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22 メルディ・マキラになるという夢
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今、アレクシスは何と言った?
好きって、メルディのことを?
――アレクシスが?
「何? 全然、気付かなかったのか?」
「だ、だって」
混乱のあまりうまく言葉が出てこないメルディを見て、何故かアレクシスは楽し気に笑みを浮かべ始めた。
「しかも、ひとめぼれだからな。馬車の中からどんぐりを拾っているメルディを見て、一撃だからな」
「何それ。大体、一撃って何? 何でちょっと偉そうに言うのよ」
少し胸を張って宣言するアレクシスが、よくわからない。
「仕方ないだろう。髪と瞳の色も、顔も、全部、好みのど真ん中だったんだよ。そんな子が攫われかけてたんだ。……あれから、サウリ叔父さんに剣を習い始めたんだぞ」
「そんな素振りなかったし。どちらかと言えば、私のことを嫌っているのかと思っていたわ」
心底気に入らなかったと言われた方が、まだ納得できるくらいだ。
何故、好きなんてことになっているのだろう。
「それは……メルディはサウリ叔父さんばかり見ているし、悔しくてちょっとからかった」
「……え? やだ。本当にツンデレ」
「やめろ、その言い方」
なるほど、これは確かにツンデレっぽい。
神の言葉の『ツンデレ』は、聖女の騎士を見つけるヒントだと言っていた。
つまり、アレクシスが見事にツンデレをこなしたから、メルディが聖女に選ばれてしまったとも言える。
「アレクシスがツンデレなせいで、私が聖女になりそうなのよ。どうしてくれるの」
「俺のせいみたいに言うな」
いや、どう考えてもアレクシスがツンデレのせいな気がする。
「だって。……そもそも、何で私に聖女になってほしいの?」
就職先が欲しいわけではないのなら、別にメルディが聖女である必要などないではないか。
「おまえが聖女で、俺が聖女の騎士になれば、ずっとそばにいられるだろう?」
「……それが理由?」
「それが理由。メルディが好きで、メルディのそばにいたくて、他の奴にそれを譲りたくない。だから聖女になって、俺をそばに置いてくれ」
真剣な表情で訴えられ、メルディの頭はどんどんと混乱していく。
「ツンはどこに行ったのよ」
ツンデレはツンが九割だとアニタは言っていた。
これではツンとデレのバランスが崩壊してしまうではないか。
「もう十分だろう。意地張ってもおまえには伝わらないしな。それに、もう俺が実を食べたから他の奴には変えられないぞ」
ツンとデレのバランスをまったく気にかけてくれないアレクシスに、メルディは呆れてしまう。
「……別に、いいわよ」
「え?」
「他の人にしたいわけじゃないわ」
アレクシスを騎士から外したいのではなくて、メルディが聖女になるのを阻みたかっただけだ。
だが、それを告げるとアレクシスの水色の瞳がにわかに輝きだした。
「俺でいいのか?」
「サウリ様じゃないのなら、同じだもの」
「酷い話だな。でも、嫌でもないんだろう? だったら、まだ望みはあるわけだ」
「望みって?」
アレクシスは不敵な笑みを浮かべながら、メルディを見つめた。
「俺は聖女の騎士として、メルディを守る。いつかおまえが俺だけを見てくれるように、頑張るさ」
「は、はあ」
「それに、おまえ『メルディ・マキラ』になるのが夢って言っていただろう?」
「忘れてよ、もう」
半分本気、半分ヤケクソで掲げていた夢だが、こうなってしまえばただ恥ずかしい過去の遺物である。
だが、からかうのかと思ったアレクシスは何故か機嫌が良さそうだ。
「その夢はかなうかもしれないぞ」
「え? ……亡き妻と同じ瞳の色の孤児を、ついに愛妾に……?」
「違う。一度、愛妾から思考を切り離せ」
アレクシスが口利きしてくれるのかと思ったが、よく考えればそんなことをしてもサウリが受け入れるはずがない。
とんだぬか喜びである。
「サウリ叔父さんと叔母さんの間に、子供はいない。だから養子をとって後を継がせるんだ」
「へえ」
