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そうすけが仕事にいったあと、さとりはひとり残された部屋の中で、なにか自分にもできることはないかと考えた。それで思いついたのは、ここ数日忙しくて片付けができなかったというそうすけのために、この部屋をさとりが片付けるというものだった。
まずさとりはたまっていた洗濯物を洗おうとした。「洗濯機」というものが、人間が衣類などを洗う際に使うものだということはかろうじて知っていた。この中に汚れた衣類を入れれば、あとは「洗濯機」がすべてやってくれるという優れものだ。
昨夜、そうすけがさとりの髪を洗ってくれたときに使用したぬるぬるの液体がとてもいい匂いだったので、それも一緒に入れてスイッチを押した。「洗濯機」が無事に動き出したのにほっとして、リビングへと戻る。台所のシンクに溜まっていた食器を洗おうとして、スポンジを手に取り、近くにあった洗剤らしきもののチューブをぎゅっと手で絞った。
そうすけが帰ってきたら、ピカピカの部屋を見て喜んでくれるだろうか。
想像したらうれしい気持ちがこみ上げてきて、さとりの口元はゆるんでしまう。
そのとき、洗面所の方から、ぼごぼごぼご……とおかしな音がした。慌ててようすを見にいこうとして、手元が滑り、持っていたグラスを落としてしまった。ガシャン、とグラスが割れ、とっさに伸ばした手からまたつるりと滑って、今度は皿を割ってしまう。その間にも、ぼごぼごぼご……という音は続いていて、さとりはひとまず音のする洗面所へと向かう。そこでさとりの目に入ってきたのは、振動しながらぶくぶくと泡を床に吐き出している洗濯機だった。
「な、なんで~?」
急いで洗濯機の動作を止めようとするが、押す場所が違うのか、洗濯機はガゴン、ガゴンと振動しながら、いまだに泡を吐き出し続けている。足元がずるりと滑り、さとりは泡だらけの床の上にすっ転んだ。
「った!」
洗濯機の端に頭を打ちつけ、涙が滲んだ。立ち上がり、コードを根本から引っこ抜くと、洗濯機はようやく振動を止めた。
「と、止まったあ~」
さとりはその場にへたり込んだ。あらためてその惨状が目に映り、泣きたい気持ちになる。
「そうすけが帰ってくる前に何とかしないと」
さとりは焦った。何か拭くものはないかと周囲を見回し、視界に入ったタオルを手に取った。這いつくばってごしごしと床を拭くが、タオルはすぐに泡と水を含んで、ぽたぽたと滴を垂らしてしまう。それでも根気よく同じ動作を繰り返すと、ようやく床に溜まった水と泡はふき取れた。けれど洗濯機には、まだ泡がこんもりと盛り上がっていて、どうしたらこの水がなくなるのか、洗濯物がきちんときれいな状態になるのか、さとりにはわからなかった。
「……割っちゃった食器を何とかしないと」
時間がたてば少しはましな考えが浮かぶような気がして、ひとまずリビングへと戻る。リビングの真ん中では白いふわふわの妖怪が数匹飛び跳ねていて、そうすけの本をびりびりに破いていた。
「わーわーわー!」
さとりの声にびくりとして、白いふわふわの妖怪はぴゅーっと部屋のどこかへ逃げていった。さとりはびりびりになった本を手に取り、茫然となった。
白いふわふわの妖怪は、普段は人間の前に姿を現すことはないし、臆病なのかイタズラをすることもほとんどない。それがどうしてかと理由を考えれば、この部屋にさとりがいるからに他ならなかった。部屋の中を見渡せば、そうすけが家を出たとき以上の惨状が広がっている。
本当は仕事から帰ってきたそうすけに、喜んでもらいたかったのだ。それがどうしてこんなことになってしまったのかと、さとりは途方に暮れた。
