261 / 284
December
12月5日(木) 中間考査・四日目
しおりを挟む
「起立、気をつけ、礼」
『ありがとうございました!』
「はい、それでは今日もお疲れ様でした」
学級委員である翔真の号令を合図に、クラスの全員が一斉に立ち上がって頭を下げれば、先生はポンと音もなく手を叩き、ほんわかとした笑顔で帰りのSHRを締めた。
今日で中間考査は終了だ。
その開放感からか、鞄を持って教室を出る者、友達の席へと向かう者――皆一様に顔は明るく、いつも以上にざわついている気がする。
「そら、俺たちも部活に行こうか」
「そうだな」
そう声を掛けられ、俺たちは教室を出た。
いつもなら、試験後は何かしらのちょっとした打ち上げを行うのだが、今回は試験終了日からいきなり部活動が始まるためそれはお預け。
ちなみに、菊池さんは『マネージャーたるもの、選手よりも先に部室へ向かい、少しでも早くサポートをすべし』などという謎精神を胸に、かなたを連れて一足先に部室棟へと走って行ったためここにはいない。
その際、我が幼馴染が嫌々な表情を浮かべていたのは言うまでもないだろう。
階段を降り、渡り廊下を歩いて教育棟へと進み、そうして部室棟へと繋がる道に出れば、一年生から三年生までの総勢およそ二千名の生徒が三々五々に下校していた。
この学校は門から校舎までに高低差があり、階段が通じているという珍しい造りなのだけど、その階段いっぱいに人が満ち、談笑しながら帰る様というのは、それなりに見物である。
……まぁ、このうちの三・四割は俺らと同じように部活がある連中なのだろうけど。
その大群の一部と化し、流れに身を任せて目的地へと歩いて行くと、部室にはすでに数人のメンバーがやって来ており、着替えを始めていた。
「――おっ、翔真おかえりー」
「部長……お勤めご苦労様です……!」
「あっ、翔真先輩が来てる!」
同級生から後輩まで、不登校の二週間から試験休みの一週間に値する計三週間の不在を責めることなく、むしろ待っていたとばかりにやんややんやと騒ぎ立てる。
いつも通りに出迎える者、ちょっとしたからかいを含める者、純粋に喜ぶ者まで千差万別だ。
けれども総じて、マイナスな雰囲気はない。
そのまま『多対一の喧嘩を制した武勇伝』として、次々と着替えにやってくる部員からの質問攻めを乗り切って練習を始められるかと思いきや、当然のようにマネージャー陣からは熱いエールを頂く。
ついでに言えばギャラリーも多く、テストが終わったばかりなんだから好きなことをしてリフレッシュしろよ……と思わなくもないけれど、この鑑賞自体が彼女らのリフレッシュだと言い切られてしまっては、もうどうすることも出来なかった。
そして、この彼の帰還を待ち望んでいたのは生徒ばかりではない。
試験明けで色々と忙しいだろうに、わざわざ監督までもが練習開始早々に顔を出し、「およそ一ヶ月のブランクを舐めるな!」と愛のあるスパルタ指導で翔真を徹底的に鍛え上げに来た。
けどまぁ、これに関しては同情しない。してやらない。
何故なら、アイツが居なかった二週間もの間、県大会で負けてしまったレギュラー陣の強化と称して、これに負けないレベルの練習を行わされていたのだから。
それを考えると、そんな苦行をこなしてなお、彼の説得に従事さた俺は最大の功労者なのかもしれないな。
だがしかし、翔真の瞳に曇りはない。
充実しているからか、その元から素敵なご尊顔故か、どこまでも真っ直ぐに輝いていた。
――まさに学園の貴公子、ここにあり。
『ありがとうございました!』
「はい、それでは今日もお疲れ様でした」
学級委員である翔真の号令を合図に、クラスの全員が一斉に立ち上がって頭を下げれば、先生はポンと音もなく手を叩き、ほんわかとした笑顔で帰りのSHRを締めた。
今日で中間考査は終了だ。
その開放感からか、鞄を持って教室を出る者、友達の席へと向かう者――皆一様に顔は明るく、いつも以上にざわついている気がする。
「そら、俺たちも部活に行こうか」
「そうだな」
そう声を掛けられ、俺たちは教室を出た。
いつもなら、試験後は何かしらのちょっとした打ち上げを行うのだが、今回は試験終了日からいきなり部活動が始まるためそれはお預け。
ちなみに、菊池さんは『マネージャーたるもの、選手よりも先に部室へ向かい、少しでも早くサポートをすべし』などという謎精神を胸に、かなたを連れて一足先に部室棟へと走って行ったためここにはいない。
その際、我が幼馴染が嫌々な表情を浮かべていたのは言うまでもないだろう。
階段を降り、渡り廊下を歩いて教育棟へと進み、そうして部室棟へと繋がる道に出れば、一年生から三年生までの総勢およそ二千名の生徒が三々五々に下校していた。
この学校は門から校舎までに高低差があり、階段が通じているという珍しい造りなのだけど、その階段いっぱいに人が満ち、談笑しながら帰る様というのは、それなりに見物である。
……まぁ、このうちの三・四割は俺らと同じように部活がある連中なのだろうけど。
その大群の一部と化し、流れに身を任せて目的地へと歩いて行くと、部室にはすでに数人のメンバーがやって来ており、着替えを始めていた。
「――おっ、翔真おかえりー」
「部長……お勤めご苦労様です……!」
「あっ、翔真先輩が来てる!」
同級生から後輩まで、不登校の二週間から試験休みの一週間に値する計三週間の不在を責めることなく、むしろ待っていたとばかりにやんややんやと騒ぎ立てる。
いつも通りに出迎える者、ちょっとしたからかいを含める者、純粋に喜ぶ者まで千差万別だ。
けれども総じて、マイナスな雰囲気はない。
そのまま『多対一の喧嘩を制した武勇伝』として、次々と着替えにやってくる部員からの質問攻めを乗り切って練習を始められるかと思いきや、当然のようにマネージャー陣からは熱いエールを頂く。
ついでに言えばギャラリーも多く、テストが終わったばかりなんだから好きなことをしてリフレッシュしろよ……と思わなくもないけれど、この鑑賞自体が彼女らのリフレッシュだと言い切られてしまっては、もうどうすることも出来なかった。
そして、この彼の帰還を待ち望んでいたのは生徒ばかりではない。
試験明けで色々と忙しいだろうに、わざわざ監督までもが練習開始早々に顔を出し、「およそ一ヶ月のブランクを舐めるな!」と愛のあるスパルタ指導で翔真を徹底的に鍛え上げに来た。
けどまぁ、これに関しては同情しない。してやらない。
何故なら、アイツが居なかった二週間もの間、県大会で負けてしまったレギュラー陣の強化と称して、これに負けないレベルの練習を行わされていたのだから。
それを考えると、そんな苦行をこなしてなお、彼の説得に従事さた俺は最大の功労者なのかもしれないな。
だがしかし、翔真の瞳に曇りはない。
充実しているからか、その元から素敵なご尊顔故か、どこまでも真っ直ぐに輝いていた。
――まさに学園の貴公子、ここにあり。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

