30 / 54
灯理の痛み①
しおりを挟む
「痛みの連鎖って……。一体、何を言ってらっしゃるんですかね……」
「もーっ!! まだ分かんないかなー? だからね! これは拗らせた大人たちが、年端もいかぬ子どもたちをも巻き込み演じる、壮大な復讐劇なんじゃないかと、私は推察するわけですよ、はい!」
「何すか急に……。第一、復讐ってどういうことですか?」
何とも物騒なことを言うホタカ先生を前に、僕の頭の中ではクエスチョンマークが無数に飛び交う。
「もちろんまだまだ不確定要素はあるよ。トーキくんたちのご両親の会社のこととかね。でもね。大体あってると思うよ。だって私、分かるもん」
「何を、ですか?」
「みんなの、気持ち。結局さ、人の行動原理って我が身可愛さでしかないんだよ。トーキくんは分かってると思うけどさ」
そう言って、ホタカ先生はまた遠い目を浮かべる。
やはり、だ。
彼女が時折見せるその寂しげな佇まいは、僕を不思議な感覚にさせる。
それは決して、同情だとか、身の程知らずな感情ではない。
「……いい迷惑ですね。良い歳した大人が」
「そうだね。登場人物、みんな子どもみたいなモンだよ! でもさ。忘れないで」
彼女は軽く息を吐く。
「我が身可愛さの中でもさ。その中に、ちょっとだけ誰かが入るスペースってあると思うんだよね。自分の中である程度、折り合いをつけて、それを自分と他人で奪い合う。それが、それぞれの優先順位ってヤツじゃないかな」
優先順位、か。
小岩との一件でも、ホタカ先生はそんなことを言っていた。
これについては、本当に良くわからない。
自分本位の中でも共存できる他人がいるとするなら、それはもはや他人ではない。
彼女は、僕にとってそれが風霞だとでも言いたいのだろうか。
他人本位なんて、存在しない。
自分のためか、他人のためか。
そんな二択なんて、まやかしも良いところだ。
それを教えてくれたのは、他でもないホタカ先生自身だったじゃないか。
「ホタカ先生の言っていること、僕には分かりません……」
「じきに分かるよ。キミたちなら」
そういってフッと笑った彼女の姿を、僕はいつまでも忘れることが出来なかった。
「さ! 話を戻そうか! フーカちゃん! アカリちゃんに連絡してもらえるかな? お姉さん、チョット聞いてみたいことがあるんだ!」
「は、はい。えっと……、なんて呼び出せばいいですか?」
「そりゃあ、全国の小中高生の偉大なる太陽、美と知を兼ね備えた連戦連勝の天才スクールカウンセラー、安堂寺帆空大先生が聞きたいことがあるって言えば、来ない生徒なんていないっしょ!」
「もうそこまでいくと、自意識過剰とかじゃなくてヤケクソですね……」
「わ、分かりました」
半ば催促するようなホタカ先生の視線に屈した風霞は、スマホに手をかける。
その時だった。
不意に、風霞のスマホが震える。
「あ、あれ? 灯理からだ!」
風霞がそう呟くと、ホタカ先生は何故か嬉しそうにその目を細める。
「なーるほどねー。奴さん、早くも自首してきたみたいだねー」
「えっと……、どうしましょ?」
「いいよ。出て。あっ! 私とトーキくんが近くにいることは内緒ね!」
「は、はい。分かりました」
言われるがまま、風霞は電話に出る。
「もしもし。灯理? どうしたの? うん。うん。え……」
風霞は会話の途中、言葉を失うが、その後何とか気を取り直し、通話を続ける。
本当に……、顔に出やすい子だ。
『うん、うん』と、相槌に終始するその顔を見れば、痛々しいほどに動揺していることがよく分かる。
数分が経ち、灯理の用件が終わると、風霞はすぐに電話を切る。
だが、風霞は顔を俯かせたまま動かない。
「……んで、何だって?」
痺れを切らした僕は問いかけると、風霞はゆっくりと顔を上げる。
「灯理。謝ってきた。『風霞のこと、ずっと騙してた』って……」
「もーっ!! まだ分かんないかなー? だからね! これは拗らせた大人たちが、年端もいかぬ子どもたちをも巻き込み演じる、壮大な復讐劇なんじゃないかと、私は推察するわけですよ、はい!」
「何すか急に……。第一、復讐ってどういうことですか?」
何とも物騒なことを言うホタカ先生を前に、僕の頭の中ではクエスチョンマークが無数に飛び交う。
