彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
279 / 284
December

12月23日(月) 冬補習

しおりを挟む
 冬休みに入ったと言ったな、あれは嘘だ!

 ――とでも言わんばかりに、俺たちは今日も朝から学校へと向かっていた。

 冬季休校に際し、その代わりとして始まった補習授業は、いつもの朝補習と違って少し遅めのスタートとなっており、また、午前いっぱいまでという気持ち良心的なスケジュールを示してくれてはいるけれど、午後から控えている部活動の時間も合わせれば、平時の学校生活と大して変わらない帰宅時間となっている。

 ……何だこれは。
 『休み』とはどういう意味だったのか。今一度、問い質したいところである。

「しょうがないさ、そら」

 そんな悪態に、爽やかな声音で返す少年の名は畔上翔真。
 肘をつき、手のひらに顎を乗せて苦笑する姿はお世辞にも上品とは言えないが、それさえも彼が行うことで様になっていた。

「それに、ウチは休みに入るのが早い方らしいよ。妹の通う中学校は明日が終業式みたいだし……」

「へぇー、そうなんだ……。陽向ちゃんも大変だね」

 そして、傍らで話を聞いていた菊池さんもまた会話に混じってくる。
 こちらも現状に特に不満はないのか、いつも通りおだやかだ。

「水曜から休み――って、また微妙な時期だな。キリよく金曜で締めればいいのに」

「学校的にも色々あるってことなんじゃないか?」

 まぁ、そうなのだろうけど……休みも増えるし、オンとオフのメリハリがつくことを考えると、やはり文句の一つくらいは言いたくなるな。

「――それで、その……かなちゃんはどうしたの?」

 ここまで一言もなく、そして触れられずにいた者の名前を、菊池さんはとうとう口にした。
 そうして三人で件の少女へと視線を向ければ、わざわざ後ろを向いてまで俺の机に突っ伏す幼馴染の頭頂部が見受けられる。

「あぁ……諦めてるんだよ」

『諦めてる……?』

 仲良くハモりった二人の返事に、俺は一つ首を縦に降った。

「そそ、俺と一緒で補習に絶望してんの。でも、文句を言う気力もなくて、こうして拗ねてるというか……ダラけモードに入ってる――ってわけ」

 そう言って俺がワシャワシャとその頭を撫でると、手で払うでも顔を上げるでもなく、かなたはされるがままに受け入れる。

「まぁまぁ、それも今週いっぱいまでだしさ」

「そ、そうだよ……! 一緒に頑張ろ? ね?」

 片やイヤイヤ言うだけのお子様ペアに対し、片や励まし続ける大人の対応組。
 この出来の違いは、一体どこから生まれたものなのだろうか。

 ――なんて、他愛もなければ実りもない会話にただただ花を咲かせていると、今日も休むことなく学校の予鈴が鳴り響く。

 至る所に散らばり、各々がグループを形成していたクラスメイトたちはマグロに襲われるイワシの群れのように一人一人ととき解れて、それぞれの居場所へと戻って行った。

「はい皆さん、おはようございます」

 同時に、教室の扉が音を立ててスライドし、我がクラスの担任である三枝さえぐさはるか先生が姿を見せる。

 ……どうにも今日は機嫌がいいらしい。

 なぜ分かったかと問われれば、二葉先生絡みでそれなりに仲が良いから――などというわけでもなく、単にいつもは学級委員の号令の後に挨拶を交わす先生が開幕から声を発していたからだ。

 普通なら、補習という余分な仕事が増えて憂鬱なはずなのに……昨日か今日か、はたまた明日にでも何か良い事でもあるのだろうか。

「……まぁ、何にしても俺の知ったことじゃないか」

 それよりも問題は補習である。

 今週の金曜日――二十七日まで続き、気が付けばそのまま家の大掃除で大晦日。果てには正月、明けたら学校。
 バタバタと忙しく、しかし宿題の猛威は遠慮なしに振るってくるだろう。

 そんな未来にため息を吐き、ただひたすらにゆっくりと刻む秒針を行く末を淡々と目で追っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妖精の園

カシューナッツ
恋愛
私はおばあちゃんと二人暮らし。金色の髪はこの世には、存在しない色。私の、髪の色。みんな邪悪だという。でも私には内緒の唄が歌える。植物に唄う大地の唄。花と会話したりもする。でも、私にはおばあちゃんだけ。お母さんもお父さんもいない。おばあちゃんがいなくなったら、私はどうしたらいいの?だから私は迷いの森を行く。お伽噺の中のおばあちゃんが語った妖精の国を目指して。 少しだけHなところも。。 ドキドキ度数は『*』マークで。

片思いに未練があるのは、私だけになりそうです

珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。 その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。 姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。 そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

見捨てらえた夏に

うさみかずと
青春
感染症の影響により、夏の甲子園大会は中止になり、その年の高校球児は特別大会と言う優勝しても甲子園へ進むことができない大会に臨むこととなった。 厳しい練習なんてまっぴらごめんと強豪校の推薦をけって新設校、児玉高校の野球部でだらだらと野球を続けることを選んだ原野正人は周りはかつて自分が進学を断った強豪校相手に八回までノーヒットノーランを続けていた。リードはたったの一点。大番狂わせまであとアウト6つを奪うまで、両校の選手、監督、メンバー外のスタンド応援団の思想をオムニバス方式で語りながら描く、青春野球物語

処理中です...