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第1章 ラスラ領 アミット編
47 闇そのものの正体
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「話しておかなければなるまい。わしら吸血鬼殺しの専門家と、吸血鬼と呼ばれる、闇の存在のことを___」
アイリーンは話を続けた。
「まずは闇の存在、いや闇そのものと形容できるじゃろう。
肝心の吸血鬼について話そうかのう。
___奴らは、元は人間じゃった。
人間の他にもエルフや、魔族の吸血鬼もおるじゃろうが、初めから吸血鬼だという者がいないのは確かじゃ」
「……ということは、元々は普通の人だったのに、あるきっかけで吸血鬼化したということなのかい?」
「その通りじゃ。
吸血鬼化した者の特徴としては様々あるが、基本的な変化は同じじゃ。
代表的なのは身体能力の向上。戦士は強靭な肉体と怪力を手にし、魔術師は膨大な魔力さえも手にするじゃろう。それだけでは何の問題もないのじゃが、厄介な特徴がある」
「血を……吸うということ?」
「ううむ、その通りじゃが、それだけではない。奴ら吸血鬼は人を喰うのじゃ」
「ひ、人を……食べる……」
「食べられた人は勿論死ぬが、中途半端に残った死骸はグールになる。
知能の低いただの魔獣に成り下がるわけじゃ。
対して血を吸われたものは……」
「まさか……」
「そのまさかじゃ。血を吸われたものは、そいつの眷属となり、新たな吸血鬼となる」
「そして……増え続ける……」
僕は吸血鬼になる自分を想像してみた。
身体能力の向上は願ってもないことだろうけれど、人を食べなければいけないとなると……無理だ。
僕は恐らく死を選ぶだろう。
家畜やその他の生き物を摂取して生きてきたくせに、同族殺しはやはりしたくないものだ。
そのうえ食べるとなると、それはもう生きているとは言えない状況なのではないだろうか。
そんなふうに思えた。
「じゃが、吸血鬼達は簡単には眷属を作りたがらない。
自分の気に入った者だけを眷属にしたがる傾向があるんじゃ。
これは完全に愛情とか恋情とかの類の感情じゃろうな。
……それ自体は、とても悲しいことじゃとわしは思っておるがな」
吸血鬼にとって眷属を作ることは、それこそ恋愛のようなものなのかもしれない。
眷属を作ることは、すなわち相手を吸血鬼にしてしまうこと。
相手の全てを支配すること。
そしてその者の人生を丸ごと自分の勝手にすること。
それは究極の愛なのではないだろうか?
いや、しかしそれは同意の上での話。
望まない吸血鬼化はそれはそれは恐ろしい話だ。
「吸血鬼化した者は必ずと言っていいほど狂暴化する。
身体能力も著しく上昇する上、なんせ主食が人じゃ。それだけで恐怖じゃろう。
討伐の対象とされるのもしょうがないと言わざるを得ない。
そして、これは肝心なことなんじゃが、奴らは再生能力も持っておる。
通常の傷ならばたちどころに癒えるじゃろう。
よって、奴らを殺すには特殊な攻撃をせねばならん」
「特殊な攻撃……? 何か弱点でもあるというのかい?」
僕の何気ない質問を受け、アイリーンは答えるように、僕に何かを見せつけるようにローブを脱ぎ始めた。
次に、スカーフを取り、アイリーンは〝防御力0〟の状態になる。
そしてブラウスのボタンを上から3つ程外すと、胸元からある物を取り出した。
「そ、それは……」
そう。
それには見覚えがある。
いや、見覚えがあるどころではないだろう。
それと同じものを、僕は持っているのだから。
アイリーンが取り出して見せたのは、銀色のチェーンとその先端に付いたクロスのペンダントだったのだ。
「ペリドット、お主が常に身に着けているそれのことを、お主はどれだけ知っておるのじゃ?」
どれだけ……?
僕は、このチェーンクロスのことは何も知らなかった。
僕にとってのこれは、サラからのプレゼントで、妙にしっくりと胸元に馴染んでいて、それでいてアイリーンとお揃いだという位のことしか、それだけの情報しか、持ち合わせてはいないのだ。
だがしかし、このチェーンクロスをもし僕が持っていなかったら?
僕は多分、あの日あの酒場でこれをアイリーンの胸元で見たとしても、何も思わなかっただろうし、そうなれば、身を乗り出して暗殺者のボウガンを背中に受け、死にかけることもなかっただろう。
そしてアイリーンは、間違いなくあの場で命を落としていたのではないだろうか。
それから僕はアイリーンと親しくなることもなければ、あの日あの地下闘技場で、何の救いもなくベヒモスから食い殺されていたのだろう。
たまたまサラが露店商から購入したこのチェーンクロスは僕たちを繋ぎとめてくれたのだ。
文字通り鎖のように。運命のように。
「ペリドットのそれと、わしが持つそれは同じものじゃ。
いや、厳密に言うと、同じ作者が作った物なのじゃ___」
同じ作者……?
