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第75話 イタリアの汚辱

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「……いいのか、簡単に逃がしちまって」

 呼びつけたタクシーが男を乗せて走り去ると、赤い縁のメガネをかけた男が不満そうな表情を浮かべて言った。身内では無いにせよ、あのロシア人は護衛すべき対象に怪我を負わせた人間だ。他の誰が既に制裁を加えていようが関係ない、自分たちの番がまだだ、とでも言いたげであった。

「あれで良いんだよ、ビアンコ」

 リッゾは胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。口元からこぼれる紫煙が舞って、ほんの僅かにバニラの香りがあたりに漂う。甘さと苦味を感じながら、リッゾはタクシーが離れていくのを眺める。遠くの角を曲がり、車体が見えなくなって、ようやくリッゾは続けた。

「所詮、ジオ達に付きまとってる連中とて、ロシアンマフィアの下部組織にすぎん。そして連中の指揮を執る上部組織のやつらにとって、最優先するべきはアメリカの方だからな。アメリカの弱味になりうる情報がもたらされれば、それを確かめずにはおれまい。もしやつらに我々イタリアを本気で潰す気があるなら、もっと労力をかけて、もっと以前に決着がついている。連中からすれば、イタリアという存在は家畜なんだ。殺し切る・・・・わけにはいかん。そんなことをすれば、最悪バランスを欠くことになるからな。適度に生かして適度に嬲れる。それぐらいでいて欲しいのさ」

 煙草を銜えたまま、リッゾは自分の携帯デバイスで仲間にコールし始めた。ビアンコは忌々しそうに舌打ちをして、その凶相をさらに歪ませる。名誉を重んじるイタリアンマフィアが、怨敵からそんな風に思われている挙句、徹底抗戦に出ないのが不満のようだ。しかしそれでいて、現状で軽率なことをすれば自滅を招くことも分かっている。沸き上がる破壊衝動を堪えながら、捌け口を探し求めるようにビアンコが尋ねた。

「ロシアは、どう出ると思う?」
「さぁな。何か仕掛けるにしても、まずは情報収集、あぁ、オレだ」

 通話に邪魔をされ、露骨な溜め息をつくビアンコ。リッゾは構わず通話を始める。

「そうか、分かった。ひと先ずオレは表側の仕事を片付ける。ロシアの連中は恐らく今日はもう店仕舞いだろうが、念のため警戒は怠るな。それから、大会のセキュリティにも気を配る必要がある。そうだ。会話には気を付けろ。よし、行くぞ」

 通話を終えると、リッゾたちは再び試合会場に向かった。

           ★

 互いのチームの勝敗を賭け、コートのうえでぶつかり合う二人の女子選手。その様子をイタリア、日本両チームのメンバーは固唾を飲んで見守っていた。大きな身体と長い手足を活かして激しく攻撃を仕掛けるティッキーに対し、ミヤビは守勢に回りながらも隙あらば反撃を仕掛けていく。両者ともに譲らぬ展開が続き、ゲームカウントは4-4フォー・オールと拮抗していた。

「相手の女も結構やるじゃあねえか。ジオ、おめ~の見立てはどうなんだ?」

 リーダーであるティッキーならば、もっと相手を圧倒するだろうと予想していたギルは、日本の選手であるミヤビの思わぬ実力に複雑な思いを抱いていた。彼女の知る限り、ティッキーよりも強いと思える選手などそうはいない。序盤の立ち上がりから中盤の現在に至るまで、まさに互角といえるほどの戦いが繰り広げられている。トリッキーなプレースタイルで相手を翻弄するタイプのギルは、もし自分がミヤビのような正統派なテニスを相手にしたらと想像し、あまり良くないイメージが沸いたらしい。相手の腕前をどこかで賞賛しながらも、苦々しい表情を浮かべてジオに尋ねた。

「素晴らしい選手です。まさか、日本にここまでの選手がいるとは」

 観戦というよりも観察するような眼差しをコートに向けたまま、ギルの質問に応えるジオ。その言葉に偽りはなく、むしろ内心驚いてすらいた。このミヤビという少女もまた、ジオの事前調査の内容よりも大きく実力が向上している。ジュニアで伸び盛りの選手が多いとはいえ、日本の選手はその中でも特に飛躍が目覚ましい。ATCというテニスアカデミーには、よほど良い指導者がいるのだろうか。

(アリアミス、スペルはA-r-i-a-m-i-sだ。日本のテニスアカデミーがなぜ、この名前を選んだのだろう? 意味は無いかもしれない。だが、Ariamisは国によってはエレミアスとも読む。そうだと仮定すれば語源は旧約聖書のエレミヤ書か? 北からの災い、という不吉な預言をしたとして迫害された、預言者エレミヤ。しかし彼の預言は未来への希望だと言われている。そういう意味を由来とするなら、頷けなくもないが……)

