銀色の粉雪

いりゅーなぎさ

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美冬編

記憶をなくした少年

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 暑い夏の季節が終わり、山奥の村に紅葉の季節が近づいて来ていた。
 美雪と美冬を乗せた馬車が、麓での買い物を終えてゆっくりと山道を登っていた。
「美冬、もうすぐ村に着くよ?」 美冬は美雪に声をかけられ、眠い目をこすりながら幌から顔を出した。
「今、どの辺なの?」
「もうすぐ橋が見えてくるくらい。……美冬、寝るのは家についてからにしなさいよ?」
「はぁい」

 冬弥の死から六年。美冬は、かつて美雪と初めてあった頃の冬弥と同じ十二歳に成長していた。

 馬車は山奥の村の門をくぐる。
 と、美雪と美冬が村に戻るのと入れ替わりのようなカタチで、馬車の準備をしている女性がいた。――涼子だ。
「あ、いま戻ってきたんだ。よかった、狭い山道で入れ替わりになったらちょっと面倒だったんだよね」
「涼子さん、いいんですか? そんな身体で馬車なんか出して?」
 そんな身体――そう、涼子は外見からは目立たないのだが、今、子供を身ごもっているのだ。
「いいっていいって。家でじっとしてるなんて私の性分じゃないもん。――あ、でも源一には黙っててね。あいつが知ると、また連れ戻しに来る」
「またって……。涼子さん、前にも源一さんに黙って麓までいってるんですか?」
「でも、涼子おばちゃん?」
「おば、ちゃん? ……いつになってもカチンとくる響きだね。ま、あたしらもそういう歳になっちゃったってことか」
「いいの、おばちゃん? 源一おじさん、こっちにくるよ?」
「げ、やばっ。じゃあ、美雪。そろそろいくね?」
 馬車を出発させようと、手綱を手に取ろうとするが、美雪がそれを邪魔する。
「ちょっと、美雪?」
「駄目ですよ、涼子さん。いまは大事な時期なんですから、おとなしくしててください」
 息を切らせながら源一がやってくる。
「悪い美雪、助かった。――涼子っ。お前は何度言ったらわかるんだ。お前はもうすぐ母親になるんだぞ?」
「そんなこと言われたって……」 すがるような瞳で源一を見つめる。
「……わかったよ。もう少しで仕事にきりがつくから、その後でいいなら、俺が馬車を出してやる」
「――ありがとう、源一。愛してるよっ」
「ったく、お前の愛してるはいっつも現金なんだよ」
 源一と涼子が二人の世界に入ってしまったようで。
「……ほら、お母さん。二人の邪魔しちゃ悪いから、早く戻ろうよ」
「そうね。――涼子さん、あんまり無理しないでくださいよ」
 馬車を押しながら、美雪は自宅へと向かっていった。
 美雪たちが去った後、涼子が口を開く。
「でも、よかった。美雪もすっかり立ち直ったみたいで」
「ああ、あの時はひどかったからな。正直、美冬がいなかったらなにをしでかしていたか」
「……冬弥の後を追いかねなかったからね」

 麓での買い物を終え、家に戻ってきた美雪と美冬は、麓で買ってきたもので遅い昼食をいただいていた。
「ねぇ美冬。馬車の練習の方はどう?」
「やっぱり難しいよ。源一おじさんの教え方は悪くないんだけど、実際にやってみるとどうもうまくいかないんだよねぇ」
「どうにか冬がくる前に覚えてもらえると、私も助かるんだけど」
「もう少し長い目で見てよぉ。私の誕生日には間に合うようにがんばるからさぁ」
「ふぅ。冬弥くんはあなたくらいの歳のころには完璧に馬車を操舵していたっていうのに」
「お母さんに似たんでしょ? お母さん、いまでも時々危なっかしい走り方してるもん」
「本当、言うようになったわね。――今日は誰に教わるの?」
「昨日が源一おじさんだったから、今日は涼子おばさんかな?」
「だったら涼子さんに言っておかなくちゃね。厳しく教えてくださいって」

 いつもと変わらない村の日常。
 私はまだ知らなかった。
 もうじき、この日常が一変する出来事が起ころうとしていることに。
 そしてそれは、今後の長い人生の中で忘れることの出来ない、忘れてはいけない出来事になるという事に。

