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December
12月19日(木) 北海道の冬事情
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北海道の冬は寒い。
なので、自分の体温がこもって温かヌクヌクとしている早朝の布団から抜け出すことはとても難しいのだけど、だからといって早起きが出来ないわけではない。
むしろ、アラームさえも必要ないかもしれない。
どうしても寒くて、延々と寝ていたい衝動には駆られるものの、向かいに面する公道を通る除雪車の音で、否が応にも目が覚めてしまうのだ。
そんなわけで、ベッドから出たくはないけど騒音で眠れもしない――という状況に今日もまた陥っていた僕は、意を決して冷え切った空間へと身体を投げ出した。
「うぅ~……寒い」
服の上から手のひらで身体を擦り、暖房器具の電源を入れる。
ジジジっと音が鳴るものの、部屋が暖まるまでにはまだ時間があるので、その間にでも着替えを済ませてしまおう。
一度寝巻きを全て脱ぎ、下着姿になった僕。
そのままクローゼットに掛けてある制服を羽織り、一つ一つボタンを止めながら窓の外を眺めてみれば、見慣れた白銀の世界が一面に広がっていた。
外では何人もの人が雪かきに精を出している。
騒々しいことで有名な除雪車もさすがに私道までは対象外なので、こうして毎朝働くことは北海道の常なのだ。
……僕も、家にいた頃は手伝わされていたっけ。
上着は身に着けず、ブラウスとスカートのまま部屋を出ると、施錠し、その足で洗面所へと歩く。
「あっ、七海先輩! おはようございます!」
「うん、おはよう」
「七海、おつかれー」
「おつかれ――って、まだ朝だけどね」
すでに起きている子も多いようで、道中、顔見知りの子らが挨拶をしてくれた。
その他にも行き交う生徒は多く、目的地へと辿り着けば、数はさらに多くなる。
それもそのはず。
ここ玫瑰花女学院高等学校は道内から学業や部活動の優秀生徒を集めている私立高校であり、その学生寮ともなれば朝練などの関係上、用意の時間はどうしても被ってしまう。
むしろ、今日はまだ少ない方で、もしかしたら布団の誘惑に負けている子もいるのかもしれない。
――というわけで、列に並んで諸々の準備を済ませ、バイキング形式の朝食を頂けば、自室に戻ってブレザーを羽織った。
昨夜のうちに用意していた荷物を肩に外へと向かうと、学校が運行しているスクールバスがすでに寮の前に止まっている。
朝同様、寮生の殆どがこの時間に登校するということで、玄関はごった返し。
車中は暖かいというよりもむしろ熱く、コート要らずだった。
そんな折、ポケットの中のスマホが震える。
「あれま……」
「…………? 七海先輩、どうかしましたか?」
「何かトラブル?」
画面を見て思わず呟けば、一緒に乗車していた寮生であり部活のメンバーが尋ねてきた。
「うん……汽車が雪で遅延して、一愛は今日の朝練に参加できない――って」
メッセージアプリに綴られた内容を要約し、伝えると、対する二人の態度は驚愕でも何でもないただの苦笑だ。
「あちゃー……それは仕方ないね」
「でも、今年は一段と多いですね―……」
北国育ちにとって、交通機関の遅延自体はそれほど珍しいものでもない。
雪が降るのは以ての外、それが人の身長ほどに積もることでさえよくあるこの場所では、対策こそされているものの、どうしても遅れが生じてしまうことがある。
そのため、冬は車で送ってもらう生徒も多く、こうして今バスが通っている道のように、一本の綺麗な轍が学校まで伸びていた。
「朝練はともかくとして、授業には間に合いますかね?」
「どうだろう……僕には何とも……」
一愛から来たのは報告だけだ。
それ以外には詳しい状況説明もなく、彼女がどんな状態なのか皆目見当もつかない。
「というかさ、それって電車通学の子らは全員来られないってことだよね?」
「あー……うん、そうなるね……」
そうだった……。
しょうがないことではあるけど、多人数のいない部活を想像すると少しだけ物悲しい気分になる。
「そっかー……となると、七海の相手になれる人がいないなぁ……」
しかし、メンバーは別のことを危惧しているらしく、そう呟かれた一言に首を傾げた。
「僕は別に誰が相手でも問題ないけど……?」
「七海は良くても、他の子が気を遣うのよ。――ねぇ?」
悲しいかな。
同意を求めるような質問に対して、話を聞いていた他の子たちもブンブンと首を縦に振る。
えぇ……つまらないなー。
そうして窓の外を覗けば、フワリフワリと舞い落ちて風に流される雪の姿がチラついた。
パウダースノーなどと褒められることの多い北海道ではあるけど、住んでて感じることは、得られる恩恵よりも課せられる不利益――ということだ。
毎日毎朝雪かきをしなければならない対価がスキーへのベストコンディションと考えれば、そう思うのも当たり前のことだけど……。
「あっ……でも、そらくんたちは喜ぶか……」
ふと思い浮かんだ一人の顔に、思わず僕は呟いた。
「…………? 七海先輩、何か言いましたか?」
「誰が何を喜ぶの……?」
「うぅん、別に何でもないよ」
反応するメンバーに慌てて首と手を振って誤魔化す。
彼女らもまた特に気にした素振りはなく、安堵の溜息を零して再びバスの外へと目を向けた。
北海道の冬は厳しい。
雪虫は出るし、雪かきは大変。移動に関しても怪我や事故、果てには遅延までもが当たり前で、好きな季節だと豪語できる人は少ないだろう。
