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第135話 それがどうした
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対戦相手、ルヴェン・プエルタの確かな実力を前に、聖は自分の実力不足を痛感することになった。1回戦、2回戦と試合した相手も充分に強かったが、プエルタの強さはまるで質が異なっている。まるで「クレーコートでの戦いはこうするのだ」と言わんばかりに、プエルタのプレーはことごとく聖の上をいった。
(これが、アルゼンチンのラファエル・ナダル……!)
赤土の王者と評されたテニス界随一の名選手、ラファエル・ナダル。その名にちなんだあだ名をつけられたルヴェン・プエルタ。スペインとアルゼンチンで国は違えども、同じクレーコートで育った生粋の赤土の専門家。その上、一般的に有利とされる左利きかつ、ナダルを彷彿とさせるヘヴィスピンの使い手。なるほど確かに、彼をしてナダルの名を持ち出したくなるファンの気持ちも、分ろうというものだった。
<本音はともかく、満更でもなさそうだわな>
青いノースリーブから伸びる両腕は太く、特に左腕は右腕よりもひと回りほども大きい。オレンジのバンダナを頭に巻き、白い七分丈のパンツ姿なのは、全盛期であった頃のナダルを意識したファッションなのだろう。ただ、試合前にプエルタと少し会話をしたとき、彼からはどこか覇気のない雰囲気を感じた。アドはそれについて、
<オマエごときに緊張してねェだけだろ>
と、聖からすれば身も蓋もない見解を示した。ナメられている、というわけではないだろうが、試合前の選手にしては妙に迫力を感じることができなかった。アドがいうように、聖を脅威とみなしていないからだったかもしれない。ただ、聖は偶然、試合でボールパーソンを務める少年が、プエルタにエールを伝えている場面を目撃している。本来、試合前の選手にスタッフが不必要に声をかけたりしないのが、暗黙の了解だ。少年の様子を見るに、尊敬の念が溢れて我慢ならなかった、というような微笑ましいものに思えたので、聖としては特に気にならなかった。むしろ妙に思ったのは、少年が立ち去ったあとのプエルタの態度だ。少年を見送ったあと、プエルタは落胆したように、大きく溜息を吐いたのだ。試合前にファンからエールを受ける。気合が入りこそすれ、溜息を吐くようなことだろうかと、聖は不思議だった。いずれにせよ、プエルタの本音については、聖の知るところではない。
第1セットを奪われ、聖はいかにプエルタと自分との間に大きな実力差があるかを思い知った。慣れないレッドクレーというコートは、基本的なフットワークはもちろん、聖がいつも戦術の軸にしているようなショットが仇になるなど、相手の強さとは別の部分がネガティブな要素となる。特にサーブに関しては、よほどのパワーが無い限り、クレー特有の球足の遅さゆえに、球種やコントロールでの誤魔化しが効かない。有利なはずのサービスゲームでプレッシャーがかかると、その分をリターンゲームで巻き返そうと、知らず知らずのうちに余計なリスクを負ってしまう。そこから全ての歯車が崩れ始めるのだ。
(攻撃もダメ、守備もダメ。リスクは負うだけ損。参ったな、こりゃ)
自分の力が通じないことを認めざるを得ない状況ではあるが、聖は不思議と悔しくなかった。それどころか、やはり本物は違うなと、プエルタに尊敬の念さえ覚える。そもそも、能力を使っていない平時の聖とて、その実力は虚空の記憶の副産物のうえに成り立っている。能力を使用すれば、その分だけ普通の人よりも早く成長できるという効果は、過去の名選手を宿す力と比べれば一見地味かもしれない。だが、スポーツにおいて「努力した分だけ確実に成長する」という効果が、いかに現実離れしているかは、言うまでもない。
(もし僕が普通に、当たり前にテニスを続けていたら、どうなっていたんだろう)
戦況を引っ繰り返す術が思い浮かばないせいか、半ば現実逃避気味に聖はそんなことを夢想する。能力も成長率の補助もなく、ただ純粋にテニスを続けていたら、今頃はどのくらいの立ち位置だったのだろうか。間違いなくいえることは、単身でスペインまで訪れ、世界のトップ50位の選手を相手にするほどではなかっただろう。今、聖がプエルタのような選手と戦えているのは、間違いなく能力があればこそ、なのだ。
(そのプエルタですら、今は50位。世界ランキングはそのまま選手の実力を反映しないとはいっても、彼の上にはトップ30、トップ10、さらにその上がいる。一体、どれほど人間離れした怪物が待ち構えているっていうんだ)
