Lunatic tears _REBELLION

AYA

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act 4

4-2 Not Leave You Alone

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 「流雫も流雫だわ……」
スマートフォンを耳に当てながら、澪は恋人の無茶ぶりに深い溜め息をついた。
 流雫は要点以外多くを語らなかった。しかし、相手が相手だけに話の最中に一悶着有ったに違いない、とは思っていたが……。
「でも、僕がアリシアにスクープを唆したのは事実だし……。あの人にとっては、僕は疫病神だったんだよ。美桜を見殺しにした……」
その言葉が、尻窄みになる。
 ……見殺し、疫病神。自分で言った言葉が、今になって突き刺さる。黒薙さえも、それは違うと言っていた。しかし。
 「……だけど、そうやって流雫が苦しむの……あたしは見ていられない」
澪は言った。それが引き金だった。
「美桜さんを見殺しにしたんじゃない、流雫は疫病神なんかじゃないっ!!」
思わず張り上げた恋人の声に、流雫は唇を噛む。
「流雫は……あたしだけの騎士だから……っ……」
と澪は言って、目を閉じる。
 ……どんな時だって、あたしのためにと必死で。どんな時だって、希望を手繰り寄せて。流雫が、疫病神のワケがない。
 あたしだけの騎士で、でも2人きりの時は悪魔でいてほしい。そう、死後魂を支配するメフィストフェレスで。この世界でも、あの世界でも、流雫といっしょにいられるなら寧ろ本望だった。
「流雫は、日本を貶めたかったんじゃない。ただ、真の平和が、平穏が欲しかっただけ……」
そう言いながら、ベッドに仰向けになる澪。
 ……流雫は、美桜さんが生きていた日本で、美桜さんが生きていた頃のように……二度と銃を撃たなくて、泣かなくて済む日々を望んだだけ。どれほど、そうなることを願っているのか、彼に誰より近い場所に立っているあたしは、判っていると思いたい。
「流雫……、あたしは流雫の味方だよ……」
澪は、普段より少しだけ優しい声で、言った。
「澪……」
最愛の少女の名を呼ぶことしかできない流雫の声は、弱々しい。
 その様子に澪は、修学旅行先の福岡で暴動に遭遇したあの日の自分を見ている気がした。自分といたから、結奈と彩花が危険な目に遭った……、そう泣き叫んでいたあの夜を思い出す。
 互いに褒められない部分も有るし、互いに甘い自覚は有る。それでも、今は……流雫を絶対的に肯定したかった。独りで全てを抱え、苦しまないように。流雫もそうだろうけど、何よりも見ているあたしが耐えられない。
「……サンキュ、澪……」
とだけ言った流雫の声に、平静が少し戻ってきた。それだけで、澪は安堵の溜め息をつく。
 声色だけの微かな違いだけで、表情が判るし今何を思っているか読める……それは、どんな時だって一緒だったからこそ、できること。それは、自慢したい。

 気晴らしにと他愛ない話をして、終話ボタン押した澪は、喉の渇きを覚えるとドリンクを求めてリビングに下りる。そこでは、20分前まで少量ながら日本酒を愉しんでいた父……室堂常願が、ベテラン刑事の表情でスーツに袖を通していた。
「一瞬で酔いが覚めたな」
と呟く父を目にした澪は、
「今から出勤なの?」
と問う。もう22時で、しかも明日は非番だったハズだ。何か有った、とは容易に想像がつく。
「ああ、署から呼び出されてな。久々にタクシー出勤だ」
と言った父は、目付きを変えて続ける。
 「……恐らく、全て大きく動くぞ」
「え?どう云う……」
と困惑気味に問う澪の目を一度だけ見た常願は、少しの間を置いて言った。
 「欅平千寿が……あの宗教学者が出頭した。あの記事の件で、話が有ると」
「……え……?」
と声を上げた澪の目付きが変わる。
「言えることはそれだけだ」
と言った父のスマートフォンが通知音を鳴らす。手配したタクシーがもうすぐ到着するらしい。
 「じゃあ、行ってくる」
と妻の室堂美雪と娘に言い残し、常願は玄関へと消えていく。残った日本酒は、そのまま母が飲み始める。澪も冷蔵庫から取り出したジンジャーエールで相手をした。
 その後で部屋に戻った澪は、ベッドに寝そべる。
「……流雫、何が有っても、あたしは流雫を見捨てない。流雫があたしを見捨てないこと、誰より知ってるから……」
そう呟き、少女は目を閉じる。薄れる気配が無い意識が代わりに寄越したのは、一度だけ見た美桜との夢だった。
 ……美桜さんが、今の彼女の父親と流雫を目の当たりにしたとして、どんな思いをしているのだろう?そう思うと、眠れる気がしなかった。

 次の日。昼休みになると同時に、流雫は職員室に呼び出された。来客が待っていると云う。弥陀ヶ原だった。澪の父は臨海署にいるらしく、今日は1人だ。
 シルバーヘアの少年は、重要参考人として河月署へ同行を求められ、早退することになった。殺風景な取調室は、もう何度目だろうか。
 流雫は、教室で開ける予定だったランチボックスを取り出す。中に詰めていたサンドイッチを頬張っていると、弥陀ヶ原はタブレットを取り出し
「会見、始まるぞ」
と言った。それと同時に、臨海署での会見が始まった。中心にいるのは、美桜の父親だった。

 ……井上元幹事長は大学のOBで、それがきっかけで個人的な交遊が有った。そして、宗教学者として相談を受け、旭鷲教会の創設を提案した。しかし、トーキョーアタックの数ヶ月前から会えなくなった。インバウンド政策に関する批判が強まった頃だ。
 最後に会ったのは昨年の2月、旭鷲教会を追放された直後だった。元幹事長から誘われた話は、雑談も含めて7時間にも及んだ。今思えば、これが今生の別れだと悟っていたのかもしれない。
 ノエル・ド・アンフェルへの関与は、その時初めて聞いた話だ。だが、トーキョーアタックへの関与は潔白だと言っていた。そして3月、元幹事長は殺された。
 そして、旭鷲教会による太陽騎士団を狙った一連の事件は、国会にいる旭鷲教会信者やその母体、旭鷲会との関係が有る連中による、教団潰しのため。太陽騎士団信者による内紛に見せかけた偽旗作戦だ。目的は、太陽騎士団を排除すれば旭鷲教会に盾突く者がいなくなるからだ。

 1時間以上に及ぶ会見の配信に釘付けになった流雫は、軽く混乱していた。1日前に見たあの剣幕は何だったのか、と思えるほどに淡々と、そしてタブーを語っていく宗教学者に、一種の不信感が押し寄せる。
 「……どう思う?」
と、弥陀ヶ原はコーヒーが注がれた紙コップを机に置きながら問う。
「このために、僕を早退させた?」
「ああ。……授業中に気の毒だと思うが、やはり我々は君を必要としている」
と弥陀ヶ原は言った。
「……昨日のは、何だったんだ……」
と答えた流雫は、昨日のことを軽く話した。しかし、今見た会見で、虚偽の話をしているとは思えない。
 「流雫くんと一悶着有った、その後で翻意したんじゃないか?」
と言った刑事に
「まさか……」
と答えた少年は、しかし翻意そのものは間違っていないと思った。そうでもなければ、流雫に日本を混乱に陥れたと怒鳴ってきたことへの説明が付かない。
 とは云え、自分の言葉がきっかけだった、とは思っていない。何か、そうさせるだけの出来事が有った……?尤も、自分が知る必要は無いが。
 「伏見さんが激怒するな、これ……」
と流雫は言った。恐らく夜、澪は敬虔な信者の詩応から憤怒を聞かされるに違いない。サンドバッグは気の毒だが、それだけ彼女が澪を信じている証左だ。
「さて、改めて感想は?」
と弥陀ヶ原は問う。流雫は思ったことを、ストレートに話し始めた。

