Head or Tail ~Akashic Tennis Players~

志々尾美里

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第24話 千里眼の秘策

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(やっぱり美人だなぁ、雪咲さん)
 コートチェンジの際、夜明は対戦相手のミヤビの姿を見てつい見惚れてしまう。
(顔小さいし、背高いし、足もスラっとしてるし、立ち振る舞い全部がなんとなく品がある。それにハキハキしてて自信に満ち溢れてて、堂々として……。私と2歳しか違わないけど、2年後に私があんな風になれてるとは全然思えないや……)

 夜明は2年後の自分を想像してみるが、上手くいかない。なぜか一緒に成長した挑夢の姿が浮かんだが、慌ててその妙な妄想を掻き消そうと頭を振る。

(でもそれはそれ、これはこれ)
 今は試合中。
 相手に対する素直な気持ちは、一旦忘れなければならない。ミヤビに対する憧憬の念に蓋をすると、夜明は戦局を改めて整理しようと頭の中を整理した。

(ウェブにあった動画で、あの2人の試合はいくつか見れた。何かが大幅に変わっているっていうことはなさそう。次は向こうのサーブだけど、カウントは5-4でこっちがリードしてる。ここを獲り切って勝ちたいな)

 テニスそのものはまだ始めて1年程度の夜明だが、持ち前の頭脳と分析力、そしてコーチの助言のお陰でダブルスに関する戦い方の理論は非常に高い次元で理解していた。とはいえ、今日に限って言えば事前の準備も無駄に終わるだろうと予想していたのだが。

 まさか挑夢が試合中に反省して自分から「ダブルスをやる」と言い出すとは、夜明は思わなかった。お陰で準備が無駄にならずに済んだし、以前から一歩前に踏み出せない挑夢に対する態度も、少し前進したような気がする。

(思い切り引っ叩いちゃったけど……)
 そんなつもりは無かったのだが、勢いでつい手が出てしまった。以前の自分では考えられない。挑夢やバンビと一緒に過ごすうちに、影響を受けてしまったのだろうかとやや一抹の不安を覚える。

――君はもっと自分を外に出してあげなさい

 コーチの言葉を思い出す。
(手を出せ、とは言われてないんだけどな)
 1人苦笑いを浮かべ、チラりと挑夢に目を向ける。音を鳴らしながら豪快にドリンクを飲む挑夢の喉ぼとけが、上下に動く。去年までそんなの無かったクセに。

 囲碁の最年少女流棋士として鮮烈なデビューを飾った夜明だったが、程なくして成績を落としてしまう。囲碁の才能を持つとはいえ、年端もいかぬ少女でしかない夜明の成長を案じた彼女の師匠は「焦らなくても良い、人生遠回りも必要だ」と、知り合いのテニスコーチに頼んで半ば無理やり彼女をしばらく囲碁から遠ざけた。

 幼い頃から囲碁に慣れ親しんでいた夜明にとって、テニスという競技はかなり過酷に思えた。それでも、今まで目を向けたことすらなかった世界に足を踏み入れたことで新しい友達が増え、出来なかったことが出来るようになるうちに、すっかりテニスが好きになった。そして少しずつ、しかし誰よりも早くテニスというものを理解・・していった。

(分かってるだけじゃどうにもならないのが、テニスなんだけど)
 囲碁もテニスも同じ対人競技であるため、自分の押し付け合い・・・・・・・・・という共通の性質を持っている。自分たちのやりたいこと、相手のやりたいことをぶつけ合い、いかにして自分のやり方を押し通すか。それが対人競技における勝負の根幹だ。

(或いは、いかに相手のやりたい事をやらせないか)
 挑夢と夜明の実力差がかけ離れていることを悟ったらしい対戦相手の2人は、弱点である夜明を徹底的に攻撃する、という戦略を採らなかった。夜明はそれが自分に対する侮辱であるとか彼らの傲慢さの表れだなどとは思わなかった。

(強者の余裕っていうのもあるだろうけど、ここまでバランスの悪いペアと戦った経験が無い・・・・・・・・んでしょうね)

