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18話
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翌朝、アオが目覚めると、シオンはすでに起きていた。部屋の中を明るい朝の光が染め上げる。シオンはアオに背を向けるかたちで、浅くベッドに腰かけていた。
アオが身じろぎをすると、シオンは振り向いた。目が合った瞬間、アオは気がついた。シオンは自分と寝たことを後悔している。
不思議なことに、シオンを責める気持ちはこれっぽっちもなかった。やっぱりという、かすかにそれを残念に思う気持ちはあったけれど、アオはどこかで知っていた気がする。シオンがアオを決して選ばないことを。だって、シオンにはマリアという少女がいる。自分なんかよりもずっと彼に相応しい相手が。だからシオンが自分に対して何か罪悪感めいた感情を抱いていることに気がついたとき、アオは意外に思った。
「シオン?」
アオを見つめるシオンの瞳が珍しく頼りなさげに揺れている。まるでアオにかける言葉を探しているかのようだ。
アオはシオンの頬に手を当てると、そっと口づけた。それから顔を離すと、驚いているシオンに微笑んだ。
「俺、あんたに感謝してる」
自分がちゃんと望まれてこの世に生まれてきたこと。必要とされたことを、あんたは信じさせてくれたーー。
朝の光の中で、小さな埃がきらきらと舞う。アオの心はいま晴れやかだった。まるで生まれ変わったみたいに、穏やかな気持ちに包まれている。シオンが気づかせてくれたのだ。
シオンのことが大好きだ。伝えるつもりはないけれど。
「アオ……?」
アオはするりとシオンの横をすり抜けると、ベッドから下りた。ぐるりと室内を眺め、バスルームに置いてあったバスローブを手に取った。
「なあ、これ借りていいか?」
きのう着ていたアオの服は、雨と泥で着られたものじゃない。
「それは構わないが……」
「サンキュ」
アオはシオンのバスローブに腕を通した。床をすりそうな長い裾も、捲り上げなければ邪魔な袖も、明らかにアオよりも大きなサイズだ。かすかに胸はときめいた。けれど、アオは表情に出さなかった。
「きのうのことだが……」
「それさ、気にしなくていいよ」
「え?」
「あんたが俺と寝たのは、くそフェロモンのせいだろ?」
アオは、にっと笑った。
「……アオ?」
アオの急激な変化に、シオンは戸惑っているようだった。
とくん、とくんと胸が鳴る。バスローブの帯をキュッと前で縛り、アオはさりげなさを装って振り返った。
大丈夫だ、気づかれるような真似はしない。
アオはシオンのいるほうに近づくと、片膝をベッドに乗せた。
「まあさ、ベッドの相性はまずまずだったから、また気が向いたら相手をしてやってもいいけど」
シオンの胸に右手をついて、思わせぶりにするりと撫でると、シオンは不快そうに眉を顰めた。
「……それはこういうことが珍しくないということか」
手をきつくつかまれる。明らかに怒りを含んだ声に、アオの胸はぎゅっと痛んだ。
「まあ、だってほら、俺、これまで平気で身体を売ってたオメガだし? いまさら恋愛もする気ねえし」
へらへらと笑みを浮かべると、シオンがつかんでいた手を離した。
「最低だな」
胸にぽっかりと穴が空いた。アオはふいっと顔をそらすと、ベッドに乗せた膝を下ろした。
「そ。俺、最低なの」
だからあんたは何も気にしなくていいよ。
シオンはそれ以上何も言わなかった。
アオは汚れた服を拾い上げると、シオンの部屋を出た。ドアが閉じた瞬間、ちょっとだけ泣けた。アオはゴシと瞼を拭うと、長い廊下を自分の部屋へと戻った。
アオが身じろぎをすると、シオンは振り向いた。目が合った瞬間、アオは気がついた。シオンは自分と寝たことを後悔している。
不思議なことに、シオンを責める気持ちはこれっぽっちもなかった。やっぱりという、かすかにそれを残念に思う気持ちはあったけれど、アオはどこかで知っていた気がする。シオンがアオを決して選ばないことを。だって、シオンにはマリアという少女がいる。自分なんかよりもずっと彼に相応しい相手が。だからシオンが自分に対して何か罪悪感めいた感情を抱いていることに気がついたとき、アオは意外に思った。
「シオン?」
アオを見つめるシオンの瞳が珍しく頼りなさげに揺れている。まるでアオにかける言葉を探しているかのようだ。
アオはシオンの頬に手を当てると、そっと口づけた。それから顔を離すと、驚いているシオンに微笑んだ。
「俺、あんたに感謝してる」
自分がちゃんと望まれてこの世に生まれてきたこと。必要とされたことを、あんたは信じさせてくれたーー。
朝の光の中で、小さな埃がきらきらと舞う。アオの心はいま晴れやかだった。まるで生まれ変わったみたいに、穏やかな気持ちに包まれている。シオンが気づかせてくれたのだ。
シオンのことが大好きだ。伝えるつもりはないけれど。
「アオ……?」
アオはするりとシオンの横をすり抜けると、ベッドから下りた。ぐるりと室内を眺め、バスルームに置いてあったバスローブを手に取った。
「なあ、これ借りていいか?」
きのう着ていたアオの服は、雨と泥で着られたものじゃない。
「それは構わないが……」
「サンキュ」
アオはシオンのバスローブに腕を通した。床をすりそうな長い裾も、捲り上げなければ邪魔な袖も、明らかにアオよりも大きなサイズだ。かすかに胸はときめいた。けれど、アオは表情に出さなかった。
「きのうのことだが……」
「それさ、気にしなくていいよ」
「え?」
「あんたが俺と寝たのは、くそフェロモンのせいだろ?」
アオは、にっと笑った。
「……アオ?」
アオの急激な変化に、シオンは戸惑っているようだった。
とくん、とくんと胸が鳴る。バスローブの帯をキュッと前で縛り、アオはさりげなさを装って振り返った。
大丈夫だ、気づかれるような真似はしない。
アオはシオンのいるほうに近づくと、片膝をベッドに乗せた。
「まあさ、ベッドの相性はまずまずだったから、また気が向いたら相手をしてやってもいいけど」
シオンの胸に右手をついて、思わせぶりにするりと撫でると、シオンは不快そうに眉を顰めた。
「……それはこういうことが珍しくないということか」
手をきつくつかまれる。明らかに怒りを含んだ声に、アオの胸はぎゅっと痛んだ。
「まあ、だってほら、俺、これまで平気で身体を売ってたオメガだし? いまさら恋愛もする気ねえし」
へらへらと笑みを浮かべると、シオンがつかんでいた手を離した。
「最低だな」
胸にぽっかりと穴が空いた。アオはふいっと顔をそらすと、ベッドに乗せた膝を下ろした。
「そ。俺、最低なの」
だからあんたは何も気にしなくていいよ。
シオンはそれ以上何も言わなかった。
アオは汚れた服を拾い上げると、シオンの部屋を出た。ドアが閉じた瞬間、ちょっとだけ泣けた。アオはゴシと瞼を拭うと、長い廊下を自分の部屋へと戻った。
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