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Case 3 ~アマチュアデート商法男子①~
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「おいっ! 昨日はなんで起こしてくんなかったんだよ!」
魔の月曜日。
楽しかったのはホンの9時間前までだ。
いや。厳密に言えば夕方辺りから、某国民的アニメでお馴染みのナンチャラ症候群に陥るので、心休まる休日など実質的には1日半程度である。
そして、それが終われば現実という戦場に駆り出され、こうして朝から会社のデスクに張り付くことになる。
そんな毎日に嫌気が差し、「俺は自由になる!!」などと安易に独立でもしようものなら、その未来は更に悲惨だ。
ひと度、労働基準法の庇護から離れてしまえば、『自己責任社会』という成功者の論理のみで構成された世界に野ざらしにされることになる。
だから、却って仕事に拘束される時間が増えてしまったり、挙げ句の果てには多額の借金なぞ拵えて、人生いっちょあがり! なんてことにもなりかねない。
いやはや。
人生の縮図を見渡せど、逃げ道などどこにもないものだ。
ならば、こうしてヌルい地獄に浸っている方が相対的に見て幸せなのかもしれない。
そんなことを一ミリたりとも考えたことがないであろう目の前の男の憤慨する姿を見ていると、謎の安堵感がこみ上げてくる。
「は? 何言ってんだ? 俺なりの不器用な優しさってヤツだろうが」
「これが優しさか!? コーヒーまでは許すよ。だけどよ……、何だよ! ロシアンたこ焼きって! ワサビ入ってる奴だけ残していきやがって! 俺、死ぬかと思ったんだからな!」
米原は昨日のカフェのレシートを見せつけながら、ここぞとばかりに責め立ててくる。
「コーヒー一杯で長居すんのもナンだったから、最後に頼んだってだけだよ。悪かったな。まさかお前がソレを食べるとは思わなかった。あと言い忘れてたけどご馳走様」
「ホントに悪気なかったのか!? 陰湿なことしやがって!」
「ナイナイ。オレ二ワルギナンテアルワケナイサー」
「カタコトで逃げんな! にしてもチョイスがトリッキー過ぎんだろうが!」
昨日の件についていつまでもブツクサと文句を言う米原。
この男の怒りポイントは、出会って4年近く経った今でも図りかねる。
「……で、わざわざ喫煙室まで呼び出して何だよ? コレが本題ってわけでもないんだろ?」
俺が問うと、先程までの怒りなどどこ吹く風とばかりに、ケロッとした表情で言い放つ。
「あっ! そうそう! お前、今週の金曜日ヒマか?」
「ヒマじゃない」
「即答っ!? 何か予定入ってんの?」
「金曜日は流しの水アカ掃除する日って、心に決めてんだよ」
「俺は水アカ以下の存在なのか……。良いじゃんかぁ! ちょっとくらい付き合ってくれたってさぁ!」
子供のように駄々を捏ねる20代後半の男の姿は、傍から見ていて相当にキツい。
なので、話だけは聞いてやることにする。
「付き合うって……、どこ連れてく気だよ? キャバクラか?」
「えっ。違う違う! 合コン! 合コン!」
やはりか。
所詮この男の予定など、キャバクラか合コンの二択だ。
彼をリア充などと持て囃したところで、水アカ一択の俺と実質的には変わらないと言える。
「……にしても、また随分と急だな」
「それがさ。昨日、会った三島っていんじゃん? アイツにまた近い内にやろうって言われてさ。お互いの予定確認したんだけど、偶々今週の金曜しか空いてなかったんだよ!」
三島、という名を聞いた瞬間、嫌でも体が反応してしまう。
俺は何故、あの男を過剰なまでに警戒しているのだろうか。
「そんなことあんのかぁ? そんなん伸ばすだけ伸ばして有耶無耶にしちまえよ。いいか、米原。飲みの誘いの半数以上は社交辞令だ」
「俺はお前とは違うんだよ! それでさ……、お前にもう一個頼みがあんだよね……」
