その声が聞きたい

午後野つばな

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 いつの間にか雨は上がっていた。
 マンションというものは、小さな箱が積み重なってできているようだと、さとりは思う。その箱の中でたくさんの人が暮らしているなんて、なんだか不思議だった。ましてや、この中にはそうすけの家もあるなんて。
「……おい。口が開いてるぞ」
 口をぽかんと開けたまま、マンションを見上げていたさとりは、先をいくそうすけに注意されて、慌てて口元をこすった。
「す、すごいね。そうすけ、普段こんなところに住んでるんだね」
『普通のマンションがそんなに珍しいか……?』
「おい、こっち」
 そうして細長い小さな箱のようなものに乗り込み、そうすけが入口付近にあるボタンを押したとたん、箱が縦に上昇を始めたから、さとりはぎょっとした。
「そ、そ、そ、そうすけ、そうすけ。箱が上に上がってる」
 思わず腰を抜かしそうなほど驚いたさとりに、そうすけはおかしな顔をした。
「……そりゃ上がるだろうよ。上を押したんだ」
『……これどっきりか何かか? 普通のエレベーターだぞ。この時代、エレベーターに乗ったこともないなんてあり得ないだろ。ドアが開いたらカメラが待ってるなんてことはないよな』
「お、おいらは、おいらは驚いてなんかないぞ! 大丈夫だ!」
 虚勢を張ったさとりに、そうすけは短く「……そう」と答えると、それ以上は突っ込まなかった。ドキドキと騒ぐ心臓をなだめながら、さとりは落ち着けと自分に言い聞かせる。このままではそうすけにおかしなやつだと思われてしまう。けれど上昇が止まり、ドアが開いたところで、さとりは再び目を見開いた。
 目の前に、夜空の星を散りばめたみたいな景色が広がっている。
「そうすけ、星だ! 星が見えるぞ! そうすけもこっちへきてみろ。きれいだなあ」
 さとりはエレベーターから出ると、手すりから身を乗り出すようにして眼下に広がる景色を眺めた。あんなに空を見上げても見えなかった星たちが、いまさとりの目の前に広がっている。
「そんなに身を乗り出すと危ないぞ」
『……星って、夜景のことか?』
「やけい……?」
 気がつけばその声はすぐ近くから聞こえた。思わず心の声に反応してしまったさとりに、いつの間にかすぐさとりの後ろに立っていたそうすけが一緒に夜景を眺める。
「ああ。雨上がりで少し曇っているけど、きれいだな……」
『夜景なんて久しぶりに見たな』
 さとりはどきどきした。肩の力が抜けたそうすけのようすに、なんだかうれしい気持ちでいっぱいになる。
 そうすけの家は、十階建てのマンションの八階の角部屋だった。そうすけはポケットから鍵を取り出すと、家のドアを開けた。部屋の明かりをつける。
「散らかってるけど、どうぞ」
「お、おじゃまします」
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