どうしてそこまでアイリーンはこのチェーンクロスについて詳しいのだろうか。
それに……どうして今、アイリーンは悲しそうな顔を僕に見せているのだろうか。
「先生……」
「小僧……この話は、俺の口から話そう」
ロベルトさんの表情もいつもとは違って見える。
この吸血鬼殺しの三人は僕の知らない悲しみを背負っているようだった。
「いやロベルト、いいんじゃ。わしから話させてくれ……このチェーンクロスは、死んだわしの弟子が作った物なのじゃ。
彼の名はジル・ド・ライ。
わしが葬った、最初の吸血鬼じゃ___」
アイリーンは話を続けた。
「まずは闇の存在、いや闇そのものと形容できるじゃろう。
肝心の吸血鬼について話そうかのう。
___奴らは、元は人間じゃった。
人間の他にもエルフや、魔族の吸血鬼もおるじゃろうが、初めから吸血鬼だという者がいないのは確かじゃ」
「……ということは、元々は普通の人だったのに、あるきっかけで吸血鬼化したということなのかい?」
「その通りじゃ。
吸血鬼化した者の特徴としては様々あるが、基本的な変化は同じじゃ。
代表的なのは身体能力の向上。戦士は強靭な肉体と怪力を手にし、魔術師は膨大な魔力さえも手にするじゃろう。それだけでは何の問題もないのじゃが、厄介な特徴がある」
「血を……吸うということ?」
「ううむ、その通りじゃが、それだけではない。奴ら吸血鬼は人を喰うのじゃ」
「ひ、人を……食べる……」
「食べられた人は勿論死ぬが、中途半端に残った死骸はグールになる。
知能の低いただの魔獣に成り下がるわけじゃ。
対して血を吸われたものは……」
「まさか……」
「そのまさかじゃ。血を吸われたものは、そいつの眷属となり、新たな吸血鬼となる」
「そして……増え続ける……」
僕は吸血鬼になる自分を想像してみた。
身体能力の向上は願ってもないことだろうけれど、人を食べなければいけないとなると……無理だ。
僕は恐らく死を選ぶだろう。
家畜やその他の生き物を摂取して生きてきたくせに、同族殺しはやはりしたくないものだ。
そのうえ食べるとなると、それはもう生きているとは言えない状況なのではないだろうか。
そんなふうに思えた。
「じゃが、吸血鬼達は簡単には眷属を作りたがらない。
自分の気に入った者だけを眷属にしたがる傾向があるんじゃ。
これは完全に愛情とか恋情とかの類の感情じゃろうな。
……それ自体は、とても悲しいことじゃとわしは思っておるがな」
吸血鬼にとって眷属を作ることは、それこそ恋愛のようなものなのかもしれない。
眷属を作ることは、すなわち相手を吸血鬼にしてしまうこと。
相手の全てを支配すること。
そしてその者の人生を丸ごと自分の勝手にすること。
それは究極の愛なのではないだろうか?
いや、しかしそれは同意の上での話。
望まない吸血鬼化はそれはそれは恐ろしい話だ。
「吸血鬼化した者は必ずと言っていいほど狂暴化する。
身体能力も著しく上昇する上、なんせ主食が人じゃ。それだけで恐怖じゃろう。
討伐の対象とされるのもしょうがないと言わざるを得ない。
そして、これは肝心なことなんじゃが、奴らは再生能力も持っておる。
通常の傷ならばたちどころに癒えるじゃろう。
よって、奴らを殺すには特殊な攻撃をせねばならん」
「特殊な攻撃……? 何か弱点でもあるというのかい?」
僕の何気ない質問を受け、アイリーンは答えるように、僕に何かを見せつけるようにローブを脱ぎ始めた。
次に、スカーフを取り、アイリーンは〝防御力0〟の状態になる。
そしてブラウスのボタンを上から3つ程外すと、胸元からある物を取り出した。
「そ、それは……」
そう。
それには見覚えがある。
いや、見覚えがあるどころではないだろう。
それと同じものを、僕は持っているのだから。
アイリーンが取り出して見せたのは、銀色のチェーンとその先端に付いたクロスのペンダントだったのだ。
「ペリドット、お主が常に身に着けているそれのことを、お主はどれだけ知っておるのじゃ?」
どれだけ……?
僕は、このチェーンクロスのことは何も知らなかった。
僕にとってのこれは、サラからのプレゼントで、妙にしっくりと胸元に馴染んでいて、それでいてアイリーンとお揃いだという位のことしか、それだけの情報しか、持ち合わせてはいないのだ。
だがしかし、このチェーンクロスをもし僕が持っていなかったら?
僕は多分、あの日あの酒場でこれをアイリーンの胸元で見たとしても、何も思わなかっただろうし、そうなれば、身を乗り出して暗殺者のボウガンを背中に受け、死にかけることもなかっただろう。
そしてアイリーンは、間違いなくあの場で命を落としていたのではないだろうか。
それから僕はアイリーンと親しくなることもなければ、あの日あの地下闘技場で、何の救いもなくベヒモスから食い殺されていたのだろう。
たまたまサラが露店商から購入したこのチェーンクロスは僕たちを繋ぎとめてくれたのだ。
文字通り鎖のように。運命のように。
「ペリドットのそれと、わしが持つそれは同じものじゃ。
いや、厳密に言うと、同じ作者が作った物なのじゃ___」
同じ作者……?
どうしてそこまでアイリーンはこのチェーンクロスについて詳しいのだろうか。
それに……どうして今、アイリーンは悲しそうな顔を僕に見せているのだろうか。
「先生……」
「小僧……この話は、俺の口から話そう」
ロベルトさんの表情もいつもとは違って見える。
この吸血鬼殺しの三人は僕の知らない悲しみを背負っているようだった。
「いやロベルト、いいんじゃ。わしから話させてくれ……このチェーンクロスは、死んだわしの弟子が作った物なのじゃ。
彼の名はジル・ド・ライ。
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