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最初のターゲット
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俺も詐欺の片棒を担ぐと豪語したものの、無論その辺の人間を手当たり次第ターゲットにする訳にはいかない。
いくら彼女を放っておけないとは言え、流石にムショ入りは御免蒙る。
だから俺たちが狙うのは、お互いの知り合いに限られる。
人となりを知っているからこそ、個々の性格に合わせた対策が出来るというものだ。
そして、順当に相手がこちらの手口に嵌ってきたところでネタ晴らし。
事情を話した上で全力で土下座する、というのが俺たちが決めた基本の流れだ。
会社的には契約できなければ意味はないが、まぁ目的は飽くまで彼女の成長だ。
幸い基本給はきちんと出るようだし、体裁的にもやってる感さえ演出できれば問題ないだろう。
そこから先は、彼女次第だ。
はっきり言って、友達を失う危険性は大いにある。
だからこそ、その人選は重要だ。
それなりに信頼関係が構築してあり、単じゅ……、もとい懐が深い人間を選ぶ必要がある。
リスクもそれなりにあるが、彼女にとって得るものもあるだろう。
そして、俺たちの記念すべき一人目のターゲットは……。
「よぉ。その後どうなんだ? デート商法のネェチャンとは?」
彼女からの電話があった翌日。
昼下がりのオフィスで、いつものように腹立たしい笑顔を浮かべながら米原が聞いてくる。
すまん、米原。
彼女の今後の人生のため、犠牲になってくれ。
「で、どうなんよ?」
興味本位にしては、少ししつこい。
だが、コイツのこれは紛れもなく天然モノである。
腐っても、入社1年目の時代から互いにしのぎを削ってきた、同僚の一人だ。
伊達に付き合いが長いわけではないから、コイツの性格を良く理解している。
米原は、このように一見軽薄な人間のようだが……、いや事実軽薄だ。
しかし、根は悪い人間ではない。
実際、米原にはこれまで何度も助けられてきた。
相性云々はともかく、人としてはそれなりに信用している。
それに……、こう言っちゃなんだがあまり物事を深く考えておらず、遊び心もあるので多少のオイタは許してくれそうである。
だからこそ、真っ先にターゲットの候補に挙がってしまったのだが。
「何もねぇよ。もう一週間も前の話だぞ? 普通に考えりゃ、自然消滅だろ」
計画のためとは言え、貴重な友人の一人に嘘をつくのはやはり心が痛む。
「そっか。そりゃ残念! せっかくの貴重なチャンスだったのにな。まぁ近々合コンでも開いてやっから、そう落ち込むなって!」
そう言って俺の肩を叩きながら屈託なく笑う米原の姿を見ると、改めて罪悪感に苛まれる。
「別に端から期待してねぇよ。変な気ィ回さなくていいから、急げよ。お前、午後から出張だろ?」
「おっと、イケね。俺、今日直帰だからまた明日な!」
「おう。お疲れ」
ヒラヒラと手を振りながら、オフィスを去る米原のうしろ姿を見つめる。
全てが終わった暁には、お詫びとして本物のキャバクラにご招待することにしよう。
米原の背中を見届けると、俺はスマホを取り出し、電話を掛ける。
無論、相手は一人しかいない。
「豊橋さん、か。今、ヤツが会社を出たぞ」
「は、はいっ! 駅前、でいいんですよね!?」
電話越しでも伝わる緊張感を発しながら、彼女は応える。
「あぁ。昨日言った通りだ。イケるな?」
「はい……。自信はありませんが、やってみます!」
と、俺の問いかけに対して、彼女なりの決意を伝えてきた。
昨日の夜、俺は豊橋さんに男を騙すためのレクチャーを行った。
とは言っても、大したことは言っていない。
当然だ。
当方、恋愛経験値などというステータスは、数年ほど前から全くと言っていいほど伸びていない。
そんな男が提示するアドバイスなど、映画の一節等から引っ張ってくる個人的な願望に過ぎない。
レクチャーなどと偉そうなことを抜かしたが、所詮は冴えない独身リーマンの儚い妄想でしかないのだ。
だから、彼女にはシンプルかつ核心的なことを一つ伝えた。
それは、とにかく特別感を演出することである。
特別感とは、要するに豊橋さんにとっての〝初めて〟だ。
無論、性的な意味ではない。
いや、場合によってはそれも含まれるの、か?
……まぁ、それはどうでもいい。
詰まる所、米原を彼女の最初の客にしてしまう、ということだ。
男は本能的に自分が助けた女を好きになってしまう生き物である。
米原とて、それは例外ではないはずだ。
『今まで誰にも相手にされなかったんですよぉ~』などと彼女が涙交じりで訴えれば、米原も手を差し伸べるだろう。
そう。俺と同じように。
あれ? 俺と同じ?
俺、やっぱり騙されてる?
いや、さすがにそれはない、か。
豊橋さんの実直さ・不器用さは、間違いなく彼女自身のアイデンティティだろう。
何ら生産性のない俺の提案に乗ってきたことが、何よりの証拠だ。
そう言う意味で、豊橋さんは特別感を演出しやすい。
加えて、米原はああ見えて何かと世話焼きな部分がある。
動機はともかく、女っ気のない俺を合コンに誘ってくれたこともそれをよく表している。
余計なお世話と言えば、それまでだが。
以上のことから、米原は比較的難易度が低く、入門編としてはうってつけの相手と言える。
「まぁ普通にいつも通りの感じでやってくれ。後は昨日言った手順でやれば恐らくイケる」
「はい。でも、ホントにいいんでしょうか? 羽島さんの大切なお友達ですよね?」
「……大丈夫だろ」
「今、間がありましたけど……」
「細かいことは気にすんなって! じゃあ、頑張れよ」
「は、はいっ! では!」
作戦と言えるほどのものではないが、飽くまでこれは入り口だ。
その後、じっくり甘い罠でいたぶってやるとしよう。
いくら彼女を放っておけないとは言え、流石にムショ入りは御免蒙る。
だから俺たちが狙うのは、お互いの知り合いに限られる。
人となりを知っているからこそ、個々の性格に合わせた対策が出来るというものだ。
そして、順当に相手がこちらの手口に嵌ってきたところでネタ晴らし。
事情を話した上で全力で土下座する、というのが俺たちが決めた基本の流れだ。
会社的には契約できなければ意味はないが、まぁ目的は飽くまで彼女の成長だ。
幸い基本給はきちんと出るようだし、体裁的にもやってる感さえ演出できれば問題ないだろう。
そこから先は、彼女次第だ。
はっきり言って、友達を失う危険性は大いにある。
だからこそ、その人選は重要だ。
それなりに信頼関係が構築してあり、単じゅ……、もとい懐が深い人間を選ぶ必要がある。
リスクもそれなりにあるが、彼女にとって得るものもあるだろう。
そして、俺たちの記念すべき一人目のターゲットは……。
「よぉ。その後どうなんだ? デート商法のネェチャンとは?」
彼女からの電話があった翌日。
昼下がりのオフィスで、いつものように腹立たしい笑顔を浮かべながら米原が聞いてくる。
すまん、米原。
彼女の今後の人生のため、犠牲になってくれ。
「で、どうなんよ?」
興味本位にしては、少ししつこい。
だが、コイツのこれは紛れもなく天然モノである。
腐っても、入社1年目の時代から互いにしのぎを削ってきた、同僚の一人だ。
伊達に付き合いが長いわけではないから、コイツの性格を良く理解している。
米原は、このように一見軽薄な人間のようだが……、いや事実軽薄だ。
しかし、根は悪い人間ではない。
実際、米原にはこれまで何度も助けられてきた。
相性云々はともかく、人としてはそれなりに信用している。
それに……、こう言っちゃなんだがあまり物事を深く考えておらず、遊び心もあるので多少のオイタは許してくれそうである。
だからこそ、真っ先にターゲットの候補に挙がってしまったのだが。
