俺が彼女を二度殺した理由。

AT限定

文字の大きさ
2 / 44

初めてのパトカー

しおりを挟む
 と、さすがにこのまま終わるわけにもいかない。
 一応弁明はしてみよう。
 というより、シンプルに心当たりがない。

「あのー、何かの間違いでは?」
「詳しくは署の方で聞きます。このまま同行願います」
「いいから来いっ!!」
「ちょっ!?」

 抵抗する暇も与えられず、俺は二人の男に取り押さえられた。
 そのままパトカーが停車しているアパート前の路肩まで連れていかれ、後部座席に無理やり押し込められる。バタンと乱雑にドアが閉められる音が聞こえた後、車内は静まり返った。
 三人がすぐに車内へ乗り込んでくる気配はない。何やら外で話し込んでいるようだ。
 ここまで勢いのままあちらに押し切られたが、密閉された空間に一人閉じ込められたことで少し冷静になり、脳みそを働かせる余裕が生まれる。
 車内はすっかり底冷えしており、結露で曇った窓からはイルミネーション用のLED電飾の光や、パトカーの赤色灯につられて出てきた野次馬数名がぼんやりと見える。
 考えてみればもう12月か……。
 日々決まったルーチンを過ごしていれば、時間が過ぎるのもあっという間だ。こんなありがちな感傷に浸ってしまうのも、偏に俺が歳を重ねてしまったということだろう。

 殺人、ね……。
 俺の身は潔白だ。それは間違いない。
 だが『殺人』と彼女に言われた直後、頭のどこかで形容しがたい後ろめたさのようなものを感じたのも事実だ。
 ……いかんいかん。
 一度、4年前の〝あの出来事〟が頭に浮かぶと、ズルズルと泥沼に嵌るようにいつまでも考え続けてしまう。
 そして、何も手に付かなくなる。奇しくも季節はあの時と同じ12月だ。
 もうやめよう……。全部終わったことだ。
 いやしかし、ここにきて弁護される側にまわるとはな。皮肉なもんだぜ、チクショウ。

 俺の脳内会議が終わると、彼らの話も終わったようだ。
 男二人はそれぞれ運転席と助手席に陣取り、女は俺のいる後部座席に乗り込んできた。

 女と目が合う。

「何かありましたか?」
「い、いや、何でも」

 くっ。間近で見るとやっぱりイイ女だ。こりゃ出会う場所を間違えたな。そんなやり場のない気持ちを抱えながら、俺たちは夜の帳を走り抜けていった。


 パトカーが走り出し10分程経った頃、俺はある疑問が浮かび、隣に座る女に問いかける。

「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何でしょう」
「警察署に、向かっているんですよね?」
「………」

 どういうつもりなんだろう。
 この街には警察署が二つある。
 一つは北警察署。今俺が住んでいるアパートのわりとすぐ近くにある。
 もう一つが中央警察署。こちらは同じ市内ではあるが、俺のアパートの最寄り駅から東側に二つ隣に行った駅の近くにある。
 だが今走っているのは、西側の隣町と結ぶバイパスだ。完全に方向が違う。

 ……あっ、そうか。そういうことか。

「事件って隣町で起きたんですか?」
「なぜそう思うのでしょう」
「いや、こういう場合って被疑者が逮捕された場所じゃなくて、事件が起きた現場の自治体にある警察署に連行するのが基本じゃないんですか?」
「なるほど。詳しいですね。まさか再犯ですか?」
「違うっつーの! いや、そもそも一発目もまだですから!」
「そうですか。殺人童貞と言いたいのですね」
「表現はともかく、そういうことですね……」

 何なんだこの女。
 容疑をふっかけてきたのはそっちだろうが。
 さっきから軽口ばかりで、話を逸らしているだけだ。

「そうこう言っている間に着きましたよ、目的地に」

 釈然としないまま後部座席の窓に顔を向けると、目の前に広がる景色に言葉を失った。


 間違いない。


 あぁ、間違いない。


 完全にラブホテルだ。


 純度100%のラブホテルだ。


 童貞云々はこの伏線だったのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...