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December
12月22日(日) 一方の大人組
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「ただいまー」
「おかえり。日曜日なのにお疲れ様」
既に日は沈みきっているものの、世間一般ではまだ夕暮れと呼ばれる時間帯。
そろそろ世の主婦の皆々様が夕食の支度を始めるだろう――というタイミングで、私は無事に帰宅することができました。
玄関から真っ直ぐに進み、リビングへと通じる扉を押し開けば、ソファに寛いでいたゆうくんは顔を上げて出迎えてくれます。
「それはゆうくんもでしょ? 午前中だけとはいえ、仕事してたんだし……」
「でも、担任職には敵わないよ。仕事といってもこっちは、書類整理や研修、緊急のために保健室を開けておく――くらいしかやることがないからね」
「もう……いつもそうやって卑下する」
「事実だよ」
彼の言葉に苦笑を浮かべると、反対にニヒルな笑みを返されました。
着替えもそこそこに台所に立った私は、冷蔵庫の中を確認します。
昨日、ゆうくんが買い物をしてくれただけあって、食材はそこそこに充実しており……さて、何を作りましょうか。
「あれ、ゆうちゃんが作るの? 疲れてるだろうし、ゆっくりしてていいのに……」
「うぅん……いつもゆうくんに頼ってばかりだし、こういう時くらい私に任せて」
一応、この家のルールとして先に帰って来た方が食事の用意をするのですが、私の帰りがいつも遅いせいで、実質彼の当番になっていました。
ですので、今日は私がやります! やるのです!
この仕事モードの余韻が残る、絶好のタイミングに動かなくて、いつ働くというのでしょう。
「……別に気にしなくていいんだけどね」
「私が気にするのー」
そんなやり取りを経て、早速調理を開始。
時間がないため、かなり簡単なものにはなるけど……それでも心を込めて作ります。
トントントン――とまな板を叩く、リズミカルな包丁の音。
予め熱しておいたフライパンにそれを投入すると、豪快な焼き音と湯気が発し、同時に香ばしい匂いが広がりました。
「――そういえば、仕事はどうだったの? わざわざ休日出勤までして、試算していた分は片付いたのかい?」
「うん、何とか。これで明後日は、補習とその後の職員会議が終わったら、すぐに帰れるよ」
その時、思い出したかのように背後から声が掛かります。
とある理由で、今日は仕事の前倒しを行ってきたのですが、進捗が気になるらしく、私は素直に答えました。
「ゆうくんはどう?」
「僕の仕事なんて、あってないようなものだよ。幸いにも、こっちも冬休みに入っているし、午前で終わり」
恐らくですが、ゆうくんはきっと薄く笑って肩を竦めていることでしょう。見なくても分かります。
だってそれが、彼の自虐する際の癖なのですから。
けれど、その内容はともかく、結論自体はそう悪いものではないため、思わず安堵の溜息が漏れました。
「そっか……なら、良かった。予約も無駄にならずに済みそうだね」
「まぁ……というよりは、むしろそうならないように二人で頑張ったところもあるけど」
全くもってその通り。
無事に二日後を迎えられそうで喜ばしい限りです。
「…………やっぱり、僕も手伝うよ」
気分は上がり、調理の速度もテンポアップ――などと思ったその矢先、ゆうくんは突然にキッチンへと参上しました。
「えっ、どうして? せっかくの日曜日なんだし、もっと寛いでていいよ?」
困惑し、私はそう言いますが、彼は気にせずシンクに溜まった調理器具を一つ一つ片付け始めます。
「さっきの話と同じさ」
スポンジを水で濡らし、洗剤を垂らし、慣れた手つきで磨きながら口を開きました。
「どちらか一方じゃなくて、二人で一緒に頑張ろう。そうすれば、一緒にいられる時間も増えるしね」
屈託のない微笑みを浮かべて、然も当たり前のように告げられた言葉。