自分の力が全く通用しない選手、その選手の力がまるで及ばない存在がいて、さらにその存在さえ心を折られてしまう誰かがおり、その誰かですら勝てない正真正銘の怪物が存在する。テニスの世界に限った話ではない。頂点を目指すということは、そういう道のりを歩むことだ。人の身で、鬼や化け物に挑まなければならない。これまで聖が出会ってきた選手たちも、そういう戦いの世界に身を置いている。なんとも、途方もない話だなと思う。だがそれでも、例え頂点に昇り詰めることができなかったとしても、果敢に上を目指して戦いに挑む、幾百幾千の選手たちがいる。
(僕もそのうちの一人、っていうのは、さすがに烏滸がましいかな)
小さな苦笑いを浮かべ、聖はベンチから立ち上がる。
プエルタに勝つには、能力を使う以外に手はない。
無論、使って勝てる保証はないのだが。
<ピンポンパンポ~ン。お客様に、お報せ致します>
心底おどけた口調で、アドが茶々を入れてくる。聖は思わず渋面を浮かべる。
ただ聖は、なんとなくそんな気もしていた。
<相手は英雄の模倣品だ。こっちも習おうや>
(本物の実力を持ってる選手に、その言い草はどうなんだよ)
<悪い意味じゃねェさ。ヤツの現状を忌憚なく述べてるだけだっての>
(モノは言いよう、だね)
<ゴチャゴチャうるせェ。さっさとやれ>
内心で溜息を吐く。今さら能力を使うことに躊躇いはない。対戦相手の秘められた力を引き出すきっかけになる、とはいうものの、それもまた随分身勝手で押し付けがましいお節介に思える。自分が踏み台になる体で、相手を踏み台にしているような気分は今でも拭えない。ただ何度も考えたことだが、本当に自分がきっかけで相手が今より高く飛べるようになるのなら、目先の勝敗に拘る必要はないのだろう。それに、例え聖が能力を使ったとしても、相手が絶対に負けると決まったわけではないのだ。
(詭弁な気がする。でも、それについてはもう考えない)
そう思いながら、聖は自分に言い聞かせる。願わくば、自分と試合をする選手たちには、能力を宿している自分を乗り越えたうえで、勝利を手にして今より更に高く飛んで欲しい。我が侭な願いだと知りながらも、そう思わずにはいられない。
(マクトゥーブ)
心の中で、聖はそんな祈りを言葉に込めた。
★
(素晴らしい闘争の精神だ)
若き対戦相手の激しい抵抗に、ルヴェンは胸中で舌を巻く。第1セットをルヴェンが獲った以上、この第2セット序盤は若槻にとって極めて重要だ。だからこそ、逆に言えばここで彼の出鼻を挫くことができれば、ルヴェンの勝利はより確かなものとなる。若槻は負けない為に。ルヴェンは勝つ為に。ここが、互いの命運をわかつ分水嶺となり得る場面だといえた。
(恐らく、これが彼のトップギア。最初のセットは抑えていたというより、ここで全てを出し切るつもりか。若いのに大した判断力だ。いいだろう、受けてやる)
ルヴェンの得意とする赤土の王道は、どちらかといえばディフェンシブな戦術だ。弾道の高いスピンボールを多用し、高く深いボールを返し続け、守りで押し切るというもの。やもすればただ返すだけとも取れる戦法だが、ラケットの進化やフィジカルトレーニングの進化、そして左利きである優位性を活かすことで、守備的でありながら攻撃的であるという矛盾を成立させている。相手の甘い返球は当然攻撃するうえに、コートサーフェスの特性上、例え相手がネット前へ詰めてきても難なく対応できる。まさに、クレーにおける王道的なスタイル。それを極め、さらに練り上げ、芝生のコートでもハードコートでも活躍したのが、かのBIG4と呼ばれたラファエル・ナダルだ。自分は彼には遠く及ばないが、それでも、クレーコートでなら充分に力を発揮できる自信が、ルヴェンにはあった。
(クソ、なんてしつこさだ)
ルヴェンは高さと低さ、そして左右にボールを散らし、常に若槻をあちらこちらへと走らせる。基本的にスピン回転をかけて弾道を上げているため、決定打とはなり得ない。しかしこれだけ走らせてもなお、若槻の返球は決して甘くなったりしないのだ。驚異的なフットワークを見せ、苛烈に、果敢に攻撃的なショットを放ち続ける。そうすることで、若槻はルヴェンに攻撃的なショットを打たせない。
守備で攻撃する男と、攻撃で守備する青年。
テニスは自ら攻撃を仕掛けるよりも、じっくり我慢して守備に徹する方がリスクを負わない分ポイントの獲得に繋がりやすい。だが、守っている間に相手が自滅してくれるならまだ良いが、そうでない場合は事情が変わってくる。
(こちらからも仕掛けるか? どうする?)