「もちろんまだまだ不確定要素はあるよ。トーキくんたちのご両親の会社のこととかね。でもね。大体あってると思うよ。だって私、分かるもん」
「何を、ですか?」
「みんなの、気持ち。結局さ、人の行動原理って我が身可愛さでしかないんだよ。トーキくんは分かってると思うけどさ」
そう言って、ホタカ先生はまた遠い目を浮かべる。
やはり、だ。
彼女が時折見せるその寂しげな佇まいは、僕を不思議な感覚にさせる。
それは決して、同情だとか、身の程知らずな感情ではない。
「……いい迷惑ですね。良い歳した大人が」
「そうだね。登場人物、みんな子どもみたいなモンだよ! でもさ。忘れないで」
彼女は軽く息を吐く。
「我が身可愛さの中でもさ。その中に、ちょっとだけ誰かが入るスペースってあると思うんだよね。自分の中である程度、折り合いをつけて、それを自分と他人で奪い合う。それが、それぞれの優先順位ってヤツじゃないかな」
優先順位、か。
小岩との一件でも、ホタカ先生はそんなことを言っていた。
これについては、本当に良くわからない。
自分本位の中でも共存できる他人がいるとするなら、それはもはや他人ではない。
彼女は、僕にとってそれが風霞だとでも言いたいのだろうか。
他人本位なんて、存在しない。
自分のためか、他人のためか。
そんな二択なんて、まやかしも良いところだ。
それを教えてくれたのは、他でもないホタカ先生自身だったじゃないか。
「ホタカ先生の言っていること、僕には分かりません……」
「じきに分かるよ。キミたちなら」
そういってフッと笑った彼女の姿を、僕はいつまでも忘れることが出来なかった。
「さ! 話を戻そうか! フーカちゃん! アカリちゃんに連絡してもらえるかな? お姉さん、チョット聞いてみたいことがあるんだ!」
「は、はい。えっと……、なんて呼び出せばいいですか?」
「そりゃあ、全国の小中高生の偉大なる太陽、美と知を兼ね備えた連戦連勝の天才スクールカウンセラー、安堂寺帆空大先生が聞きたいことがあるって言えば、来ない生徒なんていないっしょ!」
「もうそこまでいくと、自意識過剰とかじゃなくてヤケクソですね……」
「わ、分かりました」
半ば催促するようなホタカ先生の視線に屈した風霞は、スマホに手をかける。
その時だった。
不意に、風霞のスマホが震える。
「あ、あれ? 灯理からだ!」
風霞がそう呟くと、ホタカ先生は何故か嬉しそうにその目を細める。
「なーるほどねー。奴さん、早くも自首してきたみたいだねー」
「えっと……、どうしましょ?」
「いいよ。出て。あっ! 私とトーキくんが近くにいることは内緒ね!」
「は、はい。分かりました」
言われるがまま、風霞は電話に出る。
「もしもし。灯理? どうしたの? うん。うん。え……」
風霞は会話の途中、言葉を失うが、その後何とか気を取り直し、通話を続ける。
本当に……、顔に出やすい子だ。
『うん、うん』と、相槌に終始するその顔を見れば、痛々しいほどに動揺していることがよく分かる。
数分が経ち、灯理の用件が終わると、風霞はすぐに電話を切る。
だが、風霞は顔を俯かせたまま動かない。
「……んで、何だって?」
痺れを切らした僕は問いかけると、風霞はゆっくりと顔を上げる。
「灯理。謝ってきた。『風霞のこと、ずっと騙してた』って……」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【7】父の肖像【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
大学進学のため、この春に一人暮らしを始めた娘が正月に帰って来ない。その上、いつの間にか彼氏まで出来たと知る。
人見知りの娘になにがあったのか、居ても立っても居られなくなった父・仁志(ひとし)は、妻に内緒で娘の元へ行く。
短編(全七話)。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ七作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる