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第1章 ラスラ領 アミット編
07 酒場にて、魔術師の登場
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さあ、寝ようかと思ったときに来客があった。
リディアだ。
就職祝いだと言って僕を酒場へと誘ってくれたのだ。
解雇になったことを告げると「じゃあ退職祝いだ」と大笑いした。
僕達の住むアミットの街では15歳から飲酒が認められている。
15歳になると成人なので結婚もできる。
そしてその分の責任も伴ってくる。
多くの学友たちはこの街で何らかの仕事に就いたし、何人かは結婚して夫婦になったりもした。
単純にすごいなと思ったし、僕にはそんな甲斐性も無い。
文字通り無職だし。それに相手も居ないしね。
アミットの街はラスラの領主様の生家であるミリシオン家があることもあり、近隣ではかなり大きな街だ。
医療施設や学校、裁判所などもあるし市場の規模はこの国随一だと言われるほどだ。
と言っても僕はこの街から出たことが無い。
近隣の街へ行くにも馬車で数日かかることもあり、行商人や貴族、そして冒険者たちでない限り街を行き来することは無い。
ローズレットという隣街には〝冒険者ギルド〟というものが存在するらしい。
父さんもローズレット出身だ。
冒険者ギルドには戦士やナイト等の前衛職や、ヒーラーや魔術師などの後衛職があるのだという。
父さんも魔術師になりたくて冒険者になったらしいのだが、適性が無くて諦めざるをえなかった。
話によると魔術師に成れる者はほんの一握り。
生まれ持った才能がものを言うらしい。
その代わり剣士の適性が高かった父さんは前衛で奮闘した。
と、そんな話は今度の機会にするとしよう。
所謂、大都会の部類に入るアミットには酒場もたくさんある。
地元民や冒険者が通う庶民的な酒場から、王族や貴族しか入れない上品なレストランまで様々なお店があった。
僕もいつかはそんなレストランで食事がしたいし、何なら冒険者になって世界中を旅してみたいと思ったこともあった。
けれどそれは〝平凡〟なことではないだろう。
僕はこの街で平凡に暮らすのだ。
リディアと僕は、いたって庶民派の酒場に入った。
「剣と自由に!」
ラスラ流の掛け声で僕らはジョッキを打ち合わせた。
名物の鶏肉揚げをつまみに酒を酌み交わす。
一日分のお給料が入った封筒は少し頼りないけれど、二人で飲み明かすことくらいはできそうだ。
「それであんたはまた殴っちゃったのか? 学習しないなー!」
そう言うと転がりそうなほど豪快に笑った。
「リディア、お前はどうなんだよ? 騎士団では上手くやってるのか?」
「ペリドット、あたしを誰だと思ってんの? 人たらしと呼ばれたあたしに渡れない社会は無い」
「順調そうで羨ましい限りだ」
「期待の新人リディアちゃんとはあたしのことよ!」
「その強さは僕だって認めるところではある」
「へへーん。でも、そんな所を見て欲しいわけじゃないんだけどなー」
「え? 何か言ったか?」
酒場の客がうるさくて聞こえなかった。
「別にー。自分に自信を持ちなさいって言ってんの」
そう軽口を叩きあったあとリディアは一気にグラスを空けた。
そしてお代わりを注文すると僕に向き直った。
リディアの表情は真剣みを帯びていた。
「どうしたんだ? そんな真剣な顔は似合わないぞ」
「ペリドット、あんたに大事な話があるんだ」
「何だよ改まって」
真剣な顔は似合わない。
普段のリディアは底なしに明るい。
だけど、それは周りを盛り上げるためのリディアならではの気遣いだ。
本当のリディアは真面目で少し臆病なやつ。
幼馴染の僕が言うんだから間違いない。
「あんたもラスラ騎士団に入ってよ」
「なんだよいきなり。それなら前にも断ったじゃないか」
___〝ラスラ騎士団〟
ラスラ領でその名を知らない者は居ない。
ラスラ最強の組織も始まりはごく小さな団体だった。
〝アミット自警団〟
それが今のラスラ騎士団の母体となった組織だ。
それこそ只の治安維持組織の域を超えなかったのだが、ときの領主サドバ・ラックスは熱心な軍事意識を持っていた。
軍を保有することは領土の発展に重要な意味をなす。
領主サドバは国中から著名な顧問を招き、軍事力の強化を行った。
それから約50年、アミット自警団は〝ラスラ騎士団〟と名を変えて、ラスラ領直轄の軍隊へと成長を遂げたのである。
僕の父さんセイラムは団長の任を受けている。
リディアは精鋭の斥候部隊に所属していた。
「ペリ。騎士団に入ってくれないか? あんたの実力はあたしが一番知っている。きっと団長も認めてくれる!」
「だから僕は___」
その時、酒場の客たちがどよめいた。。
客たちは一様にある人物に気を取られていた。
酒場へとやってきたのは、真っ赤なローブに身を包む三人組。
その中でも先頭を闊歩するのひと際身長の小さな女性。
その小ささは女性というより少女だと形容できる。
顔は幼く、耳には円盤を思わせる大きなアクセサリーを下げている。
暗い紫の髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
ぶかぶかと大きな服装は、体の線を隠しているようにも見える。
