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13.無知蒙昧

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「なぜミリアリアが祈っているのに、魔獣が入ってくるのだっ!」

もうこの方は駄目だ。

「大結界の術式が起動しておりませぬゆえ」

「ミリアリアのせいだと言うのかっ」

「わたし、一生懸命に祈ってますわ!」

「いえ、其処のお方は、聖女ではありませぬゆえ、そもそも起動出来るわけがありませぬ。そのようなお方に責任を問うなどと…」

「私は聖女ですっ!」

「侮辱しているのかっ!」

「いえ、事実を述べたまでのこと」

「それが侮辱だと言うのだ!良いから早くその結界とやらを起動させろ!」

「大結界を起動出来るのは、聖女のみでございます」

「ミリアリアが聖女だ!なぜ起動しない?」

「壊れているのかもしれませんわ!」

「そうだ!壊れているのだ!さっさと修理しないか!」

「壊れてなどおりませんよ」

話が全く通じない。

聖女というのは、膨大な魔力を持ち、同時に大地や大気からの力を取り入れて、大きな力を循環させることが出来る者のことを指すのですよ。

「…其処の方が聖女というのならば、この術式に祈りの力を込めれば大結界は発動します。…聖女ミリアリア様、聖女の祈りをお捧げ下さい」

…出来ないでしょうけれども。


「ミリアリア!さあ、この国を守るのだ!」

「はい!」


潮時でしょうかね。



***


「宰相様、第一王子殿下は何と」

『祈りの室』と呼ばれる結界の大魔石と術式がある部屋から出ると、この教会の幹部聖職者らがひしめき合っていた。
一人ひとりの体積が大きすぎて、廊下が狭く感じる。

「聖女はミリアリア殿なのだから、結界の魔石と術式が壊れているのではないか、と」

「そんな馬鹿な!壊れてなどおりませぬ!」

「でしょうね」

「第一王子殿下のお連れになった女は聖女などではありません!あのような人並み程度の魔力では、大結界の起動はおろか、維持すら出来ません!
どうか、ジルヴァラを連れ戻して下さい!」

「貴方たちは、普段から聖女様を呼び捨てに?」

「え?!そんな、まさか…」

目の前で焦り出す豚のように肥え太った聖職者たち。

「前聖女の時代は、あなた方聖職者も共に祈りを捧げていたのではないですか?」

「それは、前聖女様は現在の王妃殿下様ですから」

王妃殿下だから何だというのか。

「あなた方の役割は何ですか?
聖女を支えるために、国はたくさんの予算を教会に回しています。
また、聖女に何かあった時、結界に祈りの力を注げなくなった時に、結界を維持するためにこそ多くの聖職者を国で雇っているのですよ。
なぜ、今、結界が消滅したままなのですか?」

肉付きのよい顔から脂汗をにじませながら、視線を泳がせ口をパクパクさせている。
言い訳も思いつかないのでしょうかね。

「わ、私たちに、平民と一緒に祈れと言うのですかっ?!」

出て来たのは本音ですか。
正直なところは良いですが、国の宝である聖女様をお守りする組織のトップとしては失格ですね。

「常に聖女様の為に尽くし、聖女様が心地よく守護の祈りを捧げることが出来るように、教会という組織があるのです。聖女様が平民でも王族でも貴族でも、やることは同じですよ」

「しかし、ジルヴァラは一人でも十分に結界を維持出来るのです!」

「あなた方は、普段から聖女様を呼び捨てに?」

はい二回目です。

「あ、いえ、聖女ジルヴァラ様、と」

「それであれば、尚更、大切に守らなければいけなかったのではないですか?」

「でも、第一王子殿下が勝手に!」

「そういう時のために、聖女様の、教会の力を大きく設定したのですよ。
なぜ、聖女ジルヴァラ様をお守りしなかったのですか?」

「あれは、勝手に出て行ったのです!」

「あなた方は、普段から聖女様をアレ呼ばわりしているのですか?」

「いえ!そんな!」

「不当に着服した予算は返還してもらいます。既に調べはついています。
ですが今は、結界の構築に全力を注いでください。これだけの聖職者を雇用していれば、聖女一人分の魔力くらい補えるはずですよね」

「いや、あの、中には魔力のない者もいますので…」

「聖職者の雇用条件は、魔力の強い者、でしたよね?」

「いえ!魔力がないとはいえ、貴族子女ばかりですから!」

「雇用の条件に身分などないはずですが?」

「平民の聖職者を雇えというのですか?!」

話になりません。
これは宰相として、隅々まで目が行き届かなかった私の落ち度でもありますね。

結界が良好に維持されていたので、こちらに意識を割くのを怠っておりました。

想像以上に酷い状態です。

「身分なんてどうでも良いのです!
魔力の強い者を雇えと言ってるのですよ。いいから早く結界を構築しなさい!」

「か、かしこまりました」

ドタバタと、豚聖職者たちが結界の間に入っていきます。

つい威嚇を込めて怒鳴りつけてしまいました。

扉を開いた時に、あの女の悲鳴と第一王子の怒号が聞こえましたが、一体何をしていたのか。

もう手遅れかもしれませんが、双方とも最後まで足掻いて、自分の罪に気付いて欲しいものです。





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