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SS「風邪」
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ふわりと身体が浮き上がる感覚がした。さとり、と名前を呼ぶそうすけの懐かしい声が聞こえた気がして、さとりは夢かと思う。
「……ばかだな。こんなところで寝たらだめだろう」
『大丈夫だからって言ったのに……』
何よりも愛おしい、さとりの大好きなそうすけの手が、腫れて熱を持った目の縁を慰めるように撫でてくれた。
そのまま柔らかいものに横たえるようにそっと下ろされて、大好きなその気配が離れる。さとりはハッとした。ぱっと目を開くと、普段と何ら違ったようには思えないそうすけがさとりに気がついて、ふっと微笑んだ。さとりは胸がぎゅっと苦しくなった。
「おはようさとり」
「そ、そ、そうすけ……!」
そうすけ……。
止まっていた涙が再びぶわっと溢れる。
もういいの? 苦しくないの? 痛いところはない? そうすけの中の人間は悪さしない?
訊きたいことは山のようにあるのに、感情がいっぱいいっぱいになってうまく言葉に表せない。そんなさとりを、そうすけはうれしそうな、そして照れくさそうな、なんとも言えない眩しそうな顔で見ていた。
「信じろと言ったろう?」
揶揄うように頬を撫でられて、さとりは新たな涙を零しながら、こくこくとうなずく。
「これ、貸してくれてありがとうな」
『さとりの宝物だろ?』
そうすけは紫水晶のペンダントとメモが入ったお守り袋をさとりに返してくれた。それから何を思ったのか、涙でかぴかぴになったさとりの頬をいきなり舐めると、
「しょっぱ……」
と苦笑を漏らした。
「お、おいら、そうすけがどうにかなっちゃうんじゃないかと思って、龍神さまにお願いしたけど、答えてくれなくて……」
よかった、よかった、そうすけが元気になってよかった。
ぐずぐずと鼻をすすりながら告げたさとりに、そうすけは少しだけ嫌そうな顔をした。
『なんでいざというときにさとりが頼るのはいつもあいつなんだよ……』
さとり、と名前を呼ばれて、さとりは涙に濡れた目をそうすけに向けた。
「……心配させてごめんな」
『俺はもう二度とさとりをひとりぼっちにはさせない。ずっとお前のそばにいるよ』
少し困ったような顔で謝られて、さとりはふるふるっと頭を振った。
ご飯を食べ過ぎた後のように、胸の奥が苦しかった。でも、苦しいのは悲しいからじゃない。
あたたかなものがさとりの身体を包み込む。さとりは知っていた。ひとは、うれしすぎると泣きたくなるのだ。幸せで幸せで、どうしていいかわからなくなることがあることを。そうすけが教えてくれたから。
「お、おいらも、そうすけの側にいるね! そうすけをひとりにしないね!」
勢い込んでさとりが告げた言葉に、そうすけはこれまで見たこともないくらいうれしそうな顔で笑った。
「ああ、頼むな……」
さとりはかあっと赤くなった。なんだか急に恥ずかしくなって、うつむいたままもじもじしてしまう。
「それにしてもさとり、風邪を引いたときにネギを巻くなんてどこで知ったんだ?」
さとりはパッと顔を上げた。その質問だったらさとりにも答えられる。
「あ、あのね、前にテレビドラマでやっていたの!」
「……ばかだな。こんなところで寝たらだめだろう」
『大丈夫だからって言ったのに……』
何よりも愛おしい、さとりの大好きなそうすけの手が、腫れて熱を持った目の縁を慰めるように撫でてくれた。
そのまま柔らかいものに横たえるようにそっと下ろされて、大好きなその気配が離れる。さとりはハッとした。ぱっと目を開くと、普段と何ら違ったようには思えないそうすけがさとりに気がついて、ふっと微笑んだ。さとりは胸がぎゅっと苦しくなった。
「おはようさとり」
「そ、そ、そうすけ……!」
そうすけ……。
止まっていた涙が再びぶわっと溢れる。
もういいの? 苦しくないの? 痛いところはない? そうすけの中の人間は悪さしない?
訊きたいことは山のようにあるのに、感情がいっぱいいっぱいになってうまく言葉に表せない。そんなさとりを、そうすけはうれしそうな、そして照れくさそうな、なんとも言えない眩しそうな顔で見ていた。
「信じろと言ったろう?」
揶揄うように頬を撫でられて、さとりは新たな涙を零しながら、こくこくとうなずく。
「これ、貸してくれてありがとうな」
『さとりの宝物だろ?』
そうすけは紫水晶のペンダントとメモが入ったお守り袋をさとりに返してくれた。それから何を思ったのか、涙でかぴかぴになったさとりの頬をいきなり舐めると、
「しょっぱ……」
と苦笑を漏らした。
「お、おいら、そうすけがどうにかなっちゃうんじゃないかと思って、龍神さまにお願いしたけど、答えてくれなくて……」
よかった、よかった、そうすけが元気になってよかった。
ぐずぐずと鼻をすすりながら告げたさとりに、そうすけは少しだけ嫌そうな顔をした。
『なんでいざというときにさとりが頼るのはいつもあいつなんだよ……』
さとり、と名前を呼ばれて、さとりは涙に濡れた目をそうすけに向けた。
「……心配させてごめんな」
『俺はもう二度とさとりをひとりぼっちにはさせない。ずっとお前のそばにいるよ』
少し困ったような顔で謝られて、さとりはふるふるっと頭を振った。
ご飯を食べ過ぎた後のように、胸の奥が苦しかった。でも、苦しいのは悲しいからじゃない。
あたたかなものがさとりの身体を包み込む。さとりは知っていた。ひとは、うれしすぎると泣きたくなるのだ。幸せで幸せで、どうしていいかわからなくなることがあることを。そうすけが教えてくれたから。
「お、おいらも、そうすけの側にいるね! そうすけをひとりにしないね!」
勢い込んでさとりが告げた言葉に、そうすけはこれまで見たこともないくらいうれしそうな顔で笑った。
「ああ、頼むな……」
さとりはかあっと赤くなった。なんだか急に恥ずかしくなって、うつむいたままもじもじしてしまう。
「それにしてもさとり、風邪を引いたときにネギを巻くなんてどこで知ったんだ?」
さとりはパッと顔を上げた。その質問だったらさとりにも答えられる。
「あ、あのね、前にテレビドラマでやっていたの!」
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