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Episode 3.Assault

決着(Settlement)

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 無我が校庭に降り立つ。そして、夕菜をその場に下ろした。
「おいデカブツ。俺が相手になってやるよ」 合体ゴーレムに向かって無我はそう言った。
「やはり黒服が出てきましたか。――けっ、いつかはやりあう相手だろうが。今、ここで片付ければいいだけじゃねぇか」
 神威が動かすのがやっとな自分の身体を起こし、無我とゴーレムの戦いに目を向ける。同様に、平男も戦いに目を向ける。
(神威と平男はなんとか動けるのか……。真壱が酷いな)《ルフィル、真壱の――そこに倒れている奴の治療を頼む》
「――私がいきます」 無我のルフィルへの指示に、日向が反応した。
「ひ、日向? なんでアンタがここに?」 夕菜は日向に気づき、驚きの表情を見せる。
(? どういうことだ? たしかにテレパシーを発動させているのに)
「おしゃべりはよろしいですか? ――ムジュラ。奴にとって今生の別れになるかも知れねぇんだ、多めに見てやれや」
(……まあいい) 無我は校庭を歩き、ゴーレムの目の前へ移動する。
「待たせた詫(わ)びだ、先制攻撃をくれてやるぜ」 無我は身構えもせず、合体ゴーレムに向かってそう口にした。
「けっ、その言葉が最後の台詞でいいんだな」 ゴーレムが無我に殴りかかる。
 だが、無我は片手でその拳を受けとめた。
「――今のでだいたい分かった。ランクAの上ってとこか。多めに見てランクSだな。……ギャラリーがいなければ、あいつでもどうにかなっていたってことか」
「なにをごちゃごちゃと! ――一撃を止めたくらいでいい気にならないでいただけますか?」
「そいつは、悪かったな。なら、俺は本気でいくぜ。少しは、もってくれよ」 無我の、EXPERTモードABの発動。
 青い光が無我の身体を包み、赤い光が無我の拳を包む。
 ――後は一瞬の出来事でしかなかった。ゴーレムの攻撃はノーガードの無我にさえ効果がなく、無我の一撃はゴーレムの身体を一瞬で砕いた。――物理攻撃の効果がないはずのゴーレムを、拳の一撃という物理攻撃で。
 砕け散ったゴーレムが風化を始める。
 そこに、No.20のEXPERT――タケルが駆けつけてきた。
「あらら。結界が消えてすぐに来たって言うのになぁ……。ま、No.9が本気だすのも珍しいけどな」
《タケル》 駆けつけてきたタケルに対して、無我がテレパシーを送る。
《なんだよ無我? 俺は余計なことは言ってないぜ?》
《そうじゃない。――タケル。お前、俺に呼ばれて現れたことにしてくれないか? ……俺は一度退散する》
《ワケあり、か。いいぜ、無我。貸し1な》
「――あとは任せる、No.20」 テレポーテーション発動。無我が消える。
「はいはい、任されました。――さて、キミたち、大丈夫かい?」 無我が消えると、タケルは校庭にいるみんなに声をかける。
「僕と平田――彼は大丈夫です、強く叩きつけられはしましたが」 そういいながら神威は立ちあがる。
「こっちのお姉さんも大丈夫です」 遥の治療をしながら、日向が声を上げた。
「! そうだ。日向っ、なんであんたがここにいるわけ? それに、その力、あんたがなんでそんな力を?」 夕菜には、なぜ日向がここにいるのかが理解できない。
 と、治療を受けている遥が夕菜に話しかけてきた。
「……この娘、あなたの妹さん?」
「あ、うん。そうだけど……」
「――なるほどね」 遥が突然そう口にした。
「なによ、真壱? なにが『なるほど』なワケよ?」
「その娘ね、戦いに巻き込まれて力に目覚めたみたいなの。Boutの時のアナタみたいにね。もっとも、その力はアナタより遥かに上だけど」
「なによ? アンタまで私が出来の悪い姉だって言いたいわけ?」
「言い方が悪かったかしら? ――彼女、私達より遥かに強いって言っているの。彼女がいなければ、あのNo.9のEXPERTが現れる前に全滅していたわ」
「日向が?」
 日向が遥の治療を終え、立ち上がる。そして、タケルの元に近づいていく。
「? なんだい?」 近づいてきた日向に、タケルは用件を尋ねる。
「ねぇ、お兄ちゃんはどこいったの?」
「お兄ちゃん?」 突然にそう言われても、タケルには意味のわからないことだった。
《マスターのことだよ》 ルフィルがタケルにテレパシーを送る。日向の言葉の補足だ。
《マスター? 無我のことか? ――だが、無我に妹がいるなんて話、聞いたことないぞ?》
《僕等が世話になっているとこの娘さんだよ》
《ああ、陸さんの――》 ようやくタケルが納得したようだ。
 が、このルフィルとタケルとのやりとりに、日向が割り込んでくる。
「? お父さんを知ってるんですか?」
《! ……おい、ルフィル。この娘、まさか――》
《うん。聞こえているみたい、テレパシーが》
 日向がタケルに無我のことを尋ねているのを見て、思い出したかのように夕菜が口を開く。
「そういえば、本当にあいつどこにいったんだろ?」
「! キミと一緒に中庭に向かったんじゃなかったのか?」 夕菜の言葉に、神威が反応する。
「いや、ね。校舎を出るとき、後から来るって言って、その後中庭に行ったらこういうことになっていたから……」
「まさか、法名くん。一人のところを襲われて動けないんじゃあ――」
 平男がそんなことを口にした時だった。校門の方から無我が走ってきた。もちろん、学校の制服の姿で。
「おーい、みんな。大丈夫だったか?」
「ちょっと無我っ、アンタどこにいたのよ?」 夕菜がそう尋ねると――
《――おい、タケル?》 無我はテレパシーでタケルに話を振る。
「あ、ああ。彼は直接本部の方にやってきて、救援を要請しにきていたんだ」 タケルが無我に話を合わせる。
「状況が状況だったからな、レビテーションの使える俺なら直接本部行った方が早いと思ってな」 そして無我は、その話題に体(てい)よく乗り、もっともらしい言い訳をつけた。
「さて。そろそろ君たちは帰った方がいいと思うよ。それとも、ここに残りたいかい? 夜まで帰れなくなるかもよ?」
 タケルが皆に帰宅を促す。まぁ、人払いしたいという本音があるのだろう。
「そうね、掃除も終わって――」 そう言いながら夕菜が辺りを確認すると、辺りは掃除どうこうの問題じゃないくらいに荒れていた。
「――ないし……」
「ま、こうなっては掃除どころではだろう」 神威が夕菜にそう返した。
「ははは。ここはEXPERTの人の言うとおり、帰ろうよ、舞川さん」
「……学校側には説明してもらえるんですよね? これじゃあ、私たちが荒らしたみたいになってるし……」 夕菜が
「それは問題ない。事情が事情だからね。片付けるためにも、ここを封鎖したいから、早く帰ってもらうと助かる」
「だそうよ。舞川、氷室、平田。引き上げましょう」 真壱がそういうと、四人は校門の方に向かって歩き始めた。