すべては神様のてのひらのうえ
ゆうひゆかり
青春
私・花房みくるの家にある日不思議な男の子がペットの柴犬を伴って居候としてやってきた。
名前は八雲いづみ君。
彼の手は冷たくて、笑顔はなんだか嘘くさくて、なのに五歳で死んだ双子のお兄ちゃんの面影があたたかくて。
そんな不思議男子・八雲いづみ君がやってきてからというもの、私のまわりには恋の予感が⁈
友達がカップルになっていくなか、私も八雲君に惹かれていってーー。
となりの芝生って何色ですか⁈
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。
暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~
雪ノ瀬瞬
青春
今回のステージは神奈川です
鬼音姫の哉原樹
彼女がストーリーの主人公となり彼女の過去が明らかになります
親友の白桐優子
優子の謎の失踪から突然の再会
何故彼女は姿を消したのか
私の中学の頃の実話を元にしました

あの空の向こう
麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が
引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。
蒼…日本と外国のハーフ。
髪は艶のある黒髪。目は緑色。
喘息持ち。
病院嫌い。
爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)
職業は呼吸器科の医者。
誰にでも優しい。
健介…蒼の主治医。
職業は小児科の医者。
蒼が泣いても治療は必ずする。
陸斗…小児科の看護師。
とっても優しい。
※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

婚約者の恋人
クマ三郎@書籍発売中
恋愛
王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。
何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。
そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。
いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。
しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる