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第95話 ワンサイドゲーム
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数週間に渡って開催されている国際ジュニア団体戦は、いよいよ最終日を迎えた。ホテルでの生活は文字通り何不自由なく、それどころか日本では到底味わえない贅沢な日常といえた。メンバーの何人かは「ずっとここに住みたい」と言っていて、聖も少しその気持ちが分かる。ただその一方で、ずっとお客様扱いされているような余所余所しさを感じ、聖としてはそろそろ実家が恋しくなってきたというのが本音だった。
各自で朝食をとってコートへ向かい、ウォーミングアップを済ませる。10月を迎えたマイアミは、日本とは異なる秋の色を深め、早朝の空気は海風の湿り気を帯びた独特の匂いがした。いつもなら眠そうな顔を浮かべてアップをする出場メンバーも、今日はどこか気迫と集中に満ち溢れ、それぞれが昂る気持ちを本番へ向けて蓄えているのが伝わってくる。ピリピリとした、しかし程よい緊張感を味わいながら、日本のメンバーは静かに士気を高めていった。
国際ジュニア団体戦 決勝戦 日本 VS アメリカ
コートサイドに設置されているデジタル時計に、聖は視線を向ける。ディスプレイには経過時間が表示されており、その数字は96分を示していた。試合開始から約1時間半。コート上ではすでに第二試合の女子ダブルスが行われ、終盤を迎えていた。
(開始から、たった90分……)
アメリカの選手が、サーブを打つ前のルーティンでボールをつく。静まり返った会場には、その音だけがこだましている。今や会場を包んでいるのは、期待と興奮による熱気などではない。激しい戦いを勝ち抜いた国同士で行われる決勝戦。熱戦を予想していた観客の期待は、試合開始後ほどなくして凍り付いた。そしてそれは、日本の選手たちも同じだった。
鋭い打球音で放たれたサーブは、カミソリさながらの切れ味を見せる。その一打はリターンしようとしていた雪菜の予測を裏切り、同時に勝利へと繋がる唯一の道をバッサリと断ち切った。
「Game set and match U.S 6-0、6-0」
淡々と事実を読み上げる主審のアナウンス。それがどこか無慈悲に響くと感じるのは、全く同じ内容のものが数十分前にも流れたからだろう。第一試合、第二試合ともに、あっという間の決着。男子ダブルスと女子ダブルスで、日本は1ゲームすら取れず敗退することとなった。
ベンチに戻ってきた桐澤姉妹は、二人とも肩で息をして疲労困憊の様子だ。ゲームはおろか、ポイントの獲得すら覚束なかったにも関わらず、彼女らの体力は既に限界に近いように聖の目には映る。いや、肉体的な疲労というよりも、精神的なダメージが大きいのだろう。桐澤姉妹は二人揃って、憔悴しきった表情を浮かべていた。
(同じだ、男ダブの二人と)
聖は第一試合、男子ダブルスに出たマサキとデカリョウへ視線を向ける。少し落ち着いた様子ではあるが、同じように敗北した桐澤姉妹を前に、普段ふざけてばかりのマサキとデカリョウが渋面のまま沈黙している。最初に試合に挑んだ男子ダブルスも、今の桐澤姉妹と同じように試合を終えた。手も足も出ず、やる事全てが裏目に出てしまう一方的な試合。決勝進出を果たした国同士の試合で、ここまで大差がつくとは思いもよらず、まさに悪夢と思える展開が目の前で繰り広げられた。戻ってきた二人に、全員がなんと声をかけたらよいか分からず、ベンチ内は重い沈黙に沈んでいた。
「あ、あの、二人ともお疲」
「疲れてねぇよっ」
雪乃の剣幕に驚き、姫子は差し出そうとしたタオルを落とす。思ったより声が大きくなったことに自分で驚いた雪乃は、バツが悪そうな表情を浮かべて姫子から目を逸らす。重い空気が、ますます重くなった。
「日本チーム、次の試合に入って下さい」
チームベンチに向かって大会スタッフが無遠慮に声をかけてくる。そのタイミングに乗じて、ミヤビがタオルを拾ってぽんぽんと埃をはたき、桐澤姉妹に渡す。少しつり上がった視線には、叱責するような鋭さがあった。
「行こう、蓮司。相手は強いよ」
「望むところだね」
ミヤビに促され、蓮司が後に続く。悪くなった空気など意に介さず、むしろ戦意を漲らせている蓮司の横顔。聖はそこに少し、頼もしさを感じた。何か声をかけようと思ったが、適切な言葉が浮かばず、そのまま黙って蓮司とミヤビを見送る。
「ミヤビさん」
汗を拭いたタオルを姫子に返しながら、雪乃が呼び止めた。
「あと、お願いします」
それを聞いたミヤビが、普段あまり見せない好戦的な笑みを浮かべる。
「私を誰だと思ってんの」
そう言い残し、蓮司と二人でコートへ向かった。
