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神殿編

8.

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泉からヴィータの寝室に3人で戻ると、ノインくんがいた。3人とも全裸だったので、慌ててヴィータに服を出してもらってきたが、ウィンクルムの服がなぜかセーラーでめちゃくちゃ可愛かった。ノインくんが帰ったら全力でヴィータを褒めたい。

「久しぶりだね、ノインくん」

「お久しぶりです、牧野様。ご出産お疲れ様でした。お子様の誕生、お喜び申し上げます」

「ありがとう。この子が俺たちの子。ウィンクルムだよ」

ヴィータに抱っこされていたウィンクルムをおろしてもらい、ノインくんに紹介した。

「初めまして、ウィンクルム様。僕はノインと申します。ヴィータ様にお仕えしております」

「はじめまして、ノイン。よろしくね」

とびきりの笑顔でご挨拶できたので、ハグしながら撫でた。

「今日はどうしたの?」

「本日は今後の生活のご案内と、資料をお持ちしました」

と言ってノインくんは小冊子を差し出したが、俺が受け取る前にノインくんの手にあった資料が消えた。こんなことが出来るのは、ヴィータだけだ。

「ノイン」

部下を呼ぶヴィータの声は聞いたないほど、低く圧力を持っていた。
ヴィータとノインくんの視線が緊張感を持って交わる。ノインくんは笑顔のまま、しかし強い口調でヴィータを咎めた。

「ヴィータ様、いくら貴方でも規則は守って頂かないと」

規則?
ノインくんはさっき、今後の生活について資料を持って来たと言った。
ーーヴィータは何か隠している。俺と恐らくウィンにも関わることを。

「ヴィータ……?」

名前を呼ぶと、困ったような、悲しいような複雑な表情を浮かべた。

「ノイン、俺から話をさせてくれ。ーー友也と2人で」

ヴィータとノインくんは探り合うように無言を貫いたが、折れたのはノインくんだった。

「承知しました。では、1時間後に参りますーーウィンクルム様、神殿の中をご案内致します」

それではまた、と頭を下げてノインくんはウィンクルムを連れて出て行った。
出て行く前、ウィンクルムは不思議そうな顔で俺たちを見ていたが、ヴィータが何かを告げると納得したような顔でノインくんの手を取った。



残った俺たちの空気は微妙だった。ヴィータが口を開いては閉じ、また何かを言おうとしては黙りを繰り返している。
俺はヴィータをベッドに誘うと、ぎゅっと抱きしめた。重なる心音でヴィータの緊張が伝わって来る。落ち着かせるため、頭を撫でて、額にキスをおくった。

「大丈夫。ちゃんと聞くよ。ゆっくりでいいから話してみて」

「ああ……」

返事をしたきり、言葉が見つからないとヴィータは俺の肩口に顔を埋めた。
どうしたら話してくれるんだ?
ノインくんは今後の生活って言ってたけど、あの子が話に来たってことは異世界の生活のことか。
ここに初めて来た日のことを思い出す。まだ3日しか経ってないのに、随分長いことここにいる気がするな。

「俺、異世界に転移するんだよな。ここに来た日にノインくんから説明された」

転移する、と口にした時、俺を抱くヴィータの力が強まった。行かせたくないと、言わんばかりに。それで何となく分かった。
ヴィータとはここでお別れなんだろう。

「…………」

「もしかして、すぐに行かなきゃいけないのか?」

子ども産んだし、すぐってことは無いと思ってたけど、ヴィータのこの表情をみると。

「今すぐじゃない……でも。あまり時間はない」

小さい声だったが、やっと返事があった。ヴィータの両頬を掴んで、上を向かせる。今にも泣きそうな顔だ。

「ヴィータ、ちゃんと説明して。俺たち、セックスばっかりして話し合いしてなかったろ」

「たくさん、しゃべっただろ」

「楽しいおしゃべりはたくさんしたけど、これからのことは避けてただろ。俺もヴィータも」

「……本当は、子どもを作る前に話とかないといけなかったんだ。でも、友也を見たら抑えきれなくて」

「会ってすぐベッドに連れてかれたもんな」

神様と交渉するつもりで行ったから、急展開にびっくりしたなーと思い出して笑いが溢れた。

「友也には……異世界で俺の子を、俺たちの子を育ててもらうことになってる。神の子は一定期間、下界で暮らす必要がある。そのサポートを人間にお願いするんだが、それが友也だった」

「なるほど、そういうことだったのか」

だから普通の転移・転生じゃなくて特別課に連れて行かれたのか。うんうん、と頷いていると、ヴィータが気まずそうな顔で衝撃的なことを言い出した。

「ーー子どもは、俺一人でも作れた」

「は?!」

一人で作れた?!

「本当なら友也と会って今のことを説明して、泉に連れて行って、力を注いで出来た子を友也に託して異世界へ送る予定だった。あの日すぐに異世界へ送り出す予定だったーーでも、俺は友也との子が欲しくなった。友也と離れたくなくなった」

ヴィータの声が震える。なし崩し的にセックスしちゃったけど、たしかにヴィータとの子を俺も望んだ。あの気持ちに嘘はない。
子どもを望むくらいには、俺だってヴィータを受け入れていたし、望んでいた。

「俺だって離れたくないよ。ヴィータとずっと一緒にいたい」

でも、それは出来ないんだろ?

「ウィンを……他の人に託せば、一緒にいられる。でも、ウィンから友也を取り上げることなんて出来ない……」

「そうだな。俺もウィンを他の人に任せたくない」

ヴィータと離れることになっても。

「好きだよ、友也」

初めて好きって言ってくれた。

「俺も、好きだよ」

ヴィータと未来の話がしたい。これからのことをちゃんと話して離れたい。

「いつか、一緒に暮らせる?」

「ウィンがひとり立ちしたら、出来る」

「異世界にいる間は会えないのか?」

「規則で月1回面会するようになってる」

「月1回かー。単身赴任みたいなもんだな」

「夢で会いに行く」

「ロマンチストだな」

「いや、本気だ」

「……そんなこと出来るのか。規則には触れない?」

「伴侶に会いに行くのに制限はない」

「伴侶……」

「後でお揃いの指輪を贈らせてくれ」

「楽しみにしとく」

これから離れ離れにはなるけど、きっと大丈夫。
穏やかな顔になったヴィータとキスをした。




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