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婚約破棄されました

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「公爵令嬢シャーロット、私は真実の愛を見つけたゆえ、お前との婚約を破棄する。」



一つ年上の私の婚約者であるこの国の第一王子が通う王立学園の、卒業パーティーの場での、突然の暴挙。

なんということでしょう。
わたくしは突然、婚約破棄されてしまいました。



「理由を聞いても?」


たとえ真実の愛とやらに出会ったのだとしても、この国の王家と上位貴族の契約であるこの婚約の破棄を宣言するなど正気の沙汰とも思えませんわ。


「私は、幼き頃からお前を婚約者と決められ、次の王となる重責を背負わされてきた。」

あらまあ。

「しかし、私は出会ってしまったのだ。心から愛する人と。」

顔だけはまあまあ良い第一王子は、自分に酔ったようにひとり語り続けます。
当然、パーティーの空気は凍りついていて、たくさん人がいるのに水を打ったような静けさです。

学園の卒業パーティーとはいえ、何も上流貴族も多く参加しているこの席で婚約破棄宣言しなくてもいいものを、と思いますけれど。
わたくしに恥をかかせたいということなのかもしれませんが、取り返しがつかなくなっても良いのでしょうか。

「さあ、ヘンリエッタ、こちらへ」

他の参加者と共に、第一王子の一人芝居をぼんやり眺めていると、王子の後ろからヘンリエッタと呼ばれた少女が現れた。

「アーサー様!」

下品にも大声をあげ、胸の大きく開いたフリル多目のピンク色のドレスを着た女性が、仮にも婚約者のいる異性の腕にしがみつき、あざとく顔を上げて、鼻からゥーンとかキューンとかいう音を出しています。
それはいったい何の合図ですの?
髪はフワフワのピンクブロンドで、大きくクリクリっとしたブラウンの瞳に小さめのお顔はとても可愛らしく、癖なのかアヒルのように唇を尖らせています。

たしか、王子と同じ学年の、有力貴族の子弟を次々と喰らっているという噂の方ですわね。
たしか、男爵令嬢でしたかしら。

「ヘンリエッタ!」

王子とヘンリエッタというピンク色の少女は、そのままかけよって、互いの名を呼びながら抱き合っています。

学園の卒業パーティーとはいえ、貴族子女のご両親や学校関係者も参加しています。
貴族社会において、このような行動は、下品極りなく、ましてや貴族や民たちの模範となるべく王族のとっていい行動ではありません。

何かの余興だとしてもあまりに品がなく笑えませんわ。

パーティーの参加者たちも、第一王子の突然の奇行に、どう反応して良いのか戸惑いながらも、公爵令嬢たるわたくしへのあまりにもの不敬にソワソワし始めています。

そんな中、王子は声も高らかに、

「私は、この者、ヘンリエッタ・マンセル男爵令嬢と結婚する。」

と、宣言されました。
どやーと、声が聞こえてきたようなこないような。
周囲の人たちは、そーっとわたくしの顔色を伺っています。まあ、それが普通の反応ですよね。

わたくしはふぅと息を大きめに吐いて、目の前でドヤ顔をしているふたりの茶番に少しだけお付き合いして差し上げます。

「妾妃なら何人作ろうとも、王の後宮費予算の範囲内なら良いと以前から申し上げておりましたけれども?」

とりあえず、穏便に済ます最後の選択肢を与えます。
ええ、王族の結婚など、単なる契約です。
そこに夢や愛といったようなフワフワしたものは御座いません。

わたくしの、妾なら何人でもどうぞ宣言に敏感に反応したのはピンクの男爵令嬢様です。

「シャーロット!アンタ何を言ってるの?アーサー様と私は愛し合って結婚するんだから、私が妾とかあり得ないんだから!」

…突っ込みどころが多過ぎて、何から指摘したら良いのかわかりませんが、取り敢えず、公爵令嬢たるわたくしの名前呼び捨ては許可しておりませんよ。
言葉遣いにしても、耳を塞ぎたくなるような汚さ。
あと、そのようにお胸が大きく開いたドレスは、娼館にお勤めの女性くらいしか着ることがないと聞いておりますわ。
先ほどから、同性のわたくしでも目のやり場に困ってしまいます。

「そうだ!私はヘンリエッタを正妃とする。」

あらあらあら。

以前から、足りないとは思っていましたが、本当に困った王子様ですわね。
せめて公式行事くらいは無難にこなせる様にしていただかなくては、婚約者であるわたくしの恥になってしまいます。
….あら、でも婚約破棄されるのかしら。

さてと。

こんな茶番に親切に付き合って差し上げるほどわたくしは暇じゃありませんの。

最後に確認をいたしましょう。


「それだとわたくしとは婚姻出来なくなりますが、よろしいでしょうか?」


「だからおまえとの婚約を破棄すると言っている。」

わたくしの質問に対し、イライラを全く隠さずに応える。
あらあら、これでは外交の場になど立たせる訳にはいきませんね。


「アーサー様は、シャーロットのことは親が勝手に決めた婚約者だから、仕方なく婚約しただけで、好きになったことは一度もないって言ってるし!
シャーロットより私の方がずっと好きで、愛しているとも言ってくれた!」

まあ、そのとおりなのでしょうけれども。
貴女に発言を許してはおりませんし、名前呼び捨ても不愉快ですし、不敬ですわね。

あらでも、

「お忘れかもしれませんが、殿下には、ご自分で決められたお手つきの妾妃候補が既に4人おりますけれども、あの方たちはどうされるのでしょう?」

そうなのです。この王子は、恋多き方で、たいそう下半身がだらしなくていらっしゃいます。

ちなみにわたくしとは、そのようなことはございません。
王族たるもの、正式に結婚するまでは、純潔を守るのが一般的なのです。

わたくしの身分は公爵令嬢ですが、父は現在の王弟で、母は、先先代王の王女、わたくしの先代王はわたくしの祖父、先先代の王は、わたくしの父方の曽祖父であり、母方の祖父でもありますので、わたくしもこの国では王族とされております。

「え?!4人の妾妃?あたし聞いてない!」

「え?」


目の前の二人は認識の違いから、痴話喧嘩を始めました。もう付き合わなくて良いですよね?

妾妃候補の中には伯爵令嬢もいらっしゃいましたけれど、どうされるのでしょうか。

ちなみに、そのご令嬢は、それほど頭の良い方ではありませんが、わたくしへは、きちんと挨拶がありましたよ。

でもまあ、それも全部お終いですね。

「承知しました。婚約破棄、承りましたわ。陛下への報告は殿下からなさって下さいね。わたくしはこれからお父様や、お母様に報告をします。それでは失礼しますわ。
お集まりの皆様はパーティーをお楽しみになって下さいましね」

私が会場から背中を向けたと同時に、ざわざわと喧騒が戻ったようです。
せっかくの卒業記念パーティーですもの、楽しんでいただかなくてはね。

「やったー!これであたしがお妃様だよね!結婚式のドレスとか宝石とかたくさん準備してね!あ、元カノとはちゃんと別れてくれないとダメなんだからね!」

私の背中でゆっくりと閉まる扉の隙間から、ピンクの男爵令嬢のキンキン響く能天気な声が聞こえてきました。

あらまあ。

なるほど、やはり誤解があるようですわ。
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