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第6話 報告

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「どうやら手痛くやられたようだな、マルク」

「はい。諜報部隊の報告とは異なり、洞窟は死霊の残党で満ち満ちておりました。ネクロマンサーも健在です。こちらも不意打ちを試みましたが、既のところで防がれてしまいました。痛恨の極みです」

 俺とフィリは王宮に出向き、王や大臣に今回の一連の流れを報告している。
 これでいい。
 諜報部隊の過失も主張しつつ、こちらも出来る限りの対応をした旨を伝える。
 これである程度こちらの立場は守れる。

「そうか……。では無理もない、か」

 王はやや不服そうな表情を浮かべるが、一応は納得したようだ。
 そんな王を尻目に大臣が皮肉を漏らす。       

「なるほど……。あなたは諜報部隊の報告が誤っていたばかりに不意を突かれ撤退した、と言いたいのですね?」

 コ、コイツはっ!!
 イチイチ嫌味を言わなければ、気が済まないのか?

「そ、そういう訳ではありませんっ! ただ、事実として共有する必要があると思いましたので」

 血が上った頭を必死に抑えつけながら、弁明を試みる。

「そうですか。陛下。勇者・マルクは、病み上がりです。やはりこれ以上無理をさせるべきではありません」
「問題ないです! もう不覚はとりません!」

 大臣の言葉に俺は食い気味に応え、王に強い視線を送る。
 大臣は深く溜息をつき、王の返事を無言で待つ。
 王は俺と大臣の双方に目配せし、嘆息を交えつつ言葉を溢す。

「諜報部隊の報告に誤りがあったことはこちらの落ち度だ。本当に申し訳ない」

 そう言うと、王は深々と頭を下げて見せた。
 そして更に続ける。

「勇者・マルク。お主はこの国を、ひいては世界を救うの存在だ。大臣も言うように、無理を押して取返しのつかない事態を招いて欲しくはない。それは分かってくれるな?」
「はい……」
「うむ。して……、勝算はあるのか?」
「はい。その点について、一点報告があります」

 俺は横に跪くフィリに視線を送る。
 フィリは無言で頷く。

「陛下もかねてよりご懸念されていたとは思いますが……、我々の場合は私とクルーグが攻撃に回ると、補助や回復が手薄になります。それが結果として1年半前の失態に繋がってしまいました。私としては今後の戦線を安定させるため人員を補充するべきと、考えます」
「ふーむ」

 王はフィリの方をまじまじと物色しながら頷く。

「そこで陛下にお目通りいただきたい人材がおります。これなるはエンゲルの街出身の魔導士、フィリでございます」
「フィリと申します」

 王も大臣も怪訝な表情を崩さない。
 無理もない。
 ましてや、エンゲルなどといった聖都にとって縁もゆかりもない街の出身ともなれば警戒するのは自然だ。
 まぁそれについては、俺自身まだ疑っている部分もあるが……。
 だから、この場で信頼を勝ち取るためには実績を主張するしかない。

「彼女は魔導士としての経験こそ浅いですが、潜在能力は申し分ありません。実戦において機転も利きます。先ほど死霊たちに不意打ちを試みたと申しましたが、それもこのフィリが画策したこと。これにより一時的に劣勢を覆し、死霊たちに一矢報いることが出来ました」
「……結果的に撤退していることに変わりないのでは? それにこちらの手の内を一つ晒してしまっては、今後の戦況に影響するでしょう」

 大臣は呆れながら、俺の言い分に反論する。
 さて、ここからが勝負だ。

「ポイントはそこです。防がれたとは言え、フィリの不意打ちは死霊たち、特に主であるネクロマンサーにとってはとなったことは事実です。敵はこちらの動きを警戒し、守りを固めるに相違ありません」

 俺がそう言うと、フィリが少し気まずそうな視線を向ける。
 当然ながら、俺は気絶していたからフィリの放った一発をどれほどのものか目の当たりにしていない。
 しかし、敵が咄嗟にレジスト魔法をかけるほどの威力であったことに間違いはない。
 だから、これくらいの脚色は許容範囲だろう。

「……それが問題なのでは? こちらの動きに備えられて、あなたたちは対応できるのですか?」

 大臣のボルテージが、あからさまに高まってきたことを感じる。
 やはりこの男は根本的に俺という人間を信用していないようだ。

「敵が守りに徹しているからこそ、その間は周囲の街が脅かされることはありません。こちらが体勢を立て直す時間も稼げます。そして、守りに徹しているなら、その裏をかきやすい、ということ」

「では、何か具体的に策がある、ということですね?」

 俺は無言で頷き、じっと大臣の顔を凝視した。

「……そうですか。詳しくは聞きません。先ほど、暫定勇者パーティーから、近い内に邪神城へ乗り込む旨の連絡をいただきました。我々としても死霊の洞窟にかまけている時間はありません」

 本当にこの男は……。
 もういい。
 イチイチこの程度の減らず口を気に留めていては、心が何個あっても足りない。

「それで、陛下。フィリをパーティーに加える件、認めていただけるでしょうか?」
「……まぁ構わぬが。だが先ほども言った通り、危険な橋は渡らないでくれ。暫定勇者たちが健闘してくれてはいるが、邪神を倒すのは飽くまでもお主だ。それだけは心に留めておいてくれ」
「はっ。ありがとうございます」
「うむ。では下がれ」

「…………」

 俺はまだ話していないことがある。
 果たして、これを共有するべきなのか。
 耐性については、ルイスから術式の詳細を聞けば身につけられるはずだ。
 ここで味方同士余計な軋轢を生み、疑心暗鬼になる必要はあるのだろうか。
 俺の中で葛藤が生まれ始めた時、フィリが何かを促すような視線を向けてきた。

 話せ、ということか。
 確かに事実を明らかにするに越したことはない。
 だが……。

「どうした? まだ何かあるのか」

 俺の様子を不審に思ったのか、王はその続きを催促する。
 仕方ない。
 やはりこの流れでは話さざるを得ない。

「陛下。もう一つ報告があります。ネクロマンサーが放った特異魔法・スコトス・カストリアについて、です」
「なにっ!?」

 王の顔色が露骨に変わったことが分かる。

「まさか王族肝いりの術式が邪神一派の口から飛び出すとは思いませんでした。お恥ずかしい話、私とクルーグには耐性がなくヤツの術中に嵌ってしまいました。その他にも、ネクロマンサー配下の死霊の騎士の剣術は、魔族の用いる型とは思えませんでした。まさかとは思いますが……、王宮内に彼らと通ずるものが」

 俺が言い終える前に、大臣が血相を変え激昂する。

「勇者・マルク!! 滅多なことを申されるな!! 我らの中に裏切り者がいるとでも!?」
「私は飽くまで疑惑を提起しているだけっ!! 万が一、私の言う通り内通者がいた場合、大臣殿はどう責任を取るおつもりか!?」
「っ!?」

 俺の反論に大臣は二の句が継げないようだ。

「陛下。こうした事実がある以上、検証はされるべきと存じます」
「……分かった。それについてはこちらで調査を行うとしよう。お主は帰って休め」
「はい。ありがとうございます。では失礼致します」

 王からお墨付きを得た俺たちは、大臣の苦々しい顔を横目に謁見の間を後にした。
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