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「さとりの夏休み」
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八月某日(土)。晴れ。
大切なお客さまがきた。そうすけと血のつながった妹だという。初めて会ったころのそうすけをもう少し小さくしたような男の子も一緒だ。知らないひとが怖いのか、白いふわふわの妖怪はどこかに隠れてしまった。
一緒に暮らしている人がいると、そうすけが前もって話をしてくれのか、さとりがいてもそうすけの妹に驚いたようすはなかった。ただ興味深げにじっとさとりを見た。
キッチンでお茶を淹れているとき、リビングでそうすけたちがさとりを見て何かを話していた。
さとりはドキドキした。何か粗相をして、そうすけの大事な家族に嫌われたらどうしよう。これまでさとりはそうすけ以外の人間からよく思われたことはない。
緊張して手が震えてしまい、うっかりお茶を零してしまった。そうすけは何てことないと言ってくれたけれど、お茶のひとつも満足に淹れられないことに、さとりはすっかり落ち込んでしまった。
やっぱりおいらは役立たずだ……。
しょんぼりと肩を落としたさとりに、そうすけの妹はにっこりと笑ってさとりの淹れたお茶を「おいしい」と言ってくれた。
それから四人で、そうすけの妹が買ってきてくれたケーキを食べた。そうすけに似た小さな子どもは甘いものが好きらしく、さとりがショートケーキに乗っていたイチゴをおそるおそる差し出すと(本当はさとりも好物だ)、躊躇いもなくぱくりと食べた上、膝の上に乗ってきたからびっくりした。
帰り際、そうすけの妹は「お兄ちゃんをよろしくお願いします」とさとりの手をぎゅっと握った。
「こ、こちらこそ!」
腰が抜けるかと思うくらいにびっくりして、こくこくと頷くさとりを、そうすけは照れくさそうななんともうれしそうな顔で眺めていた。
八月某日(水)。曇り。
そうすけが龍神さまに話があるという。前から不思議に思っていたけれど、そうすけはなぜだか龍神さまが苦手らしい。それなのに、いったいなんの用があるのだろう。
不思議に思いながら、さとりは夜ベランダから、
「龍神さま、龍神さま、そうすけが話があるので出てきてください。どうかお願いします」
と必死に願った。
さとりの声が届いて、龍神さまがそうすけのもとに現れてくれるといいけれど……。
八月某日(月)。晴れ。
すごい、すごい、すごい。
そうすけが「夏休み」というお休みで、これから一週間もお仕事へいかず、一緒に過ごせるという。しかも「かいがい旅行」へいくという。「かいがい旅行」ってどこにあるのだろう。前にそうすけと一緒にいった「おんせん」くらいに遠いのかな? それともおいらの棲んでいた村くらいかな?
何日分かの着替えも用意して、「ひこうき」というやつにも乗るという。さとりはそうすけと一緒だったら、特別なことをしなくてもうれしいけれど、そうすけはさとりがこれまで知らなかったものや、見たこともないようなきれいな景色をたくさん見せたいのだという。そういうときのそうすけはとてもやさしい目をしている。みんなから嫌われ者のおいらのことを、大好きだという気持ちが伝わってくる。そんなとき、さとりは悲しくないのに胸がいっぱいになって、泣きたい気持ちになってしまう。
そうすけと出会って、さとりは一生分とも思える幸せをたくさんもらった。さとりも同じくらいそうすけを幸せな気持ちにしたいのに、そうすけはいまのままで充分幸せだという。
おいらはそうすけのために何ができるのかな……?
大切なお客さまがきた。そうすけと血のつながった妹だという。初めて会ったころのそうすけをもう少し小さくしたような男の子も一緒だ。知らないひとが怖いのか、白いふわふわの妖怪はどこかに隠れてしまった。
一緒に暮らしている人がいると、そうすけが前もって話をしてくれのか、さとりがいてもそうすけの妹に驚いたようすはなかった。ただ興味深げにじっとさとりを見た。
キッチンでお茶を淹れているとき、リビングでそうすけたちがさとりを見て何かを話していた。
さとりはドキドキした。何か粗相をして、そうすけの大事な家族に嫌われたらどうしよう。これまでさとりはそうすけ以外の人間からよく思われたことはない。
緊張して手が震えてしまい、うっかりお茶を零してしまった。そうすけは何てことないと言ってくれたけれど、お茶のひとつも満足に淹れられないことに、さとりはすっかり落ち込んでしまった。
やっぱりおいらは役立たずだ……。
しょんぼりと肩を落としたさとりに、そうすけの妹はにっこりと笑ってさとりの淹れたお茶を「おいしい」と言ってくれた。
それから四人で、そうすけの妹が買ってきてくれたケーキを食べた。そうすけに似た小さな子どもは甘いものが好きらしく、さとりがショートケーキに乗っていたイチゴをおそるおそる差し出すと(本当はさとりも好物だ)、躊躇いもなくぱくりと食べた上、膝の上に乗ってきたからびっくりした。
帰り際、そうすけの妹は「お兄ちゃんをよろしくお願いします」とさとりの手をぎゅっと握った。
「こ、こちらこそ!」
腰が抜けるかと思うくらいにびっくりして、こくこくと頷くさとりを、そうすけは照れくさそうななんともうれしそうな顔で眺めていた。
八月某日(水)。曇り。
そうすけが龍神さまに話があるという。前から不思議に思っていたけれど、そうすけはなぜだか龍神さまが苦手らしい。それなのに、いったいなんの用があるのだろう。
不思議に思いながら、さとりは夜ベランダから、
「龍神さま、龍神さま、そうすけが話があるので出てきてください。どうかお願いします」
と必死に願った。
さとりの声が届いて、龍神さまがそうすけのもとに現れてくれるといいけれど……。
八月某日(月)。晴れ。
すごい、すごい、すごい。
そうすけが「夏休み」というお休みで、これから一週間もお仕事へいかず、一緒に過ごせるという。しかも「かいがい旅行」へいくという。「かいがい旅行」ってどこにあるのだろう。前にそうすけと一緒にいった「おんせん」くらいに遠いのかな? それともおいらの棲んでいた村くらいかな?
何日分かの着替えも用意して、「ひこうき」というやつにも乗るという。さとりはそうすけと一緒だったら、特別なことをしなくてもうれしいけれど、そうすけはさとりがこれまで知らなかったものや、見たこともないようなきれいな景色をたくさん見せたいのだという。そういうときのそうすけはとてもやさしい目をしている。みんなから嫌われ者のおいらのことを、大好きだという気持ちが伝わってくる。そんなとき、さとりは悲しくないのに胸がいっぱいになって、泣きたい気持ちになってしまう。
そうすけと出会って、さとりは一生分とも思える幸せをたくさんもらった。さとりも同じくらいそうすけを幸せな気持ちにしたいのに、そうすけはいまのままで充分幸せだという。
おいらはそうすけのために何ができるのかな……?
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