「オイ、見立てはどーかって聞いてんだよ! 相手褒めて終わんなよ」

 逸れた思考に耽っていたジオを、ギルのイラついた声が呼び戻す。

「あぁ、そうですね。正直、五分五分です。なにせ、あの素襖春菜の陰に隠れてはいますが、同世代の実力者として雪咲雅の名前はそれなりに注目されていたようですから。フィジカル面ではティッキーに分があるでしょうが、細かい技術は雪咲が上です。あとはメンタル面がどう作用してくるか、といったところかな」

「ハッ、んじゃあ問題ねえな。ティッキーは日本の温室育ちのお嬢ちゃんとはワケが違う。背負ってるもんがちげぇからよお。ウチらは自分たちの為だけじゃねえ。イタリアテニスの今と、その先に向けて戦ってる。覚悟が違うってんだ」

 ギルの言う通り、ティッキーの覚悟は並ではない。プロになるとか、グランドスラム優勝を目指すといった、個人的な理由で彼女は戦っていない。理不尽に亡くした親族の無念を晴らすため、幾多の名選手が積み上げた輝かしい栄光にかけられた侮辱を濯ぐため、そして失ったイタリアテニスの名誉を取り戻すため、彼女は立ち上がった。

 コートのうえで、果敢に攻撃するティッキー。それをミヤビが見事に凌いでカウンターを決める。ゲームカウントが5-5に並び、1stセット終盤に至っても両者は互いに一歩も譲らない。

「ただよお、相手のミヤビつったか? いい女だよなあ。真剣勝負だっつーのに楽しんでるぜ、ありゃあ。ヤマトナデシコ? 東洋のアジアン気高き美貌ビューティーっつ~のかあ? イタリアのセクシーで情熱的な女とはまた違う良さがあって痛ってぇなあオイ! トリシャ、足を踏むんじゃあねえよ!」 

 茶化すグリードを無言で諫めるウナーゾ。しかしジオは内心、グリードの目の付け所には同意していた。試合に集中しているティッキーは無表情のなかに強い覚悟を覗かせる。彼女の事情を知る者が見れば、それが極めて断固たるものであるというのが分かる。対して、相手のミヤビもまた弱みを見せまいと無表情だ。しかし、彼女は時おり無表情の仮面の下に、隠しきれぬ歓喜の表情を覗かせていた。

(覚悟の有無、強さだけを言うならティッキーは充分に備えているし、それを上回る者などそうはいない。しかし、悲壮な覚悟はときに呪いにもなり得る。一方、チームの勝敗がかかっているこの場面で、強敵を前にあの表情の雪咲。勝利にこだわりながらも、決して敗北を恐れない者の顔だ。心底テニスを愛し、楽しんでいる。あれは厄介だ)

 ジオの頭に、ふとしたイメージが浮かぶ。
 黄昏に沈もうとしながらも、どうにか世界を照らそうとする夕陽の残光。そして、夜の闇を裂いて天に昇り、世界を照らし朝を告げる暁光ぎょうこう。その二つがコートの上で重なり合う、そんな情景。果たして、白星を掴むのはどちらか。

「星に近いのは、夕陽のはずだ」

 祈るように、ジオは呟いた。

           ★

 ティッキーの打ったボールがネットにかかると、1stセットはタイブレークに突入する。互いに2つずつブレイクはあったものの、獲られたら獲り返すというシーソーゲームを経て、序盤から終盤まで両者一歩も譲らぬ展開となった。

(大したディフェンスだ。私の攻撃をこうまで捌き切るとは)
 ミヤビのディフェンスを突破しようと、リスクを負った攻めを続けるティッキーだったが、相手はただ守るだけでなく、隙あらばカウンターを狙う攻防一体のスタイルを展開。辛抱強く攻撃に耐えながら、少しずつティッキーに揺さぶりをかけ甘いボールを引き出し、そこを突く。可能な限りミヤビを左右へと走らせても、彼女は訓練された猟犬のようにペースを崩すことなく応対してみせた。

(まーったく、あっちゃこっちゃ走らせてくれちゃって……)
 息を切らしながら、さすがのミヤビもティッキーの絶え間ない攻撃に辟易とした表情を浮かべていた。本来であれば攻撃的なテニスを得意とするミヤビだが、フィジカル面でやや相手に劣ることと、攻撃力に差があることをすぐに見抜き早い段階で方針を変えた。ティッキーのようなタイプに対し、中途半端にパワー勝負を持ち込めば一瞬で逆襲を食らってしまう。それは自分で首を絞めるようなものだ。

(さて、どうする。ヤツは非利き手バックの方が迷い無く打ってる。フォアに浅く集めるか?)
(リターンで甘いのは返せない。かといって安全策は無理。1stサーブの確率を上げよう)

