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神殿編
9.
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執務室へ行くと、ウィンクルムを連れたノインくんが戻っていた。いい笑顔で迎えてくれる。ウィンクルムも俺たちの顔を見ると飛びついてきた。
「お話は終わったようですね」
「ママ~!!」
「ウィン、楽しかった?」
「うん! どこもすっごくきれいだったよ。お花がきらきらーってして、お水がふわふわ~ってしててね」
初めて見る神殿に興奮したらしく、身振り手振りで一生懸命伝えてくれる。
可愛いなぁ。ずっとお話を聞いていたいけど、やらねばならんことがある。
「そっか。じゃあ、後でいっぱいお話しして」
「いいよ!いっぱいおはなしするね」
約束して落ち着いたのか、今度はヴィータに抱っこを強請っている。ウィンクルムを優しく抱え上げ、ヴィータはぎゅっと抱きしめた。
俺の子どもと伴侶、本当に可愛い。
いつまでも見ていたい気持ちを抑えて、ノインくんに向き直った。
「ノインくん、ウィンをありがとう」
「いえ、これも仕事のうちですから」
「それでも、ありがとう。ウィンが喜んでくれてとても嬉しいよ」
「いえ」
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
「はい」
ヴィータとウィンクルムは神様としての修行の説明があるからと寝室へ向かい、俺とノインくんは執務室に残った。
ノインくんの説明によると、俺とウィンクルムは中世ヨーロッパほどの文明がある異世界へ行くことになったらしい。ラノベでよくある設定の異世界って実在したんだ。
剣と魔法と魔物の世界で俺も各種の魔法が使えるようにするらしい。
希望を訊かれたので、言語理解と鑑定、空間魔法、結界魔法を頼んだら、全て通った。この他にも各属性の魔法は使えるらしい。
チート過ぎない?ってヴィータの顔が浮かんだが、神の子を託す転移者には必ず付与されるらしいから、身内贔屓ではなかった。疑ってごめん。
それから、異世界での貨幣価値や身分制度、教育制度や食事事情、暮らすことになった町の治安など事細かに訊いた。
俺だけで暮らすなら何とでもなるけど、ウィンクルムを守るなら情報はいくらでも欲しい。
ウィンクルムと暮らすことになった異世界の町はパークス王国にある主要都市の一つでダンジョンに隣接しているらしい。
「町で暮らす上で職業など希望はありますか。ご希望職種の身分証をご用意いたしますよ」
「仕事、か……」
ここに来る前は、教育事業を主体とする会社の人事総務部にいた。バリバリの事務職。異世界じゃあ、前職経験は活かせないだろうな。
それにどこかへ働きに出るより、家で出来る仕事をしたい。
ウィンクルムを誰かに預けて働くのは、異世界転移する意味がない。本末転倒になる。
「同じようにサポートしてた人たちはどんな仕事してたの?」
「そうですね、商人になられる方が多かったですね。手作りの服飾品や工芸品を売ったり。他には飲食店をされる方も次いで多いです」
「へぇ。小売業や飲食店かぁ」
「牧野様は手芸等のご趣味は……記録がないですね」
「そうだね。料理も家庭料理くらいなら作れるけど、それじゃあ商売にならないよな?」
「家庭料理ですか。いえ、案外行けるかもしれませんよ。定住いただく先の町の住人たちは、ダンジョン都市ということもあって家で料理して食べる習慣がないんです」
「なら既に飲食店や露店が軒連ねてるんじゃないか?」
「確かにたくさんありますが、日本の家庭料理を出す店はないので差別化できますよ」
「それはそうだな。でも、いきなり飲食店はハードル高いな」
ウィンクルムを育てながら、一人で店一軒きりもりするのは挫折しそうで怖い。目を離した隙にウィンクルムに怪我でもさせたら大変だし。
何かいい方法はないか。
予め作ったものを提供すればいいか?
いや、料理の冷めた飯屋なんて誰が行くんだ。冷めても美味しいものを作ればいいのか?
