その声が聞きたい

午後野つばな

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 そうすけはきょろきょろと周囲のようすを窺うと、さとりの身体を背後から支えるようにして、人混みの中から連れ出してくれた。
「ほら、ここに座って」
 ショッピングセンターとは反対側、遊具もなにもないような小さな公園のベンチに腰を下ろした。
「ちょっとだけ待ってて」
 そうすけは、さとりに言いおいてどこかへ消えると、またすぐに戻ってきた。手には、さとりが好きな「色のついたおいしい水」。
「ほら、飲めるか?」
 蓋を開けたペットボトルを差し出され、さとりはこくこくと水を飲んだ。少しだけ甘味のある冷たい水が、乾いたのどを伝い落ち、さとりの全身に広がる。
 そのとき、「はー……」と呼吸を吐く音が聞こえた。
『こいつ、顔色が紙みたいで……』
「まじ焦った……」
 そうすけはさとりの隣にどさっと腰を下ろすと、思い直したように立ち上がった。それから公園の入り口にある自動販売機のところへいき、小さな缶を買って戻ってきた。再びベンチに腰を下ろすと、プルタブを引き上げ、一気に飲み干す。
「……なあ、お前どっか悪いの?」
『初めて会ったときも、具合が悪そうにしてたよな』
「本当に病院とか……」
 さとりはぷるぷると頭を振った。
 さとりの具合が悪くなるのは、病気でもなんでもなかった。ただ、その理由をそうすけには説明できない。
 さとりの答えに、そうすけはじっと黙って何かを考えているようだった。伝わってくるのは、はっきりと答えないさとりに対する微かな苛立ちと、不安と、それから……。中でも最も大きいのは、さとりの身体を心配する気持ちだった。
『こいつ、どこか具合が悪いんじゃないだろうか。たとえさとが嫌がったとしても、一度病院に連れていって、ちゃんと診てもらったほうがいいんじゃないか……?』
 さとりの胸の中に、あたたかな気持ちが広がる。それから、胸の奥がきゅっと切なくなるような、なぜだか泣きたくなるような気持ちも。
 だから、さとりはほんの少しだけ、本当のことをそうすけに告げた。
「お、おいら、ちょっとだけ人混みが苦手みたい。だから、ほんとになんでもないの。どこも悪くないから、大丈夫」
「人混みが苦手……?」
『本当にそれだけ……?』
 さとりがこくりとうなずくと、そうすけはほっとしたように身体から力を抜いた。
「そっか……」
 そうすけはベンチに寄りかかると、横目でさとりを見た。その目がやさしく細められる。
 さとりはドキッとした。
 あれ……?
 胸のあたりに手をのせて、心の中で首をかしげる。さとりは、ぱちぱちとまばたきをした。
 なんだかおいら、お腹のあたりが変みたい……?
 気のせいか、頬のあたりも少しだけ熱い気がする。
「……そしたら、どうすっかな。帰るかな」
「えっ」
 立ち上がり、空き缶を捨てにいくそうすけに、さとりは慌てた。
「そ、そうすけ、お買い物は? これからお買い物にいくんでしょ?」
「は?」
『いやいや、いかないだろ』
「えっ! いかないの!?」
 そうすけが一瞬、ん? なんかいまのおかしくなかったか? という表情になったのを、さとりは気にせず素通りしてしまった。
「いやいやいや」
『ねーだろ』
「ええ……っ!」
 お互いに微妙な表情になって、一瞬見つめ合う。
「いやだって、人混みが苦手なら無理だろう」
「そうすけとお買い物……」
 さとりはしょんぼりと肩を落とした。自分が人混みが苦手なせいで、そうすけと一緒にお買い物にいけなくなってしまった。
「えええ~~っ!」
『俺のせいかよ……』
 そんながっかりされても……、というそうすけの困惑した思いが伝わってきて、さとりははっとなった。いけない、そうすけを困らせてしまう。
「だ、大丈夫! おいら、ぜんぜんガッカリなんかしてないぞ! そうすけとお買い物にいけなくったって、へっちゃらだ!」
 そうすけに心配をかけまいと胸を張って答えたのに、そうすけが逆に腕を組んで考え込んでしまったので、さとりは困惑した。
「そ、そうすけ、ほんとにおいら……」
「……人がそこまで多くなければいいんだよな?」
 やがて、顔を上げたそうすけの瞳は、いたずらを企んだ子どものようにきらきらと輝いていた。
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