 互いに短いポイント間で次の方針を決める。今のところはプレースタイル的にも噛み合っている状態だ。こういう時に求められるのは、ショットの精度よりも、いかに相手の裏をかいて自分に有利な展開を作れるかというゲームメイクの力、戦術的な読みの深さだ。

(ヤツの武器は何よりも判断力の早さ。なるべく時間を与えない方が良いだろう)
(テンポを上げたら相手の思うツボ。でも、どこかで攻めに転じないとジリ貧か)

 ネットを挟んで様子を窺いあう二人。

(リスクは最小限に。しかし、間を空けずに攻撃し続ける。とにかく)
(連撃をさせちゃダメ。単調にならないよう、常に変化を。とにかく)

 サーバーのティッキーが、トスを放り上げた。

 ――このセットは、私が獲る。

           ★

 ティッキーの叔父の訃報が届いたのは、彼女が十歳のときだった。
 その前月、イタリアテニス界はトップ選手の八百長発覚というニュースで世界中から注目を浴びることとなっていた。当時の男子世界ランキング3位の選手を始め、女子のランキングでトップ10入り選手も含め実に複数の選手が八百長に関わっているということがInternational際・ Tennisテニス・ Integrityインテグリティ・ Agencyエージェンシー、通称ITIAによって発表された。

 事態を重く見たテニスの3大組織、ITF、ATP、WTAはイタリアに対する厳粛な罰則及び慎重な調査を求め、正確な報告がなされるまでイタリア国籍を持つ選手全員の無期限出場停止を命じた。ティッキーの叔父はその渦中にいた。

 欧州は日本に比べてスポーツ・ギャンブルに寛容であるが故に、いわゆる下部ツアーで低ランク選手による八百長事件が後を絶たない。選手間同士で密かに行われる場合はもちろん、違法な高額レートの賭け試合が反社会組織によって行われる場合もあった。それによって付随するトラブルも増加傾向にあり、酷いケースになると、選手自身が知らぬ間に賭けの対象となり、その賭けに負けた者が腹いせに選手へ逆恨みして危害を加えるなどといった事件もあった。

 全世界的にスポーツビジネスが拡大を見せる一方で、こうしたトラブルはテニス以外でも発生しており、各競技の主たる運営団体も揃って頭を悩ませていた。だが、この手の問題はつまりその市場の拡大を意味し、それゆえ一部では必要悪であるとさえ考える者も少なくはなかった。その為、基本的には当該選手を迅速かつ厳粛に裁き、早めに沈静化してしまうというのが大方の流れであり、暗黙の了解であった。

 しかし、明確な証拠となる映像や文書が、ITIAとマスメディアに匿名・・で持ち込まれた。このことから何者かが意図的に情報をリークしたと推察されたが、規模の大きさと不自然なほどの過熱報道によって背景は無視され、もっぱら『全てのスポーツファンを欺いたイタリアを追放せよ』という世間の風潮に諸々の組織は抗うことができなかった。ひとまずイタリアだけを処罰し、事態の収拾を図る。スポーツバブルで甘い汁をすする人間がそう判断したのも、ある意味では仕方のないことだったかもしれない。

(冗談じゃない……! あってたまるか、そんなことが!)

 ティッキーの叔父は事件発覚のひと月後、頭を銃で撃ち抜いて自死しているのが遺書と共に見つかった。発見現場は、彼の自宅の敷地内にあるテニスコートだった。

「一族の面汚しめ。絶縁を解いてやったと思ったら、これだ」

 ティッキーの祖父は、息子の葬儀でそう毒づいた。その言葉が、単純に家名へ泥を塗ったことに対する怨嗟ではないと、ティッキーは今でも信じている。長兄でありながらテニス選手となる道を選んだ叔父は、古くからイタリアで財を成した実家から絶縁されていた。しかし努力の果てに選手として目覚ましい活躍を見せたこと、弟の娘として生まれたティッキーが叔父である彼によく懐いたことが、長年に渡って親子の間に存在したわだかまりを氷解させた。家族として全面的に息子の選手活動を支援しようという話がまとまりかけた、矢先の出来事であった。

(大好きだった。大きな身体、分厚い胸板、ゴツゴツした指、何かとすぐからかってくる性格、笑顔。そして何より、コートの上では別人みたいに雄々しく、ヒーローのように誰よりも果敢に戦う姿。あの叔父が、八百長などするはずがない)

 遺体のポケットに入っていたメモには、一言だけこうあった。

――僕はテニスを愛している

 連日、執拗なイタリアへのバッシングが世界中から集まっていたが、きっかけの事件となった人物による自殺の報は、奇しくもその流れを僅かに変えた。当時は叔父の死を利用されたと激しく憎悪したティッキーだったが、今思えばそうでもしなければ本当にイタリアのスポーツ界は完全に終わっていたかもしれないと、ある程度はその打算を許容している。

