丈夫。俺はいつも友也を想ってる。困ったことがあったら、いつでも連絡をくれ。友也が心の中で俺を呼べば、いつでも伝わるから。喉を痛めた時みたいに」
「うん……うん、わかった。寂しくなった時もいい?」
「もちろん。大歓迎だ」
「わかった。ありがとう、ヴィータ」
嗚咽を堪えて、ヴィータから身を離す。ヴィータも泣きそうな顔をしていたが、ウィンクルムを抱き上げて額を合わせた。
「ウィン、ママを頼むな。ママを守ってくれるか?」
「うん! パパのかわりにぼくがママを守るよ」
「ありがとう。頼もしいな、俺たちの息子は。月に一度は会いに行くからな」
「ママと待ってるよ」
ヴィータがそっとウィンクルムを降ろした。今度は俺がウィンクルムを右腕に抱き上げる。
「じゃあ、行ってくるな」
左手を振ると、ヴィータも同じように手を振ってくれた。
「いってらっしゃい」
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