その声が聞きたい

午後野つばな

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 さとりはびっくりした。身動きもできず固まったまま、大きく見開いた目でそうすけをじっと見つめる。間近で誰かとこんなに視線を合わせたのは初めてだった。
 さとりの凝視に気がついたそうすけが、ハッとしたように軽く目を瞠って、気まずそうにそらされた。
「いきなり触って悪い」
 さとりからは背を向け、台所へと向かう。
『ガラスみたいな透明な目でじっと見てるからびっくりした……』
 そうすけの背中からは小さな動揺の気配が伝わってきて、さとりはしょんぼりとした。やっぱりおいらがじっと見ていたから気持ち悪いんだと、肩を落とす。
「ほら、ポカリ。念のため水分補給しといたほうがいいだろ」
 そう言って、そうすけは何かの液体が入った容器を手渡した。さとりはそうすけから手渡された容器をじっと見つめた。小さく首をかしげ、そのままガブリと咥えたところを、ぎょっとしたそうすけに止められる。
「わわわ……っ! お前何やってんだよ!」
「……固い」
 それにちっともおいしくない。
「そのままかじるやつがあるかよ……っ!」
 せっかくそうすけからもらったものを取り上げられて、さとりはうらめしげに見た。
『マジかよ……』
「……ほら。こうやるんだよ」
 そうすけが容器の先についていた蓋のようなものを捻って外してくれる。
 さとりは再び首をかしげて、わずかに色のついた液体の匂いをくん、と嗅いだ。無臭だ。舌を出して、慎重な面もちでぺろっと舐める。
「……!」
 うまい! うまい! なんだかわからないけれど、ものすごくうまい!
「そうすけ、うまい! この水には味がついてるぞ! なんだかわからないけどすごくうまい! そうすけも飲むか!」
 もしもさとりが動物の妖怪だったら、いまごろぶんぶんと尻尾を振っていたことだろう。喜んでいるのがだだ漏れだ。そんな恥ずかしい状況にならなくてよかったとさとりがほっとしながら振り返ると、そうすけはひどく疲れたような顔をしていた。
「……いや。俺はいい。……ああ、こら一気に飲むんじゃない。子どもか! ほら、少しずつ飲め。咽せるぞ」
『疲れる……』
 ぽつりと落ちてきた言葉に、さとりはしゅんとなった。そっと容器から口を離す。ソファに腰掛けたまま、さとりのようすを横目で眺めていたそうすけが、おや、という表情を浮かべた。
「どうした? まだ残ってるぞ」
「……ん。もう大丈夫だ。お腹がいっぱいだ」
 そうすけがわずかに眉根を寄せる。さとりの言葉を信じてはいないようだった。
『そんなに細い身体をして、ちゃんと食べてるのか……?』
 こうして話をしていても、そうすけはさとりのことは気づかないようだった。そのことが無性に悲しい。それでも、そうすけから伝わってくる言葉は、泣きたくなるくらいにやさしかった。
「なあ、お前、名前は? まだ聞いてなかったよな」
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