「…………うん、そうだね」
――その発言に、私は笑顔で頷きました。
「おかえり。日曜日なのにお疲れ様」
既に日は沈みきっているものの、世間一般ではまだ夕暮れと呼ばれる時間帯。
そろそろ世の主婦の皆々様が夕食の支度を始めるだろう――というタイミングで、私は無事に帰宅することができました。
玄関から真っ直ぐに進み、リビングへと通じる扉を押し開けば、ソファに寛いでいたゆうくんは顔を上げて出迎えてくれます。
「それはゆうくんもでしょ? 午前中だけとはいえ、仕事してたんだし……」
「でも、担任職には敵わないよ。仕事といってもこっちは、書類整理や研修、緊急のために保健室を開けておく――くらいしかやることがないからね」
「もう……いつもそうやって卑下する」
「事実だよ」
彼の言葉に苦笑を浮かべると、反対にニヒルな笑みを返されました。
着替えもそこそこに台所に立った私は、冷蔵庫の中を確認します。
昨日、ゆうくんが買い物をしてくれただけあって、食材はそこそこに充実しており……さて、何を作りましょうか。
「あれ、ゆうちゃんが作るの? 疲れてるだろうし、ゆっくりしてていいのに……」
「うぅん……いつもゆうくんに頼ってばかりだし、こういう時くらい私に任せて」
一応、この家のルールとして先に帰って来た方が食事の用意をするのですが、私の帰りがいつも遅いせいで、実質彼の当番になっていました。
ですので、今日は私がやります! やるのです!
この仕事モードの余韻が残る、絶好のタイミングに動かなくて、いつ働くというのでしょう。
「……別に気にしなくていいんだけどね」
「私が気にするのー」
そんなやり取りを経て、早速調理を開始。
時間がないため、かなり簡単なものにはなるけど……それでも心を込めて作ります。
トントントン――とまな板を叩く、リズミカルな包丁の音。
予め熱しておいたフライパンにそれを投入すると、豪快な焼き音と湯気が発し、同時に香ばしい匂いが広がりました。
「――そういえば、仕事はどうだったの? わざわざ休日出勤までして、試算していた分は片付いたのかい?」
「うん、何とか。これで明後日は、補習とその後の職員会議が終わったら、すぐに帰れるよ」
その時、思い出したかのように背後から声が掛かります。
とある理由で、今日は仕事の前倒しを行ってきたのですが、進捗が気になるらしく、私は素直に答えました。
「ゆうくんはどう?」
「僕の仕事なんて、あってないようなものだよ。幸いにも、こっちも冬休みに入っているし、午前で終わり」
恐らくですが、ゆうくんはきっと薄く笑って肩を竦めていることでしょう。見なくても分かります。
だってそれが、彼の自虐する際の癖なのですから。
けれど、その内容はともかく、結論自体はそう悪いものではないため、思わず安堵の溜息が漏れました。
「そっか……なら、良かった。予約も無駄にならずに済みそうだね」
「まぁ……というよりは、むしろそうならないように二人で頑張ったところもあるけど」
全くもってその通り。
無事に二日後を迎えられそうで喜ばしい限りです。
「…………やっぱり、僕も手伝うよ」
気分は上がり、調理の速度もテンポアップ――などと思ったその矢先、ゆうくんは突然にキッチンへと参上しました。
「えっ、どうして? せっかくの日曜日なんだし、もっと寛いでていいよ?」
困惑し、私はそう言いますが、彼は気にせずシンクに溜まった調理器具を一つ一つ片付け始めます。
「さっきの話と同じさ」
スポンジを水で濡らし、洗剤を垂らし、慣れた手つきで磨きながら口を開きました。
「どちらか一方じゃなくて、二人で一緒に頑張ろう。そうすれば、一緒にいられる時間も増えるしね」
屈託のない微笑みを浮かべて、然も当たり前のように告げられた言葉。
「…………うん、そうだね」
――その発言に、私は笑顔で頷きました。
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