 両親は彼女にテニスをやめるよう言ったが、当然の如く彼女はこれを拒否する。聡明で才能ある娘が、敬愛する叔父の悲惨な死によってその人生を歪ませてしまうことを恐れた両親は、テニス留学を理由に彼女をイタリアから遠ざけた。多少流れが緩和したとはいえ、またいつどう事態が変化を見せるか分かったものではない。ティッキーは母と使用人の3人でアジアを中心にいくつかの国で何年か過ごした。

 イタリアを離れて5年が経過し、彼女は故郷に戻った。その間、イタリアテニス協会はそれこそ文字通り死に物狂いでテニス存続に動いていた。両親は何度もティッキーにテニスから離れるよう辛抱強く説得を試みたが、彼女の意志は固く、絶対にイタリア人選手としてプロになると譲らなかった。

 長く故郷を離れていたティッキーは、ジュニア選手として改めて選手登録を行うべく、久しぶりにイタリアテニス協会へ足を踏み入れた。手続きと理事長への挨拶を済ませたあと、ティッキーは懐かしさから敷地のなかをただ目的もなくうろうろしていた。昔は輝いて見えたイタリアテニスの本拠地は、今はまるで忘れ去られた廃墟のようにあちこちが朽ちて果てていた。

(必ず、汚名を濯いでやる)

 胸中に湧き上がる怒りと悲しみ、そして決意。たった一人でも必ず成し遂げてやるとそう誓うティッキーの耳に、離れた場所から男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「だから! 何度も訴えてるでしょう! そもそも誰が情報をリークしたのか、それを調査すべきだって! 分かってますよ、経緯ではなく起こった事実が重要だなんてことは! でもそれはそれでしょうが! 八百長が事実だったかどうかを調べるのと並行して、情報の信憑性を裏付け調査しないでどうするんですか! あれだけのことが起こったんです、色んな可能性を考慮すべきじゃないんですか! 皆だって気付いているはずでしょう!」

 エントランスで受付に向かって男が騒ぎ立てている。職員たちは慣れたものなのか、無表情のなかにやや呆れたような色をにじませながら無視して仕事に取り掛かっていた。男の相手をしている小太りで禿頭の男は、まるでクレーマーが怒りを出し切るのを待つように、やけに鷹揚な態度で黙っている。確か、イタリアテニス協会の役員の一人だ。

「もちろん、貴方の仰ることはごもっとも。重々承知しております。ですが、繰り返すようで申し訳ありませんがね、今はまだその時じゃないんです。これは私ではなくイタリアテニス協会の総意として、まずは起こってしまったことに対する贖罪と、失った信頼回復のために」

「だから段階とかでなく、並行すべきだと! 理事長は?! いるはずでしょう!」
「今日はいません。要件は承りましたので、どうぞ、お引き取りを」

 騒いでいた男は話が通じないと断念したのか、あからさまに苛ついた態度でその場をあとにした。去り際、一瞬だけティッキーと目が合うものの、男はそのまま素直に立ち去った。

「あぁ、ティッキー。すまないね」
「彼は?」
「マスコミだよ。とはいえ、フリーランスだがね。正義感に溢れるのは結構だが、彼はなんというか、物事の筋道を知らなさすぎる。自分の見えている世界だけが、この世の全てだと思い込んでいるようだ」
「物事の、筋道?」

 役員の男が口にするセリフに、妙な引っ掛かりを覚えるティッキー。

「ティッキー、私も君がイタリア人選手として改めて活動を再開するのを、大変喜ばしく思っている。これは本音だ。しかし、君は他の選手よりも遥かに気を付けなきゃならない。君のお爺さんが機先を制してかん口令を敷いたから、多くの者はブロード家と君の叔父さんとの関わりについて知らない。だが、知ってる者は存在する。そして、そういう情報は得てして、知られたくない相手にほど知られるものだ」

「なんの、お話でしょうか?」

 ティッキーが尋ねたタイミングで、事務員の女が電話が入っていると役員に告げる。男はすぐに出ると言い、受話器に手を伸ばしながら最後に一言だけ付け加えた。

「仲間を募れ、ティッキー。一人で戦ってはいけない」

 それだけ言うと、男は受話器をとる。話し始めながら、男はアイコンタクトでティッキーに帰るよう促した。もう少し男と話をしたかったが、タイミング悪くティッキーの母親が迎えにきてしまい、仕方なく彼女はその場をあとにした。

 翌朝、ティッキーは自宅のテレビで一件のニュースを目にする。観光地として名高いミラノ・ナヴィリオ地区の運河で、男の水死体が上がったという。なんとなく流し見していると、被害者の顔が画面に映った。

 イタリアテニス協会のエントランスで怒鳴っていた、あの男だった。

                                 続く
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