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第1章 ラスラ領 アミット編

33 放蕩息子

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『ペリドット・アーガイル対、シルビア・トレモンド。両者、準備は良いか?』

「はい」 
「ああ、いいぜ」

 シルビアは僕を見てニヤリと笑った。

『相手が気絶、降参、もしくは試合継続が不可能と判断した時点で試合終了だ。それではAブロック第1試合。
 ___試合、開始!』

 主審の合図により試合が開始された。
 構える僕に対してノーガードのシルビア。

「おい。お前、ペリドットとか言ったか? そんなに緊張してて木刀が振れんのかねぇ?」
「……あなたこそ無防備ですけど大丈夫なんですか?」
「お前、団長の息子なんだってなぁ? さぞかしお強いんだろうな」
「父さんは関係ありませんよ。それより始めませんか?」  
「なんだお前、まさか遠慮でもしてたのか? スキを見つけたら討つんだよ。
 でないと殺られちまうぜ?」
「……殺してしまったら、あなたは失格です」  
「ふんっ、口は達者だな。
 けどよ、外じゃあその理屈は通用しねぇんだよ!!!」

 シュンっっ
 速い!!
 シルビアは一気に距離を詰めた。
 そして強烈な一撃を放つ!

「ぐっ……!」

 くそっ、受け止めるだけで精一杯だ。
 これがBランク冒険者の実力か!

 シルビアは直ぐに木刀を滑らせて身体をひねる。
 その反動を活用し、ハイキックを繰り出した。
 シルビアの黒いブーツのつま先が僕の前髪をかすった。

「うわっ!」

 なんとか距離を取る。
 早い。
 身のこなしが常人のそれじゃない。

「今のが躱せるとは、ただのガキじゃなさそうだな」
「あなたこそ、さすがはB級冒険者ですね……」

 シルビアは僕を見るとニヤリと微笑む。
 まずいぞ……
 初戦からこんなに手強い相手と当たってしまうだなんて。

「おい、ペリドット。
 受けてるだけじゃあ勝負はつかないぜ? お前は俺の動きに反応するだけで精一杯らしいが、すぐにその綻びを突いてやろう。一つヒントだ。
 俺とお前が一体どう違うのか分かるか?
 分からなけりゃあお前は一生俺には勝てやしねぇ」

 またしてもニヤリと笑う。

 僕とシルビアとの違い……? どういう意味だ? 決定的な違い……戦闘スタイル……いや、もっと根本的ななにか……?

『ねえペリドット!』

(フィーナ? どうした?)

『シルビアって人から魔力を感じるの! あの人、魔術を使ってるよ!』

(え! そうなのか? どういう意味だ? やつは一度も詠唱をしていない……とすると、それが僕との違いなのか? でも、オーソドックスな剣術に、どうやって魔力を使うんだろう……?)

『うん……フィーナには、わからないわ……ただシルビアの身体からは微力だけど安定した魔力を感じるの』

 安定した魔力か……
 しょうがない。
 今回は魔術を使わないつもりだったけれど、あっちがその気なら僕だって……!

「『闇の綻びよ いま眼前を 霧となせ スモーク!!』」

 手のひらから発された煙幕がシルビアの周辺を覆う。

「ほう! そうこなくちゃ面白くねえ。『深々の日の下に 緑風立ち昇らん ウィンド!』」

 シルビアは一振りで煙幕を払った。
 だが目の前に僕の姿はない。

「後ろか!?」

 シュッ! 
 シルビアの大振り。
 しかし背後にも僕の姿はない。

 僕はフィーナの風魔術で飛躍し、頭上からシルビアを襲った。

 ガキィィンン!

 直撃まであと少しのところで、シルビアの木刀が僕の攻撃を防いだ。

「うリャァァッ!」

 シルビアの前蹴りが無防備な僕の腹にめり込む。

「うごッッッ!」

 後方に蹴り飛ばされ、派手に地面を転がった。
 呼吸が止まる。
 まずい……追撃が……

 そう敗北を覚悟したが、シルビアの追撃はない。
 どうやら僕が立ち上がるのを待っているようだ。

「が、ぜぇ……ぜぇ……なぜ……来ないん……ですか……?」

 シルビアは更に嬉しそうにニヤリと笑った。

「なんだ、お前も魔術師だったのかよ。
 それにしては剣術の腕もまあまあだな。だがよ、ただ魔術を放てば良いってもんじゃねぇな。
 それじゃあ、三流だ」
「ぜぇ……ぜぇ……あなたこそ……魔術が使えるとは……ぜぇ……」

 時間を稼ぐんだ……痛みが……呼吸が整うまで、話をしなきゃ……
 くそっ……シルビアは余裕だ……一体どうして攻撃してこない……?
 ふと思うことがあった。
 依然、余裕な表情のシルビアを見てだ。
 あるを覚える。

 あれ? この人もしかして……

「……驚きました……魔術師なのに……どうして入団試験を……? まさか、その魔力の使い方に秘密があるのですか……?」 
「……フフ。ガハハハ! 勘の良いやつだ!」

 シルビアが満足そうに笑う。

「気付いたか。いいか、よく見てろよ?」

 そう言うと、シルビアは木刀を頭上に掲げた。
 ただの木刀だったが、何かが違う。
 目を凝らして見ると……そうだ! これか!
 やつはに魔力を込めているのだ。

 す、すごい……
 確かにこの技術は凄い。
 魔力を持った剣士はこういう戦い方ができるのだ。
 なるほど、通りで攻撃が重いわけだ……!
 しかし……すごい……すごすぎる……
 何がすごいって、この人は多分……

「それって、ど、どうやるんですか?」
「スモークレベルの魔術が使えるのなら原理は簡単だぜ?
 イメージするんだ。
 身体の中心から右腕に、右腕から剣先に、魔力を少しずつ浸透させるようにな!」

 わざとらしく尋ねた僕に、丁寧なこの対応である。

 やっぱりこの人、間違いない。
 シルビアはかなりのお人好しアホだ……!
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