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第1章 ラスラ領 アミット編
46 アイリーン喧嘩売る
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「あらあらあら? これはどういう状況ですの?」
登場したアイリーンの後ろにいたアリスさんが、ひょこっと顔を出し、口元を手で覆いながら聞いた。
「どうやら小僧が偉そうに意見したようだ。
貴様の力ではどうにもならんことをな。
だが評価してやらんこともない。奴が相手となれば俺は一向に構わん。
やれ小僧。
殺してもいい」
「ちょっとロベルト、あなたは黙っていなさい。
今、私たちのかわいい弟弟子が大奮闘してるんだから!
幼馴染の女の子を守ろうとする男の子。
良いじゃない! お姉さん大好物よ!」
「ぐ……アリステラ。貴様が聞くから答えたのだ」
ロベルトさんとアリスさんはいつもの調子だ。
何だか安心する掛け合い……
「ここがラスラ騎士団本部か……さすがはお役所仕事じゃのう。
ここまで入るのにどれだけサインしたか!
やっと『斑目』の居場所が掴めたのじゃ。
早速ぶっ殺しに行きたいところじゃが……やれやれお主達に合わせるぞ?」
エイル副団長はというと、突然の部外者の介入が気に障ったらしい。
元々の冷たい表情が、更にキツくなる。
触れれば切れそうな程に尖った口調で言った。
「アイリーン殿、今回の件は我々ラスラ騎士団に一任していただきたい。
どこから情報が漏れたかは存じませんが、魔術師様が出る幕ではございません」
「はは! そんなこと言われたってしょうがないじゃろ? だってもう知ってしまったんじゃ。それに……」
アイリーンは狭い歩幅でカツカツとエイル副団長に迫って行く。
向き合うと結構な身長差だ。
まるで子供と大人だ。
アイリーンは人差し指をエイル副団長の鼻先スレスレに向けて言った。
「お主じゃ力不足」
「 …………貴様!!」
エイル副団長はキッと目を尖らせ歯を軋ませた。
柄に手をやると、威嚇だろうか本気だろうか剣を抜こうとした。
「副団長、落ち着いてください。相手を見誤ってはいませんか?」
壁にもたれていたゼパイルさんが口を開いた。
この人の声を聞くのは初めてだ。
ゼパイルさんは、とりあえず「止めただけ」といった雰囲気だ。
掴みどころの無い人だ。
「貴様は黙っていろ、ゼパイル!」
この程度の挑発で剣を抜こうとするとは、副団長として失格である。
戦闘力だけで評価されているのだろうか。
そう思うと騎士団の底が知れた気がする。
一応のところ制止された副団長だったが、怒りは収まってはいなかった。
腰をやや屈め、その勢いのまま剣を抜こうとした。
しかし。
「……ぐっ……な、何故だ……?」
どうしたのだろう。
まるで剣が抜けないように見えるのだが……?
「ははは! 抜けない…………じゃろ?」
「何をした!? 幻想の!!」
アイリーンは踵を返すとリディアに向かった。
そしてそのまま話し始めた。
リディアに対してではなく、もちろん副団長に対してだ。
それも、やれやれといった態度で。
「魔術師を舐めるなと思っただけじゃよ。
思っただけでわしら魔術師にはそれができてしまう。
お主の剣と鞘を永久に一体化させることなどいとも容易い」
「先生。
それができるのはあなただけです。
ですが、奴をコケにするのは私にもできます。
貴様の様な奴が騎士団の副団長だと? 笑わせるな。
私の知るラスラ騎士団をよくも汚してくれたな」
「……黙れロベルト!! 半端者の貴様に何が分かる! くっ……」
二人の間には何か確執があるようだ。
副団長は未だに剣を抜こうとしていたが、とうとう抜くことは叶わなかった。
「おっぱい……リディアよ」
「は、はい! (今、おっぱいって呼ばれた……?)」
「ペリドットの言う通りにしておけ。
わしも胸騒ぎを感じるんじゃ。
今までわしらは幾度となく吸血鬼たちと対峙し退治してきた。
しかし今回の斑目からはどうも奇妙な魔力の残滓を感じるのじゃ。
明日、態勢を整える。リディアは安心して待て。
なあに、任務が終わればペリドットは無事にわしが送り届けてやるわい。
リディア、お主の元へのう」
「アイリーンさん……あ、あたし、本当に怖いんです。
こんな気持ち初めてなんです! 怖くて怖くて、どうにもならなくて……」
「そうじゃな。じゃから、わしが行くんじゃ」
突如現れた三人によって、この場の空気は一瞬にして塗り変えられた。
そんな風に思う僕は無力で、どうしようもなく恰好悪かった。
「…………チッ。勝手にしたまえ……」
副団長の舌打ちが響く。
「ペリドット。なかなか格好の良いことを言っておったのう。
はは! なかなかに罪な男じゃ。
そういうところがわしは好きなんじゃがな。
もう、後戻りは出来ぬぞ?
