闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

文字の大きさ
上 下
14 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編

13 サラ、攫われる

しおりを挟む
 しかし凄い経験だった。

 死にかけるわ、高級な回復薬で生き延びるわ、間近で魔術を体感できるわ、そして極めつけに守護精霊なんてのも貰ってしまうわ。
 10年くらい駆け足で進んだような気分だ。

 何より嬉しかったのはアイリーンという友人ができたこと。
 それに、綺麗なお姉さんのアリスさんとも仲良くできたし、ロベルトさんは……ちょっと取っつきにくい感じはするけれど、真面目で頼れる人って感じだ。

 いままでアミットでは同年代の友人はいたけれど、年齢の離れた人たちとの交流は余りなかったからな。
 早くこの出来事をサラに話してあげたいな。
 きっとサラもアイリーン達と会いたくなるだろうな。

「本当に大丈夫なのか?」
「心配しなくて大丈夫だよ。リディアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「べ、別に……怪我人を介抱するのは当然なことだろう? それに回復薬のおかげだよ。あたしは結局なんにもしていない……」
「それは違うよ。リディアがいなければ出血多量で死んでいた」

 そうだ。
 あのときリディアの止血がなければ、僕はおそらく死んでいた。
 回復薬の使用まで生き永らえたのは、リディアの尽力によるところが大いにある。

「次、あんなことが有っても助けてやらないからな! なんていうかペリは、生に無頓着な気がして……心配だよ……」

 
 そうかもしれない。
 僕は死を恐れない。
 いや、そんな格好の良い話ではない。
 僕はいつまで経っても、危機感の薄い子供なのだ。

 リディアは三人を警戒しているみたいだけど、そもそもアイリーン達は〝魔術師ギルド〟が派遣した吸血鬼対処の専門家らしく、その身分は明けていた。
 敬遠したい気持ちはあるのだろうが、すぐに馴れるだろう。
 そうして貰えると僕も嬉しい。
 大切な人が大切な人と繋がりを持つのはとても心地のいいものだ。



 帰宅すると母さんが駆け寄ってきた。

「どこ行ってたの!? 心配してたのよ!?」
「そ、そんなに騒がなくたって。僕はもう16歳だよ?」
「あなたの事じゃなくてサラよ。あのこはまだまだ子供なのよ? 朝帰りだなんてもっての他だわ!」

 母さんはサラを溺愛している。
 当たり前と言えば当たり前なのだけど、僕への対応と明らかに違うのは、どうなのかと思わなくも無いのだった。
 まあ、しょうがないよね。
 綺麗で優秀なサラと、働きもしないでふらふらしている僕とじゃ、期待値っていうのが違うもんだ。
 それにしてもこの慌てようはどういうことだ?
 もちろん僕はずっとリディアといたし、サラとは昨晩以来顔を合わせていない。

 母さんはしばらく僕の背後に目をやるとこう聞いた。

「え、まさか……ペリドット、あなた一人なの?」

 母さんの顔が瞬く間に歪む。
 嫌な予感がした。

「そ、そんな。一緒だと思っていたのに……じゃあ、あのこはどこなの!?」

 母さんの言っていることの理解ができなかった。
 僕を掴んで揺さぶる母さんの表情が険しい。
 爪が肩に刺さる。
 あのこはどこなの、だって?

「母さん落ち着いて!! サラがどうしたって!?」
「あのこが、あのこが帰って来てないの!」



 僕とリディアは街の仲間をかき集めた。

 父さんは演習に出たばかりで連絡がとれない。
 リディアは休暇中だったので演習には不参加だった。
 そのおかげで僕は平静を保つことができたのだと思う。


 僕たちは、街の仲間たちとアミット中の捜索にあたった。

「サラちゃんが行方不明だって?」
「協力させてくれ!」

 それにしてもサラの人気はすごい。
 街中の若者たちが捜索に協力してくれた。

 でも僕たち素人が捜索できるのもせいぜい街の中だけ。

 サラがもしさらわれたとしたら、既に街の外に出ているのかもしれない。
 そう考えると居ても立っても居られない。
 サラを狙う輩は多い。
 悪漢に連れさられているのかもしれない。
 もし、奴隷小屋に売られでもしたら取り返しがつかない。
 人間の少女は高値が付く。
 しかも美人で、グリーンアイを持つ少女といったら価値は青天井だ。

 労働力として取引される獣人と違って、人間の少女には娼婦や慰み者としての価値がつくらしい。
 運よく貴族に買われても結末は一緒だ。
 足が付かないように、ひょっとしたら遠方の貴族や資産家の元に売られているのかもしれない。
 犯罪を犯してでも美しいサラを我が物にしたい変態野郎はたくさんいるのだ。

 いや、しかし個人の犯行の可能性も十分ある。

 可能性が多すぎて僕は混乱する。

 ただ美しいというだけで、サラは犯罪に巻き込まれるのだ。
 何の罪もないサラをは、今どこでどんな顔をしているのだろうか。
 男性が近くに寄るだけで恐怖して泣き出しそうになるサラは、一体どんな目に合わされているのだろうか。

 僕が目を離した隙に……アイリーンさんの邸宅ですやすやと眠っていた間に……
 何をやっているんだ!
 妹を守れなくて何が兄だ!

 体の中心からドス黒いものが込み上げてくるのを感じる。
 酷く喉が渇く。

「……殺してやる」

『だめ。落ち着くの』


 あれ?
 また知らない声が聞こえた?
 女の子の声だったと思ったけれど……。
 近くにいる女の子はリディアだけだし……リディアの声ではなかったよな?
 空耳か? 
 そうだ。
 少し落ち着かなければ。

 サラ……

 サラの笑顔が脳裏をよぎる。
 いま失われつつある宝石の輝きを、僕は救うことができるのだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リンデンヴェール

城間ようこ
恋愛
幼い頃に親に捨てられ、施設で育った少女・和泉千香は『一般人』と『吸血鬼』が存在する世界で両者が共に学ぶ女子校に奨学生として通い、演劇部で吸血鬼の帝の血筋を引く直系の吸血鬼である宮牙美矢乃と組んで演劇に邁進する……が、美矢乃は一般人と吸血鬼が結ぶ『契り』をこれでもかと迫り続けている。 二人の過去、現在、頭を抱える千香とお構い無しの美矢乃の未来は? 恵まれずに育ち普通に生きたい一般人の千香、千香と共に生きたい吸血鬼の帝直系の令嬢である美矢乃の青春ラブファンタジー!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

処理中です...