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November
11月26日(火) いつものお昼休み
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「そ、それじゃあ……翔真くん、おかえり……!」
一売店横の自販機で買ったペットボトルを片手に、菊池さんは乾杯の音頭をとる。
「おかえりー」
「……おかー」
それに合わせて俺とかなたも持ち前の飲み物を掲げて声を上げれば、件の少年も照れたように僅かにペットボトルを持ち上げた。
「あ、あぁ……大袈裟な気もするけど、ありがとう……」
昨日から謹慎処分が解け、およそ一週間ぶりに同じ教室で授業を受け、十分休みには会話し、こうして一緒にお昼を共にすることができるようになった翔真。
そんな彼を祝おうと、珍しくも菊池さんが主体となってこのささやかな催しを行っているわけである。
「それにしても、まだ包帯巻いてるんだな……」
ということで、大人の真似事のように、それぞれの嗜好によって色付けされた液体で満たされたポリエチレンテレフタレートの塊をぶつけ合った後は、弁当を食べながら雑談を交わしていた。
己の頭を指差し、場所を示しながら俺が話しかければ、翔真は視線を真上へと向ける。顔が僅かに持ち上がった。
「まぁね……完治にはもう少しかかるらしい」
「へぇー……医者からは何て?」
「全治二週間――それまでは、激しい動きは控えるように言われたよ」
そう語ると、傷があるらしき位置を包帯の上から自分で軽く撫でた。
血が止まっているところを見てもパックリ開いた傷口を縫ったのだろうが、二週間というのは結構な深さなのではないだろうか……?
過去に俺も一度だけ頭を怪我したことはあるが、所詮は小学校に上がる前。碌に覚えてもいないため、程度がよく分からない。
「……それ、触っても大丈夫なの?」
それに対して、おっかなびっくり翔真の頭を指し示す菊池さん。
「もちろん、平気だよ。傷は塞がっているしね。……触ってみる?」
「うぇっ!? えっ……? あっ……じゃ、じゃあ……ちょっとだけ」
怖々と、指先で触れるようにツンツンと啄き始める。
「わっ……わぁ、ゴワゴワしてる……!」
「そりゃ、包帯だからね」
頭の悪そうな反応に、翔真は苦笑を浮かべて指摘した。
一方の菊池さんはといえば、慣れてきたようで次第にペタリペタリと指の腹で触れ、撫でだす。
「しかし、試験期間で良かったな。その状態じゃ、せっかく謹慎が解けても部活は見学だったろ?」
その様子を脇目に、俺は話題を変えた。
「そうだな。おかげで勉強に専念できるよ。特に今回は、準備不足が否めないから……」
あれから、もうすっかり努力する姿やニュアンスを隠す事は止めたようで、翔真の受け答えはよりしっかりとしたものになっている。
「……ごちそうさま。…………あんど、お休み」
そして、かなたもまた弁当を食べ終われば、それだけを言い残して、マイペースに身体を横に倒した。
丁度よく頭が俺の膝に乗ると、満足そうに目を閉じながら……。
まぁ、こいつもこいつで翔真がいない間は俺と菊池さんの会話の緩衝材として頑張ってくれていたわけだし、ようやく得られた寛ぎだと思えば、それほど嫌味も湧いてこない。
「――それで、いつまで詩音さんは撫でてるの……?」
「えっ……? あ、わわっ……! ご、ごめんね」
今さら気が付いたようで、延々とポディタッチを続ける菊池さんを苦笑混じりに咎める翔真。その頬は僅かに紅い。
反対の彼女も、自分のしている行為を思い出したようで、自身の手を熟れた顔に宛がう。
そんな姿を見て思うのは、偏に安心感だ。
照れを隠して談笑する二人。気ままに行動する幼馴染。その都度、適度な相槌を打つ俺。
