彼と彼女の365日

如月ゆう

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December

12月16日(月) 修学旅行のしおり

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 特進学科らしく、節度ある振る舞いが常であった我がクラスも今日ばかりは騒がしかった。

 その理由は偏に、先ほど配られた一冊の冊子であろう。

 表紙にはデカデカと『修学旅行のしおり』と綴られ、中を覗けば、来たる一月十三日から十八日までのスケジュールが事細かに記されている。
 その他にも、部屋割り、バスや飛行機の座席、スキーのグループ分けなど、生徒が盛り上がるには事欠かない情報ばかりだ。

 唯一、部屋のメンバーなどを自由に決められないことに多少の反発を覚える者もいたが……まぁ、それは学校側のぼっちに対する優遇措置なのだと思う。

 ……なかなかやるじゃん。

「はーい、皆さん。静かにしてくださいねー」

 そこへ、いつもの笑顔を浮かべ、ポンと拍手よりも小さく、手を合わせるだけのように一度叩いた先生が口を開いた。

 その声音は不思議と全体に行き渡り、それこそ雫の波紋のように伝播して、前から順に水を打ったように静けさを取り戻していく。

「はしゃぐ気持ちも分かりますが、皆さんにはその前に決めていただきたいことが幾つかあります。まずはそちらを終わらせましょう」

 ……決めること?
 殆どのことを学校側が決めているというのに、何を決めればいいのか――そんな思いで一同が首を傾げると、先生はさらに説明を加えた。

「それは、大きく分けて三つ。一つ目はスケジュールの五日目・その午後にあたる自由行動の行き先です。自由とは言っても、最低二人以上での行動が原則ですので、行きたい場所が合致する人を探してください。
 二つ目は、同じく五日目の午前中にあるクラス行動の行き先です。こちらの解散場所が午後の自由行動の開始地点にもなりますので、学級委員などを中心に移動時間なども含めて考えた方が良いですよ。
 そして三つ目が、それぞれの部屋のリーダー決めです。部屋のメンバーの点呼とその報告が主な仕事なだけで、特に大変というわけでもないんですけどね……」

 その語尾の謎の間には「だから、さっさとリーダーを決めろよ? おぉん?」などという意味が込められていそうな気がしなくもない。
 それくらいに、あの笑顔が何を考えているのか予想させてはくれなかった。

「さて……最初の二つに関しては各々が行きたい場所を探す時間も必要でしょうし、また来週に決めたいと思います。ですので、今日は迅速に三つ目を決めてしまいましょう」

 先生はそれだけを言い残すと、あとは丸投げ。
 対して生徒は困惑し、キョロキョロと周りを見渡すだけになってしまうその時、我らが学級委員は動く。

 ――畔上、動きます!

「えーっと……それじゃあ、部屋のグループごとに分かれて話し合おうか」

 その言葉を皮切りに、ゾロゾロとクラスメイトが移動する中で俺は一人その場を動かない。
 とはいえ、別に協調性がないとかそんなことではなく、単に後ろに座る翔真と同じ班だからだ。

 そして、中心人物の周りに人は集まるもので、動かずとも勝手に他の班員はこちらに寄る。

「――で、どうするんだ翔真?」

 そのうちの一人が口を開いた。
 
「あぁ……うん。皆には集まってもらって申し訳ないんだけど、リーダーは俺がするから気にしないでいいよ。どうせ学級委員として働かなくちゃいけないし、下手に誰かをリーダーにしたところで手間が増えるだけだしね」

 かと思えば、鶴の一声であっさりと議題は終了し、俺たちの班は即解散。

 手持ち無沙汰になり他の班の状況を覗き見れば、俺たちと同様に学級委員を有する菊池さんの班もまたすぐに決まったようで、班員であるかなたがピースサインを向けてきた。

 ――それからしばらく。
 多くの班がジャンケンなどを駆使してリーダーを決め、それらの結果をまとめ終える頃には用意されていたLHRロングホームルームの時間はもう終わろうとしている。

「はい、お疲れ様でした。それでは、また来週のこの時間にクラス行動と自由行動の行き先を決めますので、ちゃんと調べて、できるだけグループを組んでおいてくださいね」

 そんな言葉を送られれば、チャイムがちょうど鳴り響く。

 来週――それは二十三日。
 そのさらに一週間後は三十日であり、年越し。
 もう一週間ほど経てば冬休みも明け、そして修学旅行だ。

 都合、一ヶ月。
 そう考えると、猶予はそれほど残されてはいない。

 けれど、だからこそ、楽しみはより募るわけで……ジャンケンに敗北してリーダーを任された者も、そうでない者も、皆一様にその瞳を輝かせていた。
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