★
指についたソースを舐めながら、イタリアの選手ギルは不満を漏らした。試合のときと同様、上下黒のスポーツウェアにオレンジ色のバンダナを頭に巻いている。少女というよりも、ストリートギャングと付き合いのあるガラの悪い不良少女といった出で立ちだ。
「っだよ、アッサリ負けやがってよお! もうちょいどうにかなったろうが」
アメリカンサイズのハンバーガーに大口でかぶりつき、音を立てて咀嚼する。モゴモゴさせつつ何やら文句らしきことをつぶやいているが、何を言っているかは分からない。口の中のものを、安いバドワイザーで流し込み、ギルは派手なげっぷを鳴らした。
「どうにかするのはテメェだ。もっと人間としての品性を身につけろ」
紙ナプキンを差し出すとともに、ペアのムーディが軽蔑の眼差しを向ける。試合のときとは異なり、化粧をして上品そうな濃紺のサマースーツを着た彼女は、テニス選手というよりも、お忍びで観戦に来たハリウッド女優のような優雅さがあった。
「こうして傍から見てっとよお、あの双子はいざってとき左右切り替えに頼り過ぎなんだよなあ。ったく、それに試合中気付いてりゃあ、逆転するチャンスはあっただろうぜ。ムーディ、おめぇ気付かなかったのかよ」
受け取った紙ナプキンで口をぬぐい、くしゃくしゃに丸めるギル。その辺に投げ捨てようとするのを、憮然とした表情のムーディが奪って紙袋に仕舞う。
「オマエに言われなくても、その特徴については気付いていたさ。しかし弱点が分かることと、弱点を突けることは別の話だ。アメリカの二人、やつらは相手の呼吸を乱すのが上手い。攻撃も守備も超ハイレベルなのは勿論だが、その使い所を心得ている。あの双子がスイッチを使いたくなるタイミングをわざと引き出し、先の先を読んで罠に嵌める戦い方をしているんだ。それができなければ、あの双子相手にダブルベーグルなんて不可能だ。私らのときも感じたが、アメリカのペアはまるで、相手の手の内どころか、心の内まで見透かせるんじゃないかと思ったよ」
実際に対戦し、今の双子と同じようにやられてしまったことをムーディは思い出す。何かを試そうとするよりも先に、その出鼻を挫かれる。苦肉の策で応対すると、それは相手が待ち構えていた手段でどうしようもなくなる。まるで、ジャンケンで常に相手より先に手を出させられている感覚。相手が強いことは認めるものの、どうにも理不尽な気分が付きまとい、ムーディは気持ちを立て直すことができなかった。
「超能力者じゃあるめぇしよ、んなことあってたまるかっての」
対戦時はあまりの実力差に戦意を失いかけたムーディだったが、ギルが半ばヤケクソ気味に無謀な攻撃を仕掛け、どうにか1ゲームをもぎ取ることに成功した。しかしそれも、すぐに対応されて通じなくなったところで、ゲームセットとなってしまった。
「アメリカの連中は、相手の心を折ることに長けている」
金髪をオールバックにし、黒いスーツを着込んだロシューが眉間に皺を寄せてつぶやいた。その左目には未だ眼帯がつけられている。医者の見立てでは視力は戻るとのことだったが、回復に時間を要し、両目だと逆に遠近感が取れなかった。そのため彼はこの大会期間中、ずっと片目のまま、チームの勝利に貢献し続けた。
「すまねぇ、ロシュー兄ぃ。オレがビビっちまったせいで……」
試合を思い出したのか、恐縮してウジウジするリーチ。彼が得意とする様々な球種のサーブは、アメリカの選手相手に全く通じなかった。自信の拠り所を打ち砕かれた彼が徹底的に狙われ続け、男ダブの二人は大差で敗北を喫した。
「オイ、リーチ。何度も言わせるな」
ひと際ドスの効いた声色で凄むロシュー。
その手が伸び、リーチの髪をガッシリと掴む。
「人間ってのは弱い生きモンだ。どんなに強がって見せても、窮地に立たされりゃあ必ずビビっちまう。当たり前だ。それは生存本能だからな。危機に瀕したとき、生き延びようとする本能が脅威から逃げるよう命令するんだ。それがビビりだ。だからビビるな、なんていうのは無理なんだ。だが大事なのは、逃げる以外の選択肢を考え続けることだ。ビビり散らかして、心が折れて、それでも逃げる以外の手を考え続けろ。ビビったから負けたんじゃあねぇ。ビビって考えるのをやめたから負けたんだ」
リーチが今の言葉を二度と忘れないよう、耳から脳へ直接刻み付けるようにささやくロシュー。リーチは怯えた表情を浮かべながらも、言われた言葉をひと言も漏らすまいと歯を食いしばり、そして最後に力強く頷いた。
「ミックスはどうなると思う?」
ムーディが後ろの座席に座るピストーラとウナーゾに水を向ける。イタリアチームで唯一、アメリカから白星をあげたのはミックスの二人だ。とはいえ、直接的な勝因は相手ペアの途中棄権で、試合内容は実質的に負けていたも同然だった。