 種目は全く違うものの、夜明もプロの世界に身を置いているから分かる。プロを目指す者たちは常にレベルの高い相手と切磋琢磨して互いに高め合う。しかし、そういう安定した環境に慣れすぎると、意外なところで足元をすくわれることがある。癖の強い戦い方、我流の戦法、定石を無視した戦術、突飛な発想、そして盤外戦術。恵まれた環境で育った若い選手ほど、そういうイレギュラーに脆い一面がある。

 また、ダブルスとはいえ挑夢の存在は彼らにとっても脅威だ。彼らがリスクを抑えて勝利を得るには、自分たちに匹敵する実力を持つ挑夢を機能させないことが望ましい。安易に夜明を狙えば、動きを読まれて逆襲を食らうリスクが常に付きまとう。夜明を狙っているように見せかけて挑夢を崩そうとしたミヤビ達の方針は、道筋としては正しかった。

 そしてATCアリテニ所属の選手たちの多くは、個人で外部に向けたプロモーション活動を行っている。ファンを増やすためであるとか、スポンサーを獲得するためであるとか理由は色々だが、彼らにはタレント的な振舞いが求められている。中でも雪咲雅は、あの素襖春菜すおうはるなと同い年で、その容姿も相俟ってテニスファン以外からもかなりの人気がある。

(雪咲さんがそう思ってるかは知らないけど、年下の素人相手に大人気おとなげなく本気を出すなんてことはしなさそう。でも、状況的にもう危機感を覚えているはず。それに、ペアの能条さん。基本的にはシングルスプレイヤーなんでしょ?実力はかなり高いけど、ダブルスの配球は定石セオリー中心で全くクセが無い。この2人は正規ペアみたいだけど、優勝経験は過去に1度だけ。その試合の動画を見る限り、組み立てはほぼ雪咲さんがやっていた)

 夜明は対戦相手の戦績、実際の試合動画、選手活動などを事前に調べた。加えて、実際に2人のプレイを観察したことでより明確に配球のクセや攻撃パターン、シチュエーションごとの対応力を分析し、それらを把握した。

 4人がそれぞれ位置につく。先ほどまでポイントが始まる前に必ず言葉を交わしていたミヤビと蓮司が、今度はそれをしなかった。ギスギスした空気は無いものの、2人の連携のズレがそうした些細な変化に表れているのを夜明は見て取った。

(能条さんのパフォーマンスが大きく下がっているのを雪咲さんは把握してる。この場合、雪咲さんは能条さんに負担がかかるのを嫌がる。性格的にサーブだけでどうこうするより、私のミスに期待する可能性が高い。だとすると)

 ミヤビのサーブが放たれ、夜明が予想した通り非利き手バック側へ高く跳ねるスピンサーブが飛んで来る。

(高く跳ねられたら私には上手く返せない、なるべく重心を前に、打点を良く見て――!)

 強いボールも、速いボールも必要ない。前進しながら身を屈めるように低く構え、バウンドのタイミングを正確に見計らって、夜明はラケットを振る。タタン、と小気味よいリズムで音が響き、夜明のライジングリターンが成功する。

(これが1手目、雪咲さんの1手目は?状況的に当然、私。でも挑夢の強襲を嫌って、雪咲さんの意識は私と挑夢に半々、いえ、私に向ける注意はおよそ3割弱。前に出るなら、ここ――ッ!)





 ミヤビは、夜明の意外なライジングリターンに虚を突かれた。
(ライジング? コースを読まれた、挑夢は?)
 サーブで夜明を崩せなかったミヤビは、即座に3球目の優勢牽引の一打アド トラクションを放棄する。同時に、挑夢の奇襲攻撃ポーチに注意を向けた。

(――動かない!このままクロ、すっ?!)

 夜明が既に・・・・・前へ詰めている・・・・・・・

(くッ!)
 ミヤビは咄嗟にラケットを小さく鋭く、加速させる。
 狙うは、夜明の右横。ショートアングル。

 コンパクトなスイングで打ち抜かれたボールは、ボクシングのショートフックのような切れ味で角度をつけながら飛んでいく。

触るな見ろウォッチッ!」
 鋭く吼える挑夢。
 声に反応して夜明の手がピタリと止まる。
 直後、ボールは夜明の右側を通り過ぎ、サイドアウトした。

 ボールを見送った夜明が、アウトを示すハンドサインを上げる。
 挑夢が咄嗟に声を出さなければ、危うく触ってしまうところだった。

(良かった、速球をボレーするのは苦手だから助かった)
 遠くへ転がったボールを拾いに行った夜明は、人知れず安堵する。

 隣のコートの女子ダブルスも、奥の男子ダブルスも既に試合を終えたようだ。コートの外に目をやるとチームメンバーがひと固まりになって夜明たちの試合を見守っている。彩葉さいはとスゲが、それぞれ両手を合わせ拝むような仕草をしていた。

