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寝室へと消えた崇嗣さんを、マルは心許ない気持ちで待つ。戻ってきた崇嗣さんが手にしていたものは、アルミ素材の小さな虫だった。ほとんど重さを感じさせないそれは、精密な造形で模してある。崇嗣さんはそれを、マルのコートの襟元につけた。
「てんとう虫?」
「かたちは関係ない。これは、以前俺が遊びで作った投影機だ。何かに使えるかと試したものなんだが……」
崇嗣さんがスイッチを入れるとてんとう虫の翅が開き、そこから淡い光のようなものが天井に向かってきらきらと放出された。
「これはホログラムになっていて、見せたい映像を立体的に見せることができる」
光はすぐに収まり、マルは鏡に映る自分の姿を見て驚いた。そこには重度の皮膚病に罹った見知らぬ少年がいた。崇嗣さんはマルの背後から一緒に鏡をのぞき込むと、フードを鼻のあたりまで下ろした。
「いいか。外に出るときは絶対にフードを取るな。伝染性の病気だと言うんだ。だがもしフードを取られたとしても大丈夫だ。ホログラムがお前を実際とは違う姿に見せてくれる」
マルは目を見開いた。崇嗣さんの言葉に、鼓動が速くなる。
「ただしこれだけは約束するんだ。万が一危険を感じたら、すぐにその場から逃げること。どうだ、約束できるか?」
崇嗣さんがスイッチを切ると、ホログラムも消えた。鏡に映るのは、元の美しいアンドロイドの少年の姿だ。崇嗣さんは投影機を外すと、マルの手のひらに載せた。
「約束します……!」
マルは投影機を握りしめると、大きく頷いた。
マルは崇嗣さんの助手として、彼の仕事を手伝うようになった。
崇嗣さんの仕事は多岐にわたっていた。それは浮気調査や迷い猫捜しなどの小さなものから、違法性の高いもの――たとえば不正にシステムやネットワークにアクセスして、他人のデータを盗んだり改ざんするクラッキングなどの仕事もあった。最初に見せてくれたGPSを遮断する装置や投影機など、一般には出回っていない機器を作り出したことからもわかるように、彼のプログラミング技術は正に天才的だった。
そんな崇嗣さんは時折数時間ほど、マルには行き先を告げず、姿を消すことがあった。一度だけどうしても気になって、彼の気配をつけたことがある。崇嗣さんの秘密の外出の目的が、実は廃棄されそうなロボットを誰にも知られないようこっそり助けているのだと知ったとき、マルはそれ以上彼の気配を探ることを止めた。
その日も、崇嗣さんは午後からどこかへ出掛けていて、マルはヴィオラと家で留守番をしていた。
『あんたがやらせないから、どこかでやってんじゃないの?』
マルは足元にいたヴィオラを抱き上げると、ソファに腰を下ろした。柔らかい毛をそっと撫でる。
「そんなんじゃありません。崇嗣さんは廃棄されそうなロボットを助けているんです」
マルの言葉に、ヴィオラはぴくりと耳を震わせた。
『なにそれ。自己満足ってやつ? だったらよけいに隠す必要なんてないだろ。なんで聞かないのさ?』
「てんとう虫?」
「かたちは関係ない。これは、以前俺が遊びで作った投影機だ。何かに使えるかと試したものなんだが……」
崇嗣さんがスイッチを入れるとてんとう虫の翅が開き、そこから淡い光のようなものが天井に向かってきらきらと放出された。
「これはホログラムになっていて、見せたい映像を立体的に見せることができる」
光はすぐに収まり、マルは鏡に映る自分の姿を見て驚いた。そこには重度の皮膚病に罹った見知らぬ少年がいた。崇嗣さんはマルの背後から一緒に鏡をのぞき込むと、フードを鼻のあたりまで下ろした。
「いいか。外に出るときは絶対にフードを取るな。伝染性の病気だと言うんだ。だがもしフードを取られたとしても大丈夫だ。ホログラムがお前を実際とは違う姿に見せてくれる」
マルは目を見開いた。崇嗣さんの言葉に、鼓動が速くなる。
「ただしこれだけは約束するんだ。万が一危険を感じたら、すぐにその場から逃げること。どうだ、約束できるか?」
崇嗣さんがスイッチを切ると、ホログラムも消えた。鏡に映るのは、元の美しいアンドロイドの少年の姿だ。崇嗣さんは投影機を外すと、マルの手のひらに載せた。
「約束します……!」
マルは投影機を握りしめると、大きく頷いた。
マルは崇嗣さんの助手として、彼の仕事を手伝うようになった。
崇嗣さんの仕事は多岐にわたっていた。それは浮気調査や迷い猫捜しなどの小さなものから、違法性の高いもの――たとえば不正にシステムやネットワークにアクセスして、他人のデータを盗んだり改ざんするクラッキングなどの仕事もあった。最初に見せてくれたGPSを遮断する装置や投影機など、一般には出回っていない機器を作り出したことからもわかるように、彼のプログラミング技術は正に天才的だった。
そんな崇嗣さんは時折数時間ほど、マルには行き先を告げず、姿を消すことがあった。一度だけどうしても気になって、彼の気配をつけたことがある。崇嗣さんの秘密の外出の目的が、実は廃棄されそうなロボットを誰にも知られないようこっそり助けているのだと知ったとき、マルはそれ以上彼の気配を探ることを止めた。
その日も、崇嗣さんは午後からどこかへ出掛けていて、マルはヴィオラと家で留守番をしていた。
『あんたがやらせないから、どこかでやってんじゃないの?』
マルは足元にいたヴィオラを抱き上げると、ソファに腰を下ろした。柔らかい毛をそっと撫でる。
「そんなんじゃありません。崇嗣さんは廃棄されそうなロボットを助けているんです」
マルの言葉に、ヴィオラはぴくりと耳を震わせた。
『なにそれ。自己満足ってやつ? だったらよけいに隠す必要なんてないだろ。なんで聞かないのさ?』
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