膠着状態が続く。ポイント毎にかかる時間が長くなるせいで、ボールを打っている回数の割にスコアの進行は遅い。体力的にはもう十数ゲームをこなしたような気がするのに、表示されているスコアは未だ3-3だ。
(仮にここを獲られる前提で、体力を根こそぎ奪ってやるか? いや、それは最終手段にすべきだ。先行している以上、ここで仕留め切るのが鉄則。長引けば疲労が溜まるのはこっちも同じ。彼は今、リスクを負っている。それはこちらが戦法を変えてこないという前提があるからだ。なら、先行しているアドバンテージを利用し、彼にもっとリスクを負わせるために、少し攻めてプレッシャーをかけるべきだ)
長く苦しい時間が続けば続くほど、当然ながら人はそこから逃れようとするものだ。少しでも早く、少しでもラクに、ゲームを、ポイントを獲りたくなる。それが人の性。体力の消耗は思考に影響を与え、本人さえ気づかぬうちに辛い道を避けてしまう。それはルヴェンも同様で、いつもより一手早く、いつもよりリスクの高い攻撃を、無意識のうちに選択してしまっていた。
「Game,Wakatsuki 6-4. 2nd Set」
些細な方針のブレが、第2セットの趨勢を左右した。
(まずい、嫌なカタチでイーブンに戻された)
ルヴェンの胸中に、不安が過る。先行していた分、互角に戻されたときの精神的ダメージは、追われる方が大きい。事ここに至ってようやく、ルヴェンは自分の選択が間違えていたと気付いた。相手選手である若槻の底力は、今のルヴェンのテニスでは分が悪い。何かを変えなければ、このままズルズルいってしまう恐れがあった。
(だが、変えるといっても何を変えれば)
なまじクレーでの勝率が良いだけに、ルヴェンは今の戦い方、赤土の王道以外のプレースタイルを身に着けていない。自分にはそれが性に合っていたと思うし、何よりも周囲がそのスタイルで勝つ事を望んでいた。期待に応えるべく、ルヴェンは今のスタイルを磨き続け、少しでもナダルに近付こうと努力してきた。
「まだまだ、これからだ!」
「ルヴェン! ナダルみたいな不屈の闘志を見せてくれ!」
集中が途切れたせいか、やけに声援が耳に入ってくる。彼らの気持ちをありがたく思うのは、嘘ではない。辛い場面での声援ほど力になるものはないのだ。ただ、彼らの声援には、別のものが含まれている。今のルヴェンには、その余分な部分が気に障って仕方がなかった。
(ナダルのようにやれと言われても、やはり無理だ。オレはナダルじゃない。あんな怪物のようにはなれない。これまで死ぬ気で彼に近づこうと、彼のようになろうとやってきた。だが、自分の限界が見えてきてしまった。オレはナダルにはなれない。あんな天才の中の天才じゃない。たまたまちょっと運が良かっただけの、普通の選手だ。それこそ、フェレーロにも及ばない、普通の)
汗まみれのウェアを脱ぎ、バンダナをとってタオルで身体を拭う。火照った身体に、乾いた風が心地よく吹き付ける。放散する熱が僅かに冷やされると、ネガティブに入りかけた思考が少しずつ修正されていく。手に取った新しいウェアは、先ほどまで身に着けていたものと全く同じデザイン。ナダルと同じ超有名スポーツブランドで、普通なら今のルヴェンでは契約を結べない。それをマネージャーが尽力してどうにか契約にこぎ着け、身にまとうことができている。ルヴェンは気が進まなかったが、チームメンバーの好意を無下にはできない。公式戦では必ずそのブランドのウェアを身に着けるという契約条件は、重さなど存在しないのに、いつもルヴェンの肩にのしかかっていた。
(このままでは勝てない。何かを、何かを変えなければ)
疲れた頭で思考を巡らせるが、良いアイデアは出ない。
強いて言えば、いっそ全てをかなぐり捨てて無心で挑むくらいか。
――私を倒すことができるのは、私だけだ
腕に掘ったタトゥーの文字が目に入る。勝負の最中で弱気になったとき、何よりもまず、自分に負けない為に入れた、ナダルの金言。ルヴェンは思い直す。自分は今、誰と戦っているのか? 何と戦わなければならないのか? 期待を重りのように感じながら、途方もない憧れを目指してやってきた。だが、自分が本当に目指すべきものはなんなのか?