(敗けちゃったのかな。無理もないか)
 つまり、自分たちが敗ければチームの敗北が決定する。しかし夜明はそれをプレッシャーに感じず、自身でも気付かぬうちに集中力を高めた。

(次、どうしよう)
 次は挑夢のリターンだ。
(能条さんはまだ集中力が落ちたまま。序盤の立ち位置はセンター寄り、ストレートに打てるものなら打ってみろってカンジの強気の立ち位置で、常にポーチを狙ってきてた)

 ポーチは、味方のサーブで相手を崩し、返ってきたボールを攻撃する戦術だ。ダブルスにおける基礎的なコンビネーションアタックで、サーバー側の黄金パターンとも言える。リターン側は相手にポーチされないように返球しなくてはならないのだが、当然相手のサーブの精度次第でリターンの成功率が左右される。

(えぇっと、ポーチに有効なリターン方法は主に3つ)
 夜明は頭の中でリターンの定石セオリーを再確認する。 

 1つ、高さを使って前衛を避ける
 2つ、左右を使って前衛を避ける
 3つ、前衛を狙って崩す。

 大きく分ければ、前衛を避けるか、前衛を攻撃するかの2択。
 リターンが上手くいくかどうかは、相手が打つサーブの出来次第な面もある。とはいえ、次は女性であるミヤビのサーブだ。スピードもコントロールも確率も良いが、男の挑夢なら基本的にエースを取られる可能性は低い。リターンで何をするかの選択肢も比較的自由に考えられる。

(挑夢のリターンだから、雪咲さんはフォアを嫌がるよね。非利き手バック側に、外へ切れるスライスか、もしくはスピンかな。能条さんの立ち位置と、今の状態を考えたら……)

 夜明はひとしきり頭の中で次の手を考え、方針が固まると挑夢に声を掛けた。

「聞いて」
 サーバーのミヤビにボールを打って返すと、夜明は続ける。
「多分、雪咲さんはスライスサーブを外側に打ってくるはず。挑夢のフォアが嫌だろうし、出来れば低い位置から持ち上げるように打ってほしいと思うの。だからね」
 夜明は挑夢にだけ聞こえる大きさの声で、次の手を授ける。
「挑夢、ここまできたら、絶対勝とうね」
「おう」

 作戦を伝え終わると、2人は軽く手のひらを重ねた。





 先ほどから生き生きと挑夢にあれこれ指示をする夜明。随分と人が変わったようで、挑夢はなんだかその様子に気圧されてしまう。いつも生真面目で、テニスをしていない時は澄まし顔で大人しい夜明。囲碁をするときは和服に化粧をして、まるで知らない大人の女性みたいな雰囲気になるが、今日のはそれともまた違っている。今日の夜明は、いつもより――。
「挑夢」
 不意に名を呼ばれ、ハッとする挑夢。
 眼鏡の奥で、瞳に理知的で深い色と強い意志を宿しながら、夜明が言った。
「ここまできたら、絶対勝とうね」
「おう」

 相手のミヤビが構え、カウントをコールする。あと3ポイントで勝ち。日本最高峰のテニスアカデミーに所属している2人から、ミックスとはいえ勝利を上げられるのだ。そう思うと、挑夢は身体の底から力が湧いてくるのを感じた。

 トスの位置から、夜明の読み通り外側ワイドへのサーブだと予測する。相手の挙動を見ながらもラケットを握る手の力を抜き、厚い握りウエスタングリップから薄い握りイースタングリップへ切り替える。
 サーブが打たれる瞬間、前方へ体重移動。
 イメージ通りの軌道。
 大きく構え、闘志を漲らせる。
(さぁ、叩き込んでや――ッ!)
 バウンドの瞬間、挑夢は身体の力を抜く。跳ねたボールを迎え撃つ構えを見せる。
 最小限の挙動、かつ絶妙なタイミングでボールをラケットの上で滑らせた。
(らない、っと)

 手首の柔らかさを最大限に使い、挑夢はボールの勢いを殺す。
 推進力よりも回転力をボールに与える。

 虚を突く零れ球リターンドロップ

 挑夢の意図を察したミヤビが、力強くコートを蹴って猛然と駆け出す。
 3歩目を蹴りだした瞬間、同じように走り出していた蓮司の姿が目に入った。

(――ちょッ!)