 スピーカーから聞こえてくる、名古屋の少女の言葉に、刑事の娘はただ相槌を打つだけだった。その最後に、
「アルスが、旭鷲教会の思惑を潰すと言ってた。それ、こう云うことだったのか……」
と言った詩応に、澪は言う。
「……でも、これで何もかも明るみになって……」
「……平和が戻ってくるといいな……」
そう続けた詩応は、机に置いたフォトスタンドを眺める。姉が最後に観戦した、自分の陸上大会の後に撮った写真。……あれから半年、漸く姉を殺した連中に、捜査のメスが入ろうとしている。
 「……アネキ……」
とだけ呟いた低めの声に、澪は
「……あたしが言う言葉じゃない、だけど……これで、誰もが救われてほしい……」
とだけ、囁くように言った。詩応の姉……伏見詩愛だけじゃない、トーキョーアタックで殺された美桜も、そして……あの日から苦しみを抱え続ける流雫も。誰もが救われてほしかった。

 旭鷲会とその傘下の教団への、強制捜査が入ったのはその週末のことだった。東京の本部だけでなく、河月の西端に建つ教団施設もその対象となった。OFA唯一の支部、山梨支部の真裏の土地に建てられた3棟の施設で、修練場と宿舎、そして事務所を兼ねる教会が存在する。
 だが、予想に反して抗議の声は大きくなかった。
 海外で連日日本の宗教問題がクローズアップされ、ノエル・ド・アンフェルやフランスでの事件を絡めて国際問題に発展させられた以上、内政干渉だとして突っぱねるワケにもいかなくなった。強制捜査は不本意だが、これさえ乗り切れば問題無い……そう思ったのだろうか。
 流雫はその詳報を読みながら、しかし
「……これで終わる……ワケが無い」
と呟いた。 
 OFAと、そして伊万里と戦っていた時もそうだった。強制捜査の直後から、形振り構わぬ逆襲が始まった。秋葉原駅前での青酸ガス散布と、トーキョーアタックの追悼式典を狙った空港テロ……。特に澪は、その両方に遭遇している。その再来、それが流雫にとって最大の不安だった。
 ……捜査の結果、特に異常無し。それでこの件は強制終了……それが次の目的だろう。そして、名誉毀損で暴走を始める算段か。それに屈するワケにはいかない。
 ……明日、渋谷に行こう。美桜に会いたい。但し、澪は誘わない……。

 翌日、快速列車に揺られ、新宿へ向かった流雫。ドアが開くと、そこには最愛の少女が立っていた。
「流雫!」
と名を呼んだのは、澪。……誘わないと決めていたが、寝る直前になってふと
「明日、東京に行く」
とだけ打った。あまりにも急だし、流石に合流しないだろう……とは思っていたが、それなら会いたいと言ってきた。
 ……誘わない、しかしついてくると言ったことまでは、流雫は拒否できない。そして1人頭を整理したい、とは思っていたが、無意識に澪を求めていた。
「澪!」
と呼んだ声は、少しだけ弾んでいた。
 厚い雲に覆われた渋谷に着くと、流雫は慰霊碑の前に立つ。
「……僕の正義は、間違ってなかったんだよね……?」
かつて愛した……愛したかった少女に、そう呟く流雫。
 ……間違ってないよ。そう言ってほしかった。澪でなく、美桜に。彼女の父親との対立で、少しだけ思うことが有って、だから彼女に縋りたかった。
 その隣で、澪は黙ったままだった。流雫がどう自分なりの決着を付けるのか、見守ることしかできない。ただ、心配はしていない。流雫は、あたしが思っているより、そして彼自身が思っているより、遙かに強い。弱いワケが無い。
 人は生きている限り、迷う生き物。だとするなら、今の迷いすら避けられない。そして、それが小さくても経験になり、流雫の力になっていく。今までもそうだった。
 だから、あたしは1歩だけ前に立って、振り向いていたい。あたしに追いつこうとして、その1歩差を埋めた流雫を、抱きしめてあげられるように。