 これから始まるのは、銀色の粉雪にまつわる、私と、これから出会う私の大切な人との物語。

 次の日。今日も朝から麓での買い出しの準備に追われていた。
「美冬、準備は出来てる? そろそろ馬車を出すよ?」
「あ、待って待って。すぐに行くから」

 美雪の操舵で馬車は山道を下り、麓の町に到着する。
 麓に来たらまず実家に顔を出す。
 冬弥がいたころからのいつのまにか決まっていた暗黙の決まり事だった。

「いらっしゃい、美冬ちゃん。さあ、上がって上がって。今、ちょうどケーキが焼けたところだから」
 雪子の家につくと、玄関で雪子が美雪たちを出迎えてくれた。
 紅茶とケーキをいただきながら、たわいのない世間話をする。
 と、雪子が突然こんな話をきりだしてきた。
「ねぇ、美雪。あなたたちはここで暮らすつもりはないの?」
「……ゴメンね、お母さん。お母さんがお父さんとの約束でこの家から離れられないのと同じように、私も冬弥くんとの思い出のあるあの家を離れたくないの」
「そう……」 雪子は少し悲しい表情を見せる。
「……もしかして、おばあちゃんとお父さんって仲が悪かったの?」 雪子の表情を見て、美冬がそう言いだした。
「美冬? ――どうしてそう思うの?」
「だっておばあちゃん、お父さんの名前が出た途端に悲しい顔をするから……」
「美冬ちゃん、それは少し違うと思わない?」
「? どういうこと?」
「私はね、冬弥くんのこと大好きなんですよ。それは美雪と同じくらいにね。――だから、悲しいんですよ。大切な私の子供が一人いなくなっちゃって」
「お母さん……」
「おばあちゃん、元気だして」
「大丈夫よ、美冬ちゃん。いまは冬弥くんと美雪の子供――私の孫のあなたがいてくれるから」

 買い物を終え、村に戻るため馬車は山道を走っていた。
「……やっぱりおばあちゃん、寂しいんじゃないのかな?」
 馬車を操舵する美雪に対し、美冬はそう話しかけた。
「……そうね。もうじき冬がくるし、冬になると麓にはいけなくなるからね」
「そうだ。今年の冬は麓で暮らそうよ。そうすれば、おばあちゃんだって寂しくないし――」
「ふふ」
「あー、お母さん笑った。なにがおかしいっていうのよ?」
「ゴメンなさいね。ただ、昔を思い出して、ね」
「昔?」
「知ってる? 実は冬弥くんも一度だけ冬の間麓で暮らしていたことがあったんだよ?」
「お父さんが?」
「そう。冬弥くんね、そのときは小さな狐の子を連れていてね――」
 美雪が思い出話をしていると、美冬が突然に声を上げた。
「! お母さん、止めてっ」
「え?」
「早くっ。人が倒れてる」
 困惑しながらも、美雪は手綱を引き馬車を止める。
 馬車が減速し始めたのと同時に、美冬が荷台から飛び降りる。
 そして、通ってきた道を走って戻っていく。
 山道で倒れていたのは、美冬と同じくらいの歳の男の子だった。
 うつ伏せに倒れており、動かない。
 美雪が馬車を路肩に止めて、馬を適当な木につなぐ。
 馬をつなぎ終えると、すぐに美冬の元に向かった。
 駆けつけたとき、美冬は倒れている男の子の前で立ち尽くしていた。
「お母さん、どうしよう。この子、動かないよ」
 美雪が男の子に近づく。
 男の子を抱きかかえようと身体を反転させたときだった。
 男の子の顔を見た瞬間、美雪が硬直する。
 その顔には見覚えがあった。――いや、見覚えどころの話ではない。その顔は、美雪のよく知る人物だった。
「冬弥、くん?」 思わずその名を口に出していた。
 わかってはいる、この子は冬弥ではないと。
 死んだはずの冬弥が、初めて出会った少年の頃の姿でここにいるはずはないと。
 だが、この少年は冬弥に似ていた。――いや、似ているという言葉では表現しきれないだろう。
「お母さん?」 少年を抱えたまま動かない美雪を不思議に思い、美冬が声をかけてきた。
 その声に我を取り戻すと、美雪は少年の口元に手を当てた。
 かすかだが、息を感じ取れた。
「大丈夫、気を失っているだけみたい。――美冬、この子を一旦村に運びましょう。ちょっと手伝ってもらえる?」

