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25 理想と現実は、一致しません
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開けるのにも閉めるのにも鍵が必要ということは、一度鍵を開けた状態ならば鍵を閉めない限りは出入りが自由、ということになる。
あの女性がただ扉を閉めただけなら、あずきは普通に外に出られた。
それはつまり、あの時女性はわざわざ鍵をかけて、あずきが出られないようにしたということか。
だが、何故そんなことをしたのだろう。
「……ということで。殿下がアズキ様を守っているのだとアピールするために、大人しく運ばれてください。何なら腕を殿下の首にでも絡めていただくと、更に効率がいいですね」
「何で?」
今は密室閉じ込め疑惑の謎を話し合っていたのではなかったか。
何故、クライヴによるお姫様抱っこを容認し、協力する話になったのだ。
「閉じ込められた哀れな聖女が怯え、王子がそれを慰める。……お二人が親密だと思われれば手出しをしにくくなるでしょう。あるいは犯人が更に動くのなら、それはそれで尻尾を掴みやすいので問題ありません」
「そう、なの?」
スラスラと説明するメイナードを見ていたら、何だかそれが正しい気もしてきた。
「メイナード……」
あずきを抱えたままのクライヴが何やら物言いたげな視線を送っているが、当のメイナードはどこ吹く風である。
「これで聖女を守る口実が出来ました。パートナーにアズキ様を選んでも、反対できないでしょう。それに、我慢が限界を超えるよりはいいと思いますが」
「それも、そうですね。……アズキ、協力してください」
「ええと……?」
二人に真剣な眼差しで見つめられるが、そもそも何の話だったか。
あの女性があずきを故意に閉じ込めた可能性が高いのは、わかる。
だから聖女を王子が守っているのだとアピールして、手出しを控えさせたいというのも、まあわかる。
親密に見せかけて犯人の動きを誘う可能性も、何とかわかる。
それで何故、お姫様抱っこされた上でクライブの首に腕を絡めることになるのかが……やっぱりわからない。
「別に、腕を回さなくても。というか、おろしてほしいんだけど。手をつないで歩くとかで、十分じゃない?」
「俺は、おろしませんよ」
「私からも、ご協力をお願いいたします」
あずきなりに譲歩してみたのだが、返ってきたのは眩い笑顔だった。
これは、何を言っても無駄な気がする。
抗い難いものを感じたあずきは、仕方がないので腹をくくる。
お姫様抱っこされた状態から腕を伸ばすと、クライヴの首に手をかけた。
「こ、これでいいの?」
これでは、自分からクライヴに抱きついている状態だ。
少し……いや、かなり恥ずかしいのだが。
「はい。何なら、もっと殿下と見つめ合っていただけると」
メイナードは実に楽しそうにそう言ってきたが、これはあずきをからかって遊んでいるのだろうか。
「クライヴは歩くんだから、前を見ないと危ないでしょう?」
「……それもそうですね」
同意してくれたことが嬉しくてクライヴを見上げるが、気のせいかこちらに視線を向けていなかっただろうか。
前を、前を見てほしいのだが。
「まあ、そのあたりはお任せしましょう。私はすぐに屋敷に戻りますので、ここで失礼します」
「頼みます」
「心得ました」
メイナードはクライヴと短く視線を交わすと、扉に鍵をかけて一礼し、足早に去って行った。
そうしてクライヴが歩き出したわけだが、途中何人もの使用人とすれ違うので、恥ずかしい。
何故こんな時に限って、歩き回っている使用人が多いのだろう。
「豆の聖女は見つかりました。各自持ち場に戻ってください」
クライヴがそう声をかけると、使用人達は頭を下げる。
そうか。
あずきが行方不明だったから、捜索をしているのか。
ポリーは心配しているだろうと思っていたが、他にも沢山の人に迷惑をかけてしまったのだ。
「――あ、あの!」
思わず声をかけると、使用人達は顔を上げて目を丸くしている。
「迷惑をかけて、ごめんなさい」
「……いいえ。ご無事で何よりです」
あずきの言葉に顔を見合わせると、使用人達の中の年長の男性が口を開き、再び頭を下げた。
「アズキ、行きますよ」
「うん」
豆の聖女として役に立ちたくて、先代聖女や豆魔法のことを調べようと思った。
それがこうして沢山の人に迷惑と心配をかけている。
理想と現実は、なかなか一致しないものだ。
少し切なくなって俯くと、クライヴが息をつく。
「皆、心配はしましたが、迷惑だとは思っていませんよ。大丈夫です」
顔を上げるとミントグリーンの瞳と目が合う。
クライヴの時間もだいぶ浪費させてしまっただろうに、その瞳に非難の色は見えない。
「……クライヴはさあ。優しいよね」
豆の聖女という存在が、いかにこの国にとって大切なのかが伝わってくる。
今回はちょっと色々あったが、次は迷惑をかけず、役に立てるように頑張ろう。
色々考えながら運ばれていると、その揺れで段々と瞼が重くなってきた。
空豆の中でそれなりに眠っていたはずなのに、何ということだろう。
うとうとと頭が揺れ始めたあずきに気が付いたらしく、クライヴが笑う気配がした。
「アズキ、眠ってもいいですよ」
「だ、大丈夫」
人は、意識を失うと途端に重くなると聞いたことがある。
ただでさえ重いだろうに、更に重量を増す事態は避けなければならない。
だがアズキの意思に反して瞼は閉じていくし、頭は揺れる。
「閉じ込められた上に、あれだけの豆魔法を使ったんです。疲れて当然ですよ。……大丈夫ですから、眠ってください」
「でも……」
返事をしようとするが、もう口を動かす気力もない。