 神威、平男、遥、夕菜と学校を後にしていく中、無我、ルフィル、日向がまだ残っていた。
「さて、これで話ができるな?」 四人がいなくなると、タケルが話を切り出し始めた。
「まて、まだ日向が残っているだろうが」
「無我。話は彼女についてだ」 そういってタケルの視線は日向に向けられる。
「すみません。私からも聞きたいことがあるんです」 と、日向が質問を申し出た。
「なら、先に彼女の質問から答えよう。そのかわり、後でこっちの質問にも答えてもらうよ」
「はい。――ではお聞きします。あのNo.9のEXPERTはお兄ちゃんなんですか?」
「!」 日向の口から出た、信じられない言葉に、無我が固まる。
「……なんで、そう思うんだい?」 タケルが日向に聞き返す。
「なんでって……、だって、フィルちゃんだって、あなただって言っていたじゃないですか?」
「――おい、どういうことだタケル」 それを聞いて無我は、凄い目でタケルを睨み付けた。
「らしくないな、無我。――感じないのか、さっきの会話の違和感を」
「会話の、違和感?」 無我は日向の台詞を頭の中で再生してみる。
『――だって、フィルちゃんだって、あなただって――』
『――フィルちゃんだって――』
「なっ!?」 無我がその違和感に気づいた。
「わかったか、無我? ――じゃあ、先に彼女の質問に答えてやれ」
 無我の沈黙。そして、少し溜めてからその重い口を開いた。
「……No.9は俺の事だ。だが、あまり知られたくない事だ」
「わかってる、お兄ちゃん。誰にも言わないよ」
「じゃあ、こちらの質問に移ろう。ルフィル?」 タケルが質問をルフィルに振る。
《――日向。右手を上げてみて》 そしてルフィルは日向に向けてテレパシーを送った。
「?」 日向は首を傾げながらも、ルフィルに言われた通り右手を上げたみせた。
《マスター。彼女には僕の声、つまりはテレパシーが聞こえているみたいなんだ》
「ああ。しかも無我。彼女はなんとなくではなく、はっきりと言っている内容が理解できるレベルで聞こえているようなんだ」
「あの……、もう手を下ろしてもいいですか?」 日向が手を下ろしていいかと問いかけてきた。
「ああ、すまない。もういいよ、こちらの質問はこれで終わりだ」
「え?」 タケルは質問は終わりというが、日向にとって質問されたという感覚はなかった。
「無我、それに日向ちゃんだっけ? 近いうち、こちらから連絡がいくと思う。くわしいことはその時に話そう。――ま、用件はわかっているとは思うがな」
「……帰るぞ、日向」
 無我と日向はルフィルを連れ、タケルだけをその場に残し学校を後にした。
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