 とりあえず、少年を自宅に運び布団を掛けて寝かした。
 しばらくして美雪が徳重を連れて家に戻ってきた。
「……これでもう大丈夫です。あとはじきに目が覚めるでしょう」
「すいません、徳先生。お手数をおかけして」
「いえ、いいですよ。――でも、本当に冬弥くんにそっくりですね」
「お母さんもそう言ったけど、そんなにお父さんに似てるのかな?」
「似ているのは、美冬ちゃんと同じ歳くらいの時の冬弥くんにですよ。――ちょうど、あの一件があった時ですね」
「あの一件?」
「……それはまたの機会にお話ししましょう。では、私は戻りますね」
「あ、はい。ありがとうございました」
 徳重が美雪の家を後にする。
「お母さん、あの一件って?」
「――冬弥くんが医者を目指すきっかけとなった出来事があったの。ほら、前に話したことがあったでしょ?」
「お父さんが竜神様に会ったって話?」
「いまとなっては、詳しいことは誰もわからなくなっちゃったんだけどね」
「竜神様かぁ……。私も一度会ってみたいな」

 それは、夕食を終えて少年の様子をうかがおうとした時だった。
 少年が眠っていた部屋の布団には、誰の姿もなかった。
「お母さん、あの子がいないよ?」
 勝手に出ていってしまったのだろうか? ――だが、美雪は黙って部屋を移動する。
 それはまるで、少年がどこに行ったのかをわかっているような行動だった。
 美雪はかつて冬弥の部屋だった部屋の扉を開けた。
 その部屋に置かれた、冬弥の遺影の前に少年は立っていた。……なにも喋らず、ただ涙を流しながら。
「……その人をご存じなのですか?」
 美雪が少年に声をかける。
 それは初対面の者に対して語りかける言葉ではなかった。
 少年は突然に声をかけられたことに驚きながらも、美雪の問いに答える。
「……わからない。ただ、この人の顔を見ていると、涙が出てくるんです」
 その声に驚きの表情を隠せなかった。
 姿だけでなく、その声も幼き日の冬弥そのものなのだから。
「……あなた、名前は?」
「……わからない」
「わからないって、自分の事なのに?」
「美冬っ」
「いや、彼女の言うとおりです。――おかしいですよね? 自分の事だっていうのに」
「とにかく、まだ目が覚めたばかりなんですから、詳しい話は食事でもとりながらしましょうか」
「? お母さん、ご飯ならさっき食べたよ?」
「私たちはね。――お腹、空いているでしょ? 私たちの夕食の残りでよければすぐに用意しますよ?」
「いいんですか?」
「ええ。……これからの事を話さなくちゃならないしね」

 少年が食事を終え、箸を置く。
「ごちそうさまでした」
「ふふ、お粗末様です。――じゃあ、質問に答えてもらえますか?」
「……多分、答えられることは少ないですよ?」
「それでもあなたには聞かなくちゃならない事がたくさんあるの。……なぜあんな場所で倒れていたのか、なぜあの部屋で涙を流していたのか、なぜあなたがそんな姿をしているのか」
「そんな、姿?」
「あなたは私の一番大切な人と同じ姿をしているの。――いえ、正確に言えばその人の子供の頃と同じ姿と言うべきね」
 険しい表情で、美雪は少年に詰め寄る。
「ストップっ」 制止の声を上げたのは美冬だった。
「お母さん、そこまでにしなよ。その子、怖がってるじゃない」
 美冬に言われて気づく。美雪がものすごい剣幕で少年に詰め寄っていたことに。
「……ゴメンなさい、あなたのことも考えずに」
「いいですよ、気にしてませんから」
「それよりお母さん、いまはこの子をどうするかでしょ?」
「そうね。……明日、源一さんや涼子さんに相談してみましょうか」
「すみません、俺のために」
「とりあえず、今日のところは家でゆっくり休んでください。部屋はさっきまであなたが眠っていた部屋をそのまま使ってくださいね」
「あ、あの――」 少年が美雪を引き留める。
「? どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
 なにを言いかけたのだろうか? 少年はその言葉を飲み込んでしまった。

