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December
12月17日(火) ルッキング・フォワード・トゥ・修旅
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「――そういえば、修学旅行のしおりを昨日貰ったよ」
何でもない平日。
たまたま時間が合い、趣味であるゲームを七海さんと一緒に遊んでいた時、ふと思い付いた出来事を口に出してみた。
こちらとしては、単なる会話のネタになればと思っての他愛のない話題であったのだけど、向こうからしてはそうでもなかったようで、前のめりに立つ姿を彷彿とさせるような声音が耳に届く
「えっ、本当!? いつ来るの? どこ行くの?」
「あー……っと、ちょっと待って」
そこまで食いつかれては、適当な情報は教えられまい。
操作していたコントローラーを一度置いた俺は、傍らに放っている鞄を引き寄せて、中からしおりを取りだした。
「十三日から始まって、そっち――新千歳空港に着くのが十四時みたい。そこからバスに乗って小樽まで行って、十五時半から十八時まで観光するってさ」
「小樽かー……ちょっと遠いなぁー」
画面のクリアリングは欠かさず、チラチラと机に置いた紙面を覗きながら報告すれば、そんな悩ましそうな声が聞こえる。
「そうなのか? でも、俺たちが行くスキー場もホテルも札幌にあるみたいだし、近いんじゃ……」
確か、七海さんの学校も札幌にあったはず。
ならばと思い、そんな適当な推理を披露してみせれば、今度は困ったような声音へと変化した。
「うーん……そうなんだけどね。北海道は広いから、それでも距離があるんだ」
「へぇー……」
地理に疎いためよくは知らなかったが、そういうものなのか。
でもまぁ、『九州って南にあるから、冬も暖かそうだね』って言われるのと同じ感覚なんだろうな。
……緯度的に東京と変わらないっつーの。
「他の日は、他の日は?」
そんな思考の最中、七海さんから催促が飛ぶ。
「ん? えーっと……九時半から十七時半までスキーだな」
「十七時半…………場所は?」
「『札幌インターナショナル・スキー場』って場所だけど……知ってる?」
「うん、もちろん! ――けど、遠い……」
響く、絶望の声。
そのトーンと内容で、好ましい状況ではないことを俺は察した。
まぁ、通常の高校の放課後は十六時から十七時が一般的だろうし、そこに部活が加わるともなれば難しいだろう。
ましてや、彼女はバドミントンの有名人。オリンピック候補生なのだから。
「その感じじゃ、残念ながら会うのは難しそうだな」
煮え切らない七海さんの態度に苦笑し、そう結論づける。
「……残念? そらくんは、僕に会いたいの?」
「えっ? そりゃ、まぁ……せっかく知り合って、こうして遊んでる仲なんだし、会えるに越したことはないだろ」
ともすれば、今度は真剣な声音でそう尋ねられた。
おかしなことを聞くものだ。顔も知らないネッ友ならともかく、出会って、連絡先まで交換した相手が旅行先に居るというのに会いに行かない道理がない。
「…………ふぅーん、そっか……」
そのような俺の考えを聞き、考え、そうして出した返答がそれである。
随分とあっさりと、どうでもよさげに一言だけで済ました彼女は、小さな小さな声でこう付け加えた。
それこそ、一度の銃撃音で掻き消えてしまいそうなレベルで――。
「――したっけ、ちょっと頑張ろっかな♪」
たまたま静かで良かった。
クリアリングのために、聴覚を研ぎ澄ませておいて良かった。
マイクとゲーム音とのバランス、そもそもの主音量、どれもが噛み合って届いた言葉に俺は返事をする。
「何を頑張るんだ?」
「んー……ゲーム! もう、あと二部隊だよ?」
…………マジで?