 1つのボールを追い、2人が同じ方向に駆け出している。
 そして、蓮司はミヤビが前方に走っていることに気付いていない・・・・・・・

その場に留まってステイッ!」
 悲鳴にも似たミヤビの声で蓮司の動きが止まる。
 声を出した分、ほんの僅かにミヤビの速度が落ちる。
 2度目のバウンドすれすれでボールをキャッチしたが、ネットを越えたところで待ち構えていた挑夢がガラ空きになったコートへボールを打ち返した。





「ごめん、つい反応しちまって」
 バツの悪そうな表情を浮かべながら、蓮司が謝る。
 ダブルスでドロップを使う場面というのは滅多に無い。ましてやサーブをドロップするなど、一般愛好家アマチュアレベルならともかく、選手クラスの試合では全く無いといっても良い。単純にリスクが高すぎる為だ。ボールがネットの白帯はくたいに当たって相手のコートに落ちる偶然の悪戯コードボールのようなシチュエーションでもなければ、ボールがネット前に落ちてポイントを得るという事態にはそうそうならない。

 先ほどの場面、ミヤビは挑夢の非利き手バック側へ、しかも外側ワイド方向へサーブを打った。この場合、前衛である蓮司の動きとしては相手がストレート方向へ打ってくるのを防ぐためその場に留まるのが定石セオリーだ。つまり、虚を突かれたとはいえさっきのドロップショットは、本来ミヤビが取るべきボールで、陣形を崩さない為にも蓮司は動くべきではなかった。

「気にしないで、完全に裏をかかれたんだもん。私も咄嗟に定石セオリーに拘っちゃった。蓮司に任せてポジションチェンジでも良かったかもね」

 ミヤビは蓮司を責めない。今のは相手が1枚上手だった。
 チラリと、ミヤビは夜明の顔を見る。
 現状、このゲームを支配しているのは挑夢ではなく夜明だ。彼女が挑夢を引っ叩き、きちんとダブルスとして機能し始めた途端、向こうの反撃が始まった。

(夜明ちゃんそのものは恐くないけど、挑夢の使い方とポイント毎の作戦の立て方が異常に上手いんだよね。というか、こっちの動きを正確に読んで一番嫌な所を一番嫌なタイミングで狙ってくる。さすが、狼仕込み・・・・なだけあるかも)

 ミヤビには確信があった。彼らの後ろには、狼がいる・・・・
 木代きしろ市内はもちろん、首都圏にある大半のテニスアカデミーはATCアリテニと何らかの形で繋がりがある。経営権そのものは既存のテニスアカデミーに委託されているが、一種のフランチャイズのような形で多くのテニスアカデミーが国から直接支援を受けているATCアリテニの力を借りている。テニスブームに乗じて民間企業同士が結託することで、業界として横の繋がりを強化するのが狙いだと言われている。無論デメリットもあるが、それを上回るメリットが今の日本のテニス業界を1つにした。

 テニスコーチ榎歌考狼えのうたこうろうは、その枠組みから外れた、一匹狼だ。

(引退したって聞いてたけど、挑夢が私たちの知らない所で力を上げたり、あのバンビがまだテニス続けてたりしてるのが良い証拠。あの人は絶対、テニスコーチをやめたりなんかしてない)

 サーブ前の習慣動作ルーティンをしながらミヤビは考える。ふと、コートの外に目を向ける。ATCアリテニ側のメンバーが試合を見守っている後方に、さっきまで居なかったスーツ姿の男が立っているのが見えた。無感情な視線をこちらに向けている。その人物に、ミヤビは心当たりがあった。

(いるじゃん!思いっきり!恐いってば!)