 翌日。まだ朝早い時間にもかかわらず、少年と美雪、そして美冬の三人は源一の家に向かっていた。
 玄関を叩くと、すぐに源一が姿を現す。
「ごめんなさい、こんな朝早くに。実は源一さんと涼子さんに相談したいことがありまして」
「相談? いったい、なに――」
 源一の視界に少年の姿が入り込む。その瞬間、源一が言葉を失った。
「……と、冬弥? ――いや、そんなはずはない。だが、これはいったい……」
「相談したいのはこの子のことなんです」
「この子、昨日山道で倒れていたんだよ? ――でも、昨日のお母さんや徳先生も、いまの源一おじちゃんもみんなしてお父さんの名前を出すけど、この子そんなに似てるの?」
「多分、徳兄も言ってたんじゃないか? ……子供の頃の冬弥そのまんまって」
「冬弥って、昨日の写真の人ですよね? その人と俺はなにか関係があるのでしょうか?」
「……驚いた、声までまんまじゃねぇか。――しかし、変な言い方をするな? 自分のことをまるで他人事みたいに」
「源一さん、この子、何も覚えていないみたいなんです」
「記憶喪失か……」
 玄関での話し声が気になってか、家の中から涼子が顔を出してきた。
「なに、源一? こんな朝早くから?」
「朝早くって言うほどの時間じゃねぇだろ。――ようやく起きたのか?」
「まだ眠いよ。で、なんの騒――」
 源一の時と同じで、涼子も少年の顔を見て言葉を失う……と思っていたが――
「なにこの子? ちょっと美雪、アンタいつ二人目作ってたのよ? この子、冬弥にそっくりじゃない」
 源一は頭を抱える。
「とりあえず、中に入ってくれ。涼子も起きてきたし、詳しいことは腰を据えて話すとしよう」

「――じゃあ、この子は山道で倒れていたってこと?」
 涼子にこれまでの経緯を説明する。
「それにしては、あまりにも冬弥に似すぎているじゃない? ――で、美雪はこの子をどうしたいわけ?」
「どうしたいって言われても、どうしていいかわからなくて。そこで、お二人に相談に来たんです」
「ふーん。で、その子はなんて言ってるわけ?」
「え?」 突然に話をふられ、少年は戸惑った。
「……もしかして、まだその子の意見を聞いてないわけ?」
「でも涼子おばちゃん。この子、なにも覚えていないんだよ?」
「そんなの、これからの事を決めるのに関係ないじゃん」
「!」 涼子の一言で少年の表情が変わる。
 源一はその変化を見逃さなかった。
「……なにか、言いたそうだな?」
「はい」
「じゃあ、アンタから言いなよ。自分がこれからどうしたいのか」
「……俺を、この村に置いてもらえませんか?」
「それは言うべき相手が違うな。……美雪、お前が決めろ」
 美雪はなにも答えない。
「ダメ、ですか?」
「ダメとは言いません。ですが、もし麓にアナタを探している人がいるとしたら――」
「……アンタ、本気でそんなこと思っているの?」
「涼子さんはそう思ってはいないんですか?」
「私はそうは思わないね。その子は――」
 なにかを言いかけて、そこで止める。
「いや、根拠のない憶測を口にするのはやめとくわ。とにかく、その子はアンタの家で暮らすのが一番だと思う。――自分で意見を言えとか言っといて、こういうのもなんなんだけど、ね」
「お母さん、私はこの子が家で暮らすの賛成だよ。なんか、弟ができたみたいでうれしいよ」
「どっちかというと、美冬の方が下に思えるんだがなぁ」
「私がお姉さんなのっ」
「ま、そういうことにしておこう。――美雪。お前が答えを躊躇しているのはそいつが冬弥に似すぎているからだろう」
 源一の核心をつく一言。そして言葉を続ける。
「だからこそ、そいつはお前の家――冬弥の家で暮らすべきなんだ。俺は――いや、俺と涼子はそいつがお前の前に現れたのを偶然で片づけられるとは思っていない。多分、涼子が言いかけて止めた言葉もそういう感じの言葉なんだろう」
「……『銀雪(ぎんせつ)』でいいかしら?」 美雪が突然に少年に話しかける。
「はい?」 言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。
「あなたの名前。これから一緒に暮らすのに、名前がないのは不便でしょ?」
「じゃあ――」
「ちょっと、銀雪って名前はたしか――」
「? なんのことだ、涼子?」
「銀雪って名前は、冬弥が生まれてきた子供が男の子だったら名付ける予定だった名前なんだよ」
「! ……いいのか、美雪?」
「きっと、冬弥くんがこの場にいたとしたら、この名前をつけていたと思いませんか? だから、あなたの記憶が戻るまであなたにはその名前を貸してあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、村で暮らす前に、麓でいなくなった子がいないかの聞き込みくらいはしますよ? いいですね?」
「はい」
 少年――いや、もう銀雪と呼ぶべきだろう。銀雪は明るい声で返事を返した。
「なぁ、涼子。本当にあいつが麓の子供だと思うか?」
「あんな姿をしている子だったら、麓で偶然に見かけたとしても忘れるわけがないじゃない? けど、その辺ははっきりしておいた方が今後村で暮らすのに心配がなくなるんじゃない?」
「そういうものか?」
「そういうもの。と、いうわけで源一? アタシも麓に――」
「それはダメだ」
「いいじゃない、出産予定だって春先になるんだから」
「お前は少し母親になることを自覚しろ。ようやく授かった子供だぞ? あんまり無茶なことはしないでくれ」
「なんだかんだ言ってても、やっぱ源一おじちゃんは涼子おばちゃんにやさしいね?」
「こいつがもう少し自覚してくれれば、俺も気が楽なんだがなぁ」