 ……十数分ほど、立ち尽くしていただろうか。隣に澪がいたから、流雫は辛うじて整理が付いた。
「……サンキュ……」
とだけ言った流雫に
「気にしないの」
と返した澪は、少しだけ背伸びしていた。
 ……それぞれに正義が有って、譲れなくて、だから争いが生まれる。正義と云うのは、とにかく厄介な信念だ……。この2年近くの間、刑事の娘はそう思い知らされてきた。そして、それはフランスにルーツを持つ少年の方が、よく知っている。
 腕時計を見ると、あと20分で正午になる。何処かでサンドイッチでも口にしたい……と思った流雫は、ふと周囲を見回す。スクランブル交差点、その対角線上でタクシーが動き出した。その瞬間、キャビンがオレンジ色に光る。
 「澪!!」
流雫が隣の少女を押し倒しながら、身を翻し自分を下敷きにする。それと同時に、爆発音が2人の鼓膜に突き刺さった。
「きゃあぁぁっ!!」
流雫の耳元に響く澪の叫びすら、周囲の悲鳴に掻き消される。
「何なの!?」
「報復……」
恋人の問いに、流雫は直感だけで答えた。しかし、そうとしか思えない。ましてやこの街は……。
 パニックに陥り、赤信号の交差点に飛び出した群衆の叫び声と、それに向かって鳴らされるクラクションが重なった。それに混ざる発砲音……。
「なっ!?」
流雫は思わずそれに目を向ける。
 「うわぁぁぁぁ!!」
と中年の男が叫びながら、飛び出した自分と接触しかけた路線バスに向かって引き金を引いた。フロントウィンドウが6発の銃弾で割られ、乗客が慌ててドアを抉じ開けて飛び出す。乗務員は運転席に座ったまま、既に事切れていた。血塗れの上半身がステアリングホイールに乗り、クラクションを鳴らし続ける。
 何人かが銃を構え、弾切れに苛立つ男に向けて引き金を引く。十数発の銃声と同時に、痩せ気味の身体が前のめりに倒れた。
「くたばれ!」
「ざまぁ!!」
と罵声や勝ち鬨が上がり、何人かはその光景にスマートフォンを向けている。その端にいる男女4人……それに見覚えが有った流雫は
 「河月にもいた……」
と、無意識に呟いた。

 2月、河月の教会立て籠りの直前に見掛け、しかしその直後に消えたあの4人。内部にいなかった、それは連中が実行犯でないことを意味していた。しかし、あの時の教会の様子も記録され、動画サイトに投稿されていた……。
「そう云う役目か……」
流雫は呟いた。
 ……記録部隊。事件の様子を記録することで、外部には太陽騎士団の信者による犯行だと見せ掛け、危険な教団だと云う世論を高める目的が有る。そして内部には、これだけの成果を上げたとして士気を高める目的が有る。
 ただ、アルスが言った通り全ての信者が同じではない。乗り気なのは、ごく一部の強硬派だけなのだろうが。
 ……つまり、この騒動も……。
「……やっぱり報復か……」
と再度無意識に呟いた流雫に、澪は一瞬身体を痙攣させた。……相手は社会か……。
「流雫……」
その声は怯えている。
 少女は、秋葉原駅前のテロを思い出していた。登校日だった学校帰り、臨海副都心で開かれていたオタク向けイベントからのハシゴで混み合う駅前で遭遇し、軽症ながらも結奈と彩花が病院に搬送された。
 蒸し暑い8月の出来事は、今でも軽くトラウマになっている。
 「澪は逃げ……」
「やだ!」
最愛の少年の言葉を遮り、拒絶した澪は立ち上がる。
「流雫と逃げる!」
そう声を張り上げた澪は、遅れて立ち上がった流雫と離れるのが怖かった。離れて、二度と生きて会えないのでは……と。形振り構わなくなってきたテロを前に、最悪の不安が押し寄せる。
 それは、流雫も同じだった。だから澪だけでも逃がしたい。ただ、澪は流雫と一緒じゃなければ逃げない。
 ……ならば、2人で逃げ切るしかない。覚悟を決めた流雫は、無意識に澪と指を絡める。絶対に逃げ切る、死なないと云う誓いだった。

