短編集

誰も見ないメモ

なんとも言えない書き出しである。
私に文学は分からないが、見切り発車というやつであるのは分かる。分からないことが分かるというやつだ。要領を得ないあやふやな文章がもうかれこれ2行から3行は続いている。
書き出しは一旦置いて逆にオチを見てみよう。これは山に登った男女が下山後に殺人事件で捕まるのがオチになっている。刑事ドラマになるほどドラマチックな展開は無いが、これがオチである。物語の山場でもある男が崖から恋人に突き落とされるシーンに至っては、読んでいる限り臨場感というか緊張感みたいなものは伝わってこない。文才に難ありである。兎も角、もう少しだけ整理してみよう。

最初に1人の男が誰もいない駅のホームに降り立った。今から登山に行くというのに随分と軽装でいる。後に恋人によって崖から突き落とされるのがこの男だ。
男は駅で親友を待っていたが、親友はその駅には現れなかった。男と恋人共通の友人である親友はその日、恋人といたのである。
山の麓には女がいた。暫く待っていると親友が現れる。親友は大きなキャリーケースを片手に女に手を振る。親友の方を見た女は両手を振って駆け寄って来た。彼女の方は大きなリュックとその他諸々、今回の登山の目的を考えれば妥当な荷物である。2人は幾らか話しをして足早に山へ向かった。
場面は変わって男は山を登っていた。山頂で待っている筈の恋人の元に向かっているのだ。男は借金をしていた。借りていた100万を今日返す約束をしていたが、男の手持ちは20万。足らない80万の事など頭に無いかのような機嫌の良さそうな顔で男は目的地に辿り着く。恋人と初めて出会ったその場所で、男は突き落とされるのである。
女は山の中腹で男の死体を埋め終え、ここに来る前のことを親友に話始める。ほんの数日前のことだ。女が男の家の寛いでいると、ソファーの隙間から見知らぬ化粧道具を見つけて男と口論になったそうだ。ドラマで御約束の展開というか、正直聞いている側としては浮気の話はいい気分がしなかった。この際だからと皆で胸の内を言い合った後、もう一仕事を終えて親友と共に2人で下山した2ヶ月後に逮捕されることになった。

男は死んでいた。崖から突き飛ばされたからだ。山頂で遅れやって来た恋人に別れ話をされ、激しい口論と揉み合いの末に落ちたのである。偶然の事故や正当防衛のように書かれているが、恋人の心情を考えれば来るべき未来が今来ただけということだ。
ここで重要なのは恋人と親友は恋仲では無かった。男は別れ話を切り出されてそうに違いないと勘違いしたが、ただ男のことで相談をしていただけに過ぎなかった。

これには逮捕された経緯は書かれていないが、聞くところによると2人の失踪届が同じ日に同じ場所で受理されたおかげ関連性に気がついた警察官の手で事件が発覚したそうだ。まぁ、今更どうでもいいが。

正直、男も女も死んだのは当然だと私は考える。
どうせ誰も見ないメモだ。そろそろ書くのも疲れてきたから、これだけは書き残しておこう。
あの日あの男を突き落とした事に悔いは無い。