彼と彼女の365日

如月ゆう

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November

11月15日(金) 見つけられた糸口

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「……菊池さんはどうしたんだ?」

 翌日。
 いつもの朝。いつもの補習に、いつもの休み時間。

 そして、いつもの翔真の欠席通知。

 非日常も三日経てば日常――という言葉があるように、学校一の有名人の不登校という事態を今さら騒ぎ立てる者はおらず、一週間連続という長い期間に心配されてはいるものの、然も当たり前に受け入れられるようになっていた。

 そんな中で、いつもとは違う様相を見せる一人の少女。
 昨日まであんなに『翔真がどうたら……』と言っていたにもかかわらず、今日は静かに座席に突っ伏している。

 その行動の変化が気になり、彼女の親友であり、俺の幼馴染でもあるかなたに話を振ってみれば、もったいぶるでもなく素直に答えてくれた。

「……なんか昨日、畔上くんに会いに行って拒絶されたみたい」

「あぁ……なるほどね……」

 聞いて思わずため息が出る。

 当たり前だ。
 俺が何のために翔真との接触を断たせていたと思っているのか。

 それは確かに、彼の意思を尊重してのものだけど、サボっているという事実を親バレさせないように……という意味合いよりもむしろ、他人に踏み込んでほしくないという思いに従ってあげていたから。

 誰かに傍にいてほしいなら、ここへ来る。
 助けを求めているのなら、懇願する。

 アイツはそういうことができる奴だ。
 だからこそ、独りでいるということは、自分に関わってほしくないのだろう。

「――それが分からなかったか……」

 だがまぁ、仕方ない。
 恋は盲目、らしいからな。

「……………………?」

 そう呟けば、話の読めていないかなたは首を傾ける。
 そんな折、タイミングが良いのか悪いのか、教室のドアが開かれた。

「――あっ、そらくん、かなたさん、菊池さん。少しお時間よろしいですか?」


 ♦ ♦ ♦


「頼まれていた畔上くんの情報と、母校へのアポイントメント、両方とも獲得しましたよ」

 いつもの特別教員室――ではなく、その隣の生徒指導室へと呼び出された俺たちは、いきなり三枝先生からそう告げられる。

「ですが、個人情報の類で持ち出し不可だったので、私からの口頭説明になることを許してください」

「いえ、十分です。わざわざ、ありがとうございます」

 自分でも珍しく思うほど素直に礼を述べれば、先生は照れた笑みを浮かべて話をしてくれた。

「さて……畔上くんの母校ですが、現住所から歩いて五分ほどの場所にあるごく普通の中学校です。成績・素行ともに問題になったこともなく、私たち教員の間ではおとなしい生徒が多いことで有名です」

 ……ふむ、聞く限りでは、翔真の現状とあまり関係なさそうだな。
 空振ってしまっただろうか。

「他には、何かありました?」

「はい、一つだけ気になる部分が……」

 手ごたえを感じられず、追加情報がないか尋ねてみると先生は大きく頷く。

「畔上くん、その学校には中学三年生の頃に編入したようで、それ以前までは飯塚の方に住んでいたみたいです」

「……飯塚?」

 場所そのものは知っているものの、あまり聞きなれない地名に首を傾けた。
 自動車で一時間かからないくらいの距離にあるその場所は、少なくともこの学区外にあたる。

「それと、転校後の中学校ではありますが、当時の畔上くんの担任が私の恩師でもありまして、すんなり話を聞く機会を取ってくれました。詳しい日時と住所はこのメモに載っています」

 そう言って手渡された小さな用紙をめくると、確かに学校名・住所・日時が記入されていた。

「明日の午後二時から……ですか」

「はい。私は用事があって一緒に行くことができないので、代わりにお願いします」

「分かりました」

 改めて礼をし、退室する俺たち。
 そこから教室へと向かう僅かながらの道中で、今まで一言も発していなかった菊池さんが声を上げる。

「…………蔵敷くんは、行くの?」

 行くの――とは、翔真の母校を指しているのだろうか。

「まぁな。翔真に拒絶されて、菊池さんにどんな心境の変化が訪れたのかは知らないけど、せっかく頼んでくれた先生の顔に泥を塗るわけにはいかないから」

 答えると、彼女の視線は別の方へと向いた。

「……かなちゃんは?」

「そらが行くなら、私も行く」

 聞き慣れて、そして聞き飽きた解答。
 変わらない幼馴染の考えに呆れを抱きつつ、俺は自分の意見を付け足す。

「でもまぁ、菊池さんが気にすることはないさ。人には誰しも、知られたくない過去の一つや二つ存在する。それを俺たちは、土足で荒らして暴こうとしているんだ。躊躇するその気持ちも分かるし、そこに負い目を感じる必要もない」

 必要なのは、知る覚悟だけ。
 踏み出したが最後、もう二度と引き返せない一本道。

 きっと彼女は迷っているのだろう。
 一度拒絶されて、それでも関わるべきかどうなのか。

 ――どうか、悔いのない選択を。

 そんなことを、一人の友人として願っていた。
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