多少なりともメンバーに心情の変化が生まれたようではあるものの、顔ぶれ・空気感は何一つ変わっていない。
いつもの俺たちの時間が、そこにはあった。
一売店横の自販機で買ったペットボトルを片手に、菊池さんは乾杯の音頭をとる。
「おかえりー」
「……おかー」
それに合わせて俺とかなたも持ち前の飲み物を掲げて声を上げれば、件の少年も照れたように僅かにペットボトルを持ち上げた。
「あ、あぁ……大袈裟な気もするけど、ありがとう……」
昨日から謹慎処分が解け、およそ一週間ぶりに同じ教室で授業を受け、十分休みには会話し、こうして一緒にお昼を共にすることができるようになった翔真。
そんな彼を祝おうと、珍しくも菊池さんが主体となってこのささやかな催しを行っているわけである。
「それにしても、まだ包帯巻いてるんだな……」
ということで、大人の真似事のように、それぞれの嗜好によって色付けされた液体で満たされたポリエチレンテレフタレートの塊をぶつけ合った後は、弁当を食べながら雑談を交わしていた。
己の頭を指差し、場所を示しながら俺が話しかければ、翔真は視線を真上へと向ける。顔が僅かに持ち上がった。
「まぁね……完治にはもう少しかかるらしい」
「へぇー……医者からは何て?」
「全治二週間――それまでは、激しい動きは控えるように言われたよ」
そう語ると、傷があるらしき位置を包帯の上から自分で軽く撫でた。
血が止まっているところを見てもパックリ開いた傷口を縫ったのだろうが、二週間というのは結構な深さなのではないだろうか……?
過去に俺も一度だけ頭を怪我したことはあるが、所詮は小学校に上がる前。碌に覚えてもいないため、程度がよく分からない。
「……それ、触っても大丈夫なの?」
それに対して、おっかなびっくり翔真の頭を指し示す菊池さん。
「もちろん、平気だよ。傷は塞がっているしね。……触ってみる?」
「うぇっ!? えっ……? あっ……じゃ、じゃあ……ちょっとだけ」
怖々と、指先で触れるようにツンツンと啄き始める。
「わっ……わぁ、ゴワゴワしてる……!」
「そりゃ、包帯だからね」
頭の悪そうな反応に、翔真は苦笑を浮かべて指摘した。
一方の菊池さんはといえば、慣れてきたようで次第にペタリペタリと指の腹で触れ、撫でだす。
「しかし、試験期間で良かったな。その状態じゃ、せっかく謹慎が解けても部活は見学だったろ?」
その様子を脇目に、俺は話題を変えた。
「そうだな。おかげで勉強に専念できるよ。特に今回は、準備不足が否めないから……」
あれから、もうすっかり努力する姿やニュアンスを隠す事は止めたようで、翔真の受け答えはよりしっかりとしたものになっている。
「……ごちそうさま。…………あんど、お休み」
そして、かなたもまた弁当を食べ終われば、それだけを言い残して、マイペースに身体を横に倒した。
丁度よく頭が俺の膝に乗ると、満足そうに目を閉じながら……。
まぁ、こいつもこいつで翔真がいない間は俺と菊池さんの会話の緩衝材として頑張ってくれていたわけだし、ようやく得られた寛ぎだと思えば、それほど嫌味も湧いてこない。
「――それで、いつまで詩音さんは撫でてるの……?」
「えっ……? あ、わわっ……! ご、ごめんね」
今さら気が付いたようで、延々とポディタッチを続ける菊池さんを苦笑混じりに咎める翔真。その頬は僅かに紅い。
反対の彼女も、自分のしている行為を思い出したようで、自身の手を熟れた顔に宛がう。
そんな姿を見て思うのは、偏に安心感だ。
照れを隠して談笑する二人。気ままに行動する幼馴染。その都度、適度な相槌を打つ俺。
多少なりともメンバーに心情の変化が生まれたようではあるものの、顔ぶれ・空気感は何一つ変わっていない。
いつもの俺たちの時間が、そこにはあった。
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