「オレは、ナダルにはなれない」
誰にも聞こえないような小さな声で、ルヴェンはつぶやく。
どうってことのないその言葉を口にしたことで、小さな何かが胸の内で外れた。
「どう足掻いても、オレはナダルにはなれない。だが、それがどうした」
不意に、ルヴェンの胸中で小さな火が灯る。
(確かにオレは、アルゼンチン出身である事を除けば、ナダルと共通点が多い。オレも周りもそれを認識していて、第二のナダルであることを望まれ、彼を目指した。だがそれは、絶対やらなきゃならないことなんかじゃないはずだ)
青いノースリーブのウェアをラケットバックに戻すと、ルヴェンは別のウェア、自前の練習着を手に取って身に着ける。頭のなかに浮かんでくる契約違反の文字。それを無視して、バンダナではなくキャップ逆さに被り、両腕にリストバンドをつける。
(オレはオレだ。ナダルを目指す必要はない)
ルヴェンは自分のチームスタッフがいる方を見やる。当然というべきか、マネージャーはルヴェンを見て困惑の表情を浮かべていた。すまないな、という意味を込めて視線を送る。分かりやすく意志を形にしなければ、気持ちが切り替わらない気がした。反対側のコートで待ち構える日本の若者は、今もなお闘志を漲らせている。
(見せてやる。アルゼンチンのルヴェン・プエルタを)
互いの視線がぶつかり、見えない赤い火花が、飛び散った。
★
迎えた第3セットは、見事なほどのシーソーゲームとなった。両選手ともに自分のサービスゲームをキープし合い、一度のブレイクも起こらず12ゲームを終える。勝負は遂に、タイブレークへと突入した。互いに疲労困憊、既に満身創痍といった様子で、苦しそうな二人の表情が第3セットの激しさを物語っていた。
その試合の様子を、金俣剛毅は空調の効いたホテルで観戦していた。
(やはり妙だ。若槻聖、コイツには何かある)
金俣の次の対戦相手は、若槻とプエルタいずれかの勝者だ。当初、金俣はプエルタが勝つだろうと予想していた。序盤は読み通りの展開だったが、第2セットに入って少ししてから、若槻のプレーが突然良くなったと感じた。もしこれが初見なら、そういうこともあるだろうと、警戒こそすれど違和感を覚えたりはしなかったかもしれない。だがこれまでに、金俣は何度か若槻の試合や練習での様子をその目でみている。
(マイアミのときもそうだった。コイツは時どき、急激にプレーが良くなる。そういえば去年、コイツはATCへ加入したとき、選抜試験で徹磨に条件付きとはいえ勝っていたな。公式戦の出場記録もないやつが、突然現れてたった一年でプロになり、もうATP250で戦っている。沙粧の話では、若槻はアーキアの被験者ではないはずだが)
ジェノ・アーキア。ATCの沙粧とGAKSOが共同で開発している、人間の遺伝子をリデザインする生体型ナノマシンの呼称だ。金俣は比較的早い段階から、アーキアの開発に携わっている。もっとも、テニス選手である金俣は、あくまで被験体の一人であり、使用感や副作用に関するフィードバックを提供する立場に過ぎない。金俣にとって幸運だったのは、アーキアとの適合率が高かったこと。現在開発中の最新モデルとは異なり、プロトタイプを身体に宿している。プロトタイプを使用したデータ収集は既に終了しており、彼はその役目を果たした見返りに、完全版となった最新モデルを提供される予定だ。その間、少しでも完全版の精度を高めるため、自身もプロ選手活動を続けながら、目ぼしい被験体を選別したり、万が一完成が遅れた場合に備えて諸々の準備を水面下で進めていた。
(コイツもアーキアを使っている? 仮にそうだとしても、効果が中途半端だ。それに、沙粧がオレに嘘を吐いているとは考えにくい。もし若槻がアーキアを使っていたら、オレに勘付かれる可能性があるし、隠しておく理由が見当たらん。可能性があるとすれば)
画面では激しいラリー戦が展開される。ヘヴィスピンを多用して守りながら攻めるスタイルだったプエルタが、これまでとは違う攻撃重視のプレーで若槻を追い詰める。見ようによっては、若槻がしていたプレーをルヴェン自身も取り入れ、続いていた均衡状態を、或いは、自分の殻を破ろうとしているように見えた。
(新星のジジイか。ヤツが勝手に何かを企んでる可能性は大いにある。だが、今さら沙粧やATCに隠れて何をしようっていうんだ? 利用価値は高いが、どうにも腹の底を見せようとしやがらないのがしゃらくさい。探ろうにも思いのほかガードが固いしな……)
若槻とプエルタの試合は、既に三時間半が経過しようとしている。陽が傾き始め、赤橙色のクレーコートが茜色の陽射しに照らされ、よりその赤さを増していく。燃え盛るような赤土のうえで、二人の男が死力を尽くしぶつかり合う。その様子をどうでもよさげに、しかし油断なく横目で観察しながら、金俣は携帯端末を手に電話をかける。目的の相手は、すぐに応答した。
「おやおや、こりゃ珍しいお客様だ。何かお困りかな~?」
軽薄そうな物言いで、相手がおどけてみせる
「オイ幾島。オマエ、若槻のエージェント担当だよな」
「そうとも、意外なほどに将来有望な、金の卵だ」
「情報を寄越せ」
「古いなじみとはいえ、ビジネスだからなぁ。そこは金額次第だ」
「偉そうに。内容次第では多少色つけてやる」
「それが聞きたかった。で、何が知りたいんだ?」
幾島が言い終わると同時に、試合に決着がつく。
最後のポイントを獲った若槻がコートに倒れこみ、片腕を空に向け突き上げる。
「まずは、家族構成からだな」
テレビを消しながら、金俣はほくそ笑んだ。
続く
(これが、アルゼンチンのラファエル・ナダル……!)