 パニックに陥ったスクランブル交差点から駅へと走ろうとする2人の耳に、またも爆発音が聞こえた。
「なっ!?」
流雫が周囲を見回すと、少し離れた場所で黒い煙が上がっている。……あの方角は……。
「……日本支部が……狙われた……?」
その呟きに、澪は目を見開き
「太陽……騎士団の……!?」
と問うた。答えは判っていた、しかし何処かで違うと思いたかったし、言ってほしかった。

 ……欅平千寿の会見で、太陽騎士団の地位こそ回復には至っていないが、旭鷲教会の地位は急速に低下した。今まで露出が極めて少なかった教団の存在と実態が、関係者にとっては最悪の形で暴かれた。
 ……一瞬で敵に回った社会への報復、そして太陽騎士団に対する総攻撃……。今夜あたり、流雫はアルスからの通話を受けることになるだろうが、その口調は既に読めている。事件に遭遇したハズの少年の方が宥めると云う構図なのは、間違いない。
 駅へと走り出した2人の背後から、銃声が響く。吹き飛ばしたのは、理性だった。何人かが鞄から銃を取り出した。そのうちの1人が、2人の足元を狙った。
 「きゃっ!」
「くっ……!」
咄嗟に躱した流雫と澪が、同時に男を睨み付ける。2人を嘲笑うような目付きをした大学生の痩せ気味の男に……ロックオンされた。流雫はディープレッドのショルダーバッグからガンメタリックの銃を取り出す。
 ……銃を向けられても、触発されない勇気を。銃弾に勝るのは心だけ。そう呼び掛ける公共広告が最近になって放送されるようになった。しかし、そう云う綺麗事が通じないことは、経験則で判っている。
 何より、眼鏡越しの眼差しがデスゲームを見ているかのようだ。僕たちは奴のNPCでも噛ませ犬でもない。そして、これはゲームじゃない。
「流雫……!」
今まで何度も見てきた、悲壮感が混ざった戦士のような眼差しに、澪は覚悟を決めた。シルバーの銃身を取り出す。そして、それぞれの片耳に挿したブルートゥースイヤフォンから声が聞こえる。
「僕が囮になる……」
「……判った」
流雫の言葉に、澪は従った。言い争う時間は無い。運動能力に優れ、何度も自分を支えてきた少年に従う。そして澪は、自分の役目に頷いた。
 ……流雫も、澪が銃を撃つのは避けられないことは覚悟している。ならば、自分に目を向けさせる。それで彼女が撃つことなく決着が付けばパーフェクト……そう思うしか、今は術が無い。
 流雫は動いた。靴音を響かせ、男に向かって走り出す。逃げると読んだが、正反対……男は一瞬不可解な表情を浮かべた。
 自分から撃たれたいのか、そう思った男が銃口を向け直そうとした瞬間、シルバーヘアの少年は止まりながら、ショルダーバッグを振り回した。同時に男の視界が鈍い音を立てて90度曲がり、首と頬に激痛が走る。
「ぶっ!!」
と醜い声が上がった。
 中には貴重品と銃のレザーホルダーしか入っていないが、ハンマー投げの要領でスピードは乗っている。軽くても痛い。
 眼鏡の位置を直しながら睨む男は、目線を逸らさない流雫に向かって
「悪魔の分際で……!」
と大声を上げる。
 その瞬間、流雫と澪は目を見開き
「やっぱりか……」
と呟いた。互いの声がイヤフォン越しに耳に響く。
 ……標的は、悪魔。その名は、宇奈月流雫。
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