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examination”C”

examination”C”の受験者たち

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 ――十二月二十五日、午前七時半。舞川家、洗面所前。
 鏡を前に、夕菜が自分の両頬に掌を叩きつけた。
「いよいよだ。いよいよ今日で……、今日であの地獄が終われる」 ……いったいこの三ヶ月、夕菜さんになにがあったんでしょうね?
「おーい、本来の目的を忘れちゃいないか?」 無我が背後から現れる。
「しょうがないじゃない、無我。この三ヶ月、私がどんだけ死ぬ思いしてきたか」
「それは最初に言ったろ? 生きてるだけもうけものと思え。――しかし、お前。今日は日向もなしによく早起き出来たな?」
「……そういえば日向、今日は起こしにこなかったねぇ? もうどこかに出かけたみたいだし、いったいこんな早くにどこにいったんだろ?」
「人のことより自分のことだ。そろそろ学校に向かった方がよくないか、夕菜? 少し早めにいっとくべきだと俺は思うぞ?」
「なによ、無我? まるで他人事みたいに」
「他人事なんだよ、俺には。俺に”C”は関係ない」
「そうでもないぜ、無我?」 陸が二人の会話に割って入る。
「おいおい、おやっさん。また俺に『Killer(キラー)』とかいう奴をやれって話か? それは断ったはずだが?」
「キラー? なんなの、それは?」 初めて聞く単語に、夕菜が陸に問いかける。
「なに、”C”がらみのEXPERT任務だ。キラーは別の者がやることになった、それとは別の、総真からの伝言がある」
「――聞きたくないって言ったら?」 無我にとって、このタイミングでの総真の伝言など、嫌な予感しかしない。
「そう言われた場合も言づかっているぞ?」 そんな無我の問いに、陸は淡々とそう言い返した。
「総真の事だ、拒否権はないとか断ったらどうなるかとか、そういった内容だろ? ――はいはい、じゃ、総真の用件とやらを聞きましょうか」
 投げやりな態度で無我は陸から伝言を聞く。
「なに、伝言は一言だけだ。登校して来い、とな」
「登校? ……何を考えてやがる、あいつは?」
「さあな。俺が頼まれたのはそれだけだ。――夜勤明けでちと眠いんでな、俺はお前らが帰ってくるまで寝らせてもらうぞ」 陸が寝室に向かっていった。
「ははは。これで無我、アンタも無関係じゃなくなったわけだ」 夕菜が笑みを浮かべながらそう言った。
「何を言ってる、夕菜。おれはただ学校に行く必要が出来ただけだ。用を済ませてとっとと学校を出れば無関係には変わりない」
 ――さてさて、そううまくいけばいいのですがねぇ。

 八時を少し過ぎた頃、無我と夕菜はガーディアンスクールの校門の前に着く。
「えーと、試験を受けるにはどうすればいいのかな?」
 学校に来てみたのはいいけど、夕菜はなにをどうすればいいのかわからず戸惑っていた。
「そこの門に張ってある紙に何か書いてないか?」
 そういって無我が校門に張り出されている告知を指差した。
[examination”C”受験者は、3-A教室にて待機。八時半の地点で教室にいない者は受験資格を剥奪する]
「なるほど。要は時間前に教室に行って、席に座って待ってろってことね」 夕菜さん、なにも『席に座って』とは限定されていませんよ?
「しかし時間厳守とは、厳しいな。それほどのものか、EXPERTって?」
「だから、アンタが特別なんだって。――で、無我。アンタはどうするの?」
「総真の意図わからんことにはなぁ。――とりあえず、無駄だと思うが職員室を覗いてくるさ」
「無駄? どうして?」
「これから”C”が始まろうってのに、その担当の総真が職員室でのんびりしてるかよ」
「じゃあ、風見先生が職員室にいなかったら、アンタどうする気よ?」
「最悪、教室で待つさ。いくらなんでも時間には責任者として顔を出さざるえないだろ?」
「ふーん。じゃあ、私は先に教室行ってるね」

 夕菜が教室に入ると、驚いたことにそこには二十人程度の人間しか来ていなかった。
「……驚いたぁ。教室いっぱいになってると思ったのに」
 夕菜がそう思うのも無理がなかった。ここまで来る校内には受験者と思える生徒が多数いたというのに、ここに入った途端、空席が目立っている状況なのだから。
「――来たね、夕菜ちゃん。今日は席は決まってないからここに座ってよ」 美紅が声をかけてきた。
「ねぇ、美紅? なんか少なくない?」 そう言いながら、夕菜は美紅のとなりの席に座った。
「まだ少し時間があるからね。――みんな迷ってるんじゃないかな?」
 ――引き戸が音を立てる。入ってきたのは幻斗だ。
「! ――そういうことか。だから、時間厳守なわけね」 入ってくるなり、幻斗は何か不思議そうな表情を浮かべながらそう呟いた。
「ちょっと、桐生? なにが『そういうこと』なの?」
「おぉ、舞川と五十嵐か。さすがにお前らは入れたようだな」
 幻斗が意味深に『入れた』という言葉を使った。夕菜がその言葉の意味を尋ねようとすると――
「……悪いな、舞川。ちとヤボ用が先だ」 幻斗はそういって教室の奥へと歩いていく。
 神威が窓辺に立って校庭を眺めている。幻斗はそんな神威に近づいていく。
「待ち人かい、天才くん? ――言っておくが無我は来ないぜ? 来る理由がないからな」
「……えーと、桐生。無我、来てるんだけど?」 幻斗と神威の会話が聞こえたので、夕菜は席に座ったまま声を上げる。
「は!? ――なんで無我が来る必要があるんだ?」 幻斗も声を上げて夕菜に問い返す。
「風見先生の呼び出し」
 夕菜がそう答えると、幻斗はため息をついた。
「まったく、総真さんも面倒を生むようなことを……」
 再び引き戸が開く。入ってきたのは――無我だ。
「? ――どういうことだ? もうじき時間が来るっていうのに、まだこれだけしか教室に入ってないのか」 無我も教室に入るなり、幻斗と同じように不思議そうな表情を浮かべた。
 無我の入室を確認し、神威が動き出す。
「待て、氷室」 幻斗が神威の前に立ちはだかる。
「キミに用はない、邪魔をするな」
 神威がそう言うと、幻斗は神威に言い返す。
「いーや、邪魔はするぜ。お前には前科がある、無我に用があるなら俺を通してもらおうか」
「――邪魔をするならば、実力行使に出るまでだ」 神威がフォースを展開し始める。
「必要とあらば、相手になるぜ?」 幻斗もそれに合わせ、フォースを展開する。
「ちょっと二人とも、またここでそんなことをするつもり? これじゃあ、この前と同じじゃない?」
 夕菜の言うとおり、これでは三ヶ月前と同じ展開だ。
 そんな空気の中、八時半のチャイムが鳴り響いた。それと同時に引き戸が開き、総真が教室に入ってくる。
 総真が教室に入ってくると、険悪な空気の二人の背中を叩き、フォースを強制的に解除させる。
「そう、急(せ)くな。後で思う存分暴れられるんだ」
 幻斗と神威の仲裁に入ると、総真はその場で声を上げた。
「――今、この時間をもって”C”の受付を終了する。今年のexamination”C”の受験者は、ここにいる二十三名とさせてもらう」
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