けれども、そんなに苦労の絶えない冬で雪だけども、そらくんがやって来る間だけは許してあげよう――と少しだけそう思った。
なので、自分の体温がこもって温かヌクヌクとしている早朝の布団から抜け出すことはとても難しいのだけど、だからといって早起きが出来ないわけではない。
むしろ、アラームさえも必要ないかもしれない。
どうしても寒くて、延々と寝ていたい衝動には駆られるものの、向かいに面する公道を通る除雪車の音で、否が応にも目が覚めてしまうのだ。
そんなわけで、ベッドから出たくはないけど騒音で眠れもしない――という状況に今日もまた陥っていた僕は、意を決して冷え切った空間へと身体を投げ出した。
「うぅ~……寒い」
服の上から手のひらで身体を擦り、暖房器具の電源を入れる。
ジジジっと音が鳴るものの、部屋が暖まるまでにはまだ時間があるので、その間にでも着替えを済ませてしまおう。
一度寝巻きを全て脱ぎ、下着姿になった僕。
そのままクローゼットに掛けてある制服を羽織り、一つ一つボタンを止めながら窓の外を眺めてみれば、見慣れた白銀の世界が一面に広がっていた。
外では何人もの人が雪かきに精を出している。
騒々しいことで有名な除雪車もさすがに私道までは対象外なので、こうして毎朝働くことは北海道の常なのだ。
……僕も、家にいた頃は手伝わされていたっけ。
上着は身に着けず、ブラウスとスカートのまま部屋を出ると、施錠し、その足で洗面所へと歩く。
「あっ、七海先輩! おはようございます!」
「うん、おはよう」
「七海、おつかれー」
「おつかれ――って、まだ朝だけどね」
すでに起きている子も多いようで、道中、顔見知りの子らが挨拶をしてくれた。
その他にも行き交う生徒は多く、目的地へと辿り着けば、数はさらに多くなる。
それもそのはず。
ここ玫瑰花女学院高等学校は道内から学業や部活動の優秀生徒を集めている私立高校であり、その学生寮ともなれば朝練などの関係上、用意の時間はどうしても被ってしまう。
むしろ、今日はまだ少ない方で、もしかしたら布団の誘惑に負けている子もいるのかもしれない。
――というわけで、列に並んで諸々の準備を済ませ、バイキング形式の朝食を頂けば、自室に戻ってブレザーを羽織った。
昨夜のうちに用意していた荷物を肩に外へと向かうと、学校が運行しているスクールバスがすでに寮の前に止まっている。
朝同様、寮生の殆どがこの時間に登校するということで、玄関はごった返し。
車中は暖かいというよりもむしろ熱く、コート要らずだった。
そんな折、ポケットの中のスマホが震える。
「あれま……」
「…………? 七海先輩、どうかしましたか?」
「何かトラブル?」
画面を見て思わず呟けば、一緒に乗車していた寮生であり部活のメンバーが尋ねてきた。
「うん……汽車が雪で遅延して、一愛は今日の朝練に参加できない――って」
メッセージアプリに綴られた内容を要約し、伝えると、対する二人の態度は驚愕でも何でもないただの苦笑だ。
「あちゃー……それは仕方ないね」
「でも、今年は一段と多いですね―……」
北国育ちにとって、交通機関の遅延自体はそれほど珍しいものでもない。
雪が降るのは以ての外、それが人の身長ほどに積もることでさえよくあるこの場所では、対策こそされているものの、どうしても遅れが生じてしまうことがある。
そのため、冬は車で送ってもらう生徒も多く、こうして今バスが通っている道のように、一本の綺麗な轍が学校まで伸びていた。
「朝練はともかくとして、授業には間に合いますかね?」
「どうだろう……僕には何とも……」
一愛から来たのは報告だけだ。
それ以外には詳しい状況説明もなく、彼女がどんな状態なのか皆目見当もつかない。
「というかさ、それって電車通学の子らは全員来られないってことだよね?」
「あー……うん、そうなるね……」
そうだった……。
しょうがないことではあるけど、多人数のいない部活を想像すると少しだけ物悲しい気分になる。
「そっかー……となると、七海の相手になれる人がいないなぁ……」
しかし、メンバーは別のことを危惧しているらしく、そう呟かれた一言に首を傾げた。
「僕は別に誰が相手でも問題ないけど……?」
「七海は良くても、他の子が気を遣うのよ。――ねぇ?」
悲しいかな。
同意を求めるような質問に対して、話を聞いていた他の子たちもブンブンと首を縦に振る。
えぇ……つまらないなー。
そうして窓の外を覗けば、フワリフワリと舞い落ちて風に流される雪の姿がチラついた。
パウダースノーなどと褒められることの多い北海道ではあるけど、住んでて感じることは、得られる恩恵よりも課せられる不利益――ということだ。
毎日毎朝雪かきをしなければならない対価がスキーへのベストコンディションと考えれば、そう思うのも当たり前のことだけど……。
「あっ……でも、そらくんたちは喜ぶか……」
ふと思い浮かんだ一人の顔に、思わず僕は呟いた。
「…………? 七海先輩、何か言いましたか?」
「誰が何を喜ぶの……?」
「うぅん、別に何でもないよ」
反応するメンバーに慌てて首と手を振って誤魔化す。
彼女らもまた特に気にした素振りはなく、安堵の溜息を零して再びバスの外へと目を向けた。
北海道の冬は厳しい。
雪虫は出るし、雪かきは大変。移動に関しても怪我や事故、果てには遅延までもが当たり前で、好きな季節だと豪語できる人は少ないだろう。
けれども、そんなに苦労の絶えない冬で雪だけども、そらくんがやって来る間だけは許してあげよう――と少しだけそう思った。
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