養子を迎えてまで家を存続させなくてはいけないというのだから、貴族の家というものも大変だ。
「まだわかっていないだろう。俺がサウリ叔父さんの家……マキラ伯爵家に養子に入る予定なんだよ」
「へえ。だからずっと一緒に行動しているの?」
「ああ。剣もだが、色々教わっているところだ」
「へえ」
小さい頃からやたらとサウリと一緒に孤児院に来ていたが、あれは仲が良いからということではなくて、将来の跡継ぎを育てていたのか。
「やっぱり、わかっていないだろう」
「何が?」
アレクシスはサウリの家に養子に入って後を継ぐ。
ちゃんと、わかっているのだが。
すると、アレクシスは盛大なため息をついた。
「俺はいずれ、アレクシス・ハウルから、アレクシス・マキラになる」
「うん」
サウリ・マキラ伯爵の養子になるのだから、それはそうだろう。
「どれだけ鈍いんだよ。……だから、俺と結婚すれば『メルディ・マキラ』になれるぞ」
「へえ……え?」
何を言われたのかよくわからず、メルディはぽかんと口を開ける。
それを見たアレクシスは、楽しそうに笑った。
「夢が叶うぞ。良かったな」
「な、何よそれ。だいたい、私が言っていたのはそういう意味じゃなくて」
「わかっているさ。だから、いつかおまえが俺だけを見てくれるように、頑張るって言っているだろう? その時には――メルディ・マキラになってくれ」
突拍子もない展開に、メルディの鼓動が跳ねた。
「ツ……ツンデレはツンデレらしく、九割ツンツンしていなさいよ」
さっきから、胸がどきどきして仕方がない。
相手はサウリではない、アレクシスだ。
なのに何故こんなことになっているのだろう。
混乱するメルディの手を、笑みを浮かべたアレクシスがすくい取る。
「なら、これからは――残りの一割だ」
流れるように、アレクシスはメルディの手に唇を落とす。
ふわりと風に乗って、清々しいいい匂いがメルディの鼻をかすめた。
============
本編はこれで終わりです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m
次話はおまけのヤーナのお話です。
好きって、メルディのことを?
――アレクシスが?
「何? 全然、気付かなかったのか?」
「だ、だって」
混乱のあまりうまく言葉が出てこないメルディを見て、何故かアレクシスは楽し気に笑みを浮かべ始めた。
「しかも、ひとめぼれだからな。馬車の中からどんぐりを拾っているメルディを見て、一撃だからな」
「何それ。大体、一撃って何? 何でちょっと偉そうに言うのよ」
少し胸を張って宣言するアレクシスが、よくわからない。
「仕方ないだろう。髪と瞳の色も、顔も、全部、好みのど真ん中だったんだよ。そんな子が攫われかけてたんだ。……あれから、サウリ叔父さんに剣を習い始めたんだぞ」
「そんな素振りなかったし。どちらかと言えば、私のことを嫌っているのかと思っていたわ」
心底気に入らなかったと言われた方が、まだ納得できるくらいだ。
何故、好きなんてことになっているのだろう。
「それは……メルディはサウリ叔父さんばかり見ているし、悔しくてちょっとからかった」
「……え? やだ。本当にツンデレ」
「やめろ、その言い方」
なるほど、これは確かにツンデレっぽい。
神の言葉の『ツンデレ』は、聖女の騎士を見つけるヒントだと言っていた。
つまり、アレクシスが見事にツンデレをこなしたから、メルディが聖女に選ばれてしまったとも言える。
「アレクシスがツンデレなせいで、私が聖女になりそうなのよ。どうしてくれるの」
「俺のせいみたいに言うな」
いや、どう考えてもアレクシスがツンデレのせいな気がする。
「だって。……そもそも、何で私に聖女になってほしいの?」
就職先が欲しいわけではないのなら、別にメルディが聖女である必要などないではないか。
「おまえが聖女で、俺が聖女の騎士になれば、ずっとそばにいられるだろう?」
「……それが理由?」
「それが理由。メルディが好きで、メルディのそばにいたくて、他の奴にそれを譲りたくない。だから聖女になって、俺をそばに置いてくれ」
真剣な表情で訴えられ、メルディの頭はどんどんと混乱していく。