さっき逃げたはずの白い妖怪がひょっこりと姿を現して、さとりの足元でぴょんぴょんと跳ねる。さとりは部屋の隅で膝を抱え、ぐずぐずと泣き出した。
まずさとりはたまっていた洗濯物を洗おうとした。「洗濯機」というものが、人間が衣類などを洗う際に使うものだということはかろうじて知っていた。この中に汚れた衣類を入れれば、あとは「洗濯機」がすべてやってくれるという優れものだ。
昨夜、そうすけがさとりの髪を洗ってくれたときに使用したぬるぬるの液体がとてもいい匂いだったので、それも一緒に入れてスイッチを押した。「洗濯機」が無事に動き出したのにほっとして、リビングへと戻る。台所のシンクに溜まっていた食器を洗おうとして、スポンジを手に取り、近くにあった洗剤らしきもののチューブをぎゅっと手で絞った。
そうすけが帰ってきたら、ピカピカの部屋を見て喜んでくれるだろうか。
想像したらうれしい気持ちがこみ上げてきて、さとりの口元はゆるんでしまう。
そのとき、洗面所の方から、ぼごぼごぼご……とおかしな音がした。慌ててようすを見にいこうとして、手元が滑り、持っていたグラスを落としてしまった。ガシャン、とグラスが割れ、とっさに伸ばした手からまたつるりと滑って、今度は皿を割ってしまう。その間にも、ぼごぼごぼご……という音は続いていて、さとりはひとまず音のする洗面所へと向かう。そこでさとりの目に入ってきたのは、振動しながらぶくぶくと泡を床に吐き出している洗濯機だった。
「な、なんで~?」
急いで洗濯機の動作を止めようとするが、押す場所が違うのか、洗濯機はガゴン、ガゴンと振動しながら、いまだに泡を吐き出し続けている。足元がずるりと滑り、さとりは泡だらけの床の上にすっ転んだ。
「った!」
洗濯機の端に頭を打ちつけ、涙が滲んだ。立ち上がり、コードを根本から引っこ抜くと、洗濯機はようやく振動を止めた。
「と、止まったあ~」
さとりはその場にへたり込んだ。あらためてその惨状が目に映り、泣きたい気持ちになる。
「そうすけが帰ってくる前に何とかしないと」
さとりは焦った。何か拭くものはないかと周囲を見回し、視界に入ったタオルを手に取った。這いつくばってごしごしと床を拭くが、タオルはすぐに泡と水を含んで、ぽたぽたと滴を垂らしてしまう。それでも根気よく同じ動作を繰り返すと、ようやく床に溜まった水と泡はふき取れた。けれど洗濯機には、まだ泡がこんもりと盛り上がっていて、どうしたらこの水がなくなるのか、洗濯物がきちんときれいな状態になるのか、さとりにはわからなかった。
「……割っちゃった食器を何とかしないと」
時間がたてば少しはましな考えが浮かぶような気がして、ひとまずリビングへと戻る。リビングの真ん中では白いふわふわの妖怪が数匹飛び跳ねていて、そうすけの本をびりびりに破いていた。
「わーわーわー!」
さとりの声にびくりとして、白いふわふわの妖怪はぴゅーっと部屋のどこかへ逃げていった。さとりはびりびりになった本を手に取り、茫然となった。
白いふわふわの妖怪は、普段は人間の前に姿を現すことはないし、臆病なのかイタズラをすることもほとんどない。それがどうしてかと理由を考えれば、この部屋にさとりがいるからに他ならなかった。部屋の中を見渡せば、そうすけが家を出たとき以上の惨状が広がっている。
本当は仕事から帰ってきたそうすけに、喜んでもらいたかったのだ。それがどうしてこんなことになってしまったのかと、さとりは途方に暮れた。
さっき逃げたはずの白い妖怪がひょっこりと姿を現して、さとりの足元でぴょんぴょんと跳ねる。さとりは部屋の隅で膝を抱え、ぐずぐずと泣き出した。
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