「って、言われてもなぁ?」
ピストーラは片手をウナーゾの背に回そうとするが、彼女が素早くそれを叩く。
「あたしらの時も、あんたらと変わらない。そもそものレベルが高いこと、そのうえで相手に何もさせないようなプレーをしてきた。風向きが変わったように感じたのは、二人で負けを覚悟したとき、かな」
試合の時のことを思い出しながら、ウナーゾが語る。
「ちょっと勝ち筋が見えない、何をしても裏目に出る。頑張れば頑張るほど首が絞まるみたいな、うんざりした気分になったとき、この馬鹿が言ったんだ。『別に負けたって良いじゃねぇか。強いのとやれてんだ、楽しもうぜ』って。チームの勝敗がかかってるのに、だよ? 少しは真面目にやれよって思ったけど、そう言われて初めて、気負い過ぎてる自分に気付いた。で、力が抜けたお陰か、流れが変わった」
チームの為に、絶対負けるわけにはいかない。そう強く思う一方で、敗色濃厚な状況がウナーゾの心に焦燥感を産んだ。しかしそれを、ピストーラの気軽なひと言が掃った。そこから、ラッキーショットにも恵まれて流れが変わり、反撃の糸口を掴みかけたところで相手が棄権を申し出た。なんでも、気分が悪くなったということらしい。公式上はアメリカ側の男性選手が軽い熱中症によってリタイヤ、ということになっている。
「言っておくがよお、負けても良いってのは言葉のアヤだぜ? オレァ負ける気はサラサラ無かったんだ。でもなんていうかよお、テニスってスポーツだろ? やるからには楽しくないとなあ。勝つつもりで真剣にやるから楽しい、が、負けちゃダメってわけでもねえ。オレらは確かに、なるべく勝って実績をあげなきゃなんねえが、その為に楽しむ気持ちってやつをおざなりにするのは違うと思うんだよな。ま、あの勝ちは勝利の女神がオレの魅力にサービスしてくれたんだろうぜ」
得意げに笑うピストーラ。呆れた顔を浮かべたウナーゾが「サービスじゃなくて哀れみだろ」と辛辣なコメントを投げると、それに周りが同意する。そんな様子を、ジオはすぐ隣で聞き流しながら、どこか距離をとるようにして沈思黙考していた。
(楽しむ気持ち、か)
楽天家のピストーラらしい言葉だと思うジオ。もし、自分たちがもっと健全な環境と志でテニスの世界を歩んでいたとしたら、その考えには大いに同意しただろう。選手個人のそういう心の余裕が、健全な競争原理を下支えするのだ。だが、現実はそうもいかない。
(スポーツの世界は残酷だ。余裕を持ちながらも上へ行ける者もいれば、自分のありとあらゆる全てを投げ抛たなければならない者もいる。それこそ、その楽しむ気持ちさえ犠牲にして勝利を目指す。勝利は善で、敗北は悪。短絡的にそう考えている者は少ないだろうが、現実としてそう考えざるを得ない現実は否定できない)
ジオは会場全体へ視線を巡らせる。ジュニアの試合だというのに、観客席はほぼ満員。トッププロさながらの設備や充実した数のスタッフ、大手企業の広告に大会演出、セキュリティ、法整備が整った賭け事の仕組み。肥大したスポーツバブルが太陽の如く輝くことで、人や金やモノが集まり形を成す。健全な競争原理のもと競い合い、人々に感動を与え心を豊かにするスポーツビジネスが成り立っている。
(その強い光が産み出した、濃く暗い影)
日本人選手誘拐の件は、他のメンバーには伏せてある。参加したロシアのチームは、恐らく無関係であるとリッゾ達から報告を受けた。関係者はほぼ全員が海外から集めたスタッフらしく、黒い噂のありそうな者は見当たらなかったという。ロシアンマフィアが日本から何を受け取ったかまでは不明だが、一旦は決着したと考えて良いだろうとジオは考えている。
(残るはアメリカだ。リアル・ブルームの幹部メグ・アーヴィング。彼女は油断ならない。大会ディレクターでありながら、マフィア絡みの誘拐事件を公表せず、秘密裡に処理することを選んだ。色々と思惑はあるだろうが、ロシアンマフィアとは別の意味で警戒しなければ)
ふと、隣のティッキーがジオにチラリと視線を寄越す。だが何も言わず、すぐにコートへと向き直った。視線の意味は分からなかったが、なんとなく自分と同じようなことを考えていたのだろうとジオは感じた。
コート上では、ミックスの試合が始まろうとしている。日本側はジオと対戦した少年と、誘拐に巻き込まれた少女のペアだ。聞いた話ではあるが、少女の方はロシアンマフィアに盛大な啖呵を切ったらしい。彼女とはジオも少しだけ会話をしたが、溌溂とした印象の中に、確固たる自分を持った人物だと感じていた。少年の方、蓮司にジオは勝ったが、その実力を大きく評価している。最初に感じた印象とは裏腹に、彼はその小さな身体のなかに壮絶なポテンシャルを秘めている。ただ惜しむらくは、その秘めた力を蓮司はまだ完全には自分のものにできていない。その大輪の花が咲き誇るのは、まだ暫く先のことだろう。