赤土の王者と評されたテニス界随一の名選手、ラファエル・ナダル。その名にちなんだあだ名をつけられたルヴェン・プエルタ。スペインとアルゼンチンで国は違えども、同じクレーコートで育った生粋の赤土の専門家。その上、一般的に有利とされる左利きかつ、ナダルを彷彿とさせるヘヴィスピンの使い手。なるほど確かに、彼をしてナダルの名を持ち出したくなるファンの気持ちも、分ろうというものだった。
<本音はともかく、満更でもなさそうだわな>
青いノースリーブから伸びる両腕は太く、特に左腕は右腕よりもひと回りほども大きい。オレンジのバンダナを頭に巻き、白い七分丈のパンツ姿なのは、全盛期であった頃のナダルを意識したファッションなのだろう。ただ、試合前にプエルタと少し会話をしたとき、彼からはどこか覇気のない雰囲気を感じた。アドはそれについて、
<オマエごときに緊張してねェだけだろ>
と、聖からすれば身も蓋もない見解を示した。ナメられている、というわけではないだろうが、試合前の選手にしては妙に迫力を感じることができなかった。アドがいうように、聖を脅威とみなしていないからだったかもしれない。ただ、聖は偶然、試合でボールパーソンを務める少年が、プエルタにエールを伝えている場面を目撃している。本来、試合前の選手にスタッフが不必要に声をかけたりしないのが、暗黙の了解だ。少年の様子を見るに、尊敬の念が溢れて我慢ならなかった、というような微笑ましいものに思えたので、聖としては特に気にならなかった。むしろ妙に思ったのは、少年が立ち去ったあとのプエルタの態度だ。少年を見送ったあと、プエルタは落胆したように、大きく溜息を吐いたのだ。試合前にファンからエールを受ける。気合が入りこそすれ、溜息を吐くようなことだろうかと、聖は不思議だった。いずれにせよ、プエルタの本音については、聖の知るところではない。
第1セットを奪われ、聖はいかにプエルタと自分との間に大きな実力差があるかを思い知った。慣れないレッドクレーというコートは、基本的なフットワークはもちろん、聖がいつも戦術の軸にしているようなショットが仇になるなど、相手の強さとは別の部分がネガティブな要素となる。特にサーブに関しては、よほどのパワーが無い限り、クレー特有の球足の遅さゆえに、球種やコントロールでの誤魔化しが効かない。有利なはずのサービスゲームでプレッシャーがかかると、その分をリターンゲームで巻き返そうと、知らず知らずのうちに余計なリスクを負ってしまう。そこから全ての歯車が崩れ始めるのだ。
(攻撃もダメ、守備もダメ。リスクは負うだけ損。参ったな、こりゃ)
自分の力が通じないことを認めざるを得ない状況ではあるが、聖は不思議と悔しくなかった。それどころか、やはり本物は違うなと、プエルタに尊敬の念さえ覚える。そもそも、能力を使っていない平時の聖とて、その実力は虚空の記憶の副産物のうえに成り立っている。能力を使用すれば、その分だけ普通の人よりも早く成長できるという効果は、過去の名選手を宿す力と比べれば一見地味かもしれない。だが、スポーツにおいて「努力した分だけ確実に成長する」という効果が、いかに現実離れしているかは、言うまでもない。
(もし僕が普通に、当たり前にテニスを続けていたら、どうなっていたんだろう)
戦況を引っ繰り返す術が思い浮かばないせいか、半ば現実逃避気味に聖はそんなことを夢想する。能力も成長率の補助もなく、ただ純粋にテニスを続けていたら、今頃はどのくらいの立ち位置だったのだろうか。間違いなくいえることは、単身でスペインまで訪れ、世界のトップ50位の選手を相手にするほどではなかっただろう。今、聖がプエルタのような選手と戦えているのは、間違いなく能力があればこそ、なのだ。
(そのプエルタですら、今は50位。世界ランキングはそのまま選手の実力を反映しないとはいっても、彼の上にはトップ30、トップ10、さらにその上がいる。一体、どれほど人間離れした怪物が待ち構えているっていうんだ)