 源一の家を後にすると、美雪は馬車の準備を始める。
「お母さん、今日はおばあちゃんのところには寄るの」
「お婆ちゃん?」 麓に雪子の家があることを知らない銀雪には、美冬の言葉の意味がわからない。
「あ、そういえば銀雪は知らないよね? うちのおばあちゃん、麓に住んでいるんだよ」
「麓? そういえば、さっきも言ってましたけど麓ってどこのことなんですか?」 ――今の銀雪は村と麓の位置関係すらわかっていない。
「それについては移動しながらゆっくり説明しましょう。――美冬、お母さんのところには銀雪の事が終わってからいくことにしましょう。一緒に暮らすことになれば、紹介しなくちゃいけないしね」
「はーい」
「じゃあ、二人とも後ろに乗って。出発できますよ」

 麓につくと、三人はいろいろな場所をまわって銀雪についてなにか知ってる人がいないかを探しまわった。
 役所や自警団の詰め所、さらには医者や商店街まで聞いてまわった。
 だが、予想通りというべきか、なんの情報を得られないまま、空が紅く染まり出す時間をむかえていた。
 そして、商店街でも聞き込みを終えるのと同時に、美雪は銀雪に話しかけた。
「ゴメンなさいね、いろいろと手間をとらせちゃって」
「いえ、それはこっちの台詞ですよ」
「ほらっ。だから涼子おばちゃんの言った通りだって」
 美冬は途中で聞き込みに疲れたのか、何度も美雪に聞くだけ無駄と言っていたのだ。
「最後に、もう一度確認しますよ?」
「あ、はい」
「あなたは今日から私たちの家族になります。ですが、もしなにか思い出したら必ず私に言うこと。いい? それがたとえ些細な事であってもですよ?」
「……はい」
「じゃあ、遅くなっちゃったけど、どこかで食事をとりましょうか?」
「あ、じゃあ私おばあちゃんのところで食べたい」
「え? それはいいけど、今から行ってそれから準備する事になるから、遅くなっちゃうよ? 今日は結局お昼を取れなかったのに、アナタ、大丈夫?」
「おばあちゃんのご飯のためならいくらだって待てるよ。だって、いつもはおやつくらいしか食べられないんだし、せっかくの機会だし、やっぱ久々におばあちゃんの料理が食べたいよ」
「アナタがよくても、銀雪まで待たなくちゃならないのよ?」
「あ、俺も大丈夫です。それに、美冬がそこまでいう食事なら、俺も食ってみたいです」
「あーっ、ダメだよ。美冬じゃなくて、お姉ちゃんでしょ?」
「アナタにお姉ちゃんとしての威厳があるわけないでしょっ。――いいよ、気にしなくて。あなたの呼びやすい呼び方で」
「じゃあ、改めまして。これからよろしくお願いします。美雪さん、そして美冬も」
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