ゆらゆらと揺れて、ゆらゆらと微睡んで……何だか、とても落ち着く。
そうして、あずきはそのままゆっくりと意識を手放した。
あの女性がただ扉を閉めただけなら、あずきは普通に外に出られた。
それはつまり、あの時女性はわざわざ鍵をかけて、あずきが出られないようにしたということか。
だが、何故そんなことをしたのだろう。
「……ということで。殿下がアズキ様を守っているのだとアピールするために、大人しく運ばれてください。何なら腕を殿下の首にでも絡めていただくと、更に効率がいいですね」
「何で?」
今は密室閉じ込め疑惑の謎を話し合っていたのではなかったか。
何故、クライヴによるお姫様抱っこを容認し、協力する話になったのだ。
「閉じ込められた哀れな聖女が怯え、王子がそれを慰める。……お二人が親密だと思われれば手出しをしにくくなるでしょう。あるいは犯人が更に動くのなら、それはそれで尻尾を掴みやすいので問題ありません」
「そう、なの?」
スラスラと説明するメイナードを見ていたら、何だかそれが正しい気もしてきた。
「メイナード……」
あずきを抱えたままのクライヴが何やら物言いたげな視線を送っているが、当のメイナードはどこ吹く風である。
「これで聖女を守る口実が出来ました。パートナーにアズキ様を選んでも、反対できないでしょう。それに、我慢が限界を超えるよりはいいと思いますが」
「それも、そうですね。……アズキ、協力してください」
「ええと……?」
二人に真剣な眼差しで見つめられるが、そもそも何の話だったか。
あの女性があずきを故意に閉じ込めた可能性が高いのは、わかる。
だから聖女を王子が守っているのだとアピールして、手出しを控えさせたいというのも、まあわかる。
親密に見せかけて犯人の動きを誘う可能性も、何とかわかる。
それで何故、お姫様抱っこされた上でクライブの首に腕を絡めることになるのかが……やっぱりわからない。
「別に、腕を回さなくても。というか、おろしてほしいんだけど。手をつないで歩くとかで、十分じゃない?」
「俺は、おろしませんよ」
「私からも、ご協力をお願いいたします」
あずきなりに譲歩してみたのだが、返ってきたのは眩い笑顔だった。
これは、何を言っても無駄な気がする。
抗い難いものを感じたあずきは、仕方がないので腹をくくる。
お姫様抱っこされた状態から腕を伸ばすと、クライヴの首に手をかけた。
「こ、これでいいの?」
これでは、自分からクライヴに抱きついている状態だ。
少し……いや、かなり恥ずかしいのだが。
「はい。何なら、もっと殿下と見つめ合っていただけると」
メイナードは実に楽しそうにそう言ってきたが、これはあずきをからかって遊んでいるのだろうか。
「クライヴは歩くんだから、前を見ないと危ないでしょう?」
「……それもそうですね」
同意してくれたことが嬉しくてクライヴを見上げるが、気のせいかこちらに視線を向けていなかっただろうか。
前を、前を見てほしいのだが。
「まあ、そのあたりはお任せしましょう。私はすぐに屋敷に戻りますので、ここで失礼します」
「頼みます」
「心得ました」
メイナードはクライヴと短く視線を交わすと、扉に鍵をかけて一礼し、足早に去って行った。
そうしてクライヴが歩き出したわけだが、途中何人もの使用人とすれ違うので、恥ずかしい。
何故こんな時に限って、歩き回っている使用人が多いのだろう。
「豆の聖女は見つかりました。各自持ち場に戻ってください」
クライヴがそう声をかけると、使用人達は頭を下げる。
そうか。
あずきが行方不明だったから、捜索をしているのか。
ポリーは心配しているだろうと思っていたが、他にも沢山の人に迷惑をかけてしまったのだ。
「――あ、あの!」
思わず声をかけると、使用人達は顔を上げて目を丸くしている。
「迷惑をかけて、ごめんなさい」
「……いいえ。ご無事で何よりです」
あずきの言葉に顔を見合わせると、使用人達の中の年長の男性が口を開き、再び頭を下げた。
「アズキ、行きますよ」
「うん」
豆の聖女として役に立ちたくて、先代聖女や豆魔法のことを調べようと思った。
それがこうして沢山の人に迷惑と心配をかけている。
理想と現実は、なかなか一致しないものだ。
少し切なくなって俯くと、クライヴが息をつく。
「皆、心配はしましたが、迷惑だとは思っていませんよ。大丈夫です」
顔を上げるとミントグリーンの瞳と目が合う。
クライヴの時間もだいぶ浪費させてしまっただろうに、その瞳に非難の色は見えない。
「……クライヴはさあ。優しいよね」
豆の聖女という存在が、いかにこの国にとって大切なのかが伝わってくる。
今回はちょっと色々あったが、次は迷惑をかけず、役に立てるように頑張ろう。
色々考えながら運ばれていると、その揺れで段々と瞼が重くなってきた。
空豆の中でそれなりに眠っていたはずなのに、何ということだろう。
うとうとと頭が揺れ始めたあずきに気が付いたらしく、クライヴが笑う気配がした。
「アズキ、眠ってもいいですよ」
「だ、大丈夫」
人は、意識を失うと途端に重くなると聞いたことがある。
ただでさえ重いだろうに、更に重量を増す事態は避けなければならない。
だがアズキの意思に反して瞼は閉じていくし、頭は揺れる。
「閉じ込められた上に、あれだけの豆魔法を使ったんです。疲れて当然ですよ。……大丈夫ですから、眠ってください」
「でも……」
返事をしようとするが、もう口を動かす気力もない。
ゆらゆらと揺れて、ゆらゆらと微睡んで……何だか、とても落ち着く。
そうして、あずきはそのままゆっくりと意識を手放した。
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