自分の力が全く通用しない選手、その選手の力がまるで及ばない存在がいて、さらにその存在さえ心を折られてしまう誰かがおり、その誰かですら勝てない正真正銘の怪物が存在する。テニスの世界に限った話ではない。頂点を目指すということは、そういう道のりを歩むことだ。人の身で、鬼や化け物に挑まなければならない。これまで聖が出会ってきた選手たちも、そういう戦いの世界に身を置いている。なんとも、途方もない話だなと思う。だがそれでも、例え頂点に昇り詰めることができなかったとしても、果敢に上を目指して戦いに挑む、幾百幾千の選手たちがいる。
(僕もそのうちの一人、っていうのは、さすがに烏滸がましいかな)
小さな苦笑いを浮かべ、聖はベンチから立ち上がる。
プエルタに勝つには、能力を使う以外に手はない。
無論、使って勝てる保証はないのだが。
<ピンポンパンポ~ン。お客様に、お報せ致します>
心底おどけた口調で、アドが茶々を入れてくる。聖は思わず渋面を浮かべる。
ただ聖は、なんとなくそんな気もしていた。
<相手は英雄の模倣品だ。こっちも習おうや>
(本物の実力を持ってる選手に、その言い草はどうなんだよ)
<悪い意味じゃねェさ。ヤツの現状を忌憚なく述べてるだけだっての>
(モノは言いよう、だね)
<ゴチャゴチャうるせェ。さっさとやれ>
内心で溜息を吐く。今さら能力を使うことに躊躇いはない。対戦相手の秘められた力を引き出すきっかけになる、とはいうものの、それもまた随分身勝手で押し付けがましいお節介に思える。自分が踏み台になる体で、相手を踏み台にしているような気分は今でも拭えない。ただ何度も考えたことだが、本当に自分がきっかけで相手が今より高く飛べるようになるのなら、目先の勝敗に拘る必要はないのだろう。それに、例え聖が能力を使ったとしても、相手が絶対に負けると決まったわけではないのだ。
(詭弁な気がする。でも、それについてはもう考えない)
そう思いながら、聖は自分に言い聞かせる。願わくば、自分と試合をする選手たちには、能力を宿している自分を乗り越えたうえで、勝利を手にして今より更に高く飛んで欲しい。我が侭な願いだと知りながらも、そう思わずにはいられない。
(マクトゥーブ)
心の中で、聖はそんな祈りを言葉に込めた。
★
(素晴らしい闘争の精神だ)
若き対戦相手の激しい抵抗に、ルヴェンは胸中で舌を巻く。第1セットをルヴェンが獲った以上、この第2セット序盤は若槻にとって極めて重要だ。だからこそ、逆に言えばここで彼の出鼻を挫くことができれば、ルヴェンの勝利はより確かなものとなる。若槻は負けない為に。ルヴェンは勝つ為に。ここが、互いの命運をわかつ分水嶺となり得る場面だといえた。
(恐らく、これが彼のトップギア。最初のセットは抑えていたというより、ここで全てを出し切るつもりか。若いのに大した判断力だ。いいだろう、受けてやる)
ルヴェンの得意とする赤土の王道は、どちらかといえばディフェンシブな戦術だ。弾道の高いスピンボールを多用し、高く深いボールを返し続け、守りで押し切るというもの。やもすればただ返すだけとも取れる戦法だが、ラケットの進化やフィジカルトレーニングの進化、そして左利きである優位性を活かすことで、守備的でありながら攻撃的であるという矛盾を成立させている。相手の甘い返球は当然攻撃するうえに、コートサーフェスの特性上、例え相手がネット前へ詰めてきても難なく対応できる。まさに、クレーにおける王道的なスタイル。それを極め、さらに練り上げ、芝生のコートでもハードコートでも活躍したのが、かのBIG4と呼ばれたラファエル・ナダルだ。自分は彼には遠く及ばないが、それでも、クレーコートでなら充分に力を発揮できる自信が、ルヴェンにはあった。
(クソ、なんてしつこさだ)
ルヴェンは高さと低さ、そして左右にボールを散らし、常に若槻をあちらこちらへと走らせる。基本的にスピン回転をかけて弾道を上げているため、決定打とはなり得ない。しかしこれだけ走らせてもなお、若槻の返球は決して甘くなったりしないのだ。驚異的なフットワークを見せ、苛烈に、果敢に攻撃的なショットを放ち続ける。そうすることで、若槻はルヴェンに攻撃的なショットを打たせない。
守備で攻撃する男と、攻撃で守備する青年。
テニスは自ら攻撃を仕掛けるよりも、じっくり我慢して守備に徹する方がリスクを負わない分ポイントの獲得に繋がりやすい。だが、守っている間に相手が自滅してくれるならまだ良いが、そうでない場合は事情が変わってくる。
(こちらからも仕掛けるか? どうする?)
膠着状態が続く。ポイント毎にかかる時間が長くなるせいで、ボールを打っている回数の割にスコアの進行は遅い。体力的にはもう十数ゲームをこなしたような気がするのに、表示されているスコアは未だ3-3だ。
(仮にここを獲られる前提で、体力を根こそぎ奪ってやるか? いや、それは最終手段にすべきだ。先行している以上、ここで仕留め切るのが鉄則。長引けば疲労が溜まるのはこっちも同じ。彼は今、リスクを負っている。それはこちらが戦法を変えてこないという前提があるからだ。なら、先行しているアドバンテージを利用し、彼にもっとリスクを負わせるために、少し攻めてプレッシャーをかけるべきだ)
長く苦しい時間が続けば続くほど、当然ながら人はそこから逃れようとするものだ。少しでも早く、少しでもラクに、ゲームを、ポイントを獲りたくなる。それが人の性。体力の消耗は思考に影響を与え、本人さえ気づかぬうちに辛い道を避けてしまう。それはルヴェンも同様で、いつもより一手早く、いつもよりリスクの高い攻撃を、無意識のうちに選択してしまっていた。
「Game,Wakatsuki 6-4. 2nd Set」
些細な方針のブレが、第2セットの趨勢を左右した。
(まずい、嫌なカタチでイーブンに戻された)
ルヴェンの胸中に、不安が過る。先行していた分、互角に戻されたときの精神的ダメージは、追われる方が大きい。事ここに至ってようやく、ルヴェンは自分の選択が間違えていたと気付いた。相手選手である若槻の底力は、今のルヴェンのテニスでは分が悪い。何かを変えなければ、このままズルズルいってしまう恐れがあった。
(だが、変えるといっても何を変えれば)
なまじクレーでの勝率が良いだけに、ルヴェンは今の戦い方、赤土の王道以外のプレースタイルを身に着けていない。自分にはそれが性に合っていたと思うし、何よりも周囲がそのスタイルで勝つ事を望んでいた。期待に応えるべく、ルヴェンは今のスタイルを磨き続け、少しでもナダルに近付こうと努力してきた。
「まだまだ、これからだ!」
「ルヴェン! ナダルみたいな不屈の闘志を見せてくれ!」
集中が途切れたせいか、やけに声援が耳に入ってくる。彼らの気持ちをありがたく思うのは、嘘ではない。辛い場面での声援ほど力になるものはないのだ。ただ、彼らの声援には、別のものが含まれている。今のルヴェンには、その余分な部分が気に障って仕方がなかった。
(ナダルのようにやれと言われても、やはり無理だ。オレはナダルじゃない。あんな怪物のようにはなれない。これまで死ぬ気で彼に近づこうと、彼のようになろうとやってきた。だが、自分の限界が見えてきてしまった。オレはナダルにはなれない。あんな天才の中の天才じゃない。たまたまちょっと運が良かっただけの、普通の選手だ。それこそ、フェレーロにも及ばない、普通の)
汗まみれのウェアを脱ぎ、バンダナをとってタオルで身体を拭う。火照った身体に、乾いた風が心地よく吹き付ける。放散する熱が僅かに冷やされると、ネガティブに入りかけた思考が少しずつ修正されていく。手に取った新しいウェアは、先ほどまで身に着けていたものと全く同じデザイン。ナダルと同じ超有名スポーツブランドで、普通なら今のルヴェンでは契約を結べない。それをマネージャーが尽力してどうにか契約にこぎ着け、身にまとうことができている。ルヴェンは気が進まなかったが、チームメンバーの好意を無下にはできない。公式戦では必ずそのブランドのウェアを身に着けるという契約条件は、重さなど存在しないのに、いつもルヴェンの肩にのしかかっていた。
(このままでは勝てない。何かを、何かを変えなければ)
疲れた頭で思考を巡らせるが、良いアイデアは出ない。
強いて言えば、いっそ全てをかなぐり捨てて無心で挑むくらいか。
――私を倒すことができるのは、私だけだ
腕に掘ったタトゥーの文字が目に入る。勝負の最中で弱気になったとき、何よりもまず、自分に負けない為に入れた、ナダルの金言。ルヴェンは思い直す。自分は今、誰と戦っているのか? 何と戦わなければならないのか? 期待を重りのように感じながら、途方もない憧れを目指してやってきた。だが、自分が本当に目指すべきものはなんなのか?