対するアメリカは、双子のペア。通常、性別が異なる双子は二卵性双生児だが、情報によると準一卵性の極めて稀有な事例だという。日本の桐澤姉妹は性別も見た目も同じだが、よく観察すればそれぞれに特徴があった。しかしアメリカの男女の双子は、性別こそ異なるものの、それ以外は全くと言ってよいほど一致しており、髪型を同じにされたら見分けるのが困難だ。何ら根拠はないが、ジオはそこに人為的な意図があるような気がして、得体のしれない不気味さを覚えた。
(スポーツバブルの裏で、誰かが、何かを企んでいる)
会場に降り注ぐ陽の光は眩しく、しかしその輝きが、影の気配を遮っていた。
★
――良い蓮司? 全ポイント、マッチポイントだと思っていくよ
男子相手に、ミヤビはラリー戦で主導権を握っていた。試合前に自ら提案したことのお手本を見せるつもりなのか、最初のポイントから彼女はトップギアで挑んだ。見事なプレーではあるが、そのペースで後半まで保てるのかと蓮司が心配に思うほどだった。
(ま、いいけどよ。男ダブ女ダブの仇討ちだ!)
ミヤビの気迫につられ、蓮司もまた自身の集中力を最大まで高める。後先を考えるゲームメイクより、目の前の1ポイントに全てを出す。一見すると無謀に思える戦略だが、長時間戦うテニスにおいて疲労を自覚するのは、敗北が頭に過ぎった時だ。次のゲームを取られたら、このポイントを取られたらという先の展開への不安が、自らの精神を摩耗し間接的に体力を奪う。
相手前衛のポジションなどお構いなしに、高速ラリーを続けるミヤビ。蓮司はそのテンポを見切ると、割って入って奇襲攻撃へ出る。蓮司の優れた動体視力がボールを捉え、応手を許さぬ速攻を成功させた。
「カモォンッ!!」
露骨な挑発とも取れる蓮司の雄叫びは、しかし凍り付いていた会場の空気に亀裂を入れた。地元アメリカの選手がポイントを奪われたにも関わらず、日本の反撃を賞賛する歓声がチラホラとあがったのだ。その流れに乗って会場の空気を味方につけようと狙ったのか、マサキやデカリョウがベンチからいつも以上に熱烈な声援を送る。わざと英語で叫び、会場で小さく笑いが起こる。
「Game Japan. 1-0」
危ない場面はあったが、まずはキープを成功させるミヤビと蓮司。第一試合から続いていたアメリカのワンサイドゲームに、ようやく楔を打ち込むことに成功した。互いのプレーを称え合い、更に士気を高めていく二人。均衡状態が続き、日本とアメリカはキープ合戦を繰り返した。7ゲームが進行し、カウントは4-3となる。相手のサービスゲームを迎え、日本の二人は最初の正念場がやってきたことを悟った。
「仕掛けるよな? どうする」
勝負を仕掛けるなら定石ともいえる第8ゲーム。ここをブレイクできれば次をサーヴィンフォーザセットで迎えられるうえ、仮に落としてもゲームカウントが並ぶだけだ。リスクを負うなら絶好のタイミングといえる。当然攻める気満々の蓮司だが、ミヤビはすぐに賛同しなかった。
「相手はまだ、手の内を晒してない」
その指摘には蓮司も同感だ。相手の力量はかなりのものだが、まだどこか余裕を残している気配がする。片や蓮司とミヤビは序盤からトップギアに入れ、相手を振り切るつもりでプレーしていた。余力を全く残していないわけではないものの、隙あらばブレイクを狙っていたにも関わらず、それは適わなかった。
判断材料を探すように、チラリと相手ペアを盗み見るミヤビ。蓮司も一旦冷静さを取り戻そうとドリンクを口にすると、突然、ミヤビが蓮司の手を掴んだ。引っ張られた拍子にスポーツドリンクが口から零れ、シャツの襟を濡らした。
「なに? どした?」
相手ペアを見たまま固まったミヤビ。蓮司もその視線を追うが、相手の双子は淡々とした様子だ。そういえば準決勝でイタリアと対戦した際、熱中症で棄権したんだっけと思い出す蓮司。
「次、気を付けた方が良い」
いつになく感情の無い声色でミヤビがつぶやく。
「なんだよ、なんか見た? 聞こえた?」
もしかして相手が何か仕掛けてこようとするのを、ミヤビが察知したのかと思った蓮司。それなら逆にチャンスじゃないかと言おうとした瞬間、少し怯えた表情のミヤビが付け足した。
「バンビみたいだった」
その言葉の意味を、蓮司は理解できなかった。
続く
各自で朝食をとってコートへ向かい、ウォーミングアップを済ませる。10月を迎えたマイアミは、日本とは異なる秋の色を深め、早朝の空気は海風の湿り気を帯びた独特の匂いがした。いつもなら眠そうな顔を浮かべてアップをする出場メンバーも、今日はどこか気迫と集中に満ち溢れ、それぞれが昂る気持ちを本番へ向けて蓄えているのが伝わってくる。ピリピリとした、しかし程よい緊張感を味わいながら、日本のメンバーは静かに士気を高めていった。