「ツンはどこに行ったのよ」
ツンデレはツンが九割だとアニタは言っていた。
これではツンとデレのバランスが崩壊してしまうではないか。
「もう十分だろう。意地張ってもおまえには伝わらないしな。それに、もう俺が実を食べたから他の奴には変えられないぞ」
ツンとデレのバランスをまったく気にかけてくれないアレクシスに、メルディは呆れてしまう。
「……別に、いいわよ」
「え?」
「他の人にしたいわけじゃないわ」
アレクシスを騎士から外したいのではなくて、メルディが聖女になるのを阻みたかっただけだ。
だが、それを告げるとアレクシスの水色の瞳がにわかに輝きだした。
「俺でいいのか?」
「サウリ様じゃないのなら、同じだもの」
「酷い話だな。でも、嫌でもないんだろう? だったら、まだ望みはあるわけだ」
「望みって?」
アレクシスは不敵な笑みを浮かべながら、メルディを見つめた。
「俺は聖女の騎士として、メルディを守る。いつかおまえが俺だけを見てくれるように、頑張るさ」
「は、はあ」
「それに、おまえ『メルディ・マキラ』になるのが夢って言っていただろう?」
「忘れてよ、もう」
半分本気、半分ヤケクソで掲げていた夢だが、こうなってしまえばただ恥ずかしい過去の遺物である。
だが、からかうのかと思ったアレクシスは何故か機嫌が良さそうだ。
「その夢はかなうかもしれないぞ」
「え? ……亡き妻と同じ瞳の色の孤児を、ついに愛妾に……?」
「違う。一度、愛妾から思考を切り離せ」
アレクシスが口利きしてくれるのかと思ったが、よく考えればそんなことをしてもサウリが受け入れるはずがない。
とんだぬか喜びである。
「サウリ叔父さんと叔母さんの間に、子供はいない。だから養子をとって後を継がせるんだ」
「へえ」
養子を迎えてまで家を存続させなくてはいけないというのだから、貴族の家というものも大変だ。
「まだわかっていないだろう。俺がサウリ叔父さんの家……マキラ伯爵家に養子に入る予定なんだよ」
「へえ。だからずっと一緒に行動しているの?」
「ああ。剣もだが、色々教わっているところだ」
「へえ」
小さい頃からやたらとサウリと一緒に孤児院に来ていたが、あれは仲が良いからということではなくて、将来の跡継ぎを育てていたのか。
「やっぱり、わかっていないだろう」
「何が?」
アレクシスはサウリの家に養子に入って後を継ぐ。
ちゃんと、わかっているのだが。
すると、アレクシスは盛大なため息をついた。
「俺はいずれ、アレクシス・ハウルから、アレクシス・マキラになる」
「うん」
サウリ・マキラ伯爵の養子になるのだから、それはそうだろう。
「どれだけ鈍いんだよ。……だから、俺と結婚すれば『メルディ・マキラ』になれるぞ」
「へえ……え?」
何を言われたのかよくわからず、メルディはぽかんと口を開ける。
それを見たアレクシスは、楽しそうに笑った。
「夢が叶うぞ。良かったな」
「な、何よそれ。だいたい、私が言っていたのはそういう意味じゃなくて」
「わかっているさ。だから、いつかおまえが俺だけを見てくれるように、頑張るって言っているだろう? その時には――メルディ・マキラになってくれ」
突拍子もない展開に、メルディの鼓動が跳ねた。
「ツ……ツンデレはツンデレらしく、九割ツンツンしていなさいよ」
さっきから、胸がどきどきして仕方がない。
相手はサウリではない、アレクシスだ。
なのに何故こんなことになっているのだろう。
混乱するメルディの手を、笑みを浮かべたアレクシスがすくい取る。
「なら、これからは――残りの一割だ」
流れるように、アレクシスはメルディの手に唇を落とす。
ふわりと風に乗って、清々しいいい匂いがメルディの鼻をかすめた。
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本編はこれで終わりです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m
次話はおまけのヤーナのお話です。
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