「あ……」
「何か思いついたんですか?」
「テイクアウト専門店はどうかな。弁当や惣菜のテイクアウト専門店」
「いいと思います。それならウィンクルム様も人々関わりが持てますし、ヴィータ様の悋気に触れることもないでしょう」
ヴィータの悋気って。少しやきもち焼きに思えるけど、そこまでじゃないだろう。
首を傾げていると、ノインくんから笑顔が消えた。
「牧野様……今からする話は恐らくヴィータ様は牧野様に隠されたいことだと思います。それでも、お聞きなりますか」
怖いんだけど、なに。
聞きたいような、聞きたくないような。でも、きっと知らないといけないことだと直感的に感じた。
「教えて、くれる?」
「ヴィータ様からどのようなお話を聞いていらっしゃるか分かりませんが、神とはとても嫉妬深く心の狭いものなのです。特に伴侶を得た神は、伴侶を溺愛し、伴侶が他者と関わることを嫌います。一度嫉妬に狂えば、自らの子でさえも伴侶と会うことを認めなくなるのです」
え……そんなに?
「でも、ヴィータにそんな執着めいた兆候は見られないけど。俺ってそこまではまだ愛されてないんじゃない? 会って3日くらいだし」
確かに甘えたがりでくっつきたがるところはあるし、真剣に俺のこと好きでいてくれるとは思ってるけどでも、ね。
そんな常軌を逸したものではない。
「いえ……兆候どころの話ではありません。ヴィータ様はあなたをかなり深く愛されてます。ーー通常、神が人を伴侶に迎えるのは、その者の死後なのです。肉体が死に魂となったものが神のもとへ行き、初めて伴侶となるのです」
「俺、ヴィータと会った時、一度死んだ後だったと思うけど」
「ですが、すでに異世界行きが決定しておりました。牧野様を迎えるなら異世界での役目を全うされ、もう一度亡くなってからが順当なのです」
「あ、だから本当はヴィータが単体で子どもを作って俺が預かるって話だったのか」
「それは聞かれているんですね」
「さっき聞いた。でも、俺と会ってどうしても2人の子が欲しくなったんだって。離れたくなかったって」
恥ずかしくなりながらも、ヴィータの言葉を伝えるとノインくんはため息をついて、物凄く呆れた目で寝室の扉を見やる。
「どうしようもない方ですね」
「確かに」
うんうんと頷くと、今度は俺を残念な子を見る目で見た。
「意味、伝わってますか? ヴィータ様はあなたを自分に繋ぎ止めるためにウィンクルム様を欲したんですよ。ウィンクルム様がいれば、あなたはヴィータ様と縁を切ることができない。必ずヴィータ様の元へ戻られる。そこまで考えて子を望んだんでしょう」
「じゃあやっぱり、子どもが欲しかったから、俺を抱いたんじゃなくて」
「あなたが欲しかったから子を作られたんでしょう」
子どもを、ウィンクルムを利用したとノインくんは言いたいんだと思う。そういう気持ちがヴィータになかったわけではないだろう。
でも、ウィンクルムを宿したお腹を撫でる優しい手つきには俺だけにじゃない愛情を感じた。産まれたばかりの人型をとる前のウィンクルムのことをヴィータはとても愛しそうに抱いていた。
あの表情と言葉に偽りはない。
「それでもきっと、ヴィータはウィンを愛してるし、大事に思ってる。だって、俺と離れてでも、ウィンを他人に預けなかったから。ウィンから両親を取り上げなかったからね」
「そういうところなのかもしれませんね」
「なにが?」
「いえ、こちらの話です。ウィンクルム様の修行が終わるまでに身につけておいて下さい」
「何を?」
「ヴィータ様の底なしの愛を受け入れる覚悟と、必要な体力を」
「俺、ヴィータにそこまで溺愛される理由が分からないんだけど」
「その質問はヴィータ様に直接お尋ね下さい」
「えー。俺のどこが好き? どうして好きになったの? なんて恥ずかし過ぎて本人に訊けないだろ」
「確かに今はやめて頂きたいですね。牧野様にそんなことを訊かれたら、ヴィータ様のことです。1週間は寝室から出て来られないでしょうから」
「え……」
「これ以上、予定を狂わされるのはご勘弁ください」
「なんか、ごめんね」