慌てて画面を中止すれば、右上には『残り部隊数・三』と記載されていた。
自分を含めて三部隊――すなわち、相手は二部隊だ。
「さ、優勝目指して頑張ろー!」
途中の意気消沈は何だったのか。
すっかりいつもの調子を取り戻した七海さんと、まだまだゲームを楽しむ俺であった。
何でもない平日。
たまたま時間が合い、趣味であるゲームを七海さんと一緒に遊んでいた時、ふと思い付いた出来事を口に出してみた。
こちらとしては、単なる会話のネタになればと思っての他愛のない話題であったのだけど、向こうからしてはそうでもなかったようで、前のめりに立つ姿を彷彿とさせるような声音が耳に届く
「えっ、本当!? いつ来るの? どこ行くの?」
「あー……っと、ちょっと待って」
そこまで食いつかれては、適当な情報は教えられまい。
操作していたコントローラーを一度置いた俺は、傍らに放っている鞄を引き寄せて、中からしおりを取りだした。
「十三日から始まって、そっち――新千歳空港に着くのが十四時みたい。そこからバスに乗って小樽まで行って、十五時半から十八時まで観光するってさ」
「小樽かー……ちょっと遠いなぁー」
画面のクリアリングは欠かさず、チラチラと机に置いた紙面を覗きながら報告すれば、そんな悩ましそうな声が聞こえる。
「そうなのか? でも、俺たちが行くスキー場もホテルも札幌にあるみたいだし、近いんじゃ……」
確か、七海さんの学校も札幌にあったはず。
ならばと思い、そんな適当な推理を披露してみせれば、今度は困ったような声音へと変化した。
「うーん……そうなんだけどね。北海道は広いから、それでも距離があるんだ」
「へぇー……」
地理に疎いためよくは知らなかったが、そういうものなのか。
でもまぁ、『九州って南にあるから、冬も暖かそうだね』って言われるのと同じ感覚なんだろうな。
……緯度的に東京と変わらないっつーの。
「他の日は、他の日は?」
そんな思考の最中、七海さんから催促が飛ぶ。
「ん? えーっと……九時半から十七時半までスキーだな」
「十七時半…………場所は?」
「『札幌インターナショナル・スキー場』って場所だけど……知ってる?」
「うん、もちろん! ――けど、遠い……」
響く、絶望の声。
そのトーンと内容で、好ましい状況ではないことを俺は察した。
まぁ、通常の高校の放課後は十六時から十七時が一般的だろうし、そこに部活が加わるともなれば難しいだろう。
ましてや、彼女はバドミントンの有名人。オリンピック候補生なのだから。
「その感じじゃ、残念ながら会うのは難しそうだな」
煮え切らない七海さんの態度に苦笑し、そう結論づける。
「……残念? そらくんは、僕に会いたいの?」
「えっ? そりゃ、まぁ……せっかく知り合って、こうして遊んでる仲なんだし、会えるに越したことはないだろ」
ともすれば、今度は真剣な声音でそう尋ねられた。
おかしなことを聞くものだ。顔も知らないネッ友ならともかく、出会って、連絡先まで交換した相手が旅行先に居るというのに会いに行かない道理がない。
「…………ふぅーん、そっか……」
そのような俺の考えを聞き、考え、そうして出した返答がそれである。
随分とあっさりと、どうでもよさげに一言だけで済ました彼女は、小さな小さな声でこう付け加えた。
それこそ、一度の銃撃音で掻き消えてしまいそうなレベルで――。
「――したっけ、ちょっと頑張ろっかな♪」
たまたま静かで良かった。
クリアリングのために、聴覚を研ぎ澄ませておいて良かった。
マイクとゲーム音とのバランス、そもそもの主音量、どれもが噛み合って届いた言葉に俺は返事をする。
「何を頑張るんだ?」
「んー……ゲーム! もう、あと二部隊だよ?」
…………マジで?
慌てて画面を中止すれば、右上には『残り部隊数・三』と記載されていた。
自分を含めて三部隊――すなわち、相手は二部隊だ。
「さ、優勝目指して頑張ろー!」
途中の意気消沈は何だったのか。
すっかりいつもの調子を取り戻した七海さんと、まだまだゲームを楽しむ俺であった。
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