国際ジュニア団体戦 決勝戦 日本 VS アメリカ
コートサイドに設置されているデジタル時計に、聖は視線を向ける。ディスプレイには経過時間が表示されており、その数字は96分を示していた。試合開始から約1時間半。コート上ではすでに第二試合の女子ダブルスが行われ、終盤を迎えていた。
(開始から、たった90分……)
アメリカの選手が、サーブを打つ前のルーティンでボールをつく。静まり返った会場には、その音だけがこだましている。今や会場を包んでいるのは、期待と興奮による熱気などではない。激しい戦いを勝ち抜いた国同士で行われる決勝戦。熱戦を予想していた観客の期待は、試合開始後ほどなくして凍り付いた。そしてそれは、日本の選手たちも同じだった。
鋭い打球音で放たれたサーブは、カミソリさながらの切れ味を見せる。その一打はリターンしようとしていた雪菜の予測を裏切り、同時に勝利へと繋がる唯一の道をバッサリと断ち切った。
「Game set and match U.S 6-0、6-0」
淡々と事実を読み上げる主審のアナウンス。それがどこか無慈悲に響くと感じるのは、全く同じ内容のものが数十分前にも流れたからだろう。第一試合、第二試合ともに、あっという間の決着。男子ダブルスと女子ダブルスで、日本は1ゲームすら取れず敗退することとなった。
ベンチに戻ってきた桐澤姉妹は、二人とも肩で息をして疲労困憊の様子だ。ゲームはおろか、ポイントの獲得すら覚束なかったにも関わらず、彼女らの体力は既に限界に近いように聖の目には映る。いや、肉体的な疲労というよりも、精神的なダメージが大きいのだろう。桐澤姉妹は二人揃って、憔悴しきった表情を浮かべていた。
(同じだ、男ダブの二人と)
聖は第一試合、男子ダブルスに出たマサキとデカリョウへ視線を向ける。少し落ち着いた様子ではあるが、同じように敗北した桐澤姉妹を前に、普段ふざけてばかりのマサキとデカリョウが渋面のまま沈黙している。最初に試合に挑んだ男子ダブルスも、今の桐澤姉妹と同じように試合を終えた。手も足も出ず、やる事全てが裏目に出てしまう一方的な試合。決勝進出を果たした国同士の試合で、ここまで大差がつくとは思いもよらず、まさに悪夢と思える展開が目の前で繰り広げられた。戻ってきた二人に、全員がなんと声をかけたらよいか分からず、ベンチ内は重い沈黙に沈んでいた。
「あ、あの、二人ともお疲」
「疲れてねぇよっ」
雪乃の剣幕に驚き、姫子は差し出そうとしたタオルを落とす。思ったより声が大きくなったことに自分で驚いた雪乃は、バツが悪そうな表情を浮かべて姫子から目を逸らす。重い空気が、ますます重くなった。
「日本チーム、次の試合に入って下さい」
チームベンチに向かって大会スタッフが無遠慮に声をかけてくる。そのタイミングに乗じて、ミヤビがタオルを拾ってぽんぽんと埃をはたき、桐澤姉妹に渡す。少しつり上がった視線には、叱責するような鋭さがあった。
「行こう、蓮司。相手は強いよ」
「望むところだね」
ミヤビに促され、蓮司が後に続く。悪くなった空気など意に介さず、むしろ戦意を漲らせている蓮司の横顔。聖はそこに少し、頼もしさを感じた。何か声をかけようと思ったが、適切な言葉が浮かばず、そのまま黙って蓮司とミヤビを見送る。
「ミヤビさん」
汗を拭いたタオルを姫子に返しながら、雪乃が呼び止めた。
「あと、お願いします」
それを聞いたミヤビが、普段あまり見せない好戦的な笑みを浮かべる。
「私を誰だと思ってんの」
そう言い残し、蓮司と二人でコートへ向かった。
★
指についたソースを舐めながら、イタリアの選手ギルは不満を漏らした。試合のときと同様、上下黒のスポーツウェアにオレンジ色のバンダナを頭に巻いている。少女というよりも、ストリートギャングと付き合いのあるガラの悪い不良少女といった出で立ちだ。
「っだよ、アッサリ負けやがってよお! もうちょいどうにかなったろうが」
アメリカンサイズのハンバーガーに大口でかぶりつき、音を立てて咀嚼する。モゴモゴさせつつ何やら文句らしきことをつぶやいているが、何を言っているかは分からない。口の中のものを、安いバドワイザーで流し込み、ギルは派手なげっぷを鳴らした。
「どうにかするのはテメェだ。もっと人間としての品性を身につけろ」
紙ナプキンを差し出すとともに、ペアのムーディが軽蔑の眼差しを向ける。試合のときとは異なり、化粧をして上品そうな濃紺のサマースーツを着た彼女は、テニス選手というよりも、お忍びで観戦に来たハリウッド女優のような優雅さがあった。
「こうして傍から見てっとよお、あの双子はいざってとき左右切り替えに頼り過ぎなんだよなあ。ったく、それに試合中気付いてりゃあ、逆転するチャンスはあっただろうぜ。ムーディ、おめぇ気付かなかったのかよ」