「いえ。それでは話も纏まりましたし、諸々手配する必要もありますのでこれで失礼します」
「色々ありがとうね」
「そうだ。今夜は必ず、ウィンクルム様もご一緒におやすみ下さい。ヴィータ様に好き勝手されますと、お2人目を身篭られないとも限りませんので」
そう釘を刺すと、ノインくんは執務室を出て行った。
「お話は終わったようですね」
「ママ~!!」
「ウィン、楽しかった?」
「うん! どこもすっごくきれいだったよ。お花がきらきらーってして、お水がふわふわ~ってしててね」
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「そっか。じゃあ、後でいっぱいお話しして」
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約束して落ち着いたのか、今度はヴィータに抱っこを強請っている。ウィンクルムを優しく抱え上げ、ヴィータはぎゅっと抱きしめた。
俺の子どもと伴侶、本当に可愛い。
いつまでも見ていたい気持ちを抑えて、ノインくんに向き直った。
「ノインくん、ウィンをありがとう」
「いえ、これも仕事のうちですから」
「それでも、ありがとう。ウィンが喜んでくれてとても嬉しいよ」
「いえ」
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
「はい」
ヴィータとウィンクルムは神様としての修行の説明があるからと寝室へ向かい、俺とノインくんは執務室に残った。
ノインくんの説明によると、俺とウィンクルムは中世ヨーロッパほどの文明がある異世界へ行くことになったらしい。ラノベでよくある設定の異世界って実在したんだ。
剣と魔法と魔物の世界で俺も各種の魔法が使えるようにするらしい。
希望を訊かれたので、言語理解と鑑定、空間魔法、結界魔法を頼んだら、全て通った。この他にも各属性の魔法は使えるらしい。
チート過ぎない?ってヴィータの顔が浮かんだが、神の子を託す転移者には必ず付与されるらしいから、身内贔屓ではなかった。疑ってごめん。
それから、異世界での貨幣価値や身分制度、教育制度や食事事情、暮らすことになった町の治安など事細かに訊いた。
俺だけで暮らすなら何とでもなるけど、ウィンクルムを守るなら情報はいくらでも欲しい。
ウィンクルムと暮らすことになった異世界の町はパークス王国にある主要都市の一つでダンジョンに隣接しているらしい。
「町で暮らす上で職業など希望はありますか。ご希望職種の身分証をご用意いたしますよ」
「仕事、か……」
ここに来る前は、教育事業を主体とする会社の人事総務部にいた。バリバリの事務職。異世界じゃあ、前職経験は活かせないだろうな。
それにどこかへ働きに出るより、家で出来る仕事をしたい。
ウィンクルムを誰かに預けて働くのは、異世界転移する意味がない。本末転倒になる。
「同じようにサポートしてた人たちはどんな仕事してたの?」
「そうですね、商人になられる方が多かったですね。手作りの服飾品や工芸品を売ったり。他には飲食店をされる方も次いで多いです」
「へぇ。小売業や飲食店かぁ」
「牧野様は手芸等のご趣味は……記録がないですね」
「そうだね。料理も家庭料理くらいなら作れるけど、それじゃあ商売にならないよな?」
「家庭料理ですか。いえ、案外行けるかもしれませんよ。定住いただく先の町の住人たちは、ダンジョン都市ということもあって家で料理して食べる習慣がないんです」
「なら既に飲食店や露店が軒連ねてるんじゃないか?」
「確かにたくさんありますが、日本の家庭料理を出す店はないので差別化できますよ」
「それはそうだな。でも、いきなり飲食店はハードル高いな」
ウィンクルムを育てながら、一人で店一軒きりもりするのは挫折しそうで怖い。目を離した隙にウィンクルムに怪我でもさせたら大変だし。
何かいい方法はないか。
予め作ったものを提供すればいいか?
いや、料理の冷めた飯屋なんて誰が行くんだ。冷めても美味しいものを作ればいいのか?