「何もねぇよ。もう一週間も前の話だぞ? 普通に考えりゃ、自然消滅だろ」
計画のためとは言え、貴重な友人の一人に嘘をつくのはやはり心が痛む。
「そっか。そりゃ残念! せっかくの貴重なチャンスだったのにな。まぁ近々合コンでも開いてやっから、そう落ち込むなって!」
そう言って俺の肩を叩きながら屈託なく笑う米原の姿を見ると、改めて罪悪感に苛まれる。
「別に端から期待してねぇよ。変な気ィ回さなくていいから、急げよ。お前、午後から出張だろ?」
「おっと、イケね。俺、今日直帰だからまた明日な!」
「おう。お疲れ」
ヒラヒラと手を振りながら、オフィスを去る米原のうしろ姿を見つめる。
全てが終わった暁には、お詫びとして本物のキャバクラにご招待することにしよう。
米原の背中を見届けると、俺はスマホを取り出し、電話を掛ける。
無論、相手は一人しかいない。
「豊橋さん、か。今、ヤツが会社を出たぞ」
「は、はいっ! 駅前、でいいんですよね!?」
電話越しでも伝わる緊張感を発しながら、彼女は応える。
「あぁ。昨日言った通りだ。イケるな?」
「はい……。自信はありませんが、やってみます!」
と、俺の問いかけに対して、彼女なりの決意を伝えてきた。
昨日の夜、俺は豊橋さんに男を騙すためのレクチャーを行った。
とは言っても、大したことは言っていない。
当然だ。
当方、恋愛経験値などというステータスは、数年ほど前から全くと言っていいほど伸びていない。
そんな男が提示するアドバイスなど、映画の一節等から引っ張ってくる個人的な願望に過ぎない。
レクチャーなどと偉そうなことを抜かしたが、所詮は冴えない独身リーマンの儚い妄想でしかないのだ。
だから、彼女にはシンプルかつ核心的なことを一つ伝えた。
それは、とにかく特別感を演出することである。
特別感とは、要するに豊橋さんにとっての〝初めて〟だ。
無論、性的な意味ではない。
いや、場合によってはそれも含まれるの、か?
……まぁ、それはどうでもいい。
詰まる所、米原を彼女の最初の客にしてしまう、ということだ。
男は本能的に自分が助けた女を好きになってしまう生き物である。
米原とて、それは例外ではないはずだ。
『今まで誰にも相手にされなかったんですよぉ~』などと彼女が涙交じりで訴えれば、米原も手を差し伸べるだろう。
そう。俺と同じように。
あれ? 俺と同じ?
俺、やっぱり騙されてる?
いや、さすがにそれはない、か。
豊橋さんの実直さ・不器用さは、間違いなく彼女自身のアイデンティティだろう。
何ら生産性のない俺の提案に乗ってきたことが、何よりの証拠だ。
そう言う意味で、豊橋さんは特別感を演出しやすい。
加えて、米原はああ見えて何かと世話焼きな部分がある。
動機はともかく、女っ気のない俺を合コンに誘ってくれたこともそれをよく表している。
余計なお世話と言えば、それまでだが。
以上のことから、米原は比較的難易度が低く、入門編としてはうってつけの相手と言える。
「まぁ普通にいつも通りの感じでやってくれ。後は昨日言った手順でやれば恐らくイケる」
「はい。でも、ホントにいいんでしょうか? 羽島さんの大切なお友達ですよね?」
「……大丈夫だろ」
「今、間がありましたけど……」
「細かいことは気にすんなって! じゃあ、頑張れよ」
「は、はいっ! では!」
作戦と言えるほどのものではないが、飽くまでこれは入り口だ。
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