受け取った紙ナプキンで口をぬぐい、くしゃくしゃに丸めるギル。その辺に投げ捨てようとするのを、憮然とした表情のムーディが奪って紙袋に仕舞う。
「オマエに言われなくても、その特徴については気付いていたさ。しかし弱点が分かることと、弱点を突けることは別の話だ。アメリカの二人、やつらは相手の呼吸を乱すのが上手い。攻撃も守備も超ハイレベルなのは勿論だが、その使い所を心得ている。あの双子がスイッチを使いたくなるタイミングをわざと引き出し、先の先を読んで罠に嵌める戦い方をしているんだ。それができなければ、あの双子相手にダブルベーグルなんて不可能だ。私らのときも感じたが、アメリカのペアはまるで、相手の手の内どころか、心の内まで見透かせるんじゃないかと思ったよ」
実際に対戦し、今の双子と同じようにやられてしまったことをムーディは思い出す。何かを試そうとするよりも先に、その出鼻を挫かれる。苦肉の策で応対すると、それは相手が待ち構えていた手段でどうしようもなくなる。まるで、ジャンケンで常に相手より先に手を出させられている感覚。相手が強いことは認めるものの、どうにも理不尽な気分が付きまとい、ムーディは気持ちを立て直すことができなかった。
「超能力者じゃあるめぇしよ、んなことあってたまるかっての」
対戦時はあまりの実力差に戦意を失いかけたムーディだったが、ギルが半ばヤケクソ気味に無謀な攻撃を仕掛け、どうにか1ゲームをもぎ取ることに成功した。しかしそれも、すぐに対応されて通じなくなったところで、ゲームセットとなってしまった。
「アメリカの連中は、相手の心を折ることに長けている」
金髪をオールバックにし、黒いスーツを着込んだロシューが眉間に皺を寄せてつぶやいた。その左目には未だ眼帯がつけられている。医者の見立てでは視力は戻るとのことだったが、回復に時間を要し、両目だと逆に遠近感が取れなかった。そのため彼はこの大会期間中、ずっと片目のまま、チームの勝利に貢献し続けた。
「すまねぇ、ロシュー兄ぃ。オレがビビっちまったせいで……」
試合を思い出したのか、恐縮してウジウジするリーチ。彼が得意とする様々な球種のサーブは、アメリカの選手相手に全く通じなかった。自信の拠り所を打ち砕かれた彼が徹底的に狙われ続け、男ダブの二人は大差で敗北を喫した。
「オイ、リーチ。何度も言わせるな」
ひと際ドスの効いた声色で凄むロシュー。
その手が伸び、リーチの髪をガッシリと掴む。
「人間ってのは弱い生きモンだ。どんなに強がって見せても、窮地に立たされりゃあ必ずビビっちまう。当たり前だ。それは生存本能だからな。危機に瀕したとき、生き延びようとする本能が脅威から逃げるよう命令するんだ。それがビビりだ。だからビビるな、なんていうのは無理なんだ。だが大事なのは、逃げる以外の選択肢を考え続けることだ。ビビり散らかして、心が折れて、それでも逃げる以外の手を考え続けろ。ビビったから負けたんじゃあねぇ。ビビって考えるのをやめたから負けたんだ」
リーチが今の言葉を二度と忘れないよう、耳から脳へ直接刻み付けるようにささやくロシュー。リーチは怯えた表情を浮かべながらも、言われた言葉をひと言も漏らすまいと歯を食いしばり、そして最後に力強く頷いた。
「ミックスはどうなると思う?」
ムーディが後ろの座席に座るピストーラとウナーゾに水を向ける。イタリアチームで唯一、アメリカから白星をあげたのはミックスの二人だ。とはいえ、直接的な勝因は相手ペアの途中棄権で、試合内容は実質的に負けていたも同然だった。
「って、言われてもなぁ?」
ピストーラは片手をウナーゾの背に回そうとするが、彼女が素早くそれを叩く。
「あたしらの時も、あんたらと変わらない。そもそものレベルが高いこと、そのうえで相手に何もさせないようなプレーをしてきた。風向きが変わったように感じたのは、二人で負けを覚悟したとき、かな」
試合の時のことを思い出しながら、ウナーゾが語る。
「ちょっと勝ち筋が見えない、何をしても裏目に出る。頑張れば頑張るほど首が絞まるみたいな、うんざりした気分になったとき、この馬鹿が言ったんだ。『別に負けたって良いじゃねぇか。強いのとやれてんだ、楽しもうぜ』って。チームの勝敗がかかってるのに、だよ? 少しは真面目にやれよって思ったけど、そう言われて初めて、気負い過ぎてる自分に気付いた。で、力が抜けたお陰か、流れが変わった」
チームの為に、絶対負けるわけにはいかない。そう強く思う一方で、敗色濃厚な状況がウナーゾの心に焦燥感を産んだ。しかしそれを、ピストーラの気軽なひと言が掃った。そこから、ラッキーショットにも恵まれて流れが変わり、反撃の糸口を掴みかけたところで相手が棄権を申し出た。なんでも、気分が悪くなったということらしい。公式上はアメリカ側の男性選手が軽い熱中症によってリタイヤ、ということになっている。
