いしものがたり

午後野つばな

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 じわりと目頭が熱くなる。それはヒースが知っていたころよりも若干大人びているものの、間違いなく幼なじみの少年、シュイだった。
「シュイ……っ!」
 叫んでも、ヒースの声は周囲の歓声にかき消されてしまう。
「石さまだ……っ! 石さまっ! ありがたい……っ!」
 中には地べたに膝をつき、手を合わせて拝んでいる人までいた。
「すみません、通してください!」
 そうしている間にも、シュイの乗った駕籠はヒースのいる場所からどんどん遠ざかっていく。
「シュイ……っ! 俺だ、ヒースだ……っ! シュイ……っ!」
 頼む、待ってくれ……っ!
 そのとき、ピィー……、と鷹の鳴き声が聞こえた。その声にはじめて反応したように、それまで一切の感情を見せなかったシュイが何かを探すような素振りを見せた。その瞳が上空を舞う鷹を捉えると、次の瞬間、群衆の中にいるヒースに目を止めた。懐かしい、冬の空を思わせる澄んだ瞳が驚いたようにはっと見開かれる。
 シュイ……っ! シュイが生きていた……っ!
「シュイー……っ!」
 胸が熱くなる。手を伸ばし、少しでもシュイに近づきたいのに、人の数が多くてシュイに近づけない。
「頼むからここを通してくれ! シュイがそこにいるんだ!」
 こんなにすぐ近くにいるのに。手を伸ばせば届きそうなのに。だが、二人の距離は少しも近づくことはなく、むしろ離れていく一方だった。ヒースは泣きそうな思いで、遙か彼方にいるシュイに手を伸ばし続ける
「シュイ―……っ! シュイ……っ!」
「こいつ! 押すなよ!」
 がっと、隣にいた男の手がヒースの顎に当たった。ヒースはよろめき、体勢を立て直す。
 嫌だ、シュイ……っ!
 そのとき、シュイの唇が微かに動いた。シュイが何かを自分に伝えようとしているのだと気がついて、ヒースははっと息を呑んだ。音を発さず、シュイの唇がゆっくりとかたちをつくる。
 何だ、シュイ、何を伝えたい?
 ――おれのことは忘れて。ヒースが知るおれはもういない。
 シュイが伝えようとしたものを理解して、ヒースは後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
 子どものころからシュイはおとなしくて、あまり言葉を話すことはなかったけれど、ヒースは不思議と幼なじみの少年が言いたいことはわかった。そのことに疑問を持ったこともなかった。それがどうして――。
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