「オレは、ナダルにはなれない」
誰にも聞こえないような小さな声で、ルヴェンはつぶやく。
どうってことのないその言葉を口にしたことで、小さな何かが胸の内で外れた。
「どう足掻いても、オレはナダルにはなれない。だが、それがどうした」
不意に、ルヴェンの胸中で小さな火が灯る。
(確かにオレは、アルゼンチン出身である事を除けば、ナダルと共通点が多い。オレも周りもそれを認識していて、第二のナダルであることを望まれ、彼を目指した。だがそれは、絶対やらなきゃならないことなんかじゃないはずだ)
青いノースリーブのウェアをラケットバックに戻すと、ルヴェンは別のウェア、自前の練習着を手に取って身に着ける。頭のなかに浮かんでくる契約違反の文字。それを無視して、バンダナではなくキャップ逆さに被り、両腕にリストバンドをつける。
(オレはオレだ。ナダルを目指す必要はない)
ルヴェンは自分のチームスタッフがいる方を見やる。当然というべきか、マネージャーはルヴェンを見て困惑の表情を浮かべていた。すまないな、という意味を込めて視線を送る。分かりやすく意志を形にしなければ、気持ちが切り替わらない気がした。反対側のコートで待ち構える日本の若者は、今もなお闘志を漲らせている。
(見せてやる。アルゼンチンのルヴェン・プエルタを)
互いの視線がぶつかり、見えない赤い火花が、飛び散った。
★
迎えた第3セットは、見事なほどのシーソーゲームとなった。両選手ともに自分のサービスゲームをキープし合い、一度のブレイクも起こらず12ゲームを終える。勝負は遂に、タイブレークへと突入した。互いに疲労困憊、既に満身創痍といった様子で、苦しそうな二人の表情が第3セットの激しさを物語っていた。
その試合の様子を、金俣剛毅は空調の効いたホテルで観戦していた。
(やはり妙だ。若槻聖、コイツには何かある)
金俣の次の対戦相手は、若槻とプエルタいずれかの勝者だ。当初、金俣はプエルタが勝つだろうと予想していた。序盤は読み通りの展開だったが、第2セットに入って少ししてから、若槻のプレーが突然良くなったと感じた。もしこれが初見なら、そういうこともあるだろうと、警戒こそすれど違和感を覚えたりはしなかったかもしれない。だがこれまでに、金俣は何度か若槻の試合や練習での様子をその目でみている。
(マイアミのときもそうだった。コイツは時どき、急激にプレーが良くなる。そういえば去年、コイツはATCへ加入したとき、選抜試験で徹磨に条件付きとはいえ勝っていたな。公式戦の出場記録もないやつが、突然現れてたった一年でプロになり、もうATP250で戦っている。沙粧の話では、若槻はアーキアの被験者ではないはずだが)
ジェノ・アーキア。ATCの沙粧とGAKSOが共同で開発している、人間の遺伝子をリデザインする生体型ナノマシンの呼称だ。金俣は比較的早い段階から、アーキアの開発に携わっている。もっとも、テニス選手である金俣は、あくまで被験体の一人であり、使用感や副作用に関するフィードバックを提供する立場に過ぎない。金俣にとって幸運だったのは、アーキアとの適合率が高かったこと。現在開発中の最新モデルとは異なり、プロトタイプを身体に宿している。プロトタイプを使用したデータ収集は既に終了しており、彼はその役目を果たした見返りに、完全版となった最新モデルを提供される予定だ。その間、少しでも完全版の精度を高めるため、自身もプロ選手活動を続けながら、目ぼしい被験体を選別したり、万が一完成が遅れた場合に備えて諸々の準備を水面下で進めていた。
(コイツもアーキアを使っている? 仮にそうだとしても、効果が中途半端だ。それに、沙粧がオレに嘘を吐いているとは考えにくい。もし若槻がアーキアを使っていたら、オレに勘付かれる可能性があるし、隠しておく理由が見当たらん。可能性があるとすれば)
画面では激しいラリー戦が展開される。ヘヴィスピンを多用して守りながら攻めるスタイルだったプエルタが、これまでとは違う攻撃重視のプレーで若槻を追い詰める。見ようによっては、若槻がしていたプレーをルヴェン自身も取り入れ、続いていた均衡状態を、或いは、自分の殻を破ろうとしているように見えた。
(新星のジジイか。ヤツが勝手に何かを企んでる可能性は大いにある。だが、今さら沙粧やATCに隠れて何をしようっていうんだ? 利用価値は高いが、どうにも腹の底を見せようとしやがらないのがしゃらくさい。探ろうにも思いのほかガードが固いしな……)
若槻とプエルタの試合は、既に三時間半が経過しようとしている。陽が傾き始め、赤橙色のクレーコートが茜色の陽射しに照らされ、よりその赤さを増していく。燃え盛るような赤土のうえで、二人の男が死力を尽くしぶつかり合う。その様子をどうでもよさげに、しかし油断なく横目で観察しながら、金俣は携帯端末を手に電話をかける。目的の相手は、すぐに応答した。
「おやおや、こりゃ珍しいお客様だ。何かお困りかな~?」
軽薄そうな物言いで、相手がおどけてみせる
「オイ幾島。オマエ、若槻のエージェント担当だよな」
「そうとも、意外なほどに将来有望な、金の卵だ」
「情報を寄越せ」
「古いなじみとはいえ、ビジネスだからなぁ。そこは金額次第だ」
「偉そうに。内容次第では多少色つけてやる」
「それが聞きたかった。で、何が知りたいんだ?」
幾島が言い終わると同時に、試合に決着がつく。
最後のポイントを獲った若槻がコートに倒れこみ、片腕を空に向け突き上げる。
「まずは、家族構成からだな」
テレビを消しながら、金俣はほくそ笑んだ。
続く
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