「言っておくがよお、負けても良いってのは言葉のアヤだぜ? オレァ負ける気はサラサラ無かったんだ。でもなんていうかよお、テニスってスポーツだろ? やるからには楽しくないとなあ。勝つつもりで真剣にやるから楽しい、が、負けちゃダメってわけでもねえ。オレらは確かに、なるべく勝って実績をあげなきゃなんねえが、その為に楽しむ気持ちってやつをおざなりにするのは違うと思うんだよな。ま、あの勝ちは勝利の女神がオレの魅力にサービスしてくれたんだろうぜ」
得意げに笑うピストーラ。呆れた顔を浮かべたウナーゾが「サービスじゃなくて哀れみだろ」と辛辣なコメントを投げると、それに周りが同意する。そんな様子を、ジオはすぐ隣で聞き流しながら、どこか距離をとるようにして沈思黙考していた。
(楽しむ気持ち、か)
楽天家のピストーラらしい言葉だと思うジオ。もし、自分たちがもっと健全な環境と志でテニスの世界を歩んでいたとしたら、その考えには大いに同意しただろう。選手個人のそういう心の余裕が、健全な競争原理を下支えするのだ。だが、現実はそうもいかない。
(スポーツの世界は残酷だ。余裕を持ちながらも上へ行ける者もいれば、自分のありとあらゆる全てを投げ抛たなければならない者もいる。それこそ、その楽しむ気持ちさえ犠牲にして勝利を目指す。勝利は善で、敗北は悪。短絡的にそう考えている者は少ないだろうが、現実としてそう考えざるを得ない現実は否定できない)
ジオは会場全体へ視線を巡らせる。ジュニアの試合だというのに、観客席はほぼ満員。トッププロさながらの設備や充実した数のスタッフ、大手企業の広告に大会演出、セキュリティ、法整備が整った賭け事の仕組み。肥大したスポーツバブルが太陽の如く輝くことで、人や金やモノが集まり形を成す。健全な競争原理のもと競い合い、人々に感動を与え心を豊かにするスポーツビジネスが成り立っている。
(その強い光が産み出した、濃く暗い影)
日本人選手誘拐の件は、他のメンバーには伏せてある。参加したロシアのチームは、恐らく無関係であるとリッゾ達から報告を受けた。関係者はほぼ全員が海外から集めたスタッフらしく、黒い噂のありそうな者は見当たらなかったという。ロシアンマフィアが日本から何を受け取ったかまでは不明だが、一旦は決着したと考えて良いだろうとジオは考えている。
(残るはアメリカだ。リアル・ブルームの幹部メグ・アーヴィング。彼女は油断ならない。大会ディレクターでありながら、マフィア絡みの誘拐事件を公表せず、秘密裡に処理することを選んだ。色々と思惑はあるだろうが、ロシアンマフィアとは別の意味で警戒しなければ)
ふと、隣のティッキーがジオにチラリと視線を寄越す。だが何も言わず、すぐにコートへと向き直った。視線の意味は分からなかったが、なんとなく自分と同じようなことを考えていたのだろうとジオは感じた。
コート上では、ミックスの試合が始まろうとしている。日本側はジオと対戦した少年と、誘拐に巻き込まれた少女のペアだ。聞いた話ではあるが、少女の方はロシアンマフィアに盛大な啖呵を切ったらしい。彼女とはジオも少しだけ会話をしたが、溌溂とした印象の中に、確固たる自分を持った人物だと感じていた。少年の方、蓮司にジオは勝ったが、その実力を大きく評価している。最初に感じた印象とは裏腹に、彼はその小さな身体のなかに壮絶なポテンシャルを秘めている。ただ惜しむらくは、その秘めた力を蓮司はまだ完全には自分のものにできていない。その大輪の花が咲き誇るのは、まだ暫く先のことだろう。
対するアメリカは、双子のペア。通常、性別が異なる双子は二卵性双生児だが、情報によると準一卵性の極めて稀有な事例だという。日本の桐澤姉妹は性別も見た目も同じだが、よく観察すればそれぞれに特徴があった。しかしアメリカの男女の双子は、性別こそ異なるものの、それ以外は全くと言ってよいほど一致しており、髪型を同じにされたら見分けるのが困難だ。何ら根拠はないが、ジオはそこに人為的な意図があるような気がして、得体のしれない不気味さを覚えた。
(スポーツバブルの裏で、誰かが、何かを企んでいる)
会場に降り注ぐ陽の光は眩しく、しかしその輝きが、影の気配を遮っていた。
★
――良い蓮司? 全ポイント、マッチポイントだと思っていくよ
男子相手に、ミヤビはラリー戦で主導権を握っていた。試合前に自ら提案したことのお手本を見せるつもりなのか、最初のポイントから彼女はトップギアで挑んだ。見事なプレーではあるが、そのペースで後半まで保てるのかと蓮司が心配に思うほどだった。
(ま、いいけどよ。男ダブ女ダブの仇討ちだ!)