言い淀む米原の姿を見て、俺は何かを察してしまう。
「豊橋さんも連れてきて欲しいんだよね」
魔の月曜日。
楽しかったのはホンの9時間前までだ。
いや。厳密に言えば夕方辺りから、某国民的アニメでお馴染みのナンチャラ症候群に陥るので、心休まる休日など実質的には1日半程度である。
そして、それが終われば現実という戦場に駆り出され、こうして朝から会社のデスクに張り付くことになる。
そんな毎日に嫌気が差し、「俺は自由になる!!」などと安易に独立でもしようものなら、その未来は更に悲惨だ。
ひと度、労働基準法の庇護から離れてしまえば、『自己責任社会』という成功者の論理のみで構成された世界に野ざらしにされることになる。
だから、却って仕事に拘束される時間が増えてしまったり、挙げ句の果てには多額の借金なぞ拵えて、人生いっちょあがり! なんてことにもなりかねない。
いやはや。
人生の縮図を見渡せど、逃げ道などどこにもないものだ。
ならば、こうしてヌルい地獄に浸っている方が相対的に見て幸せなのかもしれない。
そんなことを一ミリたりとも考えたことがないであろう目の前の男の憤慨する姿を見ていると、謎の安堵感がこみ上げてくる。
「は? 何言ってんだ? 俺なりの不器用な優しさってヤツだろうが」
「これが優しさか!? コーヒーまでは許すよ。だけどよ……、何だよ! ロシアンたこ焼きって! ワサビ入ってる奴だけ残していきやがって! 俺、死ぬかと思ったんだからな!」
米原は昨日のカフェのレシートを見せつけながら、ここぞとばかりに責め立ててくる。
「コーヒー一杯で長居すんのもナンだったから、最後に頼んだってだけだよ。悪かったな。まさかお前がソレを食べるとは思わなかった。あと言い忘れてたけどご馳走様」
「ホントに悪気なかったのか!? 陰湿なことしやがって!」
「ナイナイ。オレ二ワルギナンテアルワケナイサー」
「カタコトで逃げんな! にしてもチョイスがトリッキー過ぎんだろうが!」
昨日の件についていつまでもブツクサと文句を言う米原。
この男の怒りポイントは、出会って4年近く経った今でも図りかねる。
「……で、わざわざ喫煙室まで呼び出して何だよ? コレが本題ってわけでもないんだろ?」
俺が問うと、先程までの怒りなどどこ吹く風とばかりに、ケロッとした表情で言い放つ。
「あっ! そうそう! お前、今週の金曜日ヒマか?」
「ヒマじゃない」
「即答っ!? 何か予定入ってんの?」
「金曜日は流しの水アカ掃除する日って、心に決めてんだよ」
「俺は水アカ以下の存在なのか……。良いじゃんかぁ! ちょっとくらい付き合ってくれたってさぁ!」
子供のように駄々を捏ねる20代後半の男の姿は、傍から見ていて相当にキツい。
なので、話だけは聞いてやることにする。
「付き合うって……、どこ連れてく気だよ? キャバクラか?」
「えっ。違う違う! 合コン! 合コン!」
やはりか。
所詮この男の予定など、キャバクラか合コンの二択だ。
彼をリア充などと持て囃したところで、水アカ一択の俺と実質的には変わらないと言える。
「……にしても、また随分と急だな」
「それがさ。昨日、会った三島っていんじゃん? アイツにまた近い内にやろうって言われてさ。お互いの予定確認したんだけど、偶々今週の金曜しか空いてなかったんだよ!」
三島、という名を聞いた瞬間、嫌でも体が反応してしまう。
俺は何故、あの男を過剰なまでに警戒しているのだろうか。
「そんなことあんのかぁ? そんなん伸ばすだけ伸ばして有耶無耶にしちまえよ。いいか、米原。飲みの誘いの半数以上は社交辞令だ」
「俺はお前とは違うんだよ! それでさ……、お前にもう一個頼みがあんだよね……」
言い淀む米原の姿を見て、俺は何かを察してしまう。
「豊橋さんも連れてきて欲しいんだよね」
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