 ミヤビに尻尾が生えていたら、毛が逆立って見事に膨れ上がったことだろう。内心自分でも情けないほど動揺してしまう。なんとか気を落ち着かせてサーブを打ったが、2本続けて外してしまう。色んな意味でガックリと肩を落とすミヤビ。
「ミヤ、どした?」
 ミヤビの様子を見て、ボールを拾ってくれた蓮司が心配そうに尋ねる。
「オオカミがいた」
「は?」
「なんでもな~い……。ごめんね、挽回しよ」

 力なくそういうと、ミヤビはポジションについた。





ゲームポイント 0-40
東雲・月詠ペアの3本トリプルマッチポイント。

 (今のダブルフォルトは何だろう?雪咲さんらしくないというか……いえ、でも助かった。私のリターンで先行したかったから願っても無いチャンス)

 夜明は挑夢に近付き、最後の手を授ける。3度のチャンスがあるならこれを活かさない手はない。リスクを負ってでもここは攻めるべきだ。

「挑夢、マッチポイント3つあるから、思い切ってアレ・・やってみて」
「良いけどよ、正直自信ねぇよ? ダブルスでやる技・・・・・・・じゃねーし」
「だから良いんだよ。誰も予想しないでしょう?」
「オマエって結構、バクチ好きなのな」
「人聞き悪いなぁ、勝算の高い手を選んでるだけ。それに」
「それに?」
「挑夢ならできるって、私は信じてるから」

 じゃよろしく、と軽く言って夜明は自分のポジションへつく。不意の一言にたじろいでしまった挑夢だったが、気恥ずかしさを吹き飛ばすほどの気合いが腹の底から湧いてくるのを感じた。不思議と鼻息が荒くなり、力が漲る。やってやんぜと勇ましい足取りでポジションにつく。そしてふと一瞬、冷静になる。
(なんで気合い入ったんだ?)


 滅多にしないダブルフォルトをやらかしたミヤビだが、呼吸を整えてすぐに冷静さを取り戻した。コートの外にいた榎歌の存在をすぐさま頭から追い出し、マッチポイントを3つ握られている状況に集中する。ミヤビに自覚は無いが、彼女は劣勢のときほど高い集中力を発揮する傾向があった。

 深く息を吐く。先ほどの榎歌を意識したことで強く緊張し、直後に大きなミスをしてがくっと力が抜けたお陰か、かなりニュートラルな状態に戻った気がする。これがもしシングルスだったなら、ここから更に集中力を高めて彼女の底力を発揮出来たことだろう。

 トスを上げて、ミヤビが最も得意とするTマークを狙ったフラットサーブを叩き込む。彼女の今日一番のサーブがこの場面で放たれた。

――しかし。

 挑夢リターナーのポジションが、既に・・サービスライン・・・・・・・手前にいる・・・・・


 その技は、近代テニス史において、史上最高と名高い芝のグラス・皇帝オブ・エンペラーが練習中に思いついたと言われている。旧世代の史上最強・・・・を打ち破り、幾多の歴史的快挙を成し遂げ、数々の天才たちの前に立ちはだかり続けた、偉大なるBIG4伝説の幕開けとなった最初の王ザ・ファーストキング。スイスの英雄、ロジャー・フェデラー。

 彼の名を冠する超高難易度速攻戦術。
 その技は頭文字を取って、こう呼ばれる。

 Sneak Attackスニーク・アタック・ By Rogerバイ・ロジャー ――ロジャーによる忍び寄る一撃セイバー――


 相手がサーブを打つよりも早く一気に距離を詰め、ライジングよりも・・・・・・・・更に早いタイミング・・・・・・・・・のショートバウンドでリターン。サーブを打ち終わったばかりで、身体のバランスが整わないうちに打たれた超速攻のリターンが、ミヤビに襲い掛かる。

(ダメ、振り遅れる――ッ!)

 ミヤビはバランスを失いながらも驚異的な反応をみせる。辛うじて挑夢への返球を避けようと、絶妙なコントロールで打ち返す。しかし挑夢はそれさえ予測し、斜め上方向に跳躍しながら、星さえ撃ち落とさんばかりの勢いで斜飛の粉砕する一撃ブロード・スマッシュを叩き込んだ。

 スマッシュを決めた挑夢が無言のまま、力強く拳を突き上げた。


■ミックスダブルス
 ●能条蓮司・雪咲雅 VS 〇東雲挑夢・月詠夜明
 ゲームカウント 4-6


続く
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