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Episode 4.Debug

カソウクウカンユウギ

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 ――四月十七日(日)、午前九時五十分。
 学校襲撃の件から一週間。昨日、EXPERTから日向宛に連絡があった。内容は「明日の午前十時頃にEXPERT本部に来てほしい」というものだった。
 今、日向と無我、それに夕菜が本部に向かって歩いていた。
「……なんでダメ姉がついてきてるんだろ?」 日向がポツリと呟いた。
「な、なによ? いいじゃない、ついていくぐらい。無我だってついてきてるでしょ?」
「お兄ちゃんは私からお願いしたの。でも、ダメ姉は呼んでない」
「あんたねぇ……」
「はいはい。もうすぐ着くぞ」 無我が日向と夕菜の口論を制した。
 三人の視線の先に、EXPERTの本部が見えてきた。

 本部入り口の自動ドアが開いた。すぐに目に入ってきたのは、ロビーのテーブルでカードゲームをやっている雫と幻斗の姿だった。
[*:ここにいる雫はフォースで作られた姿です。基本的には実体同様ですが、このEXPERT施設内でしか行動できないという制限があります]
「! 桐生、あんた、こんなとこでなにやってんのよ?」 想定していない人物の姿を目にして、夕菜が声を上げた。
 幻斗は手にカードを持ちながら、夕菜の方を見る。
「これはこれは。珍しい来客だな。――よっ」 手持ちのカードを裏返しにテーブルに置き、立ちあがった。
「ちょっと、幻斗。まだ勝負はついてないでしょ?」 立ち上がる幻斗に、雫が文句を言う。
「だったらさっさと牌を切れ、雨宮。ま、大方手札全てが俺の上がり牌になってんだろうがな」
「うー」 五枚の手札を見つめながらうなっている。
 よくよく見てみれば不思議なゲームをしていた。テーブルに置かれたカードゲームは旅行などで遊ぶカードタイプの麻雀ゲームだ。幻斗側のテーブルには十三枚のカードが表向きに置いてある。麻雀でいう「聴牌(テンパイ)」という上がり寸前の状態だ。雫の方は七枚、まだ途中といった感じだ。
「? なにやってんの、桐生は? なんか、麻雀みたいだけど……」
「でも、なんか違うみたいだよ? 手牌は全部見せちゃってるみたいだし、なんかさらに五枚ずつ手札をもってるし」 日向が夕菜にそう言った。
「日向、アンタ、麻雀なんか知ってんの?」
「得点計算とかはわかんないけど、ゲームではよくやるよ?」 どうやら日向はゲームの類をよくやるようだ。
「――舞川。そっちの娘は誰だ?」 幻斗は日向を知らない。夕菜に日向のことを尋ねる。
「妹」
 と、雫が日向に近づいていく。
「――ねぇ、アンタ麻雀できるの?」 そして、日向にそう尋ねた。
「え? は、はい、まぁ……」 急に雫に詰め寄られ、日向は少し途惑う。
「だったらさ、アンタが相手してくんない? ――幻斗の奴、卑怯な手ばっかでまともに勝負しないんだもん」
「ちょっと待て、雨宮。卑怯な手ってなんだ? 卑怯なのはどっちだ? おかしなルールのゲームばっか考えやがって」
「あ、あのぉ……」 日向は戸惑うしかない状況だ。
「――ていうか、桐生。彼女は誰?」 今度は夕菜が幻斗に雫のことを尋ねる。
「え? 私? 私は『雨宮 雫』って名前。わけあってこの施設から出られないかわいそうな捕われの女の子」
「雨宮っ。……お前がそれを言うと冗談にならんからヤメロ。――無我」 幻斗があわてて無我に説明を求める。
「……雫はある治療のためにここを出れないだけだ、別に捕らわれてなんかいない」 幻斗に話を振られ、とりあえず言いつくろう無我だった。
「ねぇ桐生。私にはなんで桐生がここにいるかも無我がここの事情に詳しいのかもわかんないんだけど?」
「事情にくわしいもなにも、だって無我は――」
「雨宮っ」 雫が夕菜の問いに答えようとしたのを、幻斗が声を荒げて制止する。
「ありゃりゃ、シークレットですかい」 雫が自分の失言に気づく。
 幻斗は、一息ついてから言葉を続けた。
「……やめとけ、雨宮。余計な事言って無我を怒らすのは得策じゃない。舞川もこの件については触れないでくれ」
「――まぁ、嫌な雰囲気になるのはゴメンだしね。わかった、追求はしない」 幻斗に諭され、夕菜はこの話題を切り上げた。
「それより、舞川。お前はなんの用でこんな所に来たんだ?」
「用があるのは妹の方」
「十時の約束でここにくるよう言われたんだけど……」
 日向がそう言うと、雫が日向に問い返してきた。