あのことも、このこともじゃ。
責任はとれるのかのう? ははは!」
「アイリーン、そろそろ君に、ちゃんと聞かなければいけないと思っているんだ。
その、『斑目』と呼ばれる吸血鬼のことを」
アイリーンは一度目を閉じる。
アリスさんとロベルトさんはソファに腰かけた。
話しは長くなりそうだ。
「そうじゃな、いい機会じゃ。話さねばならぬじゃろうな。
わしら吸血鬼殺しの専門家と、吸血鬼と呼ばれる、闇の存在のことを___」
登場したアイリーンの後ろにいたアリスさんが、ひょこっと顔を出し、口元を手で覆いながら聞いた。
「どうやら小僧が偉そうに意見したようだ。
貴様の力ではどうにもならんことをな。
だが評価してやらんこともない。奴が相手となれば俺は一向に構わん。
やれ小僧。
殺してもいい」
「ちょっとロベルト、あなたは黙っていなさい。
今、私たちのかわいい弟弟子が大奮闘してるんだから!
幼馴染の女の子を守ろうとする男の子。
良いじゃない! お姉さん大好物よ!」
「ぐ……アリステラ。貴様が聞くから答えたのだ」
ロベルトさんとアリスさんはいつもの調子だ。
何だか安心する掛け合い……
「ここがラスラ騎士団本部か……さすがはお役所仕事じゃのう。
ここまで入るのにどれだけサインしたか!
やっと『斑目』の居場所が掴めたのじゃ。
早速ぶっ殺しに行きたいところじゃが……やれやれお主達に合わせるぞ?」
エイル副団長はというと、突然の部外者の介入が気に障ったらしい。
元々の冷たい表情が、更にキツくなる。
触れれば切れそうな程に尖った口調で言った。
「アイリーン殿、今回の件は我々ラスラ騎士団に一任していただきたい。
どこから情報が漏れたかは存じませんが、魔術師様が出る幕ではございません」
「はは! そんなこと言われたってしょうがないじゃろ? だってもう知ってしまったんじゃ。それに……」
アイリーンは狭い歩幅でカツカツとエイル副団長に迫って行く。
向き合うと結構な身長差だ。
まるで子供と大人だ。
アイリーンは人差し指をエイル副団長の鼻先スレスレに向けて言った。
「お主じゃ力不足」
「 …………貴様!!」
エイル副団長はキッと目を尖らせ歯を軋ませた。
柄に手をやると、威嚇だろうか本気だろうか剣を抜こうとした。
「副団長、落ち着いてください。相手を見誤ってはいませんか?」
壁にもたれていたゼパイルさんが口を開いた。
この人の声を聞くのは初めてだ。
ゼパイルさんは、とりあえず「止めただけ」といった雰囲気だ。
掴みどころの無い人だ。
「貴様は黙っていろ、ゼパイル!」
この程度の挑発で剣を抜こうとするとは、副団長として失格である。
戦闘力だけで評価されているのだろうか。
そう思うと騎士団の底が知れた気がする。
一応のところ制止された副団長だったが、怒りは収まってはいなかった。
腰をやや屈め、その勢いのまま剣を抜こうとした。
しかし。
「……ぐっ……な、何故だ……?」
どうしたのだろう。
まるで剣が抜けないように見えるのだが……?
「ははは! 抜けない…………じゃろ?」
「何をした!? 幻想の!!」
アイリーンは踵を返すとリディアに向かった。
そしてそのまま話し始めた。
リディアに対してではなく、もちろん副団長に対してだ。
それも、やれやれといった態度で。
「魔術師を舐めるなと思っただけじゃよ。
思っただけでわしら魔術師にはそれができてしまう。
お主の剣と鞘を永久に一体化させることなどいとも容易い」
「先生。
それができるのはあなただけです。
ですが、奴をコケにするのは私にもできます。
貴様の様な奴が騎士団の副団長だと? 笑わせるな。
私の知るラスラ騎士団をよくも汚してくれたな」
「……黙れロベルト!! 半端者の貴様に何が分かる! くっ……」
二人の間には何か確執があるようだ。
副団長は未だに剣を抜こうとしていたが、とうとう抜くことは叶わなかった。
「おっぱい……リディアよ」
「は、はい! (今、おっぱいって呼ばれた……?)」
「ペリドットの言う通りにしておけ。
わしも胸騒ぎを感じるんじゃ。
今までわしらは幾度となく吸血鬼たちと対峙し退治してきた。
しかし今回の斑目からはどうも奇妙な魔力の残滓を感じるのじゃ。
明日、態勢を整える。リディアは安心して待て。
なあに、任務が終わればペリドットは無事にわしが送り届けてやるわい。
リディア、お主の元へのう」
「アイリーンさん……あ、あたし、本当に怖いんです。
こんな気持ち初めてなんです! 怖くて怖くて、どうにもならなくて……」
「そうじゃな。じゃから、わしが行くんじゃ」
突如現れた三人によって、この場の空気は一瞬にして塗り変えられた。
そんな風に思う僕は無力で、どうしようもなく恰好悪かった。
「…………チッ。勝手にしたまえ……」
副団長の舌打ちが響く。
「ペリドット。なかなか格好の良いことを言っておったのう。
はは! なかなかに罪な男じゃ。
そういうところがわしは好きなんじゃがな。
もう、後戻りは出来ぬぞ?
あのことも、このこともじゃ。
責任はとれるのかのう? ははは!」
「アイリーン、そろそろ君に、ちゃんと聞かなければいけないと思っているんだ。
その、『斑目』と呼ばれる吸血鬼のことを」
アイリーンは一度目を閉じる。
アリスさんとロベルトさんはソファに腰かけた。
話しは長くなりそうだ。
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