ミヤビの気迫につられ、蓮司もまた自身の集中力を最大まで高める。後先を考えるゲームメイクより、目の前の1ポイントに全てを出す。一見すると無謀に思える戦略だが、長時間戦うテニスにおいて疲労を自覚するのは、敗北が頭に過ぎった時だ。次のゲームを取られたら、このポイントを取られたらという先の展開への不安が、自らの精神を摩耗し間接的に体力を奪う。
相手前衛のポジションなどお構いなしに、高速ラリーを続けるミヤビ。蓮司はそのテンポを見切ると、割って入って奇襲攻撃へ出る。蓮司の優れた動体視力がボールを捉え、応手を許さぬ速攻を成功させた。
「カモォンッ!!」
露骨な挑発とも取れる蓮司の雄叫びは、しかし凍り付いていた会場の空気に亀裂を入れた。地元アメリカの選手がポイントを奪われたにも関わらず、日本の反撃を賞賛する歓声がチラホラとあがったのだ。その流れに乗って会場の空気を味方につけようと狙ったのか、マサキやデカリョウがベンチからいつも以上に熱烈な声援を送る。わざと英語で叫び、会場で小さく笑いが起こる。
「Game Japan. 1-0」
危ない場面はあったが、まずはキープを成功させるミヤビと蓮司。第一試合から続いていたアメリカのワンサイドゲームに、ようやく楔を打ち込むことに成功した。互いのプレーを称え合い、更に士気を高めていく二人。均衡状態が続き、日本とアメリカはキープ合戦を繰り返した。7ゲームが進行し、カウントは4-3となる。相手のサービスゲームを迎え、日本の二人は最初の正念場がやってきたことを悟った。
「仕掛けるよな? どうする」
勝負を仕掛けるなら定石ともいえる第8ゲーム。ここをブレイクできれば次をサーヴィンフォーザセットで迎えられるうえ、仮に落としてもゲームカウントが並ぶだけだ。リスクを負うなら絶好のタイミングといえる。当然攻める気満々の蓮司だが、ミヤビはすぐに賛同しなかった。
「相手はまだ、手の内を晒してない」
その指摘には蓮司も同感だ。相手の力量はかなりのものだが、まだどこか余裕を残している気配がする。片や蓮司とミヤビは序盤からトップギアに入れ、相手を振り切るつもりでプレーしていた。余力を全く残していないわけではないものの、隙あらばブレイクを狙っていたにも関わらず、それは適わなかった。
判断材料を探すように、チラリと相手ペアを盗み見るミヤビ。蓮司も一旦冷静さを取り戻そうとドリンクを口にすると、突然、ミヤビが蓮司の手を掴んだ。引っ張られた拍子にスポーツドリンクが口から零れ、シャツの襟を濡らした。
「なに? どした?」
相手ペアを見たまま固まったミヤビ。蓮司もその視線を追うが、相手の双子は淡々とした様子だ。そういえば準決勝でイタリアと対戦した際、熱中症で棄権したんだっけと思い出す蓮司。
「次、気を付けた方が良い」
いつになく感情の無い声色でミヤビがつぶやく。
「なんだよ、なんか見た? 聞こえた?」
もしかして相手が何か仕掛けてこようとするのを、ミヤビが察知したのかと思った蓮司。それなら逆にチャンスじゃないかと言おうとした瞬間、少し怯えた表情のミヤビが付け足した。
「バンビみたいだった」
その言葉の意味を、蓮司は理解できなかった。
続く
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