その少女の背後には、同じ真っ赤なローブの二人組が歩く。
誰もがすぐに理解した。
その三人組は〝魔術師〟だと。
リディアだ。
就職祝いだと言って僕を酒場へと誘ってくれたのだ。
解雇になったことを告げると「じゃあ退職祝いだ」と大笑いした。
僕達の住むアミットの街では15歳から飲酒が認められている。
15歳になると成人なので結婚もできる。
そしてその分の責任も伴ってくる。
多くの学友たちはこの街で何らかの仕事に就いたし、何人かは結婚して夫婦になったりもした。
単純にすごいなと思ったし、僕にはそんな甲斐性も無い。
文字通り無職だし。それに相手も居ないしね。
アミットの街はラスラの領主様の生家であるミリシオン家があることもあり、近隣ではかなり大きな街だ。
医療施設や学校、裁判所などもあるし市場の規模はこの国随一だと言われるほどだ。
と言っても僕はこの街から出たことが無い。
近隣の街へ行くにも馬車で数日かかることもあり、行商人や貴族、そして冒険者たちでない限り街を行き来することは無い。
ローズレットという隣街には〝冒険者ギルド〟というものが存在するらしい。
父さんもローズレット出身だ。
冒険者ギルドには戦士やナイト等の前衛職や、ヒーラーや魔術師などの後衛職があるのだという。
父さんも魔術師になりたくて冒険者になったらしいのだが、適性が無くて諦めざるをえなかった。
話によると魔術師に成れる者はほんの一握り。
生まれ持った才能がものを言うらしい。
その代わり剣士の適性が高かった父さんは前衛で奮闘した。
と、そんな話は今度の機会にするとしよう。
所謂、大都会の部類に入るアミットには酒場もたくさんある。
地元民や冒険者が通う庶民的な酒場から、王族や貴族しか入れない上品なレストランまで様々なお店があった。
僕もいつかはそんなレストランで食事がしたいし、何なら冒険者になって世界中を旅してみたいと思ったこともあった。
けれどそれは〝平凡〟なことではないだろう。
僕はこの街で平凡に暮らすのだ。
リディアと僕は、いたって庶民派の酒場に入った。
「剣と自由に!」
ラスラ流の掛け声で僕らはジョッキを打ち合わせた。
名物の鶏肉揚げをつまみに酒を酌み交わす。
一日分のお給料が入った封筒は少し頼りないけれど、二人で飲み明かすことくらいはできそうだ。
「それであんたはまた殴っちゃったのか? 学習しないなー!」
そう言うと転がりそうなほど豪快に笑った。
「リディア、お前はどうなんだよ? 騎士団では上手くやってるのか?」
「ペリドット、あたしを誰だと思ってんの? 人たらしと呼ばれたあたしに渡れない社会は無い」
「順調そうで羨ましい限りだ」
「期待の新人リディアちゃんとはあたしのことよ!」
「その強さは僕だって認めるところではある」
「へへーん。でも、そんな所を見て欲しいわけじゃないんだけどなー」
「え? 何か言ったか?」
酒場の客がうるさくて聞こえなかった。
「別にー。自分に自信を持ちなさいって言ってんの」
そう軽口を叩きあったあとリディアは一気にグラスを空けた。
そしてお代わりを注文すると僕に向き直った。
リディアの表情は真剣みを帯びていた。
「どうしたんだ? そんな真剣な顔は似合わないぞ」
「ペリドット、あんたに大事な話があるんだ」
「何だよ改まって」
真剣な顔は似合わない。
普段のリディアは底なしに明るい。
だけど、それは周りを盛り上げるためのリディアならではの気遣いだ。
本当のリディアは真面目で少し臆病なやつ。
幼馴染の僕が言うんだから間違いない。
「あんたもラスラ騎士団に入ってよ」
「なんだよいきなり。それなら前にも断ったじゃないか」
___〝ラスラ騎士団〟
ラスラ領でその名を知らない者は居ない。
ラスラ最強の組織も始まりはごく小さな団体だった。
〝アミット自警団〟
それが今のラスラ騎士団の母体となった組織だ。
それこそ只の治安維持組織の域を超えなかったのだが、ときの領主サドバ・ラックスは熱心な軍事意識を持っていた。
軍を保有することは領土の発展に重要な意味をなす。
領主サドバは国中から著名な顧問を招き、軍事力の強化を行った。
それから約50年、アミット自警団は〝ラスラ騎士団〟と名を変えて、ラスラ領直轄の軍隊へと成長を遂げたのである。
僕の父さんセイラムは団長の任を受けている。
リディアは精鋭の斥候部隊に所属していた。
「ペリ。騎士団に入ってくれないか? あんたの実力はあたしが一番知っている。きっと団長も認めてくれる!」
「だから僕は___」
その時、酒場の客たちがどよめいた。。
客たちは一様にある人物に気を取られていた。
酒場へとやってきたのは、真っ赤なローブに身を包む三人組。
その中でも先頭を闊歩するのひと際身長の小さな女性。
その小ささは女性というより少女だと形容できる。
顔は幼く、耳には円盤を思わせる大きなアクセサリーを下げている。
暗い紫の髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
ぶかぶかと大きな服装は、体の線を隠しているようにも見える。
その少女の背後には、同じ真っ赤なローブの二人組が歩く。
誰もがすぐに理解した。
その三人組は〝魔術師〟だと。
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