「あ……」
「何か思いついたんですか?」
「テイクアウト専門店はどうかな。弁当や惣菜のテイクアウト専門店」
「いいと思います。それならウィンクルム様も人々関わりが持てますし、ヴィータ様の悋気に触れることもないでしょう」
ヴィータの悋気って。少しやきもち焼きに思えるけど、そこまでじゃないだろう。
首を傾げていると、ノインくんから笑顔が消えた。
「牧野様……今からする話は恐らくヴィータ様は牧野様に隠されたいことだと思います。それでも、お聞きなりますか」
怖いんだけど、なに。
聞きたいような、聞きたくないような。でも、きっと知らないといけないことだと直感的に感じた。
「教えて、くれる?」
「ヴィータ様からどのようなお話を聞いていらっしゃるか分かりませんが、神とはとても嫉妬深く心の狭いものなのです。特に伴侶を得た神は、伴侶を溺愛し、伴侶が他者と関わることを嫌います。一度嫉妬に狂えば、自らの子でさえも伴侶と会うことを認めなくなるのです」
え……そんなに?
「でも、ヴィータにそんな執着めいた兆候は見られないけど。俺ってそこまではまだ愛されてないんじゃない? 会って3日くらいだし」
確かに甘えたがりでくっつきたがるところはあるし、真剣に俺のこと好きでいてくれるとは思ってるけどでも、ね。
そんな常軌を逸したものではない。
「いえ……兆候どころの話ではありません。ヴィータ様はあなたをかなり深く愛されてます。ーー通常、神が人を伴侶に迎えるのは、その者の死後なのです。肉体が死に魂となったものが神のもとへ行き、初めて伴侶となるのです」
「俺、ヴィータと会った時、一度死んだ後だったと思うけど」
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「あ、だから本当はヴィータが単体で子どもを作って俺が預かるって話だったのか」
「それは聞かれているんですね」
「さっき聞いた。でも、俺と会ってどうしても2人の子が欲しくなったんだって。離れたくなかったって」
恥ずかしくなりながらも、ヴィータの言葉を伝えるとノインくんはため息をついて、物凄く呆れた目で寝室の扉を見やる。
「どうしようもない方ですね」
「確かに」
うんうんと頷くと、今度は俺を残念な子を見る目で見た。
「意味、伝わってますか? ヴィータ様はあなたを自分に繋ぎ止めるためにウィンクルム様を欲したんですよ。ウィンクルム様がいれば、あなたはヴィータ様と縁を切ることができない。必ずヴィータ様の元へ戻られる。そこまで考えて子を望んだんでしょう」
「じゃあやっぱり、子どもが欲しかったから、俺を抱いたんじゃなくて」
「あなたが欲しかったから子を作られたんでしょう」
子どもを、ウィンクルムを利用したとノインくんは言いたいんだと思う。そういう気持ちがヴィータになかったわけではないだろう。
でも、ウィンクルムを宿したお腹を撫でる優しい手つきには俺だけにじゃない愛情を感じた。産まれたばかりの人型をとる前のウィンクルムのことをヴィータはとても愛しそうに抱いていた。
あの表情と言葉に偽りはない。
「それでもきっと、ヴィータはウィンを愛してるし、大事に思ってる。だって、俺と離れてでも、ウィンを他人に預けなかったから。ウィンから両親を取り上げなかったからね」
「そういうところなのかもしれませんね」
「なにが?」
「いえ、こちらの話です。ウィンクルム様の修行が終わるまでに身につけておいて下さい」
「何を?」
「ヴィータ様の底なしの愛を受け入れる覚悟と、必要な体力を」
「俺、ヴィータにそこまで溺愛される理由が分からないんだけど」
「その質問はヴィータ様に直接お尋ね下さい」
「えー。俺のどこが好き? どうして好きになったの? なんて恥ずかし過ぎて本人に訊けないだろ」
「確かに今はやめて頂きたいですね。牧野様にそんなことを訊かれたら、ヴィータ様のことです。1週間は寝室から出て来られないでしょうから」
「え……」
「これ以上、予定を狂わされるのはご勘弁ください」
「なんか、ごめんね」
「いえ。それでは話も纏まりましたし、諸々手配する必要もありますのでこれで失礼します」
「色々ありがとうね」
「そうだ。今夜は必ず、ウィンクルム様もご一緒におやすみ下さい。ヴィータ様に好き勝手されますと、お2人目を身篭られないとも限りませんので」
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