「十時って、もうとっくに過ぎてるねぇ。呼んだのは誰?」
「No.20の人」
「タケルかぁ。――あいつは時間にルーズだからなぁ」 雫が呆れた顔でそういった。
「――ねぇ、桐生。アンタがなんでここにいるのかだけは聞いていい?」 追求はしないと言った手前、夕菜は遠慮がちに幻斗に質問する。
「悪いな、舞川。そいつもシークレットだ」
「何言ってんのよ、幻斗。ただここに住んでるだけって理由でしょうが」 シークレットと言ったのに、雫はさらっとそう言った。
「は? 今、なんて?」 またしても想定外の答えが出てきて、夕菜は思わず聞き返す。
「幻斗はここの関係者で、つまり、私と同じでここの施設の住人だって言ったの」
「ちぃ。雨宮の奴、余計な事を言いやがって。――ま、そういうわけだ、夕菜さん。おっと、理由の詮索はゴメンこうむりたい」
 入り口の自動ドアが開く。――やってきたのはタケルだ。
「悪い悪い。どうやら待たせてしまってようだね?」 タケルがこちらにやってきた。
「自分から約束しといて、遅刻とはいい身分ね、タケル」 タケルが近づいてくるなり、雫が一言口にする。
「げ。雨宮妹が一緒にいやがる」 そしてタケルは雫を見るなり、明らかに嫌そうな表情を見せる。
「『げ』ってなによ、『げ』って」
 雫の言葉を軽く流すと、タケルは真面目な表情で話を切り出し始めた。
「――さて、日向ちゃんだっけ? ちょっとついてきてもらうよ」
「あ。話をそらしやがった。――ねぇ、タケル。無我とその子の姉には用はないんでしょ?」
「ああ。少しの間――話が終わるまでは待ってもらうことになるかな?」
「じゃあ、その二人をもらっていい?」 雫はまた、さらっとどんでもないことを口にした。
「おいおい、それは本人達に聞いてくれ。――じゃ、日向ちゃん。俺についてきて」
「あ、はい」 日向とタケルが本部の奥に消える。
 タケルの姿が消えると、雫が残った三人の方に目を向ける。
「――さて。無我と幻斗、それに、えーと……」 そういえば雫はまだ夕菜の名前を聞いていなかった。
「夕菜です」
「はいはい、夕菜ちゃんね。じゃ、夕菜もつきあってもらうよ」
「付き合うって……、私、麻雀なんて、ルールも知らないんだけど?」
「ははは、普通のゲームなんてやらないよ。夕菜ってさ、ガーディアンスクールの生徒だよね? 無我や幻斗の知り合いみたいだし、学校で見かけた事あるような気がするもん」
「え? ――じゃあ、雨宮さんもガーディアンスクールの生徒なの?」
「雫でいいよ、夕菜。『さん』付けも却下だからね、同い年なんでしょ? 無我や幻斗――つまり私とも。もっとも、私の場合は『元』ガーディアンスクール生だけどね」
「元?」
「……夕菜ってさ、二月末の列車事故の事、知ってる?」
「お、おい雫!? お前、何を言うつもりだ?」
 雫は無我の制止を無視し、言葉を続ける。
「私、その事故に巻き込まれちゃって、学校に通えなくなったの。だから『元』なの」
「え? で、でもものすごく元気そうに見えるんだけど?」
「よく言われるよ。でも、ここを一歩でも外に出たらアウト。そういう身体なの」
「……」 雫の言葉に同情してか、夕菜は言葉に詰まる。
「はいはい、夕菜。そんな顔はなし。これは私自身で決めたことなんだから。――本題に戻るよ。っていっても、ここじゃ出来ないから仮想空間室に行くよ?」
「――おい、雫。俺はパスさせてもらっていいか?」 仮想空間室に移動と聞いて、無我が急にそんなことを口にした。
「却下。――大丈夫、今の時間は誰もいないから。ほかのEXPERTもね」 だが、雫はそれを拒否する。
「? どういうこと? 他のEXPERTって?」 理解が出来ない会話に、夕菜は説明を求める。
「無我はね、タケルとかの一部のEXPERT以外のEXPERTメンバーとはあまり顔を合わせたくないんだって」
「やめろ、雨宮」 見かねて幻斗が制止に入る。
「はいはい、幻斗は無我の事になると怖いからね。じゃあ行くよ」
「ちょっと、雫? 部外者の私が奥に入っちゃっていいの?」
「大丈夫大丈夫。許可は取ってあるから」
 そう言いながら雫は施設の奥へと移動を始める。それを追うカタチで、夕菜、幻斗、無我が後に続いてついていく。
「なあ幻斗。あいつは仮想空間室なんか使って何を始める気だ?」
「――俺は実際にやった事はないんだけど、雨宮はちょくちょく仮想空間をいじってはEXPERTと戦っているんだ。『仮想空間遊戯』とか言ってな、雨宮オリジナルのルールでな」
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